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【111】隊長、最後から二番目の可能性を聞く

「それか。リヴィンスキーに対し、個人的に(きん)をくれてやるといっておびき出すつもりだ」


 円卓についている方々の軽い意見が出尽くしたところで、閣下は何事もなかったかのように語られた。

 (きん)……ですか?


「ガイドリクス。そのインゴット、貸してくれるかな? それを使って呼び出す」


 実際は存在しない純金のインゴットを使用するらしい。


「貸すのは構わぬが、これ一つだけだぞ」

「ルース帝国の金塊の一部を、わたしが所有していると知らせるためだ。他はただの塊でよかろう」

「書記長に金塊が何kgあるといって呼び出すつもりだ?」

「1tをくれてやると言って呼び出す。まあ、実際にくれてやるがな」


 1t……1tって1000kgですよねー。1000kgって当たり前だけど1000kgですよね……あ、キース中将が頭を抱えた。そろそろ御髪を直しましょう、キース中将。


「返却に何百年かかるんだよ!」


 五年、十年の単位じゃなくて返済期間が三桁になった。

 国家の借金がヤバイ! 国の存続理由が閣下への借金返済になりかねない。

 借金返済国家? 下手なことをすると、グリュンヴァルター公王国みたいに「借金返済しきれないので、国をどうぞ」になってしまうのか! いや、待って、我が国は閣下と直接血はつながっていないから……あれ? 下手して国が破綻したら、共産連邦に飲み込まれるんじゃない?


「金塊の1tや2t、返さずとも良い」


 そして閣下の総資産に恐怖しか感じません!


「そういう訳にはいきません」

「本当に要らぬのだ。わたしはマトヴィエンコが持ち出した10tの金塊を手に入れる予定があるのでな」


 マトヴィエンコが持ち出した金塊の量って10tなのか。

 我が国が保有している金の総量より、きっと多いね。我が国が保有している金の総量知らないけど。

 でも、盗まれた金塊ってどこに?


「え……」

「ガイドリクスが所持している、存在しない純金のインゴット。その純金の出所はマトヴィエンコが持ち出しを指示したルース帝国の金塊だ。やつらが持ち出した金はおおよそ10t。それを貰う」


 純金がどこかから湧いて出て来るわけじゃないから、純金のインゴットが存在するってことは、どこかに純金があるってことだもんね!

 もちろん精錬して純金にした可能性もありますが手間はかかるし、なにより金を持っていないと精錬は始まらない。


「ロスカネフ国内に、失われた金塊があると?」

「インタバーグ周辺に隠されている。おそらくフロゲッセル領であろうがな。おおよそ10tの金塊の二十年保管料として1030kgの金塊はくれてやる」


 一割貰えるとか、拾得物的なアレですか?

 豪快すぎて、なんと言っていいのか分かりません。


「フロゲッセルというと、先ほどクローヴィス大尉が語った金色(こんじき)の草原がヒント……ということですかな?」

「だがそれは、女間諜(偽セシリア)が語ったもので」

「そもそもその噂の出所は、イーナを名乗るエリーゼという女だぞ」


 イーナは存在しない人間で、エリーゼはイーナと名乗り、ツェツィーリアもイーナで、セシリアは本物じゃない。この状況で金色(こんじき)の草原の件は一体?


「10tの金塊の場所に関しては、気にする必要はない。それを見つけて回収するのはわたしだからな。お前たちは共産連邦との戦いに集中するがよい」


 取らぬ狸の皮算用ですらないもんねー。我が国は一グラムたりとも、所有権がないのですから。


「まあ、確かにそうですが。それにしても1tを書記長にくれてやるとは、太っ腹ですなあ」


 ヒースコート准将が顎に手を当てて、嬉しそうに語る。なんで嬉しそうなのかは知りませんが、太っ腹なのには同意いたします。


「別に」

「本当によろしいのですか? その1tの金塊は先祖伝来の財宝の一部なのではございませんか? 我が国の王室は主席宰相(リリエンタール)閣下と所縁(ゆかり)はございません。そのような国に財宝を使用するのは」


 キース中将が尋ねるのも当然だろう。

 我が国の王室は閣下とは途切れてしまった親戚関係。

 閣下は大国の血ばかり引いており、我が国は滅多に外国の王室と婚姻を結ぶことはない。近年ではルース帝国と結婚したものの、その血を引いている方々はアレクセイ以外亡くなっているし、なにより閣下と我が国の王室に直接的な血縁関係はない。

 そんな国にわざわざ1tの金塊を……。


「キース、この1tはモルゲンロート財閥が、わたしの異母(前妻)兄を買った際の代金なのだ」


 唐突に出てきた世界的大財閥の名前! えっと……お兄さんを買った……ですか? そうだデニスが言ってた。大陸縦断貿易鉄道計画にモルゲンロートが出資していたって。

 国をまたぐ大規模事業だから、各国で事業を繰り広げている、モルゲンロート財閥と取引があって……当然かもしれない。

 その流れで知り合いなんだろうなあ。いや、知り合いだからその流れになった?

 …………深く考えないでおこう。結納というか、支度金というか……上手く言えないがそれ(・・)が金塊1tとは。

 そう言えば我が国でも攻略対象アルバンタインは貴族の子息だが、我が国限定ながら大商家アールグレーンの娘と婚約関係にあったなあ。

 あの処刑の時しか出てこない、影の薄いアルバンタインの婚約者元気だろうか?

 それはともかく国内限定大商家アールグレーン家よりも遙かに資本を持ち、世界のあちらこちらで商売を行っているモルゲンロートなら、王族と縁づいていてもおかしくはないんだろう。


「そう言えば主席宰相(リリエンタール)閣下は、モルゲンロート財閥と親戚関係にありましたな」

「まあな」

「金1tですか」

「パレ王国国王の玄孫にして、ブリタニアス君主国王の曾孫、神聖帝国皇帝の孫にして、アブスブルゴル帝国帝王の孫でもある皇子は、あの商人ども(モルゲンロート)にとって、金塊1t程度(・・)の価値はあるらしい」


 閣下の口元の左端が少しだけ上がった。

 なんというか、馬鹿にしているというか……不本意というか、表現しきれない、含みのある表情だ。


主席宰相(リリエンタール)閣下。もしかして戦費もモルゲンロートですか?」

「そうだ。話はついている」


 円卓についている皆さんのみならず、わたしを含むお付きの兵士、さらには部屋の隅に立っているスタルッカ(ウィルバシー)やオルソン、ヤグディンも「ほう」と息を飲んだ。

 世界的な大財閥モルゲンロートとくれば……でも借りるの怖いなあ。

 相手は世界経済界の大物。金を返せなかったらどうなることか。


「返済計画を教えていただきたいのですが」


 戦争する前から返済計画を……確かに必要ではありますが、辛いですねえキース中将。


「返済? ああ、返す必要はない」

「経済に疎い一軍人であるわたしでも、無料より高いものはないことくらい知っておりますが」

「金を借りるわけではない。あれたちは、投資をするのだ」

「何に対しての投資ですか?」

「大陸縦断貿易鉄道計画だ。リヴィンスキーを呼び出し、あの事業再開を合意させる。その鉄道計画を再開した際に事業に携わることができるのは、ロスカネフ王国を援助したものに限るだけのこと。アドルフとしては、この事業に投資し大陸縦断貿易鉄道計画を成功させて、モルゲンロートの総帥の座を射止めたい」


 モルゲンロートのアドルフで総帥の座…………偶に我が国に来る、モルゲンロート財閥総帥の息子の一人ですね。我が国にモルゲンロートホテルを作ったのも、この人です。政治経済に疎いわたしでも知っているクラスの大物。


「モルゲンロート家の権力争いですか」

「まあな。もっとも、煽ったのはわたしだがな」

「どう煽ったのかはお聞きいたしませんが、アドルフ・モルゲンロートが全面的に協力する……でよろしいのですかな? 主席宰相(リリエンタール)閣下」

「そうだ。戦争後の交渉が重要ゆえ、交渉の席を得る為に必要となる戦いに関する費用をアドルフが惜しむことはない」


 大陸縦断貿易鉄道計画に携わるための必要経費というわけですね。貿易鉄道計画にどれほどの額が動くかは知りませんが、我が国の戦費を全額賄っても、採算取れるんでしょうねえ……。


「いくらアドルフが惜しまずとも、母親であるモルゲンロート総帥が許可をださねば無理なのでは?」

「わたしの名声が上がる計画として総帥には話しておる。総帥は資金提供を惜しみはしない。昨今の王家の権威凋落を、縁戚関係になったモルゲンロートは嘆いておってな。その中で唯一の希望がわたしなのだそうだ。”皇帝陛下”(リリエンタール)が勝利することで、モルゲンロートの価値が上がる。これができるのは、わたしだけだ。どれほど金を稼ごうとも、男爵以上の身分になることのできぬモルゲンロート共は、わたしに頭を下げ金を積み頼むしかないのだ」


 金塊1tで閣下のお兄さんを手に入れた世界的大財閥モルゲンロートでも、男爵止まりなのか。身分社会の壁の分厚さをひしひしと感じる。……わたし、閣下と結婚していいのかなあ。


「朕に動いてもらう(・・・)のだ。制限なしの資金提供など、当然のことだ。食糧や物資の提供も勿論だ。朕に皇帝として存在して欲しいのであらば、貴様等は臣として仕えよ、跪け、讃えよ、献上せよ、そして死ね。それが朕とモルゲンロートとの関係だ。この国の者は違うが」


 先生! ここに絶対君主がいますー! 閣下なんですが。


「さすが。最後の絶対君主の名は伊達ではありませんな」


 ビュルヘルス大佐がしみじみと呟き、静かな室内でそれは円卓についている方々の耳に届いた。

 閣下は頬杖をつかれ、


「さあ? どうかな」

「どういう意味ですか?」

「最後の絶対君主……か。悪くはない呼び名であり、それで良いとは思っていたが、わたしは最後から二番目の絶対君主になるであろうよ」


 もの凄く楽しそうにそう仰った ―― なんだろう? 円卓についている方々とヴェルナー大佐がキース中将に視線を向けてるんだけど。


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