姫と筋肉 海 2
どごむっ!
僕の渾身のストレートをレリーフの大胸筋が受け止める。まるで大木でも殴ったみたいだ。もっとも大木を殴った事は無いが。さすがだレリーフ。僕のストレートはゴブリン程度だったら爆砕するのに無傷で受け止めやがった。じゃ、左だっ!
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ!」
レリーフが自分の大胸筋の名前を呼ぶ。コイツは自分の筋肉に名前を付けて呼ぶ変態だ。奴言うには、筋肉に名前を付けて愛でると、より応えてくれるらしい。確か右がケイト、左がスザンナだ。交互にピクピクする大胸筋を殴る。やっぱ、動くもの見るとつい殴ってしまう。
「はいっ! はいっ! はいっ! はいっ! はいっ!」
くそっ、全く効いちゃいねー。レリーフのスピードが上がり僕もスピードを上げる。
「ケイト、スザンナ、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイトと見せかけてスザンナっ!」
くっ、やられたフェイントかよ。スザンナと間違えてケイトを殴ってしまった……
「まだまだだな、ラパン。入れ込みすぎだ。もっと冷静に判断しないと致命的なミスを犯す事もある。今みたいにな。ぐぼぉ……」
レリーフは蹲る。
「大丈夫か?」
「ふっ、強くなったな。ラパン。力を入れて無い方を殴られたから、攻撃が響きやがった」
「おいおい、それならフェイントなんかするなよ」
しょうがないから、収納からエリクサーを出してかけてやる。
「フゥオーーーーッ! 浸みるぅ!」
レリーフは復活して、ボディビルダーのポーズをとる。確かあれの名はモストマスキュラー。やだな、覚えちまってる。女子としてよろしく無いな、お花やお菓子の名前はあんまり知らんのに、ボディビルダーのポーズの名前は多分網羅してる。
「おいっ、嬢ちゃん、次は何するんだ?」
知らないオッサンから声をかけられる。気が付くと、僕らを囲んで人垣が出来ている。大道芸じゃねーよ。なんか顔が熱くなる。
「しょうがないな。これだけの人が集まったんだ。せっかくだから私が手品をしよう。見とけ、何も無いとこから、びっくりするものが出てくるぞ。スリー、ツー、ワン。出でよ! リッチエン『止めろ! 馬鹿っー』」
なんとか間に合った。あと少しであの毒舌のリッチ女が出てくるとこだった。砂浜に発生した金色の魔方陣を急いで足に魔力を注いで消す。あんなん呼んだら、ここにいる人達みんな、生気を吸い取られて気絶しちまうぞ。当然僕らは国外追放だろう。
「残念でしたー。もう出て来てまーす」
ぴとりと背中にヒンヤリしたやらかいものが触れる。ん、乳? 振り返るとほぼ紐のような水着をきたやたら体の凹凸が激しい痴女がいた。




