第85話 孤立した村41 『姉破槌』
前話を書いた時、疲れ切っていたせいで記憶が無いという……ちゃんと休まないとダメですね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
その少女は、ずっと影から機会をうかがっていた。リリアを倒すための瞬間をずっと探していたのだ。そしてその好機は少女の想定よりも早くやってきた。自身の力を抑えきれなかったリリアの暴走。その様子をジッと見つめていた少女はリリアが正気に戻ったタイミング、力を使い果たしたタイミングを見計らってリリアへと襲いかかったのだ。
「戦闘力の低下を確認。排除行動を開始する」
先ほどリリアと戦った時、リリアは姉力を使ってようやく対応できていた。しかし今のリリアにはそれほどの力はない。だからこそ仕留めることができると少女は判断したのだ。
「っ!」
ハルトに意識を取られて反応が遅れてしまったリリア。直前で少女の存在に気付き、僅かに残った姉力を使って応戦しようとする。動き始めの早かった少女と、気付くのに遅れたリリア。どちらが有利かと言われればそれは明白だった。今のリリアは剣すら持っていないのだ。少女の突き出したナイフをリリアが左手を犠牲にして防ぐ。
ナイフに貫かれる左手。痛みに顔をしかめるリリアだったが、それを気にせずにハルトに向かって言う。
「下がってハル君! ここは私がなんとかするから」
ハルトだけはなんとしても守る。そう思っての言葉だったが、帰ってきた言葉はリリアの予想していないものだった。
「嫌だ!」
「え!?」
「ボクも姉さんと一緒に戦う」
「何言って……いいから、早く下がりなさい!」
余裕がないリリアはキツイ口調でそう言うが、ハルトは聞かずにそのまま少女へと向かっていく。
「新たな敵を認識。《勇者》と確認。能力、未知数」
ハルトが向かって来たことで一度距離を取った少女は、ハルトのことをジッと見つめて呟く。ハルトがリリアと戦う姿は見ていたものの、どれほどの力を有しているのかそれを把握できていないため、少女は警戒心を高める。
「どうして来たの。下がってって言ったでしょう! 早くイルを連れて逃げて!」
リリアは一度少女と交戦したことでどれほどの力を有しているかということを知っている。そして、ハルトの力も知っている。だからこそハルトの力が少女に及ばないものであるということがわかっていたのだ。
しかし、そんなリリアの想いを嘲笑うのはリオンだ。
『ふん、暴走したお主を止めたのが誰かということを忘れておるのではないか? 男子三日合わざれば刮目してみよ、という言葉を知らんのか?』
「あなた誰……っていうか、三日も離れてないんだけど」
『今のは比喩じゃ。妾が言いたいのはつまり、少し離れた間に強くなるということもあるということ。今の主様をお主の知っている主様と一緒にしてくれるなよ。なにせ、妾がおるのじゃらな!』
「リオンの言うことに同意するわけじゃないけど……でも、お願い姉さん。ボクも少しは姉さんの役に立てるんだ」
「ハル君……そう、わかった。でもサポートだけ。わかった?」
「うん!」
「それじゃあ行くよ!」
言葉と共に駆け出すリリア。その後に続くようにしてハルトも駆け出す。ハルトもリリアも残った力はそれほど多くはない。だからこそ狙うのは短期決戦だ。
「応戦開始」
地面を滑るようにしてリリア達に近づいて来る少女。その動きは素早く、ハルトの目にはかろうじて見える、といった程度の物だった。しかしリリアは違う。動きを追いきることはできていないものの、一度戦った時に見た動きだった。だからこそ対処ができる。
「ハル君、右!」
「わかった!」
「っ!」
少女の攻撃はハルトに防がれてしまう。まさか防がれると思っていなかった少女は思わず目を見張る。そして、攻撃を防いだハルトは少女に向かって剣を突き出す。のけぞるようにしてハルトの突きを避けた少女はそのままの勢いを利用してバク転し、ハルトから距離を取る。
「それは読めてるわ」
少女が逃げた先に現れたのはリリアだ。少女の顔面に向けて容赦なくパンチを叩き込む。ガキン、という派手な音が鳴りリリアのパンチが少女に当たる直前で止められる。
「対象を脅威レベル三に設定。『魔障壁』の能力を解放」
「ちっ」
少女の呟きを聞いたリリアは何か厄介なことをされる前に、と蹴りやパンチを連続で繰り返すが結果は同じ。ガキンと固い物を叩く音がして全ての攻撃を防がれる。
そこに遅れてハルトも加わり、攻撃を繰り出すが結果は同じ。
「『魔障撃波』」
「きゃぁっ!」
「うわっ!」
ジッと攻撃を受け続けていた少女が両手をリリア達に向ける。その瞬間、とてつもない衝撃がリリア達に襲い掛かる。不意のことに反応できなかったリリア達は吹き飛ばされてしまう。
「今のなに」
『ふむ、『魔障壁』に『魔障撃波』か。どうやらあの『魔障壁』とやら、攻撃を防ぐだけでなく反射できるようじゃの』
「なにそれ、それじゃあ攻撃できないじゃない」
『生半可な攻撃ではダメじゃろうな。しかしならば生半可ではない攻撃をすればよい』
「そんな攻撃ボクできないよ。今のだって全力だったのに」
「……いえ、できるわ。私なら」
「え?」
「でもそのためには少しだけ……五十秒、いや三十秒でいい。集中する時間が欲しいの」
『ほほう、つまり妾達に時間を稼げと』
「できるハル君?」
「……わかった。ボクやるよ」
決意の言葉と共にハルトは一歩前に踏み出す。リリアでも苦戦する相手に二十秒時間を稼ぐ。それがどれほど難しいことであるかハルトはわかっている。それでも初めてリリアが頼ってくれたのだ。その想いに応えたいとハルトは思った。
リリアが何かをしようとしてると察したのか、少女がリリアに向かって駆け出す。ハルトはその前に立ちはだかり、リリアの元へは行かせまいと邪魔をする。
「リオン、『憤怒の竜剣』は使える?」
『わずかな時間であれば使えるじゃろうよ。じゃが、すでに体が限界に近いということは忘れるなよ』
「それでいい。『憤怒の竜剣』!」
【カサルティリオ】の剣身が赤く染まり、ハルトは自身の身体能力が向上するのを感じる。少女は『魔障壁』を展開している影響か、先ほどまでよりもスピードが落ちていた。そのスピードならばハルトにも捉えることができる。
右から下から上からと容赦の無い連撃を少女に加えるハルト。しかし威力の上がったハルトの攻撃でも『魔障壁』を貫くことはできなかった。
「『魔障撃波』」
「あぐぁっ!」
ハルトの攻撃を受けきった少女が、そのままの威力で一気にハルトに向かって返す。それが直撃したハルトは倒れてしまうが、すぐに立ち上がり、再び少女に向かっていく。
一方のリリアは、最大威力の一撃を叩き込むために集中していた。ハルトが吹き飛ばされた瞬間、駆け寄りたくなったリリアだったが、その気持ちをグッと抑えて力を溜め続ける。
(今この瞬間はハル君が一生懸命作ってくれた時間……それを無駄にはできないし、しない。この一撃に全てを賭ける。今の私が出せる、最大最強の威力の技を放つ)
リリアの右腕と両足に残った姉力を全て集める。そしてリリアは左手で狙いを定め、両足に力を込めて準備が完了する。そして約束の三十秒が経過した。
「退きなさい!」
言うと同時、リリアは爆発的な勢いで跳ぶ。音すら置き去りせんばかりの速度だ。そしてリリアの声を聞いたハルトは慌てて横に飛び退く。リリアの直線状に残るのは少女だけだ。
「っ! 『魔障壁』」
リリアに気付いた少女だったが、あまりの速さに避けることは不可能だと判断し前に『魔障壁』を大量に展開する。しかしリリアにはそんなもの関係ない。速度を一切緩めることなく跳び、そして——
「『姉破槌』!!」
轟音と共に、リリアと少女がぶつかった。
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次回投稿は5月19日18時を予定しています。




