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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第七部・アレクセイルート正面突破編
226/335

【225】少佐、事に深刻さに気付いていない

 ブリタニアス海軍大将士爵(サー)・ドレイクとキース中将の会談は、モルゲンロートホテルの一室で行われる。

 モルゲンロートホテルはそのものが高級なので、どの部屋も普通のホテルのスイートルーム以上で、インペリアルフロアになると宮殿のような造りになっている。宿泊料金が高額なのも頷ける造り。

 もっとも庶民は「高額らしい」としか知らない。

 明確な宿泊料金は分からない。前世とは違い、ホームページもなければパンフレットもないので ―― 料金分からないのに宿泊するの恐くない?

 いかなる料金でも支払える自信のある人のみ宿泊が許されるホテルだから、細かい値段表など必要ないと、ここで生活しているリースフェルトさんが言っていた。

 リースフェルトさんはこのインペリアルフロアのスイートに滞在しており、料金は全て閣下持ちとのこと。それというのも、閣下はこのホテルのインペリアルフロアのスイート二部屋を、年間リザーブしていらっしゃり、一族であるリースフェルトさんはその一室を使わせてもらっているという設定。

 使っても使わなくてもお金を払って部屋を押さえているのだそうだ。

 閣下凄い! セレブみたい! って話を聞いた時思ったが、閣下はガチのセレブだったわー。


 ……で、高級ホテルの中でも特にセレブリティな一室にて、ドレイク将軍とキース中将の面談が行われる。

 建前が「アフタヌーンティーをどうぞ」なので室内には、色とりどりの菓子 ―― アフタヌーンティーといえばこれだよね! と言いたくなる、銀製の三段ケーキスタンドに伝統に則った下段サンドイッチ、中段スコーン、上段ペストリー。白くて清潔なクロスが掛けられたテーブルの上には、上質な陶器に詰められたクロテッドクリームやジャムが並べられている。

 テーブルには可愛らしいパステルカラーのガーベラが飾られて ――

 部屋に入ると既にドレイク将軍は来ていた。事情を知っている通訳ボイスOFF(ウィルバシー)も一緒に。

 部屋にはこの二人の他に男性従業員がいた。


「用意を調えて下がれ」


 キース中将が命じると、頷き従僕が紅茶を淹れ、シャンパンをグラスに注ぎ、ボイスOFF(ウィルバシー)がチップの紙幣を、ややぎこちなく差し出す。

 利き手がまだ不自由だからということもあるが、元は貴族のボイスOFF(ウィルバシー)。チップなんてものは召使いたちの仕事なので、したことがなかったのが見て取れる。

 そんなボイスOFF(ウィルバシー)は濃紺のラウンジスーツを着ている。骨折した腕はまだぐるぐる巻きにされているので、上着は片腕しか通していない。

 ボイスOFF(ウィルバシー)のスーツ姿を見るのは初めてだが似合っているし、なにより格好良い。さすが攻略対象、何着せても、崩れた着こなしでも格好いい!

 今まで見た中で一番似合ってなかったのは軍曹の制服だ。さすが高貴な生まれ育ちな攻略対象(元)

 ボイスOFF(ウィルバシー)の格好良さに「いいもの観させて貰った」と思っていると、キース中将とドレイク将軍が挨拶もせずに椅子に腰を下ろした。

 かっちりと軍服を着込み、髪をオールバックにまとめた将校クラスの軍人が腕を組んで、非好意的な雰囲気を隠さず向かい合う。

 ほわほわとしたアフタヌーンティーセットが浮いてるわー。

 場違い感、半端ない。本当はこっちの二人が場違いなのですが、完全に二人がこの場を支配しているので、アフタヌーンティーセットが浮いちゃってる。

 二人ともシャンパンにすら手を付ける気配はなく ――


「久しぶりですな、モーリス・ドレイク将軍。ああ今はサー・ドレイクとお呼びするべきでしたか」


 室内にブリザードが。穏やかな雰囲気の癖にブリザード感を呼び込むことができるとは、さすが儚い詐欺。まあこれは、儚さはなにも関係ないけれど。


「あいかわら、ず。て、きびしいな。だからこそ、そうしれい、になれた、のだろうが」


 イントネーションはかなり変だが、ドレイク将軍がロスカネフ語を喋った!

 この二人が顔見知りなのは、大体予想がついていた。十六年前の連合軍対共産連邦戦の時、ドレイク将軍も艦隊率いてたから。


「じじょうは、つうやくに、つたえたので、きいてほしい」

「いいでしょう」


 わざわざ話して、それをボイスOFF(ウィルバシー)が通訳するのではなく、前もってまとめてきたみたい。

 ボイスOFF(ウィルバシー)はキース中将に一礼し、抱えていたノートを開き、ドレイク将軍側の事情を話し始めた。

 それによると ―― ドレイク将軍はクロムウェル公爵オーガスト・マクミランを連れてくるつもりはなかったのだそうだ。

 なにせオーガストは先代クロムウェル公フィリップにとって唯一人の男孫。

 なにかあったら、国としても困る。

 だが軍人としても名声を馳せた祖父、先代クロムウェル公フィリップの跡を継ぐことになったオーガストは、自分も祖父と同じように軍人としての名声を得たいと考えた。


「マクミラン家で用意した小競り合いの督戦では、到底名声は得られないとクロムウェル公は考えたようです」

「それはそうだな」


 さすが名家の坊ちゃんクン。名声までお家で用意してもらえるのかー。あんまり名声って感じしないけど。

 キース中将は顎に手を当てて ―― わたしの立ち位置からでは表情は分からないのですが、きっと苦笑でも浮かべたのであろう感じに空気が動いた。


「だから戦争において()生ける伝説、五大陸戦争の覇者(リリエンタール)が十年ぶりに仕掛ける弱小国 対 超大国の戦いに、首を突っ込んできたのか」

「そのようです閣下(キース)


 オーガストは実家が用意した戦争ではなく、本物の戦争に参加して名声を得たかった。ずるいというか、当たり前というか、勝てる戦争にしか参加したくないのが人というもの ―― オーガストは当事国の人間じゃないから、当然なんだが、とにかく勝てる戦いであり、更には人目を引く戦争に出たいと考えていたところ、閣下が戦いを仕掛けると聞き「これは勝利確実。大勝間違いなし」と……お前なあ……戦うのはこっちなんだぞ、坊ちゃんクン。


 もちろん最初はドレイク将軍も拒否したのだが、大叔母を通じてババア陛下さま……じゃなくて、グロリア陛下にお願いして「ドレイク、ガスを連れていきなさい」と、許可を取ってしまった。(ガスはオーガストの愛称とのこと)

 立憲君主制の国だが、女王陛下のお言葉は絶対。

 先代クロムウェル公だって、女王陛下が仰ったのならば従うしかない。

 だが孫のことがどうしても心配な先代クロムウェル公、多少の不名誉も命には替えられないということで、戦争以外のことで軍規違反を犯させ、強制送還するようドレイク将軍に頼んだのだそうだ。


 さすが坊ちゃんクン、甘やかされかたが半端ないわー。

 そりゃあ夜会会場で、田舎者っていちゃもん付けてくるわー。


『サー・ドレイクの奥方はマクミラン家に連なる人でしたな』


 キース中将がブリタニアス語を滑らかに喋った。

 ドレイク将軍は軍人としての功績で士爵(サー)を賜った元平民。海軍の階級ではドレイク将軍のほうが遙かに偉いが、妻を介して名門に属することになったドレイク将軍は、貴族としてはマクミラン家の当主であるオーガストにはもの申せないわけだ。

 更に言うなら、現在五十代のドレイク将軍と一族の女性の結婚は、先代クロムウェル公の肝いり ―― すっごいしがらみがありそう。いや、しがらみしかなさそう。


『そうだ』

「貴族と婚姻を結べば、こうなることは分かっていたはず。いくら地位を高めようとも、一門の家長の命には従わなくてはならない。知っていながら面倒事を背負い込んだのだから、自業自得ですな」


 キース中将の言葉をボイスOFF(ウィルバシー)が伝えると、ドレイク将軍は立派なカイゼル髭を撫で、渋面を作った。


『あいにくわたしは、貴族ではないので、迂遠で諧謔に富んだ会話などできない。よってはっきりと言わせていただく』

「むかしから、そう、だったな」

スタルッカ(ウィルバシー)。水を飲め」


 優しくて気遣えるキース中将は、ボイスOFF(ウィルバシー)に水を勧め、喉を一旦潤したボイスOFF(ウィルバシー)は、ノートのページをめくり話を続ける。

 

 孫オーガストを無傷で早々に本国へ送り返すことを、先代クロムウェル公からお願いという命令を下されたドレイク将軍はいろいろと考えた。

 そして思いついたのが、オーガストは大国大貴族という選民思想の持ち主なので、庶民出の総司令官ことキース中将に突っかかるだろうと。


『君は相手が誰であろうが引かないから、強行に処分を申し出てくると考えた』

「事前に説明を聞かされていないで、あの若造がわたしに非礼を働いたら、今頃あの若造は死んでいる」

『それは失念していた。いや、若いころの君ならそうだが、いまは責任ある地位についているから』

「変わったと、勝手に思っていたのか。少しどころではなく、楽観視しすぎたな」

『ああ、そうだ……最後まで話を続けてもらえるかな、スタルッカ殿』

『はい』


 ボイスOFF(ウィルバシー)が受け取り話を続ける。それによると、当初オーガストは無謀にもキース中将にいちゃもんをつけようとした……のだが、さすが貴族というべきか、お前いつもそんなに注意されているのか? と突っ込みたくなるのだが、オーガストはいつもなら一言二言告げるお付きやドレイク将軍などが、自分に注意を促さないことに気付き、周囲が失態から強制送還を狙っていることを察知した。

 察知したのなら止めればいいのだが、そこで引かないのが大貴族……かどうかは不明だが、キース中将の側に自分と同じ階級の人間がいることに気付き、そちらに矛先を変えたのだ。


「クロムウェル公と隊長は階級は同じなので、たとえ隊長がロスカネフ貴族であっても、ブリタニアスの大貴族である自分のほうが立場は上なので、強制送還は不可能と考えてのことだそうです」


 わたしは赴任する予定があったので、ブリタニアスの階級章はしっかりと覚えておりますが、選民意識高すぎな坊ちゃんクンが、見下している国の階級章を覚えているとか、ちょっと感動したわー。


「その小賢しさが禍したな」

「まことに……」


 ところで、ここまで聞いておきながらなんだが……この謝罪面談って、なんの謝罪面談なんだろう? オーガスト坊ちゃんクンの言う通り、所属は違えど同階級同士のいざこざとして、適当に手打ちでいいのでは? 

 わたしとしては、キース中将の弾よけになれたので、護衛として誇っちゃうのですが。

 わざわざ総司令官と提督が顔を付き合わせて会談することかな?


『わたしの部下は簡単に許すどころか、なんとも思ってはいないが、クリフォード(リリエンタール)公爵(伯爵)アンソニー(リヒャルト)殿下(閣下)は、寵愛の深い妃への無礼を許すような人ではない』


 クリフォード公爵アンソニー殿下がお怒りなのですか? 怒らせるとブリタニアス海軍提督ですら困るとか、一体どこの王族ですか。……あれ? 誰だっけ? どこかで聞いたことがあるような。


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