野蛮隊の冒険 勝負飯 6
「そうか、お前は鉄火丼の事を知らないんだな。特別に拙者が教えてやろう」
女戦士がドヤ顔で言う。なんかさっきより早口だな。好きなんだな。男戦士が口を開く前に怒濤のごとくしゃべり始める。
「鉄火丼と言うのは、飯の上にマグロの切り身を乗っけてワサビ醬油をかけて食べるものだ。なぜそう言うのかは、鉄火場、いわゆる賭場で食べられてたかららしい。拙者もこの意見に賛成だ。刺身に飯、どっちも食べれば力がつく。賭場には行った事無いが、戦いよろしく力をつかうらしいからな。しかも生はいい。生魚も生肉も食えばすぐに元気になる。生牡蠣もいいが、腹痛はこわいからな。要は消化が良くて力が出る素晴らしい丼って事だ」
女戦士は口の端を上げると、まだ喋り続ける。
「それに、お前は、生ものは当たるかもしれんと思ってるだろ。けど、マグロは滅多に当たらない。基本的にマグロはデカいから冷凍するんだ。超低温で二日以上は冷凍してるから腹痛の元になる寄生虫アニサキスは死滅してる。だから気をつけるべきは鮮度だが、この鉄火丼は問題ない。新鮮極まりないマグロだ。鮮度が悪いマグロは汗をかいたみたいにしっとりなって、さらに悪くなりかけると微妙に酸っぱく感じる。そうなると普通の人は腹を下すかもしれないが、拙者は大丈夫だ鍛えてるからな」
マグロ、大好きなんだな。言葉に熱がある。けど、腹を鍛えてるって何を食ってるんだろう?
「あ、お姉さん、オイラがそんなマグロを出すと思うかい。それは生だよ。冷凍なんかしてない。正真正銘生マグロ中出しだよ」
ん、しれっと下ネタ? 女戦士は顔色一つ買えない。下品知識が少ないんだろう。
「本当かッそれはッ! なんて素晴らしい」
「おいおい、命中してもしらねーぞ」
男戦士もパムに追従してる。
「知るかそんなの。大丈夫、じっちゃんが言ってた、よく噛めば寄生虫も食べれるって。よし! 食うぞ!」
まじか、なんかアニサキスってしっかり噛めば殺せるらしいけど実践してる人もいるのか。
「大丈夫だよお姉さん。オイラの収納は生き物入んないから、寄生虫なんかいないよ」
「それは重畳。思いっきりいけるな!」
「おいおい、待てよねーちゃん。俺のカツ丼の話しも聞けよ」
「しょうもない。どうせ、勝利の『勝つ』と『カツ丼』を験担ぎにかけただけだろ。『カツ丼』食べるだけで勝てるなら、この世の食いもん屋はカツ丼だけになるわ。アホくさ」
男戦士は『ぐぅ』なんて言ってる。
「そもそも金額が違う。拙者の鉄火丼は銀紙三枚は最低でもするだろな。そのカツ丼は良くて銀貨二枚だろ。倍、倍の金額くらいだろな。いただきますっ!」
意外にセコい事考えてるな。
「負けてたまるか! 俺もいただきますだ!」
そして二人は丼をかっ込み始めた。
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