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【124】隊長、副官の使命を語る

 そうそう執事さん(シャルル)は、国家間で「即位を無理強いはしない」という取り決めみたいなものがあるんだって。

 その理由なのだが ―― カール(シャルル)殿下(カールはシャルルのアブスブルゴル読み)が幼い頃、革命で倒れたパレ王朝が復古、大叔父が即位したのだそうだ。

 この辺りは教科書で知っているが、詳しいことになると知らない ―― で、詳しいことなのだが大叔父は高齢で、先の革命の際に妻子を亡くしており跡を継げそうな子供は、亡きお父上の見事な判断でグロリア女王の婚約者になり、婚約破棄後修道院送りという名目で教皇に匿われたカール(シャルル)殿下しかいなかった。

 母方の復古パレ王国としても、父方のアブスブルゴル帝国としても、カール(シャルル)殿下が王位に就けば領土的に……と考え、甘言でカール(シャルル)殿下を教会から連れ出すことに成功。

 この時カール(シャルル)殿下は十歳。

 甘言に乗せられてもおかしくない年頃。

 それとこの頃、閣下がルース帝国皇太子に定められると共にアディフィン王国の幼年学校へと進学 ―― カール(シャルル)殿下、教会がつまらなく、国王になればルース皇帝になる閣下と協力して良い王さまやれそうだとか、可愛らしいことを思ったらしいんだ。それも十歳だから許されるよねえ。

 ……で三年後、また市民革命(ギロチン)となり、復古パレ王国の王太子だったカール(シャルル)殿下は牢獄へぶち込まれることに。

 もちろん処刑台(ギロチン)行きはほぼ確定。

 十三歳のカール(シャルル)殿下は神に祈るしかできなかった。

 そして祈りは神に届いた ―― 幼年学校を卒業したばかりの十五歳の閣下が、ルース帝国軍を引き連れ、市民革命で荒れているノーセロートを急襲。

 見事カール(シャルル)殿下を助け出し、そのまま新大陸へと向かいノーセロートの植民地に攻撃を仕掛け奪い取りを繰り返し、ノーセロート新政府側が「もうシャルル(カール)殿下には手出ししません。だから植民地攻撃するの止めて下さい。返してください」と国際会議の場で泣きついて、無事執事(シャルル)さんの身の安全が確保できたのだそうだ。

 まさか閣下の初の武勲が、執事(シャルル)さんを助けるためだったとは知りませんでした。

 ノーセロートからルースが植民地奪うために、タイミングを見計らって攻撃を仕掛けたものだとばかり……歴史の裏には物語があるんですねー。

 そして十三歳を助け出した十五歳って、中学三年生男子が初陣で、中学一年生男子を難攻不落の要塞から見事救出、そのまま進撃し海を渡って領土を奪い取ること七割……閣下凄いです。

 とにもかくにも執事(シャルル)さんは、この時のことがトラウマらしく、即位は「どの国であろうが」絶対にしないとのこと。

 気持ちは分かる、いや、そんな場面にならないから分かったつもりなのかも知れないが、でも分かると言える。それは当然だろう。

 ……だが子供ができちゃったら別なので、帝室の皇女が送り込まれてくるのだそうです。

 同じ立場の閣下は? と、聞くに聞けず。

 行儀は悪いがスープを掬ったスプーンを持ったまま閣下のお顔を見つめてしまったところ、室長が「リヒャルトに仕掛けられるほど、レオポルトに度胸はないよ。安心して、一度も女を送りこまれたことはないよ」そう仰いました。

 もしかしたら、わたしの不安を取り除くために、嘘をついて下さったのかも知れませんが、ここは信頼すべきところなので、閣下はそういうことになっていないと信じております。


「ヨーゼフの才覚に期待するしかないか」

「そうだな」


 故に不確定要素なんですよね。でも頑張ってください、ヨーゼフ皇子。見たこともありませんし、どんな人かも知りませんし、きっとお会いすることもないでしょうが、遠い北の国から応援しております。

 さて、次は確定事項を ―― それもスタルッカ(ウィルバシー)絡みの。


「これは確定しているのだそうですが、ノーセロートと新生ルースの戦闘が始まってすぐに、フォルズベーグの聖職者が助けを求め、我が国国境付近へとやってくるそうです。聖職者たちは例外的に国境を通し、首都で保護するように……とのことです」

「聖職者の保護は当然のことだが、主席宰相(リリエンタール)閣下が仰るからには、一筋縄ではないのだな?」


 キース中将の表情が、好戦的というかなんというか。

 はい、一筋縄ではいかないと言うより、なんかもうアレクセイ哀れだなとしか。


「実はフォルズベーグの聖職者たちは、既に全員国外に脱出が完了しているのだそうです」

「やはりそうか」


 キース中将推察してたー!

 凄いわー。わたしなんか聞いた時「ふあ?」となったのに。さすが総司令官閣下は違う。……そりゃまあ、総司令官閣下がわたしと同レベルだったら、ヤバイというか辞めていただきたいが。

 なんでも閣下が去年末にウィレムの戴冠式に向かわれた真の理由は、万が一フォルズベーグが侵略された場合を考え、聖職者たちを救出するための下準備だったのだそうだ。


「下準備について詳しい説明はありませんでしたが、フォルズベーグの聖職者は全員無事に脱出しているそうです」

「聖職者のことは、聖職者である主席宰相(リリエンタール)閣下にお任せするとして、ではこれから逃げてくる聖職者は偽者ということか?」

「偽者として扱ってよいそうです」

「人々を救うため……といいアディフィンあたりから、徒歩で乗り込んだ聖職者ということは?」

「自らの意思で危険区域に向かった聖職者ならば、ノーセロート軍が攻めてきたくらいでは退かない。もしも退いたら”軽率な行動を取った”として罰するとのことです。ヴェルナー大佐」


 ……ということなのだそうです。

 もちろん苦しんでいる民を助けるために、修道士が勝手に出向くのは止めないとのこと。


「分かった。それで、その偽聖職者を保護してどうするのだ?」

「小官の副官であるスタルッカ(ウィルバシー)軍曹が寝泊まりしている教会に案内せよとのご命令です。その偽聖職者はスタルッカ(ウィルバシー)軍曹に接触し、仲間に引き入れようとするであろう……とのことです。それを捕らえるのがスタルッカ(ウィルバシー)軍曹、お前の仕事だ」


 ドアが開いた入り口に立ち辺りを警戒していたスタルッカ(ウィルバシー)は驚いた顔をしていた。

 そりゃそうだろうなー。こっちの二人(中将と大佐)ほど、中枢でばりばり仕事してたわけじゃないもんな。

 まあ、こちらのお二人も「んあ゛?」みたいな感じになってるけれど。


「リリエンタール閣下から……エクロース元海軍長官をあの時期、あの場でエミール・ヤグディンに殺害させた理由は、後々共産連邦の傀儡政権が放つであろう、偽聖職者スパイとスタルッカ(ウィルバシー)軍曹を接触させるためである。とのことです」


 話を聞いたとき、わたしは意味が分かりませんでしたね!

 閣下のご説明だが ―― 結果から遡ってゆく形なのだが、まず偽聖職者スパイが我が国へとやってくるのは、内部情報を求めるため。

 その偽聖職者スパイがスタルッカ(ウィルバシー)に接触する理由は、ごく当たり前に「内部情報を聞き出すため」なのだそうだ。

 これは理解できます。

 情報を聞き出すためには接触しなくてはならないのだが、スタルッカ(ウィルバシー)現在(・・)立場は悪いが元は貴族で将官だったこともあり、敵と接触してはいけないと、総司令官の目の届く範囲に置かれている。

 結構な監視の目がついているということだ。

 それらの目をかいくぐるには、聖職者だと偽るのがもっとも簡単。

 そこで偽聖職者とスタルッカ(ウィルバシー)が接触できるよう、教会に居を置くよう仕組んだ。


「それがエクロース元海軍長官の軽率による、国家の危機でした」


 自国民の身柄引き渡しを要求し共産連邦特務大使がやってきたその時、亡命を希望し脱走し、各国大使がいる場で特務大使が身柄を引き取りにきた者に殺害されることにより、国として貴族殺害の現行犯として逮捕国は身柄の引き渡しを拒否する。

 これにより「身柄を引き渡す、引き渡さない」で揉めるという事件を起こす。

 国を危機にさらしたという憎悪がスタルッカ(ウィルバシー)に向き、軍の寮で生活が不可能になる。


「確かに主席宰相(リリエンタール)閣下の力量を持ってすれば、その程度の憎悪はコントロールできただろう。わざとそれを使って、スタルッカ(ウィルバシー)を教会へと送り込んだのか」

「そのようです閣下(キース)


 半年近く前に、閣下によって下準備が整えられていたというわけです。


「あの閣下さまは、憎悪を煽るのが上手いからな」

「負の感情を向けられるのに慣れ、それを使いこなしている人だからなあ」


 閣下御本人も仰ってました。脇で聞いていた室長は「愛情のコントロールはまったくできていないよねー」と笑ってらっしゃいました……。


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