森人の国 31
「フハハハハハッ! 貴様など簡単に捻り潰してくれる!」
皇帝が腕を組んで何か言ってる。金色のまわしが眩しい。あのまわしにどれだけの公金がつぎ込まれたんだろうか? 帝国の国民が聞いたら泣くぞ。
「はいはい、そういうのいいから、早くしよーぜ」
僕もまわしを着けてる。なんだかんだで皇帝がめっちゃしつこいから折れた。けど、まわしを着けるのって厄介だな。当然1人じゃ出来ないから、練習部屋でエルフの兄ちゃん何人かに手伝って貰って着用した。なんか男だけしか居なくても裸になるのは嫌だな。ジロジロ観察されるし。
そんな事より、さっさと終わらせてゆっくりしたい。
僕と皇帝は土俵の上で対峙する。今、ふと思ったけど、アイツはルール知ってるのか? 地域地域で相撲のルールって細かく違うからな。けど、まあ、あんなにノリノリで来ててルールール知らないは無いだろう。
デルの父が行司をしてくれている。
「はっけよい! のこった!」
デル父は即座に土俵から降りる。まあ、巻き添え食らったらたまらんもんな。
手を付くと同時に僕は立ち上がって両手を突き出し皇帝に迫る。確かに皇帝は汚い。けど、張り手メインの押し相撲なら、手のひらだけで触れるのは済む。後で手を洗えばいい。
「ゴルドラーーーーーーン!」
僕の喉を狙った両手はガチガチなものに阻まれる。硬質化した皇帝の喉だ。僕の全力の突き押しでも微塵も動かない。まるで暖かい鉄柱みたいだ。少し気持悪い。
『ゴルドラン』
神竜王の名にしてその権能を顕現させる古竜魔法の名称。効能は単純。硬質化と肉体能力の上昇。脳筋の塊みたいな魔法だ。けど、単純に強い。強い存在が強化されると手が着けられ無くなる。魔法は効かない、打撃も斬撃も効かない。こうなったコイツを倒すにはその魔法を無効化するしかない。それでかつて僕はぽっちゃりハイエルフのノノから魔法でもなんでも全て分解する魔法を習った訳だけど、ここじゃ使えない。何故なら全裸になるからだ。相撲で全裸は負けだ。それ以前に公衆の面前で全裸は犯罪者だ。
「ぬるいな。ザップ」
全力で押してもびくともしない。けど、この魔法にもほんの少し弱点がある。
「ぬるいのはお前の方だ」
僕は一端全力で押すと力を抜いて皇帝の後ろに回り込む。
「うおっとと」
背中から押すと、皇帝はたたらを踏むがなんとか持ちこたえる。その瞬間また皇帝の後ろに回り背中から押す。そう、この魔法のほんの少しの弱点は、力と固さと引き換えにスピードが少し落ちるんだ。それに力があると言っても重量が変わる訳じゃない。上手くやれば押し出せる。
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