一人きりのダンジョン 4
迷っている暇はない。
周囲から集まった兎達は、狂ったように僕に向かって走ってくる。
この煙にはモンスターを呼び集める機能と錯乱機能が付いているのかと思うくらい見境なく突進してくる。
そういえば前にもこんな状況あったな。
兎を一匹倒したら、仲間がわんさかと…。
でもあの時、ほとんど遥が倒してくれた。
今日はその頼りになる遥が居ないし、居るのは無関心な健吾くんだけだ。
兎の攻撃は痛いけど、死ぬことはないだろう。
そう思いたいけど、兎に囲まれて襲われたら大丈夫とは言い切れないかも知れない。
当たり所が悪ければ死ぬこともある。
兎はもう直ぐ目の前、やるしかない。
死なないと言う甘い考えは止め気持ちを切り替えて僕はナイフを構えた。
兎は全周囲から集まって来ている。
一度に全ての兎を倒すのは、今の僕には無理だ。
だから僕はいち早く周りを確認し、僕に早く到達する兎を一撃一殺で仕留めるしかない。
一体一なら一撃で倒せるはず。
まず早く到達するのは…右後。と同時に次に来る兎も確認しとかないと、一匹を倒しても次の兎に蹴られたら終わりだ。
次、次と先読みしていく間になんだか将棋のように思えてくる。
プロとはいかないけど、高校のクラスの中では将棋は強い方だった。
相手の駒を先読みして、これが思った通りに相手が動いてくれると、なんと嬉しい事か…。
そんな気分に今、近いものを感じていた。
周囲を一瞬見渡し、兎との距離、速度から次にどの兎が来るのかが判別出来る。
それは兎が途中で移動したりしないで、真っ直ぐにしか襲って来ないから読みやすい所為かも知れないが、兎の動きが全て、手に取るように分かる。
周りを見るのと同時に、振り返りそのままナイフを突き出すと、そこには思った通り兎が地面を蹴り僕に襲いかかっている瞬間だった。
そこへ僕のナイフは、空中では動きの取れず、勢いのついたままの兎の胴体に、力を込めること無く深く突き刺さり兎は動きを止めた。
まだ1体目。
僕は直ぐに兎からナイフを引き抜くと、時計回りに身体を捻り、ナイフを横一線に振り抜く。
2体同時に来ていた兎をナイフが切り裂く。
2体目、3体目、そのまま地面へと兎は力を無くし倒れていく。
たった9匹。
近い順に倒していけば、そんなに時間はかからないだろう。
まるで演舞を踊るように、ナイフを突きだし、回転し、時には攻撃を交わす為の動作を入れ、何故か兎の動きも遅く感じる。
今、まさに覚醒されたかのように周りの状況が手に取るように分かる。
今までこんな事はなかった。今が一番調子が良いのか?
こんな感覚は今までない。
そして気が付けば、全ての兎を倒してしまっていた。
あっという間だった。
まだ自分の中では、兎を狩りたい衝動を押さえきれずにいた。
戦闘中の感覚が、僕の中で火種となり、まだ燃え盛っている。
何で兎は10匹しか居ないのだろうか?
もっと出てくれば良いのに…。
先程まで集団で兎に襲われ、どうしようかと悩んでいた自分とは考えられない程、戦闘狂となっている自分がいる。
しかし、周りを見渡してもモンスターなど居るわけなく、自分の呼吸と心臓の音だけが響いていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
戦闘に夢中になっていて気が付かなかったが、その荒い息づかいに、意外と呼吸を乱していることを感じ、一度大きく息を吸い込み呼吸を整えていった。
まだ狩りたい気持ちはあったが、ここにいても今日はもう兎は出てこないだろう。
かといって、健吾くんが見ているから下の階層に行く許可はくれないだろうし、外の森で何か獲物を探すか?
そんな事を考えながら、倒した兎を集めていたら、健吾くんが声をかけてきた。
「それほどの戦闘技術があるなら、下の階層に行ってみるか?」




