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【163】隊長、狙撃手を加える

 マルムグレーン(オルフハード)大佐(少佐)は形は良いが、負傷してやや腫れている自分の唇を舐めてから軽く頷いた。

 わたしが言いたいことを、理解してくれたらしい。


「それは……」


 ボイスOFF(ウィルバシー)がどうなのかは分からないが、とりあえず事情を兵長以下、この詰め所にいる兵士たちに説明しておくことにしよう。

 推理なんかと違って、もったいぶる必要もないしねー。


「二人を同時に背後から、抵抗一つさせずに殺害した賊だが、そもそも殺害理由はなんだ? その二人を殺害するために司令本部に忍び込んだとは、とても考えられないから除外する。二人は発砲していない。よって賊には気付いていない。ならば余計な騒ぎを起こすようなことなどせずやり過ごし、標的の元へと向かえば良い。だが賊は二人を殺害した」


 わたしの脳裏に悪役令嬢とヒロインが浮かぶ。場所は学習院のあまり人が寄りつかない階段だ。

 悪役令嬢ことシーグリッドは見事に(・・・)ヒロインを階段から突き落とし、その現場を貴公子たちに目撃された。それはヒロイン(・・・・)にとって(・・・・)完璧(・・)だったが、完璧なあまり閣下に失敗例として挙げられた。


「……」

「賊が二人を殺害した理由は、標的の居場所が分からないからだろう」


 説明会の時に閣下が仰っていた『このモーデュソンの娘の一件は、結果そのものは成功しているのだが、ツェツィーリアが自分の完璧を追求したあまり大失敗となっている』と同じ状況だ。

 一発でも発砲していたら、賊と遭遇して殺害された可能性も捨てきれないが、二人は一発も発砲していない。

 二人は賊を目視で確認できていないのだ。だが殺害された ―― 


「彼らが規定の時間を過ぎても帰ってこなかったら、異変を感じて隊を編成して向かわせるな?」


 わたしの身体能力でも、兵士に見付からないで侵入することはできる。

 ただし全く知らぬ国の、司令本部にいる司令官の寝首をかける自信はない。わたしはそういうことの専門ではないからだ。

 だがどうしても潜入し、総司令官の居場所を見つけなくてはならない場合、知っている人間に案内してもらうしかない。


「はい」

「そこで二人の遺体を発見し、報告を受けた兵長は西棟の責任者の元へと向かう」


 たまたまわたしがやって来て遭遇したので、まっすぐキース中将のところへ行きかけたが、この詰め所の兵士が殺害されたことが判明した場合、まずは西棟の夜間警備責任者のところへ連絡を入れる。


「はい」

「棟の責任者はさらにその上、総責任者に連絡を入れ、そこからキース閣下の親衛隊に連絡が届き、総責任者がキース閣下の元へと赴く……狙いが棟の警備責任者、もしくは総責任者であるという可能性が皆無だとは言わないが、その可能性は低いはずだ」


 電話や無線もあるが、この時代、報告は歩行(かち)で出向き口頭がもっとも確実 ―― だから居場所を突き止められてしまう。


「もしかしたらキース閣下が目的ではなく、夜間警備の総責任者コールハース少佐という線もあるが……ちなみに今日の西棟の責任者は誰なんだ、兵長」


 十中八九狙いはキース中将だと思う。コールハース少佐はあんまりよく知らないからなんとも言えないが、可能性はあるかも知れない。


「西棟の本日の担当はブルクハルト・ハインミュラー中尉です」


 ストロベリーミュラーか! 女に恨み買ってそうだが、これほどの凶行の標的になれるほどの男でもないから除外だな! あいつなら射撃の腕はそれなりにあるし、いままでされた個人的なことから、凶行に巻き込んでも心は痛まんので、さっさと巻き込みにいこう!


 詰め所を遺体になった二人に守ってもらい、わたしたちは西棟の警備責任者がいる部屋に突進し ―― ざっと事情と、わたしの推察を語った。


「え……お……」


 何故か絶句しているハインミュラー。絶句している場合じゃないぞ!


策士(・・)たるハインミュラーの意見を聞きたい」


 トイレに愛人潜ませる程度の策士だけどな。


「さく……た、大尉に過大評価されているようですが、小官は」


 嫌味でいったのだが、通じなかったようだ。

 お前、本当に大丈夫か?


「ハインミュラー、時間がない。どうする?」


 ストリベリーブロンド七三分けの目が泳ぎ ―― マルムグレーン(オルフハード)大佐(少佐)と視線があって、首をすくめた。

 怖いのか!? 憲兵大佐が怖いのか! まー普通は怖いよな。大佐ってだけで怖いのに、憲兵が付くんだから。


「全権はそちらに」


 責任丸投げされた! いや、縦社会ですので上の階級に従うのは当然ですが、それでも責任投げつけられた。


「成人男性二名の首を同時に折れるような相手と、素手で戦えと言われても従えるか?」

「……」


 そこは大きな声で「はい!」って言えよ!

 お前、職業軍人だろ! 徴集された素人兵士じゃないだろ!

 まったく! ストロベリーミュラーめ! 甘いのは髪色(ピンク)だけにしておけ!


マルムグレーン(オルフハード)大佐(少佐)。いかがなさいますか?」

「わたしの指示に従って貰う」


 わたしたちは大佐の指示に従うしかないのですがね。


「分かりました。……あの、小官が狙われているということは……」


 三白眼ストリベリーブロンド七三が不安げにわたしに聞いてくるが、まったく同情する気持ちになれない。

 下剤盛れない相手には、強く出られないのかねー。


「ないだろう。お前はそんなに恨みを買えるような男じゃない。更に言えば、わざわざ司令本部に潜入して狙う理由もない。お前、そんなに恨み買った覚えないだろう」


 物言いたげに三白眼をこちらに向けてくるが、わたしじゃないよ。

 わたしがお前を恨んでいたとしても人には頼まない。さくっと眉間を撃ち抜いて終わるよ。そんなことするつもりはないけどさー。


「やはりキース中将狙いなのでしょうか?」

「司令部に潜入しているからな」


 この司令本部に潜入ってあたりが、キース中将狙いと思わせるんだよなあ。

 キース中将以外は帰宅するから、外の方が狙いやすい。


「でもキース中将を殺害するメリットってなんですかね」


 ハインミュラーの部下の一人が、報告に向かう準備をしながら、そんなことを呟いた。

 メリット……たしかに利点というものは、思い浮かばないなあ。


「総司令官殺害だから、戦争を控えている共産連邦にとって殺したい相手なんだろう」

「でもあいつら、司令官暗殺しなくても勝てると思ってるよな」

「あいつら頭使わないで、質より量でくるからな」


 ハインミュラーの部下が言う通り、キース中将を殺害する理由はなんだ?

 痴情絡みはないよ。キース中将は異常なモテ方するけれど、女から一切恨まれないから。あれだけモテて、女に恨まれないというのも異常と言えば異常だけどさ。

 ……ふと思い立ち、ハインミュラーの耳元で囁いてみる。


「おい。まさかゾンネフェルト少佐ってことはないだろうな。キース閣下の出世を妬んでとか」

「ま、まさか! あの人だって、そんな度胸はない! それに俺、あの人の側から離れたんだから、もう無関係だ」


 いっそこの事件の首謀者がゾンネフェルトだったら、眉間を撃ち抜きたい衝動には駆られつつも、屑なりにやり切ったな! と思うが、元取り巻き(ハインミュラー)同様そんな度胸もないのか。……あっても困るけどさ。


「ハインミュラー」

「なんでしょうか、大尉」


 耳元で囁くのではなく、今度ははっきりと尋ねる。


「キース中将になにかあった場合、指揮権は誰が預かることになる?」


 参謀本部に所属している三白眼は目を見開き……白目多すぎじゃないかな、ハインミュラー。


「それは……ヒースコート准将では?」


 前線指揮官として評価の高いヒースコート准将……しかいないよな。室長は有能だけど前線指揮官って感じしないし、オットーフィレン准将は立場微妙だしさ。マルムグレーン(オルフハード)大佐(少佐)に視線を向けると、やはり無言で頷く。


「リリエンタール伯爵に指揮を執ってもらえれば楽ですが」


 楽ってお前(ピンク)……。気持ちは分かるが、政治のみならず軍事まで閣下に丸投げするなよ。あんまり丸投げすると、国がガタガタになるぞ! それこそ、アブスブルゴルみたいに。


「十五歳の初陣から負け知らずで、五大陸でその勇名を馳せた指揮官ですものね」


 ハインミュラーの部下が追従する。

 たしかに閣下は十代半ばから二十代後半まで、軍人としての名声の方が高かったから言いたいことは分か……閣下が指揮官になったら、一番困るのはきっと共産連邦だよな。

 説明会でも『……それらはもう抑えたので心配はない。イーナたちだが、最終的な目的は、わたしを引きずり出し共産連邦を討たせることだ』閣下はそう仰った。その後、高官たちが大笑いしていたのを覚えている。

 待てよ。この事件の犯人、さっきマルムグレーン(オルフハード)大佐(少佐)が言っていた、元聖職者オディロンだとしたら?

 そいつにキース中将が傷つけられ指揮を執れなくなったら、閣下が責任を持って替わって下さるかも。

 閣下に共産連邦を討って欲しいツェツィーリア・マチュヒナにとって、この好機を逃がす筈がない ―― もしかしたら、ツェツィーリア本人が作り上げた好機という可能性もある。


「ではコールハース少佐へ報告に」

「待て」


 ハインミュラーとお供の三名を呼び止める。

 待つんだ。考えが纏まりそうなんだ。


「クローヴィス大尉?」

「少し待て……大佐、少しお話が」

「分かった、スタルッカ以外の者は廊下で待機しろ」


 ツェツィーリア・マチュヒナが関わっているのだとしたら、この襲撃が”こんな感じ”で進む意味が分かる。


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