裏切り者 3
狭い。狭すぎる。
本当にここがダンジョンなのかと疑いたくなるほど入り口は狭かった。
ダンジョンとは、人間を誘き寄せる為に入り口を大きく目立つようにしている物ではないのか?
明らかにそういったイメージを覆される。
まるで外からの侵入を拒むように、入り口は狭く普通のその辺りにある岩の切れ目にしか見えない。
これじゃ本当に未知の誰も入った事のない洞窟にどこまで行けるか?といった洞窟探検をやっているだけではないのか?
これは僕を騙す為のドッキリではないだろうか?
疑いながらも一人置いて行かれるのは嫌なので、皆の跡を追うしかなかった。
隙間に入ると空気が淀んでいるのか、先に入った者達が通った為に砂埃が舞った所為なのか、突然、咳が出る。
「ゴホッ、ゴホッ」
咳が落ち着き進もうとすると、目を離した隙に仲間達はかなり離れてしまっている。
それに伴い仲間達の照らす灯りが遠退いていく。
不味い。
まだ入り口付近は外の明かりが入っているので明るいが、仲間達との間は既に薄暗く、仲間達が離れていく度に段々と暗くなっていく。
明かりは要らないと言ったのに…。
今更、言っても仕方ない。
早く追い付かないと。
回りが暗くなる前に急いで、仲間達の元へと進み出す。
人がひとり通るのがやっとの通路。
岩が突出している場所が多く、避ける為に身体をくねらせ、それでも身体に当たり、身体の至る所に痛みが走る。
背中に背負った大きなリュックが引っ掛かり身動きが出来なくなったり、踏んだり蹴ったりだ。
本当にここはダンジョンではなく、ただの洞窟で、からかわれているのではないのか?そんな事を考えて進んでいたら、漸く狭い通路を抜けたようだ。
狭い通路を抜けるとそこは意外と広い。
天井は手を伸ばせば届くほど低い。
だが、上下から岩が至る所に突き出ていたので全体を見渡す事は出来ないが、その広さは野球グランド1面分くらいの広さはあるのではないか。
それに洞窟内なのにそれほど暗くない。
仲間達の明かりの所為ではなく、まるで月明かりに照らされた夜のように。
よく見ると洞窟全体が僅かに光っているようにも見える。
近くの壁を触ると固い岩肌自体がほんのりと光を発光しているようだ。
そういう岩石なのだろうか?
「おい、何やってる!遊んでる暇はないぞ!」
直ぐに健吾さんが怒鳴ってくる。
「すいません。初めて見るものですから」
理由をつけながら誤っておく。
それにしても今日は一段と機嫌が悪そうだ。
「それじゃ、今からダンジョンに入るが準備は大丈夫かい」
団長が全員に確認しているようだ。
だけど…、
「ダンジョンに入るって、ここがダンジョン内ではないのですか?」
気になったので聞いてみた。
「そんな事いちいち聞くな!」
「まあまあ、健吾。
始めてだから仕方ないさ。
正確にはここはまだダンジョンではないんだ。
これから行く所が、洞窟内に出来たダンジョンなんだ。
だから、ここから下に降りるとダンジョンということだ。
ここはゴブリンのダンジョンだからゴブリンしか出てこないが、下に行けば行くほど強いゴブリンになるから注意してくれ。
皆、準備は良いかい?」
「おう!」
「はい!」
「それじゃ行こうか。まず地下一階のゴブリンはまだまだ弱いから、腕試しにハルトと遥に任せる。先頭でゴブリンを倒してくれ」
「分かりました」
「は~い」
返事はしたもののゴブリンと聞いて震えてきた。
まだテレビでしか見た事がなかったが、あの大きな眼、気味悪い顔、特に相手を殺そうとする時に見せるニヤついた顔が不気味で印象深い。
そして何よりゴブリンと言えどもヒト型。
始めてヒト型のモンスターと戦う事になるのだが、僕にゴブリンを攻撃することが出来るだろうか?
ついつい、右手に持ったナイフを見ながら考えてしまう。
「そんなに気負わなくても大丈夫だぞ。
後ろから僕達がフォローするから安心してゴブリンを狩ってくれ」
「あっ、はい。分かりました」
そうだ。僕一人じゃないんだ。
もしもの時は、団長達が助けてくれる…。
いや、ダメだ。
これから冒険者にならなければならないのに人任せにして良い訳がない。
ゴブリンくらい自分の力で倒せないでどうする!
自分を奮い立たせ、手にも力が入る。
洞窟の中心部辺りまで進むと、強大な1本の巨大な岩柱が天井を支えているかのようにそびえ立っていた。
そして、そこには鉄格子で出来た頑丈そうな扉が有り、当目でも分かるくらいその存在感は大きかった。
近くまで来ると鉄格子はモンスターがダンジョンから出られないように作られているのがよく分かる。
扉の大きさは高さ2メートル、幅2メートルで縦横に頑丈に鉄格子が組まれている。
鉄格子の1本の厚さも10センチは有るのではないか、材質も普通の鉄では無いように見える。
どんな強力なモンスターにも耐えられるように設計されているに違いない。
扉の入り口まで来ると団長が壁にある基盤みたいな物を操作していた。
「それは何ですか?」
「いちいち聞くんじゃねぇ~!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「健吾」
団長の声は優しい声だったが、健吾さんを見つめる眼は、とても鋭くついつい健吾さんは団長から眼を反らしていた。
「分かったよ、何も言わない!」
団長の威厳だろうか?
健吾さんは反抗する事なく、その場を離れ不貞腐れていた。
「すまないね、ハルトくん」
「え、いや、こちらこそ、すいません」
「謝らなくても…、分からない事があれば聞いてくれ。
この基盤は扉を開ける為の基盤で、認証コードを打ち込めば扉が開くという寸法さ。
許可された者以外が勝手に入らないようにとダンジョンのモンスターが勝手に外へ出ないようにロックがかけられているんだ」
「へぇ」
「暗証コードは今回聞いているけど、定期的に変えてるから、覚えても無駄だからね」
そう言いながら、団長が基盤を操作すると扉から大きな音と共に、扉の鉄格子が機械仕掛けで動き、ロックが外れていく。
『ギィー、ガチャン、ギー、ギー、ガチャン』
その音と共に扉の奥から不気味な音?声?が聞こえてくる。
「ギャ、ギャ、オォー、オォー」
扉の開く音に気付いてモンスター達が騒いでいるのかも知れない。
モンスターを狩りに来たのに、向こうが獲物が来るのを待っていたのか。
そう思うと足が震え、動かなくなってしまう。
「どうした?ほら行くぞ。
先頭は君達だ」
そういって団長は僕の背中をポンと叩いてくる。
その勢いで前に出て、鉄格子に当たりそうになったので、手で鉄格子を押さえようとすると鉄格子の扉は、ギィと鈍い音をたてながら開いていく。
僕はそのまま倒れそうになるが、遥が服を引っ張ってくれて、何とか倒れずにすんだ。
「何やってるの?」
「あ、ありがとう」
「そんなに緊張していたら、ゴブリンを倒す前に倒されるわよ」
その通りだ。
ゴブリンと聞いただけで緊張するなんて、なんて情けない。
いつも通りやれば良いだけじゃないか。
僕は1度大きく息を吸い込み、呼吸を整えると、ダンジョンへの1歩を踏み出した。




