第142話 そして修行へと
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ハルトとの勝負を終えた後、リリアは意識を失ったハルトに膝枕をしていた。少し前までは苦しそうだったハルトだが、今はもう落ち着いたのかスースーと穏やかな寝息を立てている。
「ふふ、ふふふ……気絶してるハル君も可愛いなぁ」
恍惚とした表情で意識を失っているハルトの頬を撫でるリリア。そこだけ切り取ってみれば完全に危ない人である。
そこに先ほどまでの戦っていた時のような真剣な雰囲気はまったくない。
「あぁ、この光景を写真に収めたい。高いから無理だけど……」
この世界にも、写真に準ずる物はある。しかしそれはスマホで写真を撮るほど簡単なものではなく、それなりの準備が必要なためどうしても高額になってしまうのがこの世界の現状だ。あまりこの世界に対する不満は持っていないリリアだが、ハルトの写真を簡単に残せないということだけは数少ない不満の一つだった。
いっそ絵の勉強でもしようかとハルトの顔を眺めながら考えていると、近づいて来る人影が一つ。
「お主……だいぶ気持ち悪い顔をしておるぞ」
「なにリオン、今大事な考え事してるんだから邪魔しないでよ」
「真剣な考え事じゃと? どうせ主様のこの寝顔を絵にして残したいとでも考えておったんじゃろ」
「よくわかったわね」
「お主の考えなど赤子の手を捻るよりも簡単にわかるわ。というか、それのどこが大事な考え事なのじゃ」
「ハル君に関する考えごとは全てにおいて大事に決まってるでしょ!」
「お主はそれを本気で言っておるからたちが悪いんじゃ……そこまで主様のことを想っておいてよくあそこまでボコボコにできるものじゃの」
「それもハル君を想ってっていうか……ハル君は必死な表情も苦しんでる表情も可愛くてゾクゾクするっていうか……」
「最悪じゃ……この女最悪なのじゃ」
「まぁ冗談よ。半分くらい」
「半分は本気なのか!」
「ちょっと、ハル君が起きちゃうでしょ。静かにして」
「なぜこの流れで妾が怒られるのじゃ!」
「どうしたの? ずいぶんと苛立ってるようだけど」
「ふん、あそこまで完璧にやられれば誰だって腹が立つのじゃ。主様の負けは妾の負け。そして主様を負けさせてしまったのは妾に力が足りなかったからじゃ」
「そうね。今のあなた達では私には勝てなかった。全力を出してもね」
「ぐっ……改めて言われるとなおさら腹が立つのじゃ」
「でもね。そんなあなた達に勝った私にも、勝てない相手はいる。例えばエクレアさん。彼女には勝てるビジョンなんて全く見えなかった。あまりにも強すぎて、その足元にすら及んでいないことを痛感させられた。そしてミレイジュさん……自称天才魔法使い。そんな彼女とも戦ってけど引き分けた……本来一対一で戦うには向かない《魔法使い》と引き分けるなんて、実質負けみたいなものだよね。私には……力が足りない」
「リリア……」
ただ淡々と話すリリアだが、リオンはその背後に隠されたどうしようもない激情を感じ取っていた。それは怒りという激情だ。
「ハル君を守る。でも覚悟だけじゃ足りない。今の力だけじゃ足りない……それが私には悔しくてたまらない。私はもっと力が欲しい。ハル君を守る……守り切れるための力が。あなたもそう思うでしょ?」
「……そうじゃな。さっきの戦いも、妾が全ての力を持っていればどうとでもなった。しかし今の妾の力は欠けたままじゃ。それが悔しくてならん」
二人に共通する悔しさ。それはハルトを守るには力が足りないということ。それをリリアはエクレアとミレイジュとの戦いを通して、リオンはリリアとの戦いを通して学んだ。
「時間があるならそれでも修行をすればいいと思えるけど、今の私達のは時間が無い」
「……ミスラの【未来視】の話じゃな」
「えぇ。もしあれが本当なら、私達に残された時間はほとんどない」
「ではどうすると言うのじゃ?」
「これからパレード当日まで……私ちょっと修行してくるわ」
「はぁ?」
「『姉力』を使いこなすための修行をね。なんとなく必要なことは見えてるから……タマナさんを連れて行ってくるわ」
「まぁそれは良いが……お主、案外脳筋じゃのう。何かあればすぐ修行に戦いか」
「私はそれくらいしか強くなる方法を知らないのよ。勉強は嫌いだし」
「くく、確かに言えておる」
「今日ハル君と戦ったのもそのためだしね。この数日の間に少しでも強くなれるように、今の私の力を知っておいて欲しかったの。私がいない間の訓練は非情に、ひっっっじょうに不服だけど、あなたに任せるわ」
「うむ、一言余計じゃが任されたのじゃ」
「それじゃあさっそくだけど行ってくるわ」
「なんじゃもう行くのか? 主様が起きるのを待たんのか?」
「えぇ、これ以上ハル君の顔を見ていたら決意が鈍りそうだもの。たった数日……されど数日、私はハル君と会えないのよ? 今だって体が震えそうなくらい辛いのに、ハル君の声なんか聞いちゃったらもう耐えれるはずがないもの」
「な、なるほどの……」
「ハル君のことよろしくね」
そう言って名残惜しそうな顔をしながらも、リリアは膝枕を止めて立ち上がる。リリア達が戦っていたのは魔物避けの街灯も多くある場所なので、魔物に襲われる心配も少ない。何かあってもリオンがいれば大丈夫だとリリアは信じていた。
「私は絶対に……ハル君を守ってみせる。たとえ、誰が敵であったとしても」
その決意と共に、リリアは修行へと向かうのだった。
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次回投稿は10月10日21時を予定しています。




