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【218】少佐、ライバル? と遭遇する

 エサイアスのプロポーズは、出張している全員の知るところに。

 わたしが断ったことに関しても、ほぼ(・・)全員が「この若さで佐官になったら、女性ですから仕事取りますよね」と納得していた。


「隊長。せっかく行き遅れ回避できそうだったのに、どうして断ったんですか」

「馬鹿を言うなユルハイネン」

「何がですか?」

「わたしが今エサイアスと結婚したとしても、行き遅れ回避にはならん」

「そうでしたね。隊長は正真正銘行き遅れでした」

「分かれば良い」


 ……というか、そもそもお前がリースフェルトさんのことを、キース中将に報告するからエサイアスがプロポーズしてきたんだぞ。

 エサイアス本人は「ミカからの報告は、イヴに気持ちを伝えるいい切っ掛けだったよ」そう言い「だから、ミカへの罰を少し軽くしてやってくれないか、イヴ」って爽やかが過ぎる笑顔で言われた。


 お前がそう言うなら……ということで、処罰は二十キロの背嚢を背負って二十キロ走におまけした。

 まあこの程度、親衛隊隊員なら余裕だ ―― 自分のペースならね。

 罰なので自分のペースで走らせるつもりはなく「わたしについてこい!」と首のロープの端をわたしが掴んで走らせた。

 もちろんわたしも二十キロの背嚢は背負って走ったよ。

 わたし、足だけは速いので ―― 途中何回かユルハイネンが処刑スタイルみたいに、引きずられることになったけど気にしない。


「隊長相変わらずですね」


 ユルハイネンも気にしてないみたいだし……ちっ! 罰なのに! 罰になってない気がする。


「隊長から直接与えられる罰を期待してのことですから」


 リースフェルトさんがそう言ったのだが……なにそれ、恐すぎなんですけど。あいつ、被虐趣味なんてあったの? …………個人の自由ってやつで処理しておこう。前世の知識があるわたしは、そっち方面には寛大なのだ! 任務に支障がない程度の被虐趣味で止めておけよ。

 西方司令部方面での面談などをすべて終え、夕方に蒸気機関車に乗って帰る ―― その日の朝、いきなりの訪問者があった。


「隊長」

「どうした? ユルハイネン」

「貴族令嬢がキース閣下への面会を願い出ているのですが」


 はぁ?

 なに言ってるんだ、粗ちん野郎(ユルハイネン)

 キース中将は気さくな人ではあるが、公人としては予約を取っていない相手と会うことはしない。

 そして貴族令嬢(未婚)とかいう、ヤバイ生き物との面会予約など有るはずもない。

 絶対面会などしない。そんなもの取り次ぐわけなかろう!

 ……と、言いたいところだが、ユルハイネンがそのことを知らない筈がない。

 わざわざ伝えにきたということは ――


「お前の知り合いか? ユルハイネン」

「はい」


 門の警備をしていた従卒から名前を聞いたユルハイネンは、大学の後輩だとすぐに分かった。


「大学に進学している侯爵令嬢というのは珍しいもので、覚えておりました」


 それはそうだな。

 女性の社会進出がめざましい我が国ですら「結婚が確約されている上流階級の娘に教育は不必要」が未だ常識だ。

 そんな社会で、有爵貴族の娘が大学進学など、目立つよなあ。


「エリザベト・ヴァン・サロヴァーラ。サロヴァーラ侯爵家の一人娘で二十四歳、未婚です」


 二十四歳のわたしが言うのもなんだが、二十四歳で未婚とは貴族令嬢だと冗談抜きで行き遅れ……でも一人娘だから婿選びが難航しているのかな?


「だがお前の知り合いだからといって、取り次ぐつもりはないぞ」

「分かっております隊長。ただサロヴァーラ嬢は頭の良い女でしてね」

「大学進学したのだから頭は良いだろう」

「侯爵家の一人娘で、婿を迎えて跡を継ぐらしく、貴族の決まり事も理解しています。要するに早朝、アポイントメントなしに、軍の最高司令官のもとを訪れるような馬鹿ではない筈なのです」


 ユルハイネンが言いたいことは分かった。

 貴族令嬢は「らしからぬ」行動を取っているのだ ――


「馬鹿ではないとお前が証言してくれるから、会えると踏んできた可能性もあるが」

「小官は大学でも優秀で有名で、令嬢も有名でしたので。小官が令嬢のことを覚えていると考えたとしても、おかしくはありません」


 たしかにお前は優秀だよな。そして優秀な令嬢か……


「ここにスタルッカ(ウィルバシー)がいてくれたら、貴族の裏事情らしきものが分かったかもしれないが」


 かなり貴族令嬢としては外れているので、ボイスOFF(ウィルバシー)はなにか知っていただろうなあ。

 わたしも元は現陛下の副官でしたが、社交関連は有爵貴族でもあった第一副官ヘルツェンバイン殿が担当しておりノータッチだったもので。


「少佐」

「どうした? ジーク」

「わたしは少しばかりこの国の貴族について存じておりますので、この件は閣下(キース)に取り次がれたほうがよろしいでしょう」


 リースフェルトさんがそう言うのなら ―― ユルハイネンに令嬢を応接室に通し、部下たちと共に見張るよう命じ、わたしは面会者が訪れたことをキース中将に伝えた。


「エリザベト・ヴァン・サロヴァーラか」


 名前を聞いたキース中将は少しばかり考え、


厄介なの(・・・・)が来やがったな」


 吐き捨てるように言った。


「帰しますか?」

「いいや、面倒事から逃げるのは性に合わん。お前も立ち会え、クローヴィス」

「もちろんです」


 キース中将と女性を二人きりにするなんて、そんなことするはず、ないじゃないですか!


「おそらく相手は途中でお前を退出させるよう求めるだろうが、絶対に無視しろ」

「はい」


 「暴行された」と言うために、裂きやすいよう切り込みなどを仕込んでいるドレスを着ている可能性が高いのでもちろん離れませんよ! キース中将の貞操はわたしが守る! 決意を新たにし、気を引き締め応接室へと向かう。

 ドアが開きっぱなしの応接室からは、軽快な笑い声が聞こえてきた ―― ユルハイネンが令嬢と会話に花を咲かせていたようだ。

 室内にはサロヴァーラ嬢の他に、老紳士と付き添い役らしき初老の女性、そして護衛らしい若い男がいた。


初めまして(・・・・・)閣下(キース)


 サロヴァーラ嬢が立ち上がりキース中将に挨拶をする。


「サロヴァーラ嬢だったか。アーダルベルト・キースだ。何用かな?」


 穏やかな表情で素っ気ない態度という、いつものキース中将らしい態度で彼女の側を通り過ぎて、椅子に腰を下ろした。


 貴族令嬢と聞いていたので、ドレス姿を想像していたのだが、サロヴァーラ嬢はスーツ姿だった。

 白いシャツに黒のシングルジャケットにグレーの襟付きベスト、グレーに黒の縞模様がはいったコールパンツという、シュトレーゼマンスタイル。

 もちろん白銀のカフリンクスも忘れてはいない。

 ただこの場合ネクタイはグレー、もしくはシルバー系のレジメンタルタイが正式なものなのだが、サロヴァーラ嬢は色はシルバーだがアスコットタイだった。


 ……この時代に男装して総司令官に会いに来るとかチャレンジャーすぎやしませんかね? おまけに準礼装だしさあ。

 わたしの前世の時代なら、ギリギリ許されるかもしれないけれど……でも正式な場には正式な格好だよね。

 貴族令嬢のドレスコードってもんがあるだろう?

 閣下(大公)よりバイエラントを預かっていたテーグリヒスベック女子爵閣下は普段男装ですが、閣下の前に出るときのみならず、わたし(大公妃)にすらドレスで正装して持てなしてくださったぞ。

 なに? 平民の総司令官なら準礼装程度でいいとでも! まあ、キース中将も軍平服ですが、これはそちらがアポを取っていないのだから仕方ない。


 ただとてもよく似合っている。なにせサロヴァーラ嬢はお世辞抜きで美しい。

 貴族令嬢にしては珍しく肩に届くほどの短い黒髪は、艶やかで光沢がある。けぶるような長い睫に、やや濃いめのブルーの瞳。

 理想的な女性らしい唇に、まろやかな輪郭。スタイルもスーツ越しに分かる女性らしさ。むしろドレスを着ているより女性らしさを強調している。

 

 でもないわー。総司令官に会いに来るのに、この格好はないわー。そっちからやって来て、その格好はないよー。似合っているとしても。


「身体検査は行ったか」


 ユルハイネンに尋ねると、


「サロヴァーラ嬢以外は」


 ですよねー。貴族令嬢の身体検査を男がするわけにはいきませんよねー。でもわたしはする。


「失礼いたします」

「お嬢さまになんてことを」


 付き添い役が声を上げるが知ったことではない。


「身体検査を受けないのなら、お帰り願う」

「いいのよ、マーサ」

「お嬢さま……」


 そういう茶番は家を出る前にお願いします。

 キース中将の心証も悪くなると思いますよ?


「初めましてクローヴィス少佐。わたくし、ヤンソン・クローヴィス君と同じ学部に通っていたの」


 いや、話し掛けられても困る。

 護衛とか受け答えしないから……まー知ってて話し掛けているのかも知れないが。

 茶番好きなのかね? 同い年(サロヴァーラ)

 男装していても一目で女性とわかる、女性らしさを兼ね備えた体をぽんぽんと叩き、おかしな物を持っていないかどうかを確認する。

 胸大きいですねー。

 そして残念ながらデニスから、あなたのことを聞いたことはありません。デニスにとっては美しい有爵貴族令嬢だろうがなんだろうが、興味の範疇外。

 あなたが蒸気機関車に興味を持っていたら別ですが。

 サロヴァーラ嬢の身体検査を終え、キース中将に何も持っていないと伝える。


「ここには給仕はいないので、茶は出ない。さて、何用かな? サロヴァーラ嬢」


 キース中将は足を組んで、背もたれに体を預け、やや尊大な感じでサロヴァーラ嬢に尋ねた。

 なんとなく、キース中将はサロヴァーラ嬢がなにを言おうとしているのか分かっている感じも……総司令官で軍務大臣ですものね。二十代の子供が考えていることくらい、容易に想像つくか。


閣下(キース)。わたくしはサロヴァーラ家の一人娘で、婿を取り侯爵家を継いでもらわねばなりません」


 我が国は女性は爵位を継げないから、そうなるよね。


「手短に済ませてもらいたい」

「わかりました閣下(キース)。わたくしは婿を捜しております。閣下(キース)に是非とも協力していただきたいのです」


 キース中将に婿斡旋の依頼ですか? キース中将は平民ですし、紹介できるような親族など一人もいない完全無欠の天涯孤独……はっ! キース中将狙い!


「ほう。誰を婿がねにと考えているのだ?」


 サロヴァーラ嬢はにっこりと笑い ――


「リリエンタール閣下でございます」

主席宰相(リリエンタール)閣下の一門か?」

「いいえ。リリエンタール閣下その人でございます」


 …………リリエンタール閣下? キース中将ではなくて閣下?! ええええー!



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