第116話 『空風花』
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リリアの指導を受けながら素振りを終えたハルトはつかの間の休息をとっていた。
「大丈夫ハル君、だいぶ疲れてるみたいだけど」
「う、うん。確かに疲れてるけど……でも大丈夫だよ。このくらい乗り越えられないといつまで経っても姉さんに追いつけないしね」
「ふふ、ハル君ならきっとあっという間に私よりも強くなれるわ」
「そうかな?」
「もちろん。お姉ちゃんの言うことを信じなさい」
「ボク……ちゃんと少しずつでも強くなれてるのかな」
自分の強さというのはなかなか自覚し難いものだ。リリアは魔物と戦い続けた経験があり、自分の強さがどの程度のものかを知っているがハルトは違う。まだ実戦経験も浅く、競い合う相手がいない。ハルトの強さの標となっているのはリリアやエクレアといった未だ遙か先にいる存在だけ。
もちろん最終的にはリリアやエクレアに追いつきたい、追い越したいと思っているハルトだが、今のハルトに足りないものの一つは身近な目標となる存在だった。
「ハル君は自分でも思ってる以上に力をつけてる。それは間違いないわ。焦っちゃダメ。焦りは視野を狭くするから。今のハル君に必要なのは貪欲さ。どこからでも、何からでも吸収して、身につけてやるんだっていう気持ち。それがあればハル君はずっとずっと強くなれる」
「貪欲さ……か。ボクに足りないもの……」
「差し当たってはまず。私から盗めるものを全て盗んでみなさい。あ、でも私の心はとっくの昔にハル君に盗まれてたわね」
「何言ってるのさ」
「事実だもの。今も昔もそれだけは変わらないから。さ、それじゃあ強くなりたいハル君のために続き、始めよっか」
「え、まだもうちょっと休憩したい……」
「ダーメ。こうやってお喋りできるくらいには回復したんだから。さ、木剣を握りなさいハル君。ここからはもう優しいお姉ちゃんタイムは終わりだよ」
「うぅ……そうだよね。いや、うん。これぐらいじゃないとダメなんだ。行くよ姉さん
!」
「うん。どこからでもかかって来なさい」
立ち上がったリリアはハルトの目にも見えんばかりの魔力を全身に漲らせる。その圧力は以前ハルトが戦ったロックゴーレムよりも上で怯みそうになる心をハルトは無理やり奮い立たせる。
少し休憩したことでハルトの体力もわずかではあるが回復している。残った魔力を絞り出し、その身に纏う。先ほどの訓練の成果が少しは出ているのか、いつもよりもスムーズに無駄なく纏えていることにハルト自身は気付いていなかった。
これからハルトとリリアが行うのは模擬戦だ。といっても、ハルトとリリアの実力の差は歴然としているので、リリアから手を出すことは無い。
「すぅ……はぁっ!」
「甘い。動きが直線的過ぎる。フェイントも無しじゃこうやって……」
「う、うわぁっ!」
「受け流されて、力を利用されるだけ」
今のハルトが出せる全力のスピードでリリアに向かっていったが、あっさりと受け止められ、しかもその力を利用されて後方に流される。その流れに逆らえなかったハルトは情けなく転んでしまう。慌てて立ち上がり、振り返るがすでに遅い。ハルトの首筋にリリアが木剣を突きつけていた。
「これで一回。今のが実戦ならハル君はもう死んでる。わかってるよね」
「……っ、あぁ!」
先ほどの宣言通り、今のリリアは非情だ。ハルトが転んだ姿を見ても手を貸すことは無く、追撃をしかける。そして実戦なら殺せていたという現実を押し付けるのだ。
蔑むようなリリアの目に心を刺激されたハルトは感情のままに立ち上がり、そして斬りかかる。しかしそれすらも予期していたかのようにスッと身を引いて躱すリリア。一度、二度と連撃を加えたハルトだが、感情的なままの攻撃など造作なく避けることができる。
「感情的になっちゃダメ。いつも言ってるでしょ。感情のままの攻撃は読まれやすい、読みやすい。そんな隙を晒して生きていけるほど戦いは甘くない」
「っ! あぐぁっ」
「一回、二回、三回……ほら、もう三回死んだ」
ハルトの攻撃をかいくぐりながら、足、腕、胸と目にも止まらぬ速さでリリアは攻撃を加える。手加減をしているとはいえ、それなりの強度を誇る木剣で攻撃されれば痛みはそれなりのものになる。
「つぅ……」
「痛くても目を閉じちゃダメ。しっかりと見ること。じゃないと攻撃を防ぐことも、避けることもできない」
アドバイスをしながらリリアとハルトは撃ち合う。リリアの攻撃はハルトの反応できるギリギリを狙って繰り出されており、ハルトは攻撃をくらいながらもリリアのアドバイスを吸収して対応する。
それどころか、リリアの攻撃の合間を縫って反撃まで狙うようになってきていた。
「そう。それでいい。隙を見逃がさないで。じゃあ、もう少しペース上げるから」
その宣言通り、リリアはさらに攻撃のペースを上げる。必死に食らいつくハルトだったが、次第に反応しきれなくなっていく。
(あぁダメだ……今のボクじゃこれにも反応できない。まだ全力じゃない姉さんの攻撃にも……反応できない。せめてもう少し体力があったら……いや、そんなのいいわけにもならない。姉さんだって言ってたことだ。これが今のボクの限界? この先にたどりつけるのは? いや、違う。ダメだ。今だ、今ボクはもっと先に手を伸ばしたい!)
湧き上がる強さへの渇望がハルトの意識を覚醒させる。ちゃんと見ろとリリアは言った。そして、ハルトが乗り越えられない攻撃をリリアはしない。つまり、今のリリアの攻撃はハルトでも対処できるものであるということだ。
ならば乗り越えなくてはならない。用意された壁を乗り越えることすらできなければその先に行くことなど夢のまた夢なのだから。
「う、あぁああああああっ!」
「っ!」
リリアの攻撃を受け続けているだけだったハルトはそこで初めて反撃に成功した。全てを捌き切ることはできない。だからこそ被弾を最小限に、しつつリリアの攻撃の間隙を縫って木剣を突き出した。
これにはさすがのリリアも一瞬瞠目する。ハルトが受けきれる限界ギリギリの攻撃をしていたリリアは、まさか反撃をしてくるとは思っていなかったのだ。
ハルトの反撃に、思わず身を引いてしまったリリア。それを見たハルトはこのチャンスを逃すまいと一気に攻撃を仕掛ける。
(今のボクができる全力を、姉さんにぶつける!)
地面を蹴って高く飛び上がったハルトは自身の持てる最大の技を行使する。
「——『地砕流』!」
その破壊の一撃を目前にして、リリアは笑う。ハルトがまた一つ自身の殻を破ったことを感じたから。だからこそリリアも新たな技を見せることにした。
「——『空風花』」
「……えっ?」
次の瞬間、リリアに攻撃を加えようとしていたハルトは自身が宙を舞っていることに気付いた。動こうとするハルトだが、空中ではどうすることもできずにそのまま地面に叩きつけられる。
「——っ! ゴホッ、ゴホッ……」
ろくに受け身もとれずに地面に叩きつけられたハルトは肺の中の空気を押し出され、思わずむせてしまう。
「手加減はしたわ。立てるでしょう」
「ハァ、ハァ……う、うん。い、今のは?」
「『空風花』。私が父さんに教えてもらった新しい技。そして、これからハル君が覚える。新しい技よ。でも、今日はここまでね。頑張ったわねハル君」
終わりだと告げられた瞬間、ハルトは力が抜けて座り込んでしまう。そんなハルトに近づいてリリアは言った。
「それじゃあ、また王都まで走って帰りましょうか」
「え?」
「大丈夫、今のハル君ならできるわ」
美しい笑顔を浮かべて言うリリアだったが、今のハルトにとっては悪魔の微笑みに等しいもので、ハルトの地獄はまだ終わっていないと告げるものだった。
書きたいものばかりが増えて時間が足りない……少しづつでも消化していきたいのです。
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次回投稿は8月8日21時を予定しています。




