第170話 ミレイジュのお悩み相談教室
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ハルトがミレイジュに連れられてやってきたのは、人気の少ない場所だった。長く使われていないのかゴミが散らばっていたり、埃が積もっていたりとあまり良い環境だとは言えなかった。
そんな場所に連れて来られてはさすがにハルトも困惑するというもので、一緒にいるリオンは不愉快そうな顔を隠しもしなかった。
「おいなんなのじゃここは。こんな場所で落ち着いて話などできるわけなかろう」
「ここだけ見るとそうですけどぉ。実はですねぇ、ここには秘密があるんですよぉ」
「秘密?」
「ここをこうしてぇ、こうするとぉ」
困惑するハルトとリオンの前で、ミレイジュは壁や地面をペタペタと触る。すると変化は突然現れた。ゴゴゴゴゴ、という音と共に壁の一部が動き出したのだ。音と揺れが収まる頃には、壁の一部が無くなりその向こうには部屋があった。
「これは……」
「隠し部屋か」
「私がお仕事をサボ……ごほん、お仕事の休憩中に神殿の中を探索してたらぁ、たまたま見つけたんですよぉ」
「これはたまたまで見つけられる代物だとは思えんが……」
「運が良かったんですねぇ。さぁどうぞ入ってください。くつろげるようにはしてあるんですよぉ」
ミレイジュの言う通り、部屋の中は外とは違って整っていた。掃除もきちんとされている、ソファやテーブルなども置かれていて確かにくつろげる空間になっていた。
「なんのための部屋なのじゃここは……」
「さぁ私は知りませんけどぉ。使われてないなら私が使っても大丈夫かなぁって思いましてぇ。使える部屋を使わないのは勿体ないじゃないですかぁ」
「そうやって誰にも見つからぬ部屋で仕事をサボるわけじゃな」
「そうですぅ……って、違います! 違いますよぉ! サボったりなんてしませんよぉ」
「言葉に説得力が全くないのじゃ」
「イル、あんまり失礼なこと言っちゃダメだよ。ごめんなさいミレイジュさん」
「いえいえ。えらいですねぇハルト君はちゃんと謝れて。よしよししてあげますよぉ」
「いえ、それは恥ずかしいので……遠慮します」
「そうですかぁ? 残念ですぅ」
本当に残念そうに呟くミレイジュの姿に、若干の罪悪感を覚えるハルトだったが流石に子供のように頭を撫でられるのは恥ずかしいのだ。これを言ったのがリリアであれば拒否などできるはずもないので、リリアに関しては諦めている。
「それじゃあ本題に入りましょうかぁ。ハルト君のお悩みについて、お姉さんに話してください」
「えーと、それは……」
「良いのではないか主様よ。第三者の意見というのも大事なものじゃ。多くの人から話を聞き、自らの血肉にしていくのも成長の一歩じゃろう」
「リオンがそう言うなら……」
「どんなお悩みでもどんとこいですよぉ」
「ボクの……といえばボクの悩みなんですけど。その、友達の兄弟関係を聞いたんですけど……」
イルの名前は出すことなく、ハルトは自身の抱えている悩みについて話す。ハルトはイルの兄弟関係をなんとかしたいと思っている。余計なお世話と思われることはわかっているが、兄弟とは仲良くあるべきだとハルトは考えているからだ。イルが兄達のことを嫌っているならばハルトもそんなことは考えなかっただろう。しかし、ハルトに兄の話をしている時のイルはどこか誇らしげで、しかし——
「悲しそうだったんです。こんな言い方したらきっと違うって怒るんでしょうけど、泣きそうだったっていうか……でもそりゃそうですよね。兄弟から絶縁されるなんて……そんなの耐えられない」
ハルトはイルの話を聞いて一瞬想像してしまった。リリアから見限られ、絶縁されるということを。その想像だけでハルトは胸が締め付けられそうになった。あり得ない話だと理解していてもだ。ならそれを現実にされてしまったイルの苦痛はどれほどなのか。ハルトには想像もつかなかった。
「ハルト君は……どうしてあげたいんですかぁ?」
「何ができるかなんてわからないですけど……助けてあげたいです」
「助ける、ですかぁ」
ハルトの答えを聞いたミレイジュはすこしだけ考えて、口を開く。
「リリアさんから聞いていた通り、ハルト君は優しい子なんですねぇ」
「いえ、ボクなんか全然……できることも少ないですし」
「謙遜することはありませんよぉ。あなたは優しい子ですぅ。でもだからこそ……現実を知らない」
「え?」
ハルトのことを真っすぐ見据えるミレイジュは優しい声音で、笑顔で、しかし感情の読み取れない顔でハルトの優しさを否定した。
「大きなお世話や偽善、独善……あなたの優しさの中にあるものですぅ。どれも悪いものではありませんよぉ。人のことを考えられる優しさというのはたとえ偽善であっても必要なものですからぁ。でもあなたの優しさには決定的に欠落しているものがありますぅ」
「欠落してるもの?」
「力ですぅ。わかりますかぁ? これは単純に物理的な力、権力的な力のことを言っているのではないですよぉ。行動力、決定力、意志の力……それが今のハルト君には足りていませんねぇ。もちろん、これを持っている人なんてそうはいませんけどねぇ」
「…………」
「救いを求められるまで待つ。それは正しいことでしょうかぁ。他人の気持ちに不用意に踏み込まない優しさ。それは正しいのでしょうかぁ。ハルト君がもし本気でその子のことを救いたいと、なんとかしたいと思っているのなら、必要なのは悲しいことに優しさではないんですよぉ。触れてほしくない、そっとしておいてほしい。そう思う気持ちを踏みにじる残酷さ。他人の気持ちを思いやらないこと……それがハルト君にできますかぁ?」
「……できません。今のボクに……そんなことはできそうにないです」
「絶縁、一度終わってしまった関係をやり直すというのは、生半可な気持ちじゃダメなんですぅ。もしあなたのその友人が、苦しくてもその絶縁された事実を受け入れて前に進もうとしていたなら、ハルト君の今の考えはその子にとって邪魔にしかなりませんからぁ。どんな事情があるのかも知らないならなおさらですぅ」
「ボクの考えは……甘いですか?」
兄弟は仲良くあるべきだ。そう思っているハルトだが、ミレイジュの話を聞いて酷く幼稚な考えを持っている気になってしまった。確かにハルトは何も知らない。イルと兄弟がなぜ絶縁することになってしまったのか全く知らない。もしかしたらイルは前に進みだしているのかもしれない。だとするならば、ハルトが何かしようとするのはミレイジュの言う通り、邪魔でしかない。
「甘い……ですけど、私はその甘さは嫌いじゃないですよぉ。ハルト君の優しさ、甘さは美徳だと私は思いますぅ。できることなら、その甘さと優しさを捨てずにいて欲しいものですぅ。そうすればきっと……」
ミレイジュはハルトのことを真っすぐ見据えながら、しかしハルトではない何かを見ているようだった。
「ミレイジュさん?」
「あ。ごめんなさい私ったらついボーっとしちゃってぇ。まぁ結論から言うならですねぇ、行動あるのみ、ですよぉ」
「おい、何かするのは邪魔になるのではなかったのか」
「それは仮定の話ですぅ。邪魔になる可能性もある、ですねぇ。それに……私も兄弟というものは仲良くあれるならそれが一番だと思いますからぁ。だから、もしチャンスがあったなら迷わずゴー! ですよハルト君。行動できないのが一番良くないですからぁ」
「そうですね。ありがとうございますミレイジュさん、話を聞いてもらったおかげで考えが整理できました。ボクは甘いって言われても、お節介でも、イルさんのことを何とかしたい。だからもしチャンスがあったなら迷わず動きます!」
「ふふ、それでいいんですよぉ。お役に立てたなら私としても嬉しいですぅ」
「それじゃあボク達はこれでお暇しますね。これ以上ミレイジュさんの仕事の邪魔をするわけにもいきませんし」
「それなら大丈夫ですよぉ。せっかくこうして会えたんですから、もう少しだけお話しましょう。お姉さんからのお願いですぅ」
「え、でも……」
「お茶とお菓子、すぐに用意しますねぇ」
「どうしよリオン」
「まぁ、こうなったら付き合うしかないじゃろう」
「だよね……」
「さぁさぁ、ハルト君には聞きたいことがいーっぱいあるんですよぉ」
お茶とお菓子を持って戻ってきたミレイジュは爛々と目を輝かせていて、ハルトは逃げ場を失った小動物のような気持ちになりながらミレイジュと話し続けることになるのであった。
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次回投稿は12月15日18時を予定しています。




