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【119】隊長、白いドレスを提案する

 仕事で精一杯なわたしをフォローしてくださる閣下。

 ただし、仕事の量といい質といい、閣下のほうが遙かに大量にこなされている。

 ……慣れないことばかりしているとはいえ、自分の無能感が半端ないです。


「教会の他に決めなくてはならないのは、大尉の婚礼衣装だ」

「あ……そうですね」


 忘れてたー! 共産連邦とアレクセイとエジテージュ二世が悪いんだ! ……責任転嫁していることは理解している。

 これはもう、無能というより、女子力の欠如と言うべきだろう!

 結婚式は楽しみなんですが、仕事が……言い訳ですよねー自分が着る婚礼衣装のことくらい、しっかりと考えないと。

 前世と違ってレンタルなんて便利なシステムはないんだから……あったとしても、わたしのこの身長と体格では。


「基本、婚礼衣装は花嫁の母親と、その女性親族が作ると聞いた」


 産業革命以前は結婚式用の洋服を仕立てるのは、王侯貴族だけの特権でしたが、最近は中産階級くらいでも、結婚の際に特別に洋服を仕立てるようになっております。

 我が家は絵に描いたような標準中産階級なので、裁縫が得意な継母(かあさん)が婚礼衣装を仕立ててくれる……予定でした。

 継母(かあさん)が服を作ってくれる都度「婚礼衣装は任せてね」と ―― 予定は未定になるんじゃないかな、カリナのほうが早いんじゃない? などと思っていましたが、目出度く閣下と結婚する運びに。

 が、手作り婚礼衣装でいいのでしょうか?

 いや、わたしは継母(かあさん)が作ってくれる婚礼衣装を着たいと思いますが、庶民の婚礼衣装はその階級(・・・・)に見合った(・・・・・)贅をこらした民族衣装。


「そうですね。手作りの民族衣装が主流ですね」


 王侯貴族は職人の手による民族衣装、贅をこらした高級バージョン……が基本。わたしに王侯貴族級の民族衣装は似合わないと思うのですが、閣下との兼ね合いというものも。

 閣下に庶民手作り民族衣装……って! あああああ! 閣下、どの民族衣装を着用なさるおつもりでー!

 とてもお似合いだった閣下のチョハ姿ですが、あれ国内で着たら、我が国の血気盛んな総司令官の血圧、医者が焦るレベルで上昇しそう。


「大尉は以前バイエラントで、気軽に着てくれたな」

「は、はい。あの、自分に似合いそうだったので」


 我が国の民族衣装より、閣下が用意して下さった民族衣装のほうが、わたしには似合いそうだったといいますか、きっと似合う。

 我が国の民族衣装、可愛い系だから。

 青い生地に赤や黄色、鮮やかな緑色などでカラフルな小花が刺繍された膝丈ジャンパースカートに、ボリュームのある袖が特徴の白いブラウス、そして白いハイソックスという、本当に可愛らしい民族衣装なのだが、稀に似合わん女もいるもんなんだよ……誰と(イヴ・)は言わないけれど(クローヴィス)


「わたしはロスカネフの男の民族衣装を着ても良いのだが、ガイドリクスに”征服完了に見えるから止めてほしい”と言われてな」

「……」


 陛下……それは。でも、お気持ちは分かるような、キース中将の血管が切れないようにするために必要というか……。

 仰った閣下は、くつくつと笑われている。


「本当に面倒な男で済まぬな」


 閣下が面倒なのではなく、閣下の血筋が色々と。でもそれって、どうすることもできないものだよねえ。


「お気になさらずに」


 話は戻るが、婚礼衣装どうしようかなあ。

 わたしはルースの脅威を肌で感じたことはないし、少しものを考えられるようになった頃には、閣下が我が国にいらっしゃって、国を治めてくださっていたから、悪い感情はないのだが…………。


「閣下」

「着たい服が決まったのか? 大尉」

「いいえ。ただ……あまり気になさらずとも結構です」

「なにを気にせずとも良いと?」

「衣装です。閣下が我が国の民族衣装を着られても、わたしが閣下の血統を表す民族衣装を着てもいいと思います。気にする人は結婚式に招かねばよろしいのです。わたしは閣下と二人きりで式を挙げるのも良いと思っております。ああ、立会人が必要ですね……それはうちのデニスにでも頼みます。デニスは閣下のことを尊敬申し上げておりますので、喜んで立ち会うことでしょう」


 みんなに祝福してもらいたいなーと思うが、それより閣下のご負担を減らしたい。

 閣下が色々なことをしたのなら分かるが、閣下ご自身がしたことではない事柄で面倒や厄介事が押し寄せてきているから、それを少しでも軽くできるのなら。

 前世では二人きりの挙式とかも、普通にあったしさあ。


「……」


 あれ? なんか閣下固まってない?

 王侯貴族的には駄目なことを進言してしまいましたか! あの……その……


「あ、駄目でしたか? あの、あまりにも庶民過ぎましたか」


 やっぱり大勢を呼んで式をせねばならぬのでしょうか?


「いいや」

「はい?」

「思いつきもしなかった。……確かにそれもいいな」

「あまり深く悩まれないで下さい。ま、まあ、わたしは悩まなすぎなのかも知れませんが」


 悩まないどころか、結婚式の準備そのものが頭から抜けていたくらいの……。いや、これは全て戦争が! 戦争が悪いんだ!


「そうでもなかろう」

「なにが……でしょうか?」

「説明会の席で、結婚していいものかどうか、悩んでいたであろう? 話の流れとしては、モルゲンロートに戦費を賄わせる辺りだったな」


 ぐっ! ……バレてる。いや、バレてて当然なんだけど、やっぱりバレてたんですね。


「表情から勝手に内心を読んだことは謝る。だが大尉のそういった悩みに気付かないのは、後々大問題になる恐れがあるので、探らせて貰った」

「探る……ですか?」

「ああ。モルゲンロートが男爵などという台詞は、あの場面で入れる必要はなかった。円卓にいた者は全員知っておるからな」


 ……ですよねー。世界経済関係の重要事項ですもんね。上層部なら押さえていて当然ですわー。

 閣下の穏やかな笑みをたたえた表情が……以前は表情変わらない人だなーと思っていましたし、今でもそう変わらないのですが、でもよく微笑を見かけるような……あれ? 矛盾してるぞ?


「大尉を貴族にするのは簡単だ。貴族の養女とするだけで良い。フランシス、レイモンド、フィゴ、オットーフィレンそしてガイドリクスが名乗りを上げた」


 わたしの知らないところで、養女にして嫁に出すという、貴族的なお話があったんですね!

 ……そりゃ、あるよなー。


「だが大尉は、イヴ・クローヴィスのままでいたいであろう?」

「それは……はい」


 閣下のことは好きだけど、貴族の養女になってまで結婚したいかと問われると……いや、多分「そうしなくてはならない」と言われたら、養女にはなると思いますが、しこりは残るなあ。

 前世の記憶がなければ「そういうものですね」と、すんなり何も考えず受け入れたかもしれないが、平民が貴族の養子にならず、そのまま王族と結婚していた時代の記憶がある分、抵抗が大きいなあ。

 時代が違うというのは分かるんだけど。


「わたしもイヴ・クローヴィスを妃に迎えたい。だから身分を気にする必要はない。身分に関係する面倒はわたしが全て引き受ける」

「ですが」


 かといって閣下にご迷惑をおかけするのも。

 でもさー、わたしが貴族の養女になったところで、迷惑が軽減するかどうか? とも思うよ。

 どこまで遡っても、由緒正しすぎる庶民だからね。

 結婚のために貴族の名前を借りてます感がありありで、なんか余計に目立ちそう。


「その程度のこともできずに、妃になって欲しいなどとは言わぬよ。大尉はいままでと変わらずに過ごしてくれ」

「閣下……」

「二人きりでも式を挙げることを優先してくれた、大尉の気持ちは本当に嬉しい。だが、わたしと一緒になることで、諦めることはしてほしくない。わたしに迷惑をかけているなどと思わないでくれ。愛する相手が幸せになれるよう、あれこれするのがこんなに楽しいとは。イヴに出会わなければ、一生知らなかったであろう。ありがとう、イヴ」


 ランプの暖色系の明かりに照らし出されている閣下の表情は、やはりあまり変わらないのだが、とても幸せそうに見える……幸せでいいんですよね。

 閣下が幸せでわたしも幸せです!

 でも、閣下に幸せにしてもらってばかりではいけない!

 なにか対応策を考えないと。

 まずは婚礼衣装問題だが……ん? あれ? たしかゲームのヒロインは攻略対象との結婚シーンで白いドレス、いわゆる普通のウェディングドレスを着用していたはず。

 それは当然のことだよね。

 だってウェディングドレスといえば白くてふわふわしているのが、前世では常識だから。スレンダーなウェディングドレスもあるが、乙女ゲームのヒロインは大体ふわふわが似合う顔だちだ。

 なにより乙女ゲームのエンディングに、馴染みのない民族衣装ぶっ込まれても困るよな。

 お前、今の今まで、婚礼衣装がスタンダードな白のドレスじゃないことに、違和感なかったのか? ……と聞かれると「なかった」と答えるよ。

 この辺りはこの世界で生きてきた記憶だな。

 前世の記憶と今世の常識が入り交じっているからだと思われる。


「閣下。結婚式は新しい白いドレスでもいいものでしょうか?」


 ……で、折角前世の記憶があるのだから、使おうじゃないか!

 民族的な問題があるのなら、まったく民族色のないドレスにしてしまえばいいんだ!


「白いドレス?」

「はい。民族色があるから面倒くさい……じゃなくて、ややこしいことになるのでしたら、そういったものがない、結婚式のためだけのドレスというものを作ってしまえば良いかと。あの……白いドレスですと、宗教的になにか問題などありますでしょうか?」

「髪と肌をしっかりと隠していれば、着衣の色は問題はない。結婚式専用新デザインドレスか。色を白にした理由を教えてくれるかな?」


 閣下、そこに引っかかってしまったのですか!

 大した理由はないのです。ただ前世の記憶で「ウェディングドレス=白」が一般的だったので。

 でも「なんとなく白」は ―― 現時点で白い婚礼衣装なんて一般的じゃないもんな。カラフル勢が主流ですもんね。

 落ち着け、落ち着いて考えるんだイヴ。なにか良い考えがきっと……そうだ!



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