麗しきもの
「帰るか……」
ソロの仕事ではついつい独り言が多くなる。数人だと何かを間違えたとしてもツッコんでくれるが、一人だとそれはない。だから、ソロの時には一つ一つ確認するしかない。声に出すと有効だ。だから独り言が増える。けど、それは言い訳で、孤独を紛らわしてるのかもしれない。
今日、引き受けたのは配送の仕事。三十個の荷物を家に届ける。荷物は一個銅貨四枚。決して割りがいい仕事では無いが、僕は荷物持ちだ。たまには初心に帰ってこういう仕事もいいものだ。
配送は毎日ある訳ではない。ちゃんと配送のプロがいて、仕事が追いつかない時に依頼がくる。集配所から、荷物を家に届けるだけの簡単に見える仕事だけど、ほとんどの人は、初日か数日で受けなくなる。その理由はまずは過酷さ。ずっと移動する事になる。一日中歩くというのは慣れないと難しい。それに荷物を持ってだし。一日中立ったり歩いたりするのには慣れが必要だ。始めのうちは数時間でだいたい動けなくなる。足の裏や足がやられる。
次に位置把握だ。地図を見て今自分がどこにいるかを把握するのにも慣れが必要だ。最初はすぐに自分がどこにいるかわからなくなって、目印になる高い建物のとこに戻る事になる。これもコツがあって、地図を北を上に見る癖をつけて、移動してる時は常にどっちが北かを頭に入れておく事だ。そしたら、迷った時も、自分がどこら辺にいるかぼんやりとわかるようになって、知ってる場所に復帰するための方向が定まり、すぐに解決する。
あとは報酬だ。慣れないうちは下手したら一時間に一件くらいしか運べない。八時間で八件、銀貨三枚に銅貨二枚だ。飯も食べるし水も飲むから銀貨一枚は使うとしたら、残りは銀貨二枚と銅貨二枚。王都では、穴掘りや、資材運びとかの肉体労働をやったらだいたい銀貨十枚=小金貨一枚は貰えるから、始めのうちは割りに合わないと思って辞める人が多い。
けど、慣れたらひっくり返る。僕は今日は一時間平均五件運んだ。時給換算すると銀貨二枚だ。これは普通の仕事の約倍だ。収納持ちで且つ一日走り続けられるスタミナのお蔭だけど。普通のプロが一時間四件ぐらいって聞いた事がある。
クタクタな僕は丁度いい石があったので腰掛ける。昼から始めたので、日が沈みかけている。
ここは堤防に沿った道だ。堤防に上れば川が見える。対岸の建物が茜色に染まっている。
カラスが鳴いている。堤防を数人の若者たちが、掛け声を上げながら走り去る。
なんて言えばいいんだろう。なんかいいな。最近あくせくとし過ぎてたな。たまにはぼーっとするのもいいのかもな。
堤防を親子連れが歩いてる。お母さん若いな可愛く見える。僕と同い年くらいなんじゃ? 娘ちゃんも可愛い。二人は堤防の階段を降りてくる。
「……するめ……」
お母さんの声が微かに聞こえる。するめってスルメだよな?
「めだかっ!」
娘ちゃん元気だな。しりとりしてたのか。微笑ましいな。
「かめ」
お母さんと目が合った。びっくりしてる。僕が動かなかったから気付かなかったのか? ん、目を逸らされた。
「かいがら……」
お母さんは顔を伏して言い直した。
「らっこー」
二人は遠めに通り過ぎる。なんでだ? なんで「かめ」を言いなおしたのか? 解せぬ……
「帰ろ……」
カラスが鳴いている。もう暗くなりそうだ。
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