二人の秘密
「ハルト!ねぇ〜ハルトってば!」
その声にハッとして気がついた。
遥が顔をこちらに向けて話しかけていたのだが、僕の視線は遥の身体のラインを釘付け。腰のくびれ、細い手足、お尻の形、そして透けたパンツ。
だから全く声をかけられているのに気付いていなかった。
「え?」
「さっきから呼んでいるのに、何、ぼ〜っとしてるのよ」
そう言いながら遥が僕に詰め寄って来るが、遥のパンツを見てましたとは言えず、
「え、え〜っと、ごめん、疲れている所為かな。
ぼ〜っとしてた」
ちょっと言い訳がましいけど、何とか誤魔化せたか…と思ったけど、更に遥が詰め寄って来る。
顔が近いって。
僕の前に立ち、腰を曲げて顔だけ近づけてくる。
凄い至近距離。
ここまで女性を至近距離で見たことは、今まで無いのではないだろうか?
そのくらい目の前に迫っていた。
いや、それよりも遥が前屈みになった所為で、ティシャツが緩み、ネックラインから遥の胸が丸見え状態。
態となのか?
つい目線が胸にいってしまうが、この至近距離で、ずっと見ていたら、遥でも気づかれるかもしれない。
そう思い僕は視線をちょこちょこと変えるが、やはり胸への視線を逸すことは出来なかった。
こんな機会など、もう無いのかもしれない。
触りたい…、触ったらどうなるだろうか?
殴られる?叩かれる?
そのまま押し倒すか?
でも遥の方がレベルが高い分、力も強い。
逆に返り討ちに合うだろう。
しかし、今は二人っきり。
チャンスは今だけじゃないのか?
向こうだって期待しているかも…、だけど違っていたら二人の関係は悪化して別れる事になる。
折角、パートナーになったばかりなのに、遥の事、知らないまま別れるなんて、これからだろう。
お互い切磋琢磨しながら冒険者として強くなろうとしているのに、ここで襲ったら犯罪者として生きて行く事になるのでないのか?
僕の心の中の正義と悪がお互いに主張しあっていた。
「ねぇ、本当に大丈夫?
パートナーなんだから、何でも相談してよね」
その声に現実へと戻された。
僕は何を考えているんだろう。
こんなに遥は僕の事、心配してくれているのに、変な事ばかり考えて、僕は駄目だな。
「大丈夫だから、なんだか遥の顔を見たら元気になったよ」
「また〜、何言っているのよ」
そう言って肩を叩かれた。
遥にしてみれば軽く叩いたつもりなんだろうけど、かなり痛い!
力ずくでは絶対に勝てないと思った。
そして遥は僕の横に腰掛けた。
胸が見えなくなって残念だけど、僕の変な考えを止めるには、丁度良かったのかもしれない。
「それでレベルは上がった」
「あ、確認していなかった」
僕は携帯PCを取り出し確認したが、レベルは1のまま、ちょっとは期待したが、やはりレベルは上がっていなかった。
変わった所と言えば、AGLが2から3に上がっているくらいか。
一匹+0.1だから、二人で十匹倒したから+1という計算になる。
「上がってないな、レベル1のままだ」
「ん〜」
「どうしたんだ、遥?」
「あのね、私の時と全然違うなと思って」
「何が違うんだ?」
「私の時は、モンスターを十匹倒したらレベルが2に上がったから…、兎だったし経験値が違うのかも知れないし、上がり方も人それぞれだっていうしね」
「それじゃ、僕は上がり方は遅いと言う事か」
「それは分からないわね、同じモンスターを倒した訳じゃないから、強いモンスターをパーティで倒せば、その分、経験値も多くなるはずだから、無理をせずに自分のペースでやるしかないわね」
「そうだよね、モンスターの数を倒せば一匹あたり+0.1がつくし、数多く倒すしかないよね」
「えっ、何?+0.1って」
「知らないの?」
僕は自分のステータスのAGLの件を遥に話した。
「それはおかしいわよ。
普通は、ゲームみたいにレベルが上がって振り分けポイントを振り分けて強くしていくだけなのに、何、その+0.1って、反則じゃないの?」
「僕に言われても…」
「初めて聞くわよ、そんな事。
ねぇ、この事は誰にも言っちゃ駄目よ。」
「どうして?」
「これは珍しい案件だと思うの、もしこれがバレたら、貴方、政府に捕まるかもよ」
「まさか、そこまでは」
「いいえ、これは忠告よ。
今までも、珍しいスキルを持った人間が消えるという噂はあるの。
ほとんどがダンジョンに行って戻らなかったらしいのだけど、その報告を出しているのがギルドなの。
死亡届けは出ているのに、いつ誰と行ったのか、全く公表していない。
だから憶測で噂が広まっているだけなのかも知れないけど、用心に越したことはないわ。
二人だけの秘密よ」
「分かった」
変な数字の上がり方で消されるなんて、たまったものじゃない。
噂だと思いたいけど、確認しようがないから、この事は秘密にしておいた方が良さそうだ。
そして廊下が騒がしくなってきた。
どうやら団長達が帰ってきたようだ。
僕達は、急いで廊下に出て団長達を出迎えた。
ついでにシャワーを借りたいと言ったら、山の上で水は大変貴重で、水道が通ってないから雨水を使うか山の麓の川から水を汲んで来るかしかないらしく、シャワーを浴びたいなら水汲みをするように言われた。
悩んだ。
麓まで遠いし、その分、体力も奪われる。
だけど、この血のニオイは我慢できなかった。
遥もシャワーを浴びられるなら浴びたいということで、二人で水を汲みに山を下りることになった。
行く時は下りだから、楽に楽しく遥と会話しながらピクニック気分で出かけられたのだが、帰りが大変だった。
ポリ容器20リッター4つに水を入れ、2つずつ持つ。
右手に20リッター、左手に20リッター、僕は持っているだけできつい。
なのに、更にまたこの険しい山道を戻らなければならない。
遥はポリ容器の重さなど気にならないのか、鼻歌交じりでドンドン先へ進んで行く。
ちょっと待って!
とは男として、流石に言えず、何とか付いて行こうとするが、少しずつ離されていく。
「ハァ、ハァ、ハァ」
もう息が上がってる。
運動不足だもんな。
既に遥の姿は見えなくなっていた。
ここで一休みするか?
いや、遥は先に進んでいるんだから、一人で休む訳にはいかない。
汗が止まらない。
足が重い。
喉も乾いたし…、水あるじゃん!
ポリ容器の水を飲み、水を頭からかぶりたい衝動にかられるが、我慢しないと。
ここまで運んで来た意味がない。
「ほら、1つ貸しなさい」
そんな天使の囁きが聞こえて来た。
遥だった。
一人で先に行ったんじゃ無かったのか?
「自分の分があるだろう」
「玄関に置いてきたわよ」
「え」
「ほら、1つ持って上げるから、もう少し頑張りなさい」
そう言って、僕からポリ容器を1つ取り上げた。
なんて良い奴なんだ。
頼りになる。惚れてしまうぜ。
いや、立場が逆だろう。
本当なら僕が持ってあげなくてはならないのに、逆に持たせるなんて…。
きっと遥より強くなってみせるから、それまで待っていてくれ。
そう思いながら、遥の背中を追いかけていた。




