第162話 力の代価
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
森の中の空気がにわかに変化したことを、ユニコーンは感じ取っていた。
『嫌な空気の流れだ……』
「どうかしたんですか?」
『この気配……しかしそんなことがあり得るのか?』
「ユニコーンさん?」
『あぁすまない。少し考え事をな。もしかしたら、最悪の事態が起こっているかもしれん』
「最悪の事態って……もしかしてリリアさんの身になにかっ!?」
『いや違う。そうではない。捉え方を変えればそうとも取れるが……何かが起きたのはアースドラゴンの方だ』
「アースドラゴンの?」
『奴の気配が急激に膨れ上がった。それこそ、さきほどまでとは比べ物にならないほどに。戦いの最中にそんなことが起きるはずもない。だがもし可能性があるとすれば……アースドラゴンが進化したという可能性』
「そんな……それじゃあもしかしてリリアさんは」
『あぁ、このままではアースドラゴンを超えた存在と戦うことになるな。くくく、あの人間はとことんついていないようだ』
ユニコーンの話を聞いたタマナはリリアが戦っているであろう方向に目を向けるが、巻き込まれないようにと遠くにいるせいで何かが見えるということもない。
「リリアさん……」
ギュッと手を握りしめたタマナは、神に祈るようにしてリリアを無事を願うのだった。
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進化を終えたアースドラゴン、改めガイアドラゴンと対峙するリリアは攻める隙を見出すことができずにいた。
「ルォオオオオオオオオオンンッッ!!」
「くっ、うぅ……なんて馬鹿げた魔力……」
突如として咆哮したガイアドラゴン。咆哮そのものに込められた魔力を直接ぶつけられたリリアはガイアドラゴンの膨大な魔力と、力を感じ取る。
(この力……アースドラゴンだった時よりもはるかに強くなってるっ)
ガイアドラゴンは咆哮から間髪入れずに、ブレスを撃つ姿勢に入る。一瞬で力を溜めたガイアドラゴンはリリアに逃げる隙すら与えずにブレスを放つ。全てを消し去ってしまうかのような極大の力の奔流がリリアに襲いかかる。
「っ、【姉障壁】!」
とっさに壁を貼るリリア。しかし、今度のブレスは並大抵の力ではなかった。
ミシリ、という嫌な音を立ててリリアの【姉障壁】に罅が入る。カイザーコングの攻撃にも耐え、アースドラゴンのブレスにも耐えきったリリアの【姉障壁】。しかしそれを超えるだけのブレスをガイアドラゴンは撃っていたのだ。
このままでは【姉障壁】を破られると思ったリリアは全力で『姉力』を【姉障壁】に注ぐ。時間にすればそれほど長い時間ではい。しかしリリアにとってはその短い時間すら耐えがたい。地獄にも等しい時間が終わった後、その場に残っていたのは悠然と佇むガイアドラゴンと、膝をつくリリアだけだった。周囲に残っていた木々も根こそぎ消し去られ、はるか遠くまで平地になってしまっていた。元々リリアとアースドラゴンとの戦いで周囲にあった木々も地形も変わってしまっていたのだが、それでもこれほどではなかった。
「はぁはぁ……ホント、バカげてる。なんとか耐えきれたけど……二度目は無理そうね」
ブレスが連発されることを警戒していたリリアだったが、二発目を放つ様子はない。
(連発はできないみたいね。それだけは幸いだけど、いつ二発目が来るかわからないし。警戒だけはしておきましょう)
ガイアドラゴンはブレスでも倒れなかったリリアを見据えると、ドスンと地面を揺らす。その行動が何を意味するのかわからなかったリリアだが、脳の警鐘に従って後ろに飛び退く。その直後リリアの立っていた地面に槍のように鋭い土塊が飛び出てくる。もし飛び退かなければリリアは串刺しになっていただろう。
「ブレス以外の遠距離攻撃も覚えたってわけね、っと」
ブレスとは違い、その攻撃は連発できるのか二発、三発とリリアのことを狙って土塊が飛び出てくる。
「【姉眼】」
【姉眼】を通して地面を見るリリア。その直後に見えたガイアドラゴンの纏う魔力量の大きさに思わず気圧されそうになるが、それ同時に小さな違和感を覚えた。
「魔力の流れがおかしい……もしかしてまだ扱いきれてない?」
ガイアドラゴンに起きている現象にはリリアも覚えがある。それは自身の持つ『姉力』が膨れ上がった直後のこと。『姉力』に振り回されて、満足に扱うことができなかった。それと同じことがガイアドラゴンに起きているのではないかとリリアは思ったのだ。
「それならまだ付け入る隙はある」
【姉眼】を発動したことで地面を流れるガイアドラゴンの魔力も見えている。それがリリアを襲う土塊の正体だ。そして、見えてしまえば恐れるに足りない。
(ガイアドラゴンが魔力を掌握しきる前に攻めるしかない!)
ガイアドラゴンに向かって駆け出すリリア。それを見たガイアドラゴンはリリアを止めようと土塊で応戦するが、見えているリリアには足止めにもならない。近づいてきたリリアを押しつぶそうと前脚を振り下ろすガイアドラゴン。アースドラゴンの時と比べて動きが速くなったとはいえ、避けれないほどの速さではなかった。
「ふっ!」
前脚を避けて懐に飛び込むリリア。それは、先ほどリリアが【姉弾】を撃ち込んだ時と同じ状況だった。ガイアドラゴンはその状況に既視感を覚えたのか、今度は後ろに下がってリリアの攻撃圏内から逃れようとする。
後ろに後退したガイアドラゴンは二本に増えた尻尾でリリアを攻撃する。アースドラゴンの時よりも鋭くなったその尻尾は一撃一撃が多大な威力を誇っているが、リリアは冷静にその攻撃を見切る。
そして、そんなガイアドラゴンの行動を見てリリアは一つ大きな確信を得た。
「なるほど、力と速度を手に入れた……その代わりあなたは防御を失った。つまり——」
雨あられと降り注ぐ尻尾を避け切ったリリアは、ガイアドラゴンの懐に飛び込む……とみせかけて右前脚へと肉薄した。
「【姉弾・破槌】!」
【姉弾・穿】が貫通力に秀でているならば【姉弾・破槌】は威力に秀でた技だ。それはリリアの【姉破槌】を一段進化させた技。【姉破槌】よりもなお威力が高い。
リリアはその一撃をガイアドラゴンの前脚に叩き込んだ。もし、アースドラゴンの時であれば弾かれて終わりだっただろう。しかし、今は違う。
「ルオァアアアアアアアッッ!」
苦悶の声を上げて倒れ込むガイアドラゴン。リリアの攻撃はガイアドラゴンに確かなダメージを与えていた。
「あの絶対防御を失った状態なら、他の技でも十分通る。あなたは自分が持っていた大きな利点を、進化することで捨て去ったのよ」
リリアに追撃を仕掛けられる前に起き上がり、警戒態勢に入るガイアドラゴン。力の代償に、自らの最大の利点を失う。それほど滑稽なことはない。
怒りに震えるガイアドラゴンは感情のままに力を振るうが、そんな力任せの攻撃が当たるはずもない。しかしガイアドラゴンの目的はリリアを倒すことではなく、リリアを自分から引き離すことだった。
ガイアドラゴンはリリアを自分から引き離したその隙に、リリアに傷つけられた前脚を魔力で無理やり治癒していた。
「なるほど、膨大な魔力量にものを言わせた治癒力。力と速度以外にも面倒な力を手に入れたのね。でも、それなら……」
大きく後ろに下がり、ガイアドラゴンの攻撃圏外に出たリリアは自分の呼吸を整える。
「生半可な攻撃じゃ回復されるだけ。それなら、回復もできないくらいの攻撃をすればいいだけ。見せてあげる。私の手に入れた、もう一つの力を」
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次回投稿は11月26日21時を予定しています。




