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裏切り 1

「だから、もっと大きなギルドが良いって言ってるじゃない」


爺様の葬儀も終わり、僕はオロチクランの拠点に戻り、自分の部屋で遥と二人で今後どうするか話し合っていた。

僕の部屋というより、取り敢えずオロチクランにいる間、借りている部屋。物が殆ど置かれていない部屋なので殺風景だけど、今は遥と二人っきり。

遥はベッドの上に座り、僕は向かい合うように椅子に座って話し合っている。

距離があまり離れていない所為か、遥からいい匂いが漂ってくる。

いつもなら汗や泥臭いにおいが漂ってくるのだが(人の事、言えないが)、今日は何故か、香水の匂いが漂ってくる。

この匂いの所為か?何だか遥に引き寄せられてしまう。

そう、まるで甘い蜜に誘き寄せられた虫のように…。


まさか誘われているのか?

今、遥はベッドに座っている。

僕が立ち上がりベッドへ押し倒せば、遥を僕のものに出来るかも知れないと僕の中の悪魔が囁く。


『押し倒せ、押し倒せ、そのままベッドに押し倒せ』と。


しかし、僕の中の天使がその言葉を否定してくる。


『押し倒しても遥の方が強いんだから、無理やり倒しても逆襲されるだけだぞ』


その通りだ。何を考えているんだ!

遥の気持ちも聞いていないのに、この場で押し倒して嫌がったらどうするんだ。

遥の方がレベルも腕力も強い。

間違いなく僕は殺されるな。


殺されなくても、これからパートナーとして組むには無理だから解散となってしまう。

それにここで遥が叫んだら、まだ真っ昼間だしオロチメンバーがこの拠点にはいるはず、メンバーが集まり、僕は非難され最悪この事がギルドに伝わり、もうどのクランも入れなくなってしまうかもしれない。


そう考えると僕は、遥という甘い蜜を目の前にして自分の感情を押さえるしかなかった。


「でも、ここまで親切にしてくれているのに、はい、さようならとは言えないだろう」


「それが勧誘の手口だって分からないかな?

最初は優しくして、いざ入団したとたん豹変して、雑に扱われる事を知らないかな?」


「わざわざ、駅まで迎えに来てくれたんだぞ」


そう、僕は長野から大阪に帰って来たのは良いけど、ここからどう帰るか悩んでいた。

近くまでバスで行き、また山道を歩きで登るか?

何度も登り下りをやっているから、体力的には大丈夫だと思うが、何時間かかることか…。

そう思っていた所、なんと団長と健吾さん、遥の3人が車で駅まで迎えに来てくれた。


あれは嬉しかった。

けれど、会った瞬間、遥にお土産を催促された時は、僕よりお土産か!とツッコミたくなる所だった。

お土産はちゃんと買っておいたから良かったが、遥の分とクラン用にお菓子を渡したら、遥が「え~~、お菓子?」とちょっと不機嫌気味。

お金がないのにお土産、買ってきただけでもありがたく思え、何を期待しているんだ。

と言いたかったが我慢した。


「ねぇ、盗人呼ばわりされた事、忘れた訳じゃないわよね」


「あ、あ、あの事な、勿論」


車で迎えに来てもらった事が感動的で、僕の頭の中からその事がすっぽりと抜け落ちていた。


「怪しいわね、それならもうここには入られないはずなんだけどな」


「なんで?」


「うっそー!そんなに鈍感なの?だって気まずいでしょう。

普通、泥棒を仲間に入れるなんて考えられない。

仲間にしてしまうと、いつまた盗まれるか分からないから、ずっと監視しなければならない。

なら、元からクランに入れなければ良いと考えているはずだから、このクランに入りたいと言っても、多分、断られるでしょう。

それなら、私達がすんなりクランから出ていった方が後腐れもなく済むでしょう」


「なるほど」


そう言われればそうだな。

泥棒を仲間に入れるわけがない。

仲間にしても、また盗まれるかも知れないという疑心暗鬼で常に距離を置かれたら、僕達はオロチクランで孤立してしまう。

考えるまでもなかったな、オロチクランに入りたくても多分無理だろう。このクランとは縁がなかったと諦めるしかない。

それなら断られる前に、なるべく相手を怒らせないように、やんわりとした言葉で、僕達から断った方が良いだろう。


「それならそうそう別れを言って出て言った方が良いか」


「そうしましょう」


なんか上手く誘導された気はするが、確かにここにいても気まずいだけだろう。


僕達は、話し合いの結果を伝える為にリビングへと向かった。

リビングには、オロチメンバーが全員揃っていた。


「ハルトくん、決まったかい」


リビングに入った瞬間、団長が声をかけてきた。


「はい」


「それでどうする?

入団するかい?」


「このクラン、皆、優しいし居心地の良いクランだし、悩んだんですけど他のクランも見てみたいという気持ちもあって、だから今回は保留させてください」


「そうか、まあ、仕方がないか、まあ、もう会うことはないかも知れないが、新しい人が増えるとちょっとは期待したんだが」


「まだ保留ですよ」


「いや、多分、もうここに来ることはないだろう。

今までに来た人達も同じ事を言って戻って来なかったからな」


「いえ、僕達は…」


「いや、良いんだよ。君達が選んだ道だから、ここに居ても将来性がないということは分かってるんだから」


「そんな事は思ってませんけど…」


「たった地下三回のダンジョンじゃ、これ以上レベル上げも、金儲けも先が見えてしまうし、なんと言っても遥さんは、もう単独でダンジョン制覇してしまったし」


「えっ、ダンジョン制覇したの?」


「えへへへ、すごいでしょう」


「そんな話、全く聞いてないんだけど」


僕はまだ地下2階のトカゲを倒していた所だったのに、随分と離されたものだ。

やはり、僕がこのダンジョンクリアするまで…とはいかないだろう。


「ハルトくんは、途中で抜けていたから、満足な冒険者としての訓練は出来ていないだろうから、明日は最後に特別な訓練をやろうか?」


「特別な訓練ですか?」


「ああ、ちょっと離れているが、地下10階のダンジョンが有るんだが、ダンジョン内を泊りがけで潜った事はまだないだろう?」


「はい、僕はないですが、遥は?」


「私もないわよ」


「それじゃどうだろう。最後に一泊二日のダンジョン探索やってみないか?」


願ってもない提案だ。

僕にとっては、始まったばかりの冒険者生活。

少しでもレベルを上げて次へと進みたい所だが…。


「それは僕と遥の二人で行くのですか?」


「いや、最後の記念だしクランメンバーの全員と行こうと思うがどうするかね?」


僕としては行きたいが、パートナーである遥はどう思っているのだろうか?

そう思っていたら、遥が、


「勿論、行きます。ねぇ、ハルトも行くでしょう」


「あぁ」


遥の突然のやる気に少したじろいてしまう。

何だが遥の目がお金に輝いているように見える。

確かに僕達にはお金が無い。

地下10階なら強い敵も現れるから、レベル上げもでき、ドロップアイテムも良いものが出る。

僕一人なら、行く事さえ無理だろうけど、オロチクランのメンバー達と行くので有れば、レベル上げも楽に行えるだろう。


これは行かないと行けないだろう。

これがオロチクランとの送別会代わりに、一緒に行く事になった。

今日は準備をして明日、朝早くに出かけるそうだ。


だが明日の事で興奮してなのか、緊張の為なのか、今日は眠れそうにもなかった。

無理してでも身体を休めておかないと、一泊二日のダンジョンに身体がついていかないだろう。


ベッドに横になり、窓から見える最後の景色を一人眺めていた。

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