第92話 リリアの誓い
これで第一章は終わりです。次回からは第二章になるか、閑話を挟みたいと思います。あとそのうちメインキャラクターのまとめを作ります。たぶん。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
その後の話。リリア達はアンジーと共にローワを連れてウォルの街へと戻って来ていた。ローワは街にある犯罪者収容施設へと入れられた。こうしてリリア達が巻き込まれた事件はひとまずの終息を迎えたのだ。シアのこと、これからのダミナの村のこと……解決していないことは多々あるものの、今のリリア達にできることはもう何もないのだから。
ただ村から去る直前、リリア達はシアの両親から涙交じりに一つの頼みごとをされた。
「娘の魂を解放して欲しい」と。その頼みをリリア達は引き受けた。それだけがシアを逃がしてしまったリリア達にできる唯一の贖罪だったから。
「そうですか……ダミナでそのようなことが……」
ウォルの街までやって来ていたアウラがダミナでの出来事を聞いて痛ましげな表情をする。
「すいません。そのようなことになっていると知っていればもっとちゃんとした対応をしたのですが」
「あなたは悪くないわ。しいて言うなら運が悪かったのよ、私達は。色んなことが一度に重なり過ぎた。でも悪かったことばかりじゃないわ。得た物をあるもの」
「ん? なんじゃ?」
その場にいた全員の視線を向けられてきょとんとした表情をするリオン。ダミナの村では様々なことがあったが、少なくとも当初の目的である聖剣を手に入れるという目的は果たすことができた。それは喜ぶべきことなのだ。
「まぁ、そうやって手に入れた剣がこんなので大丈夫なのかは不安ですけど」
「アタシのケリィよりも子供っぽいしね」
「なんじゃと! あまり妾をバカにするでないぞ!」
「バカになんかしてないわ」
「そうなのか?」
「見たままの事実を言っただけ」
「余計に悪いのじゃ!」
「リリアもエクレアもそんなことを言ってはいけませんよ。世の中には思っていても言ってはいけないことというものがあるんですから」
「そうじゃそうじゃ! ……って、ん? 今の言い方何かおかしくなかったかの」
「そんなことないですよ。それで、あなたのことを改めて聞かせてもらってもいいですか?」
「うん、しょうがないのう。妾は【カサルティリオ】。世界最強の剣なのじゃ」
『嘘は良くない』
「嘘じゃないのじゃ!」
『キミ程度が最強なわけがない。感じる力もそれほど大きくない』
「そ、それは今は七つの内五つの力を失っておるからで……全盛期であれば間違いなくなく最強なのじゃ!」
『所詮は過去の栄光。真の最強は……このボク』
エクレアの相棒であるケリィもなかなか自負の塊であった。自分よりも強い剣など存在しないと、両者ともに本気でそう思っているのだ。
その口喧嘩に口を挟んだのは意外なことにエクレアであった。
「ケリィ、その辺にしときな」
『でも……』
「剣の性能は剣だけで決まるものじゃない。使い手によって変化するもの。そうでしょ」
『……うん』
「ま、だからアタシと後輩君が剣を使って戦えばわかるんだけど……」
「なんじゃ、やるのか!」
「ちょ、リオン! 無理だって!」
好戦的にエクレアのことを睨むリオンのことを慌てて引き留めるハルト。今のハルトがエクレアに挑むなど、ネズミが虎に勝負を挑むようなものだ。とてもじゃないが勝てるわけがない。
「なんじゃ情けない! 妾の力を信じるのじゃ主様よ!」
「リオンの力は知ってるけど、ボクの力が追い付いてないんだってば!」
「ふふ、安心しなって後輩君。アタシもやる気はないからさ。面倒だし。君がもっと強くなってからならやってもいいかもだけどね。あ、でもぉ」
ちらりとエクレアがリリアの方に視線を向ける。
「君とならやってもいいかもね。そこそこ楽しめそう」
「私と……ですか?」
「どう? やってみる?」
「……お断りします。やる意味がないので」
「ちぇ、なんだつまんないのー。ま、いいけどさ。それじゃあアタシは先に宿の部屋に戻ってるねー」
『……リオン』
「なんじゃ。まだ言いたいことでもあるのか?」
『キミが何を考えてるかは知らないけど……裏切らないでね』
「……ふん、妾が主様を裏切るなどありえんのじゃ」
『だといいけど』
「ケリィ、話は終わった?」
『うん、大丈夫』
謎の言葉を残してエクレアとケリィは去っていった。
「リオン?」
「なんでもないのじゃ。それよりも妾達はこれからどうするのじゃ? すぐに《魔王》討伐の旅に出るのか?」
「いえ、そういうわけではありませんよ。一度王都に戻っていただきます」
「王都に?」
「はい。そこで新しい《勇者》お披露目のパレードが開かれる予定です」
「……なんでそんなことするんじゃ」
「それは私も同感ですけどね。エクレアなんかはすっぽかしましたし。でも、国内外に新しい《勇者》の存在を広めるためには必要なことなんですよ」
「面倒じゃのー。主様よ、妾達もすっぽかしてよいのではないか?」
「前回のエクレアの一件がありますから、逃がしてはくれないと思いますよ」
「うへー」
「パレード……ですか……」
「ハルト君も乗り気ではないですか?」
「人前に出るのは苦手で……パレードって多くのヒトに見られますよね?」
「そうですね。でもお祭りのようなものですし、そんなに気にすることはないですよ」
「ハハ、大変だなハルト。頑張れよ」
「何他人事のように言ってるんですかイル。あなたも出るんですよ」
「はぁ!? なんでだよ!」
「《勇者》と《聖女》は対の存在。私がエクレアのパートナーであるように、あなたはハルト君のパートナーなのですから。出るのは当たり前でしょう」
「ふざけんなよ! オレは絶対に出ねーぞ!」
「あまりわがままを言ってると……」
「なんだよ」
「エクレアにいいつけますよ」
「うぐ……ひ、卑怯だ」
「なんとでも言ってください。一日我慢するだけですから」
「……わかったよ。でも、これっきりだからな」
「はいはい。わかってますよ」
「そのパレードはいつやるの? 王都に戻ってすぐなのかしら」
「いえ、こちらも準備がありますから。そうですね……一週間ぐらいは後の話になるかと」
「そう。わかったわ」
「何か用でも?」
「いえ、せっかくだから両親を呼ぼうかと思って。せっかくのハル君の晴れ舞台なわけだし」
「え、ちょっと姉さんやめてよ!」
「ユナ達も呼ぶから安心してねハル君」
「そうじゃないってばー!」
「ふふ、それでは今日はお疲れでしょうから、明日王都に戻るとしましょう。準備はそれからですね」
そうしてリリア達の長かったダミナ村での生活は終わりを迎えたのだった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□
その日の夜のこと。ウォルの街から少し離れた人気の無い森の中にリリアの姿はあった。
「…………」
ガッ、と思い切り木を殴るリリア。魔力や姉力で強化してない生身の拳で殴ってしまったせいでリリアの手の皮膚は裂け、血が流れていた。しかしその痛みこそが今のリリアが求めていたものでもあった。
「私は……私は、ハル君を殺しかけた……」
滲むような声で呟くリリア。ダミナの村で起きた出来事。ハルトのことを殺しかけたというその事実がリリアの胸を苛んでいた。ハルトは気にしていないと言うだろう。そしていつまでもリリアがその事に縛られることも望まないはずだ。そんなことはリリアにもわかっている。しかしそういう問題ではないのだ。
姉としてハルトを守る。そう決めたのに、リリアはそれを守ることすらできずハルトのことを傷つけた。
「それもこれも……私が弱かったせいだ」
慢心していた。今の自分であれば、姉力があればハルトのことを守ることが出来ると。自分よりも強い存在など数多居るとわかっていたはずなのに、どこかでリリアは慢心していたのだ。
「姉力を使いこなす……今度こそ、間違わないために」
最後にリリアが発動したスキル【死姉】は今は使えなくなっていた。それでもあのスキルを使った時に感じた虚無感だけは体に刻み込まれている。
「あんな力にもう頼らなくてもよくなるくらいに、もっともっと強く!」
今度は姉力をその手に纏わせて、先ほどと同じ気を思い切り殴るリリア。
ズガン! という激しい音と共に今度は木がなぎ倒される。そして、その拳には傷一つついていない。
「見てて、姉さん。私は今度こそ絶対に……絶対に失わないから」
決意をその目に宿して、リリアはそう呟いた。
□■□■□■□■□■□■□■□■□
王の間にて、シアとローブの少女は同じように跪いて主が来るのを待っていた。ほどなくして、誰かが玉座に座る気配がするのをシアは感じた。
「面を上げよ」
「はっ」
シアは主に、《魔王》にそう言われて顔を上げる。その視線の先の玉座にはシアの想像通り《魔王》が座っていた。その両脇には護衛が立っている。
「ずいぶんと愛らしい姿になったではないか。それが今度の宿主か? 名はなんという」
「シアでございます」
「ほう、良い名だ。しかし手酷くやられたものだな。シア、それにミラよ」
「面目次第もございません」
「…………」
腕の奪われたシア。そして傷ついているローブの少女、ミラの姿を見て《魔王》が言う。
それに対して謝るしかないシアと、無表情な中にどこかムスッとした雰囲気を醸し出すミラ。
「それほどまでに《勇者》は強かったか?」
「……恥ずかしながら、我らが敗れたのは《勇者》にではありません」
「ほう。では《勇者》以外の者がお主らをやぶったと」
「……はい」
「その者の名は」
「リリア……リリア・オーネス。《勇者》の姉でございます」
シアがそう言った瞬間、一瞬だけピクリと反応する《魔王》。しかし次の瞬間には何事もなかったかのような表情に戻る。
「そうかそうか……《勇者》にも姉がおるのか。ふふふ、面白い。それで、《勇者》の方はどうだ?」
「未熟……今であれば容易く討ち取れるでしょう。しかし、成長すれば厄介な存在になるかと」
「そうか……それがわかればよい。今はな」
「討ち取らないのですか?」
「今はまだ……な。いや、それどころかもっと強くなってもらわねば困る」
《勇者》が、ハルトが成長すれば《魔王》の障害になるというのに放置するというその真意がわからず首を傾げるシア。
「ふふ、余には余の考えがあるということだ。おいメギドよ。今度《勇者》のパレードがあると言っていたな」
「はい。そのように報告を受けております」
《魔王》の隣に立つメギドと呼ばれた女性が答える。
「そうか……では次はそこにしよう。乗り越えて見せろ《勇者》ハルト。余に……このレイハに相応しい強さを身に着けるためにな」
そう言って《魔王》レイハはニヤリと笑うのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は6月11日21時を予定しています。




