裏切り者 4
扉を過ぎると、目の前には壁に埋め込まれた地下への階段があった。
この狭い空間には地下への階段しかない。階段は大人4人が横1列並べるくらいの広さ、地下鉄への入り口と言った方が分かりやすいかも。
回りは、崩れないようになのか、天井、壁、階段がコンクリートで補強され、壁の足元付近には、光る魔石が埋め込まれ暗い階段を照らしている。これのお陰でまず階段で足を踏み外す事は無いだろう。
下に向かう階段の先は暗くて良く見えない。何処まで続いているのか。
「さあ、行くわよ」
遥が声を掛け先頭切って階段を降り始める。
「はい」
僕も返事を返して、遥の後ろを付いて階段を降り始めたが、ふと、返事をしたものの立場としては逆ではないか?
女性を先に行かせるなんて紳士的ではない。
僕が先に行くべきではないのか?
だが遥の後ろ姿を見ると頼りたい気持ちもある。
レベルも遥が上だし、モンスターを狩るのも上手いし、何より冒険者として先輩だ。
でもそれでも男としてダメだろう。
良い所を見せたいと言う気持ちもあるし。
そう思って前に出ようとしたが、時はすでに遅し、周りが明るくなってきたと思ったら、あっという間に地下一階に着いてしまった。
そこまで長い階段ではなかった。
段数は30段くらい、上から見た時は真っ暗闇で、僅かに階段を照らしていた光しか見えなかったのに、今、目の前には明るい景色が広がっていた。
狐にでも騙されている気分だ。
そこは広い草原だった。
所々、木が生えている所もあるが、見える範囲、低い草に覆われ遥か遠くまで続いているようだった。
ダンジョンとは不思議な物だ。
地下なのに、回りは明るいし昼間のようだ。風が吹いているし、空気が濁っている訳でもない。
密閉された空間なのに、どうなっているのか、改めて不思議と感じてしまう。
階段から降りて草原へ何歩か歩くと、360度見渡す限り草原が続いている。
後ろを振り向くと、先程、降りてきた階段の出口が、草原に突如出来た異空間の扉のように見える。
この草原は何処まで続いているのだろうか?
そう思っていた所に、後ろからやって来た団長達が姿を現した。
「ハヤトくん、そんなにキョロキョロしなくても、ダンジョンなんてどこも変わらないだろう」
確かに団長の言う通りなのだが、ここまで広いのは初めてだ。
だってダンジョンの壁が見渡す限り見えないんだから。
「こんなに広いダンジョンって、初めてで、想像していた物より凄いです」
「ハヤトくん、見た目に騙されちゃダメだよ」
「それはどういう事ですか?」
「ほら、ここを触ってごらん」
団長は、降りてきた階段の出口、草原の入り口の横の空間を指差ししていた。
僕は言われた通り、恐る恐る何もない空間に手を差し伸べると、
「え!」
何もない空間なのに、何か壁のような物がある。
景色は先まで続いているのに、見えない壁の所為でそれ以上先へは進めない。
「これは、いったい?」
「分かったかい、ハヤトくん」
「これはどういう事なのですか?」
「もう、分かんないの?
ハヤトはダメね~、もう少し臨機応変に対応しないと」
笑いながら遥が肩を叩いてくる。
「そこまで言うこと無いだろう。
分からない物は分からないんだから」
「ハヤトくん、見た目に騙されちゃダメだと言うこと。
遠くまで続いているように見えて、実はそこはダンジョンの端、そこは壁だからそれ以上は行けない。
壁もそうだけど、空も何処までも続いているように見えて天井があるから、気付かずに突っ込んだら、怪我では済まされないかもしれないから注意が必要だよ。
まあ、地面との境目を良く見てごらん。
分かりやすいから」
団長に言われた通り地面と見えない壁の境目を見てみると、そこだけ僅かに草が生えていなかった。
小さな獣道のように横に丸みを帯ながら左右に続いている。
それから考えるとこのフロアもドーム状の形をしているのだと推測される。
「なるほど」
「分かったかい?」
「はい、何となくですが」
「本当かな?」
遥が、いたずらっぽく割り込んでくる。
「本当だよ」
「まあ、まあ、そのくらいにして、いよいよ二人でゴブリンを倒してもらうけど、ここは遠くから見えなくても、近づくとゴブリンが突然、現れるというか見えるようになるから気をつけて、フォローはするから頑張ってくれ。
まずはゴブリンを倒しながら地下2階への入り口探しだ」
「分かりました~」
「はい」
僕と遥は、早速、草原を歩き始めた。
少し離れて団長達が付いて来てくれている。
見渡す限り何も無い草原。
隠れる所も無いのに、ゴブリンの姿は見ない。
本当にゴブリンはいるのだろうか?
まずこんな所でゴブリンに奇襲されることは無い。ゴブリンが見えたら武器を構え迎撃体勢をとれば良いと考え、少し警戒が緩くなっていたのかも知れない。
突然、目の前の空間が歪み、ゴブリンが襲ってきた。
突然の出来事に僕は慌てふためいた。
初めてのヒト型。
あの大きな目、薄気味の悪い顔、あの肌の色、手には丸い棒が握られている。
テレビで見た時とは違い、目の前のゴブリンは不気味で恐怖さえ感じる。
突然現れたゴブリンに対して、僕は頭が真っ白になり呆然となっていた。
それに対して遥は、ナイフを2本懐から取り出し、素早くゴブリンに投げ、頭と胸に命中させ、ゴブリンを倒した。
『流石、遥、凄いな』と言いたい反面、僕は何やっているんだという感情が浮かんでくる。
「何、呆然としているのよ。
このくらい、ちゃんと対処してよね」
遥が少し怒り気味で話かけてくる。
ごもっともだから、返す言葉もない。
「まさか突然、出てくるとは分からなかったから」
「は~あ、団長の言葉、聞いてなかったの?」
「聞いていたけど、あんな風に出てくるなんて想像もしてなかったんだよ。
遥は慣れているかも知れないけど」
「私だって、ゴブリンがあんな風に出てくるなんて分からなかったわよ。
それでも警戒していれば、対処できるでしょ」
「警戒はしてたけど、突然の事で何も出来なかったんだよ」
「そんな事言っていてどうするの?
ゴブリンを倒さないと、私達が殺られるのよ。
緊張感が足りないんじゃない?」
確かにそうかも知れない。
遥の言うことに間違いはない。
僕はそれ以上、反論する事は出来なかった。
「まあ、分かったなら、いつでも攻撃出来るように武器くらい構えておきなさい。
次、同じ事、やったらお尻を蹴っ飛ばすからね」
「ああ、分かった」
冒険者は荒くれ者が多いと言われるが、そんな中でやってきた遥も女性の割に少し怖いと思ってきた。
今度は失敗しないように、そして尻を蹴られないように、武器を構え、もう一度、気を引き締め直した。




