馴染むぞっ
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーッ!
巨岩が大地を穿つ。視界が真っ赤に染まる。熱風をポータルで収納にしまってるとは言え、熱い。呼吸が喉を焼く。それもしばらくで、舞い上がった砂塵も晴れていく。おかしい。いつもだったらもっと激しく弾けるはず。なんだありゃ? 浮いている! 燃える巨岩が地面すれすれで浮いている。いや、人影、片手を上げた巨人が岩を支えている。熱風、砂煙もなくなり、肉塊があった所には、岩を片手に掲げた一体の巨人。毛むくじゃらな下半身に筋肉が発達した上半身。垂れた耳に突き出した鼻とピンクの頭。目がギラギラと光る豚頭のマッスルが大地に足を突き刺して立っている。あいつ、変身しやがったのか?
「馴染むぞっ! ハハハハハハッ」
哄笑を上げながら、嬉しそうに笑っている。質の悪い夢みたいだな。あ、そう言えばアイツ、炎は効かないとか言ってたな。
「なんか気持ち悪い奴だな」
カナンに共感だ。
「我が拳に砕けぬものなしっ!」
豚が叫ぶ。あ、いかん。主語が僕たちじゃなく『我』だったから、剣を振り遅れた。
ドゴッ!
豚頭が巨岩を殴る。そこから岩が砕け弾けて細かい砂みたいになる。げっ、あれってくらったらヤバい奴じゃないか? 明らかにパンチに変な効果が付与されてる。それより、さっき確かに奴は死にかけてたよな。なに何事も無かったかのように復活してんだよ。
『どうやら、あの体がドラゴンの体を吸収したみたいね』
僕の足下からしゃれこうべが語りかけてくる。あ、いかん、まるっと忘れてた。ジブル、体は粉々に吹っ飛んだんじゃないか?
「お前、大丈夫なのか?」
『なんとかなるわ。それより、厄介ね。さっきまでのマナの乱れがないわ。あれってエネルギーの塊と物質が融合したものっぽいわね。物理だけじゃ無く、アストラル体にもダメージを与えないと倒せなさそうね』
さすがジブル。魔法とか魔力関係だけは役に立つ。もっとわかりやすかったらサイコーなのに。
「どういう事だ?」
「実体化したゴーストみたいなものよ。物理でダメージを与えても、マナで復活するって事よ」
ゲッ、僕の苦手な物理無効パターンか? ゴーストと同じって事は攻撃に聖属性を乗っけるか、勇者の剣のターゲットを精神体を斬れるように変えるか、魔王属性の武器で攻撃するしかないって事か。どっちにしてもかなり攻撃力が下がる。
「豚野郎! 食ってやる!」
先生が豚頭に突進する。あいつってどう見ても物理オンリーっぽいよな。先生はオマールハサミをブンブン振り回して豚頭に攻撃する。けど、相手は忍者の里長なだけあって、余裕にかわしていく。
「先生加勢するっ!」
カナンも加わるが、豚頭は背中にも目がついてるかのように華麗にかわしながら反撃してくる。
「ちょこざいな! カニつめのホブ『ヒュン』ブリン、くろかみのこ『ヒュン』すめ、いしに『ヒュン』れ」
甘いな。言霊は僕が斬る。ホブブリン、黒髪のコスメってなんだよ。おバカ丸出しだな。
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