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最強のキョウダイ  作者: ジータ
第一章
43/309

第42話 リリアは我慢できない

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 ハルト達が買い物をしていた頃、リリアとタマナは村長のローワの家へとやって来ていた。聖剣についての話を改めてするためである。


「そうだねぇ、やっぱり聖剣のことについてはあの帝国の方に帰ってもらってからでないと厳しいかもしれない」

「……そうですか」

「でもでも、そうなるといつ頃になるんですか?」

「はっきりとしたことはわからないよ。明日には帰るかもしれないし、一月先もまだいるかもしれない。彼らに下された聖剣を手に入れるという命令がそれほどの重要性を持っているか次第だね。まぁ、すぐに帰ってくれる可能性は低いけどね」

「そう易々と諦めてはくれないということですか?」

「うん。腐っても聖剣。手に入れることが出来ればそれだけ他国と差をつけることができるんだ。逆に言ってしまえば、帝国にとって王国に聖剣の担い手が増えるというのはまずいということさ。隣国が力をつけるのを黙って見ているわけにはいかないということだろうね」

「でも、ハル君が聖剣を手に入れるのはあくまで魔王を倒すためです。国同士のことを持ち出されても……」

「もちろんそれはわかっているさ。でも、その言い分を帝国の人が素直に聞いてくれると思うかい?」

「それは……」

「無理だよ。彼らにとって大事なのは魔王を倒すこと以上に自国の発展だ。むしろ魔王に王国が滅ぼされればいいとまで考えているかもしれない」

「そんな! 魔王はヒトという種族そのものの敵です! 今こそ国を超えて一丸となるべきときでしょう」

「帝国にも勇者はいる。最悪、自国の勇者で対処するつもりなんだろうさ」


 《魔王》は生まれれば《勇者》が生まれる。それは絶対のシステムだ。しかし、新しく生まれた《魔王》を他の《勇者》が倒してはいけないという決まりはない。ではなぜそれをしないのか。答えは単純で、万が一にでも自国の《勇者》を失うわけにはいかないからである。《勇者》は生半可な兵器よりもずっと強い。いるだけで他国に対する牽制になるのだ。それをむざむざ命の危険にさらすような真似はしない。

 そして気付けば、新たに生まれた《魔王》は新たに生まれた《勇者》が倒すという暗黙の了解が生まれた。


「とにかく、そういう問題もあってね。今すぐに聖剣の捜索というのはできないのさ。君達も一度王都に戻ったほうがいいかもしれない。彼らに目を付けられる前にね。もしハルト君が勇者であるとバレたらそれは聖剣の存在を裏付けているようなものだから」

「……わかりました」

「特に彼には……昨日私と話していたあの騎士、ウェルズには気を付けてくれ。帝国十二騎士団の八番隊副隊長なんだ。その実力は伊達じゃないからね。何かをかぎつける嗅覚もそうだ」

「そうですね。彼らにはあまり近づかないようにします」

「私は言われなくたって近づかないですけどねぇ」

「はは、まぁ用心するに越したことはないということさ。またこの後ウェルズ達が来る予定になっている。鉢合わせる前に帰るといいよ」

「はい。ありがとうございました」

「すまないね。なんの力にもなってやれなくて」

「いえ、しょうがないことですから。気にしないでください」


 そしてローワの家を後にする二人だが、聖剣のことについて何も進捗が得られなかったことへの落胆は隠せなかった。


「しょうがないこととはいえ、ここまで来て収穫ゼロは痛いですね」

「そうですねー。まぁ事情を話せばアウラ様たちも納得してくれるでしょうが。それでも残念です。聖剣見て見たかったんですけど」

「残念なのそこですか」

「あ、もちろん《魔王》討伐についてのこともありますよ。でも、聖剣なんてめったに見れるものじゃないですし」

「それはそうですけど……とにかく、帰ってハル君達にも事情を話しましょう」

「そうですね~。あー、せめてあと何日かこんなのんびりした生活を送りたかったんですけど。神殿に帰ったらまた仕事が山のように……あぁ~」

「そんなに神殿の仕事って大変なんですか?」

「大変というか……まぁそうですね。とある先輩の巫女がとにかく私に仕事を押し付けて——」

「お~い、そこの姉ちゃんたち!」

「「?」」


 突如声を掛けられるリリアとタマナ。最初は別の人のことかと思ったが、周囲にはリリア達以外誰もいない。というよりも、リリア達に声を掛けてきた人たちを見てそそくさと逃げるようにして去っていく。


「お前達だよ! 早く来い!」


 いつまでもリリア達が返事をしないことに腹を立てた男が声を張り上げる。その男はまだ昼だというのに酒を飲んで酔っ払っている。

 面倒なことに巻き込まれたと思いつつも二人は男に近づく。しかしそこで二人は男の胸についている紋章の存在に気付く。それは帝国の紋章だった。


「ま、まずいですよリリアさん! あの人、帝国の人です」

「わかってます。でも、ここで無視するわけにも行きません。適当に話してさっさと離れましょう」

「そ、そうですね」


 小声で話し合い方針を決めるリリア達。男は先ほどからニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてリリア達のことを見ている。そのことに不快感を感じつつも、努めて表情には出さないようにしてリリア達は近づく。


「何かようですか?」

「何かじゃねーよ! 呼んだらすぐに来い! 俺を誰だと思ってんだ、あの大帝国の騎士様だぞ! お前達のような愚民に声を掛けてやるだけありがたいと思え!」

「…………」

「リリアさん、抑えて、抑えて!」


 面倒事にはしたくない、そう思っていたリリアだが男の態度に静かに拳を握る。それを見たタマナが慌ててリリアに耳打ちする。もしここで手を出してしまえば問題になることは明白だ。

 リリアもそれがわかっているからグッと堪える。


「ったく、ウェルズ様もさっさと村長脅すなりなんなりして吐かせりゃいいのによ。いつまでこんな辺境に村にいなきゃいけねーんだ。なんの娯楽もありゃしねぇ。ほら、お前らもぼさっと立ってねぇで酒注げよ。空になってんのがわかんねぇのか?」

「えーと……なぜ私達が?」

「どうせ田舎の女なんて芋くせぇと思ってたけど、上玉もいるもんだなぁ。よかったなお前ら俺に見初められて。もしここで相応の態度ってもんを見せてもらったら帝国に連れてってやるよ。俺の情婦としてな! ギャハハハハハハハッ!!」


 相当酔っ払っているのか、男はまともにリリア達と話すこともなくべらべらと好き勝手に話し続ける。


「……沈めましょう」

「ちょ、ダメですってリリアさん!」


 目の前の男は明らかにリリア達のことを性的に見ている。そのことがリリアには我慢ならなかった。ルーラにいた頃もこういった人がいなかったわけではないが、それでもここまで酷くはなかった。


「だいたいよぉ、諜報部の奴らが言うにはこの王国で生まれた新しい《勇者》ってのは戦ったこともねぇひょろくせぇガキだって話じゃねぇか」

「リ、リリアさ——ひっ!」


 酔って《勇者》について話し始める男。その内容にリリアの表情が変わり始める。隣立つタマナはまずいと思って冷や汗をダラダラと流し始めるが、目の前の男はそれに気づかないまま話を進める。


「そんな奴に聖剣の一本や二本渡ったところでその辺の魔物にやられるのがオチだろうよ。いや、魔物と戦う前にちびって逃げ出すかもなぁ! ギャーハハハ——グベラッ!」

「……あ」

「あーあ……」


 気付けばリリアは拳を振り切っていた。その拳は寸分の狂いもなく男の顔面へと突き刺さり、男はグルグルと回転しながら吹き飛んだ。

 タマナはもはや諦めた顔をしている。


「違うんですタマナさん」

「違わないんですリリアさん」

「ハル君のことを馬鹿にされたと思ったら手が勝手に」

「えぇ、そんなことだろうと思いました」

「……こうなったら」

「こなったら?」

「逃げるが勝ちです!」

「えぇ! あの人放置ですか!」


 くるりと反転し、走り出したリリアの後に続くタマナ。別に男に同情しているわけではないが、放置というのもいかがなものだろうかとタマナの良心が訴えたのだ。


「いいですかタマナさん、私達は誰とも話していない。そういうことにしましょう」

「えぇ……」

「それにさっき殴った衝撃と酔いで記憶が飛んでくれてたらいいなぁって思ってます」

「それ願望じゃないですか!」

「きっと大丈夫です。周囲には人もいませんでしたし」

「そうですけど……うーん、ホントに大丈夫かなぁ」


 そして二人は、気絶した男を放置して逃げ出したのだった。

 

 

 結論から言ってしまえば、男がリリア達のことを誰かに話すことはなかった。正確には、できなかった。

 その日の夕方、男は死体で発見されたのだから。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は3月20日21時を予定しています。

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