第43話 孤立した村 1
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
その男がシアの診療所に運ばれてきたのは夕方が近くなってからだった。
リリア達が明日の朝には帰ろうかと、そんな話をしていたタイミングで村の男が診療所に駆け込んできたのだ。
「クローディルさん、大変だ! 今そこで男の人が倒れてて!」
にわかに騒がしくなる診療所内。シアの両親もシアもバタバタとせわしなく動いている。
少し嫌な予感がしたリリアは、ハルト達に部屋に残るように言った後に運ばれてきた男のことを見に行く。
診療所の中には、倒れていた男を運んできた複数人の男性達と、そして村長のローワの姿もあった。治療しているわけではなく、それよりも何かを確認しているといった様子だった。シアは運ばれてきた男を見て顔を青くしている。それを見たシアの両親がシアのことをその場から離れさせる。
「ごめん、ちょっと外に行ってくる」
それだけ言い残して部屋から出て行くシア。それと入れ代わるようにしてリリア達は部屋の中へと入る。
「あ、リリアさん」
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。君達は部屋にいてくれ」
シアの父親であるニフトが言う。そこに何がいるのかということはリリア達も薄々察している。ニフトはそれをリリア達に見せまいとしたのだろう。それはリリア達にもわかっていたが、その親切心を無下にしてしまうことを申し訳なく思いながらも居並ぶ男達の間に割って入る。
「これは……」
「あ、君達!」
「すいません。でも少しだけ確認したくて」
「確認?」
「いえ……こっちの話です。死んでるんですか?」
「……そうだね。しかもこの人は……」
「帝国の騎士……ですね」
その男はリリア達も見たことがある。なぜなら、死んでいたのはお昼にリリア達に絡んできた男だったのだから。
「これは……少々まずいことになったかもしれない」
先ほどから何事かを思案する表情で黙っていたローワだが、死んでいる男のことを見てポツリと呟く。
「彼はナイフで切られて殺されている。つまり、事故はありえないというわけだ」
「誰かが……彼のことを殺したと?」
「そう思いたくはないけどね。でも事実として、彼は誰かに殺されている」
「殺されているっていうのは間違いないんですよね」
確認する意味を込めてリリアがニフトに問う。
「あぁ、それは間違いない。そもそも彼は何度も刺されているようだからね」
顔以外は布で覆って隠されているが、ニフトの表情を見るにその布の下は相当悲惨な状況になっているのだろう。
「君達は彼のことを知っているのかい?」
「……少しだけですが」
「何かあったのかい?」
「いえ、大したことは」
しれっと嘘をつくリリア。ここで男と何があったのかということを正直に話してもいいことがないのは明白だ。ならば正直に言う必要もないだろうとリリアは判断したのだ。隣で驚いた顔をしているタマナのことは無視である。
その直後のことであった、診療所のドアがけたたましい音を立てて開かれる。
「おい、どういうことだ! サルドが死んだというのは本当か!」
入って来たのは帝国騎士であるウェルズとその部下達だった。その表情は怒りに満ちている。
ウェルズは男達を押しのけ、死体の顔を見る。それが本当にサルドであることを確認すると、ウェルズはその場に泣き崩れる。
「おぉサルド! なぜお前がこんな無残な姿に……悔しかったろう、つらかったろう……お前の仇は必ず取るからな! おい村長! 誰がやった、殺してやる!」
泣き崩れていたウェルズは一転、憤怒の表情でローワに詰め寄る。その手は腰の剣へと伸びていて、今すぐにでも殺してやるといった殺気に満ちていた。
「お、落ち着いてくださいウェルズさん! こちらもまだ何もわかってないんです!」
「わかってないだと? 誰かを庇いだてしてるんじゃないだろうな。もし犯人を隠してみろ。この村の奴らを全員殺すぞ!」
「隠してなんかいませんから! とにかく落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか! 誰だ、誰がやった! お前か、お前か、お前かぁ!」
ウェルズも、その部下たちも今にも爆発せんばかりの殺気を周囲にまき散らす。その雰囲気に負けてか、村人の一人がおずおずと言葉を発する。おそらくは、自分に疑いの目を向けたくないがために。
「ひ、あ、あの」
「なんだ!」
「お、俺見たんだ……ひ、昼に、そこの女の子二人が、その男の人と……話してるところを」
そう言って男が指さしたのはリリアとタマナの二人だ。ウェルズ達の視線がバッとリリア達に向く。
リリアは内心舌打ちする。今この状況で昼のことを出されれば、疑いの目は確実にリリアとタマナの二人に向いてしまうのだから。もちろん、リリア達は殺していない。しかし、その証明はできないのだ。リリアがサルドを殴った所を見た人がいないことと同じ。リリア達の無実を証明できる人もいないのだ。
「な、なんか揉めてる風だったし……」
「それは本当か」
「は、はい」
「おい、貴様ら説明しろ。嘘を言えば命は無いと思え」
「……私達は少し話しただけですよ。そこのサドルさんに声をかけられて。酔っていたようなのですぐに離れましたが」
「……ウェルズは何で殺されていたんだ?」
「おそらくですが……ナイフかと」
「つまり、お前達でも殺すことはできたというわけだ。サルドは酒に酔っていたんだろう? あいつは酒は好きだがそれほど強いわけでもない。酔っていたなら殺すのは容易なはずだ」
「私達を疑っているんですか?」
「むしろこの状況で疑わない理由が無いな」
「ちょっと待ってくださいウェルズさん。彼女達はそんなことをする子じゃありません」
「どうだかな。王国の女は信用ならん」
「あ、あんたらクローディルさんとこに泊まってるよそ者だろ。一番怪しいじゃないか」
ローワとシアの両親を除く人たちがリリア達に疑いの視線を向ける。しかし今のリリアにはかけられた疑いを解く方法がない。
(殺してない証明……普通なら話してた程度じゃ疑われないんだろうけど、今は状況が状況だし……ローワさん達の手前言えないけど、村の人たちは私達が泥をかぶって収まればいいなんて都合のいいことを考えているんでしょうね。それじゃなんの解決にもならないかもしれないのに)
村人たちは人が殺されるという状況に遭遇してしまったことへの動揺、帝国の騎士達への恐怖を感じている。だからこそ早くこの事件を終わらせてしまいたいのだろう。無難な人を犯人へとすることで。
今のウェルズ達はサルドが殺されたことにたいする怒りで話が通用する状態じゃない。
たとえ今ここでリリア達を犯人として処罰しても、次がないとは言い切れないのに。
リリアの隣ではタマナが不安気な表情をしている。無理もないだろう。いきなり殺人犯として疑われているのだから。
「どうした。潔白を証明できないのか?」
「ウェルズさん、待ってください」
「なんだ村長」
「彼女達は犯人ではありません。彼女達の身分については私が保証します。もし疑うというのであれば……私が代わりになりましょう」
「なんだと?」
「もし彼女達を殺されるのであれば、その前に私を殺していただきたい。そして、彼女達のことは見逃していただきたい」
毅然とした態度で、ウェルズの前に立ち塞がるローワ。その瞳には強い意志がこもっていた。
「そ、村長! 何言ってるんだよ!」
「あなた達は黙っていてください。それでウェルズさん、どうなさるんですか」
「……いいだろう。一度引いてやる。だが、犯人を見つけるまで諦めると思うなよ。その女共が犯人でないというなら、その証拠を出して見せろ。三日以内だ。それ以上は待たん」
「……わかりました」
「サルドの死体はまた後ほど回収しに来る。行くぞ、お前達」
そしてウェルズ達は診療所から出て行く。その後に村人たちも気まずそうな顔をして出て行った。ウェルズ達と村人がいなくなったことで診療所内の空気が若干和らぐ。
「ローワさん、その……すいませんでした」
「何を謝ることがあるんだい。犯人じゃないんだろう?」
「もちろんそうです。でも、私達があのサルドって人達に関わってさえいなければこんなことにはならなかったのに」
「まぁ、過ぎたことはしょうがないよ。それに、あぁしたらウェルズは引くしかないからね」
「どうしてですか?」
「聖剣のことについて知ってるのが私だけだからね。もし怒りに任せて私を殺したら聖剣への手掛かりを失ってしまう。ウェルズはその可能性を考えたんだと思うよ。あの男はそこまでバカじゃない……と、思うよ」
「その割には証拠もないのに私達のことを犯人扱いしてきましたが」
「あはは、それは不運だったとしか言えないね」
「笑いごとじゃないですよ」
「とにかく、三日しか猶予はないんだ。何か手を考えないと」
「明日には一度ウォルへ戻るつもりだったんですが、できそうにないですね」
「そうだね。このタイミングで戻ると余計に疑われるだけだ。でも、ハルト君達だけなら明日の商人の人たちと一緒にウォルに戻ってもらってもいいかもしれない」
「……そうですね。わかりました」
どこに殺人犯がいるかわからない状況でハルトの安全を考えるならばその方が良いだろうと、リリアも納得する。感情では納得していないが。
しかし、その考えを打ち砕くように診療所に先ほどとは違う村人がやって来る。
「村長、ここにいたのか、大変だ!」
「どうしたんだい」
「道が、ウォルへの道が落石で塞がれちまった!」
「なんだって!?」
ダミナとウォルを繋いでいた唯一の道。それが落石で塞がれてしまったという。それはつまり、ダミナの村が完全に孤立してしまったということに他ならなかった。
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次回投稿は3月21日21時を予定しています。




