盗賊 遥
遥の視点で書いてみました。
私の今の名は遥。
今はまだ名も知れていない小者だけど、私の野望は、いずれ盗賊団を率いて世界一の盗賊王になるのが夢。
盗賊になる運命なのか、偽装と隠密のスキルが冒険者になった時から発現していた。
偽装は、いろんな意味でとても便利だ。
今のレベルは21だけど、偽装スキルでレベルや自分の名前、ステータスをスキルを変える事が出来る。
自分の能力は変わらないから、今の数値より高く見せる事はほとんどないが、低く見せて新人冒険者としてクランに入団する事が多い。
それは新人冒険者の方がクランに疑われず、入団しやすいからだ。
そうやって幾つもクランを渡り歩き、レベルを上げつつ、色々な金品を盗み、バレそうになると次のクランに移動するのを繰り返してきた。
盗む時も隠密スキルのお陰で、余程レベルの高い冒険者じゃない限りバレる心配はない。
隠密スキルがあれば、私の事を認識する事は出来ず、盗むのも簡単だ。
万が一、疑われた場合に備え、盗みを擦り付ける相手をいつも見つけていた。
だってステータス画面の名前は変えられても、自分の顔は変えられないから、髪型を変えたり化粧で変えたりして人相を変えていた。
因みに今回のテーマは貧乏人。
わざと服もボロボロ、顔や髪も汚く見せている。
もう慣れたが、自分自身、臭いが酷すぎて何度目眩が起きた事か…、でもこんな事で私の野望を止める事は出来ない。
そして今回も間抜けな新人冒険者を見つけていた。
まだ新人だからなのか、疑う事も知らず、お人好し過ぎる。
そんな奴だからこそカモにしやすい。
自分の本性は見せず、猫を被り、ちょっと気のある素振りをするとイチコロだ。
ただネックは慎重過ぎる事。
どのクランに入るか決めかねて、お試しばかりやっている。
さっさと決めて欲しい。
こんなショボい少人数のクランなんかより、私としては大人数の大手クランに入団したい。
大きなクランに入団した方が、盗むにしても稼ぎが良いに決まっている。
だが、大きなクランにはレベルの高い冒険者がいるから、私の隠密スキルがバレる危険性もある。
だけど、多少のリスクがないと荒稼ぎする事は出来ないと私は考えている。
それにリスクが高いほど、スリリングに感じ、これがないと生きているという実感が湧かない。
この盗みの高揚感がたまらない。
他に何か実感が持てる物が見つかれば、少しは変わるのかも知れないが、今のところそんな物はなかった。
それにしても、さっさと決めて欲しい。
それが私の本心だ。
ちょっと口出ししたいが、今まで猫を被っていた意味が無くなってしまう。
回りくどい言い方になるが大手クランを勧めてみるか?
そう思っている間に魔石を盗んでしまった。
ほら、お前が早く決めないから、盗みの禁断症状が…。
盗みを止められない。
つい手が伸びてしまう。
まあ、バレてもハルトの所為にして逃げれば良いだけだし、少人数の所しか選ばない奴なんて、さっさと縁を切った方が良いに決まってる。
そしてついにクランに保管されている魔石の数が減っているのがバレた。
こんな小さな魔石、いちいち数なんか数えるなよと言いたい。
その場は何とか誤魔化せたが、こんなショボいクラン、さっさとおさらばした方が良さそうだ。
まあ、万が一、調べられても私が盗んだ魔石を持っていると、まず分からないだろうと確信している。
私には亜空間ボックススキル、ただ単純にボックスとも言うが、そのスキルを持っていた。
スキルは盗めないし、残念ながら私には発現しなかったから、コツコツと貯めたお金で買ったスキルだが、金額が約3000万。
とても高かった。貯めたお金が一緒で溶けた。
まあ、これが無いと荷物を持つのも不便だし、これもレベルを上げれば中身が一杯入るだろうし、先行投資と思えば…。
その為にお金が無くなり、本当に貧乏人となった。
貯めたお金が一瞬で消えると、何のために頑張ってきたのか分からなくなる。
はぁ~~、また貯めなきゃ。
ボックスはスキルだから偽装で隠せる。
だから、盗んだ物をボックスの中に入れていれば、まずバレる事はない。
ステータスを調べられても、ボックススキルがなければ調べられることは無い。
それに新人冒険者がボックスを持っているのは、おかしいからね。
元々スキルを発現する人もいるけど、それはほんのごく僅かな人だ。
警戒すべきはレベルの高い人達と偽装スキルを見破るスキル持っている人達。
その人達には、偽装がバレる可能性があるので、バレた場合に備えバレる前に中身をちょくちょく処分していくのが、私のやり方だ。
このクランはレベルが低いので、バレる事は無いと確信しているが、こんな山奥に住んでいたら、何も出来ず息が詰まってしまう。
手に入れた魔石を売って、買い物もしたい。
そんな事を思っていたら、クランメンバーが街に出掛けるそうだ。
「私も付いて行って良いですか?」
思わず言ってしまった。
だって、こんな山奥じゃ退屈だし、ダンジョンに行っても換金出来る素材の安い奴しか居ないし、さっさと見切りをつけて出ていった方が良いんだろうけど、私の労力に見合ったお金を手にいれていない。
ここはメンバーが出掛けるから、居残りして盗みを働きたい所だけど、今は私も疑われているから、その矛先が全てハルトにいったらトンズラしようと思っている。
それに街に換金しに行くようなので、たいした物は残っていないだろう。
それなら買いたい物も沢山あるし、一緒に付いて行って手元にある魔石を換金した方が良さそうだ。
そこで邪魔になるのがハルトだ。
街の中、ずっと付いて来そうだし、ウザったい。
換金している所を見られたら、私の事が色々バレる恐れがある。
オロチメンバーなら、理由つけて別行動を取りやすいから、まずはハルトをどうするか…。
「ハルトは留守番でもいいよ」
なんて扱い奴なんだ。
レベルが低い。ダンジョンで鍛えるべき、など言ったら簡単に居残ると言った。
こんな奴だからこそ、全てを擦り付けやすい。
多分、罪を擦り付けても疑う事などせず、庇うと今までの経験上、分かりきっていた。
まあ、ここに居ても大して稼ぐ事は出来ないし、そのまま街に出掛けて消えるのも有りかな、そんな事を考えていた。
街まであっという間だった。
山を登る時はあんなに汗だくになり、苦労して登ったのに車だと1時間もかからない。
なんて便利なんだろうと改めて思う。
さて、同乗者は団長、花音、湊だ。
どうやって別行動を取るか、それが問題だ。
車はギルド近くの駐車場に止めた。
そして団長が、
「まずはギルドで素材の換金に行くよ。
皆はどうする?換金に少し時間がかかると思うけど」
そう言ったので、私はすかさず、
「その間に買い物行っても良いですか?」
「冒険者と言っても、まだ弱い冒険者だし、それに女性だし、買い物なら皆で行動した方が良くないか?」
この団長も甘いわね。
私が猫を被ってるだけなのに、お人好し過ぎる。
団長も誑かして、クランの資金、根こそぎ頂こうかしら…。
そう思っていたが、団長の後ろから鋭い視線がする。
花音と湊だ。
どうやら、二人は私を信用していないようだ。
いや、今までの行動から見て、団長が好きなんだろう。
団長という者は、だいたい団員から好かれカリスマ性が無いとクランはやっていけない。
中には力ずくで恐怖で支配しているクランも有るようだが、私が盗み時は前者のクラン。
だって、力ずくで支配している所って、盗みがバレたら地の果てまで追いかけてきて何をされるか分かったものじゃない。
「私なら大丈夫ですよ。いつも一人で動いてますし、取られる物なんてないから」
さっさと分かれてのんびりと自由行動したいと思うが、ここで焦ったらダメだ。
「それでも女性なんだから、危険だよ。
それにお金は持ってるのかい?」
あっ、貧乏人で通っているから、お金が無いということになっていた。
盗んだ魔石や素材が有るから、それを売れば大丈夫ですとは言えず、
「多少のヘソクリは有りますよ。
それに…、ちょっと…、下着とかも買いたいし…」
ちょっと恥じらいらしく演技してみたら、団長は顔を赤くして、
「あ、いや、すまない。
それなら花音と一緒に行けばいいよ」
「えっ!」
突然、花音に押し付けられ、花音が驚きの声をあげ、明らかに嫌な顔をした。
はい、はい、分かってますよ。
花音さんは団長と一緒にデートしたいですよね。
「そこまで気を使わなくても大丈夫ですよ。
それにまだ私は正式な団員じゃないし、何かあっても自分の所為ですから…。
それに危なそうな所には行きませんから、この大通り、店が並んで人が多い所に行きますから。
これでも、今まで一人で生きて来たんですから大丈夫」
団長は少し考えて、
「それなら良いんだが…、それなら終わったら待ち合わせで良いか?」
「はい」
「それじゃ、3時に車を止めた駐車場で待ち合わせするか」
はい、ラジャ。行ってきます」
そう言うと私は、さっさとクランメンバーと分かれ、街の中に溶け込んで行った。
さて、まずは換金しないとお金がないから…と言ってもギルドで換金すると一度PCスマホで確認するから出所がバレてしまうから、潜りの換金所を探す。
まあ、こんな大きな街なら、少し裏通りに入れば必ずあるはずだ。
その前に、ギルドで分かれてから、ずっと後ろを付けれている。
多分、オロチクランのメンバーの一人だろうけど、団長はこんな裏仕事はしない。
花音は、さっきの調子じゃ団長から離れないだろうから、おそらく湊だろう。
普通の初心者の冒険者なら尾行されている事に、気付く事はないだろうけど、生憎、私は初心者冒険者じゃないんでね。
盗人をやっていると、常に周りを警戒してしまうから、直ぐに気付いてしまう。
だから、こういった対応もお手の物。
人混みに紛れ、一本裏通りに入った瞬間、隠密スキルを発動し、存在自体を消す。
念の為、マントを頭からスッポリ被り、顔や体格が分からないようにする。
そのまま周りの人の流れに乗り、その場を離れる。
それから後ろから付けてくる者は居ないようなので、上手くいったようだ。
それじゃ、換金所を探しますか。
裏通りを暫く歩いていると、脇道に逸れる通路の入り口に、強面のいかにも見張り役と思われる大男が壁に寄りかかり、辺りに目を光らせていた。
私が大男の前を通り、脇道に入ろうとすると
「おい!何処へ行く!」
ドスの効いた声が聞こえてくる。
「何処って、この奥だよ」
「この奥が、どんな所か分かっていて行くつもりか?」
「う~~ん、分からないから確かめに行くよ」
「ダメだダメだ、お前みたいなヒヨッコが来る所じゃない。帰れ!帰れ!」
そう言われて帰るつもりはない。
私は換金して貰いたいだけなのに、段々、腹が立ちコイツ殺してやろうかと思ってしまう。
一瞬の出来事だった。
私はマントの中でナイフを取り出し、大男に近付き隠していたナイフを大男の喉元に突きつけた。
「うっ!?」
「それ以上、喋るんじゃないよ!
私はただ魔石と素材を換金してもらいたいだけなんだ。
通ってもいいかい?」
大男は無言で首を縦に振った。
「ありがとうよ」
そう言うと私はナイフを戻し、脇道の奥へと進んで行った。
本当は大男を殺してしまいたい所だが、コイツはただの見てくれだけの木偶の坊、本当に強い奴はこの奥に潜んでいる。
この私でも分かる。強い奴が持つオーラというか殺気というか、私より強い奴がいる。
この狭い脇道が、まるで獰猛な動物の檻に閉じ込められたように感じる。
だから、先程の大男を殺す事は出かなかった。
殺せば、間違いなく私も殺されていた。
私はただ換金したいだけ、害意がないと分かれば相手は何もしないだろう。
それだけ潜りの換金屋は危険と隣り合わせだ。
バックには巨大な組織があるだろうけど、これは違法な取引だ。
ギルドや警察にバレないように、こそこそやらなければならない。
だから、毎回、場所も変われば、広告や案内もない。
自分で探すか、クチコミで探すしかない。
先へ進むと奥に簡易的な机と椅子が置いてあり、二人の人物がいる。
一人は、ちょっと小太りの髭を生やした、いかにも商人といった人物が椅子に座り、その横にボロボロの服を着た痩せ惚けた人物が立っていた。
今も感じている強い人物とこの二人とは別人のようだ。
その人物は、横にある建物の扉の奥から感じる。
何かあれば飛び出して来るだろう。
「何かご用でしょうか?」
「換金をお願いしたいんですけど」
「誰かの紹介か何かでしょうか?」
「いえ、たまたま見つけただけです」
「フム」
商人は自分の髭を触りながら、何か考えているようだった。
「紹介者のない一見≪いちげん≫さんはお断りさせて頂いているのですが」
それはそうだろう。
こんな危ない橋を渡る商売、念には念をおして相手の素性を確める必要が有るのだろう。
良くある囮捜査だとか、考えられる事は幾つもある。
だけど…、
「ここが潜りの換金所だと分かってるわ。
ギルドで換金出来ない理由が有るから、ここに来てるんじゃないの」
再び黙り込み、私をジッと見つめている。
商人としての感で人柄を見ているのか、それとも何かスキルで見ているか分からなかったが、
「分かりました。
ここを見つけるくらいなので、優秀な方だと思いますので、今後もご贔屓にして頂ければと思います」
「分かったわ」
「ただ相場はギルドより買取金額は安くなります。
初めての方はギルドの買取金額の20%レスの金額、お付き合いが増えれば買取金額は高くなっていきます」
「仕方ないわね、お願いね」
お金に変えないと何も買えない。
このままではギルドでも換金出来ないので、ボックスに眠ったまま、これで盗みがパレたら全て没収されるだろう。
それなら安くても換金して、欲しい物、買った方がましだ。
そして、何事もなく換金も済み、換金所をあとにする。
「またのご利用お待ちしております」
足元を見られた気もするが仕方ない。
換金出来た金額は20万ちょっと、思ったより買取金額が高かった。
ギルドならもっと高い事は分かっているが、それは考えないようにしている。
これで資金は揃った。
マントを脱ぎ、通りを歩く。
まずは、疑われないように下着を買って、ウインドウショッピングを楽しむ。
私も女性だから、綺麗な服を着たい、化粧をして美しく見せたいと思うけど、今は我慢する時だ。
盗賊王になったら、思う存分楽しめば良い。
今は冒険者、化粧したら匂いで隠密スキルがバレる恐れが有るから自分の地顔が分からないように匂いのしない化粧で誤魔化す程度、綺麗な服を着ても直ぐに汚れるから買うだけ無駄。
それよりは日用品や万が一逃亡生活になった場合に備え、非常食やサバイバルキットを揃えた方がましだ。
武器や防具も新調したいが、今あるお金が足りないだろう。
ある程度、買い物を済ませ通りを歩いていると、反対側からオロチのメンバー達が歩いてきた。
「お~い、何処へ行ってたんだ」
「え、買い物してただけだけど」
「皆で探したんだぞ」
「この辺りぐるぐる回って探してのに見つからなかったよ」
「おかしいわね、通りの店、回っていただけなのに」
「どっかですれ違っていたのかな」
「それはそうと、もう買い物終わったか?
そろそろ帰らないと」
「はい、大丈夫ですよ」
「それじゃ、帰ろうか」
私はその言葉に、オロチメンバーと共に拠点へと戻った。
あっ、このまま逃げるつもりだったのに、思わず付いて来てしまった。
まあ良いか、暫くハルトに付き合うか…。
その内、罪を擦り付けてから逃げても遅くはないから。




