第86話 孤立した村42 決着
誤字脱字がありましたら、教えてくれると嬉しいです。
リリアの放った『姉破槌』と少女の『魔障壁』がぶつかり合う。それは轟音と共に砂塵をまき散らす。ハルトやイルはその衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。
やがて巻き上がっていた砂塵が晴れる。そこに立っていたのは——リリアだった。
「はぁはぁはぁ……」
荒い息を吐きながらも、リリアは確かに二本足で立っていた。拳を振りぬいた姿勢で。そしてその先には、
「損傷……確認……」
リリアの『姉破槌』は少女の展開した『魔障壁』を間違いなく貫き、少女に直撃した。しかし、『魔障壁』によって威力は減衰してしまい少女を倒しきるには至らなかった。それでもダメージを与えることはできたようで、少女の動きは目に見えて鈍っていた。
フラフラとしながらも立ち上がった少女は、自身の体の状態を確認する。
「これ以上の戦闘は危険と判断。対象の警戒レベルを上昇。危険因子と認識。撤退行動に移行する」
これ以上の戦闘は危険だと判断した少女は逃げる準備を始める。倒れているシアに向けて手を向けると、シアの体がゆっくりと浮き上がり少女の元へと移動し始める。
「監視対象を回収。撤退する」
シアの体の状態を確認した少女は袖から一本のナイフを取り出す。それは先ほど使っていたナイフとは違う、漆黒のナイフだった。
そのナイフを少女は何もない空間に向けて振る。すると、その空間が裂ける。少女がその空間へと入ろうとする直前、シアが目を覚ます。
そしてシアはハルトとイルに目を向けて言う。
「今回はここまで……かな。今回はワタシの負け……でも次は負けない……絶対に、絶対に勝つ。次は殺す。だから……君達も強くなることだね。弱いヒトと戦っても楽しくないからさ」
それだけ言い残してシアと少女は裂けた空間へと入っていく。裂け目は二人を飲み込んだ直後すぐに消え、残ったのは静寂だけだ。
「逃げた?」
『少なくとも、近くに気配は感じないのぅ』
「そっか……終わった……生きてるんだ……ボク」
生き延びることができた、そう気づいた途端にハルトは全身の力が抜けるのを感じた。
「ハル君!」
「ハルト!」
崩れ落ちたハルトの元に駆け寄るリリアとイル。二人とも、特にリリアは傷だらけでいつもは輝いているブロンドの髪も今だけはくすんでいた。服もボロボロになっている。
一度死んで生き返ったハルトは傷こそ少ないものの、【カサルティリオ】の力を多く使ったことで魔力は枯渇寸前で、見た目以上に疲労していた。イルも同様である。ほとんど限界を超えて魔法を行使したため、絶えず頭痛と倦怠感に襲われ、いつ倒れてもおかしくない状況だった。
しかし、それでも生き残ったのだ。絶望的な戦いを紙一重の状況で乗り切った。こうして生き残ることができたのは様々な奇跡の上に成り立った結果なのだ。
「生きてるんだよね……ボク」
「えぇそうよ。ちゃんと生きてる……生きてるわ」
「オレも平気……ってわけじゃないけどみんな生きてる。お前が頑張ったおかげだ」
「そっか……よかった……」
考えなければならないことは多くある。【カサルティリオ】のこと、謎の少女の事、そして……シアのこと。まだ何も終わったわけではない。それでも今はただ生きているという事実を噛みしめるハルト。
リリアとイルの言葉で安心してしまったのか、緊張の糸が切れたハルトはそのまま意識を失ってしまうのだった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□
夜の森の中を、シアと少女は走っていた。リリア達のいた空間から逃げ出した二人だったが、実のところそれほど遠くに逃げたわけではなく洞窟の外に出ただけだった。少女の使ったナイフはそれほど便利なものではなく、近くへの移動しかできないものだったのだ。
「立てる?」
「うん、大丈夫」
気遣うようにシアのことを見る少女。無表情ではあったが。
「それよりも早くここから離れよう。いつあの三人が出てくるかわからないしね。まぁ、大丈夫だと思うけど」
「同意。この近くに仲間が来ている。そこまで移動する」
「りょーかい」
両者とも傷ついた体を引きずりながらシア達は洞窟から離れていく。
「それにしても、随分派手にやられたんだね。君ともあろうものがさ」
「……能力に制限がかかっていた」
「つまり負けたわけじゃないと」
「肯定。リリア・オーネスは危険因子と認定。次は最初から全力」
「ククク……」
「? 何か?」
「ううん、なんでも」
顔に出ていないだけで不満気な様子がありありと読み取れる少女を見てシアは思わず笑ってしまう。
「ま、次は負けないっていうのはワタシも同じだけどね」
勝てると思っていた。負けることなどあり得ないと思っていた。しかし、結果は誰一人として殺すことはできず、こうしておめおめと逃げ帰っている。シアも言葉にはしないがその胸中は煮えくり返るような怒りで満ちていた。
「もっと……強くなる」
次に出会う時までにハルト達はもっと強くなっているだろう。《勇者》というのはそういう存在だ。ロックゴーレムやシアと戦う中でハルトが成長していったように、これから先に待ち受ける様々な試練がハルトを強くしていくはずだ。
「《勇者》が強くなることを《魔王》様は望んでいる。だからこそワタシも……もっと強くなる。だからそれまで……死なないでね。ハルト君、イルちゃん」
己の決意を示すようにシアは空に煌々と輝く月に向けて遠吠えをするのだった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!
それではまた次回もよろしくお願いいたします!
次回投稿は5月20日21時を予定しています。




