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第三百四十三話 第一歩

 

 魔王の領土へ向かうため都を発った俺達は、事前に下見をしていたお陰もあってスムーズな足取りで天爛山へと辿り着いていた。

 あとは以前通った抜け道から反対側へと抜ければ、魔王の領土に到着する。


「ルイン君。こっちで合っているんでしょうか? 山道からも大きく外れている気がしますけど……」

「大丈夫ですよ。こっちに通り道があるはずなので……ほら! あの大きな木が目印なんです」

「てっきり迷子になっているんじゃないかと思っていやしたが、ちゃんと道を覚えていたんですかい」

「もちろんですよ。魔王の領土まで道のりはバッチリと覚えています。……ただ、魔王の領土に入ってからは完全に未知の世界ですけどね」


 俺がとにかく心配なのは魔王の領土に入ってから。

 誰も近寄らないし過去にも入ったという人がいないせいで、情報を手に入れることができなかった。

 

 なんとか古い書物から道のりを見つけ出せたけど、魔王の領土についての情報のほとんどはアーサーさんからのものしかない。

 それにアーサーさんの情報って言っても、とにかく危険な場所という曖昧な情報だけだからなぁ。


「魔王の領土は、踏み入ることすら禁忌とされている場所ですからね。アーメッドさんに連れていかれて様々な場所へ行きましたが、正直一番緊張しているかもしれません」

「今回はエリザの奴がいないでさぁ。エリザならなんとかしてくれると言う信頼だけはありやしたからね」


 完全に未知の領域である魔王の領土を目の前に、珍しく弱音を吐いたディオンさんとスマッシュさん。

 少し心配になり、俺は振り返って二人に励ましの言葉をかけようと思ったのだが……呟いた弱音とは裏腹に、強く信念を秘めた目でまっすぐに前を向いていた。

 

 二人と同じ気持ちでいる俺だから分かるが、恐怖よりもアーメッドさんのためを思う気持ちの方が強いのだろう。

 励まそうなんていうのは、余計なお世話だったかもしれない。


「お二人共、見えてきましたよ。あの狭い隙間の先が洞穴になっています。そしてその先を抜けていけば――いよいよ魔王の領土です。引き返すなら今ですがどうしますか?」

「ルインはどうするんでさぁ? あっしらが引き返したら引き返すんですかい?」

「俺は一人でも行きますよ。二人が引き返したとしても行きます」

「……なら選択肢は一つでさぁ! あっしらはルインについて行きやすぜ。エリザにも頼まれやしたし!」

「ですね! 例え死地だとしても、一緒に死ぬまで戦わせて頂きますよ」

「大丈夫です。俺が絶対に二人を殺させませんので! ――そして、またアーメッドさんとお二人を再開させてみせます」


 俺はそのために鍛え、僅かな可能性を信じてここまでやってきた。

 絶対にディオンさんとスマッシュさんを殺させはしないし、アーメッドさんを生き返らせてみせる。

 拳を強く握り絞めてそう誓い直し、俺は洞穴を目指して再び歩を進めた。



 俺を先頭に真っ暗な洞穴を抜け、二度目の魔王の領土が眼前に広がる。

 夜が明けることはなく、ドラゴンがあちこちにいるようなそんな世界——をどうしても想像してしまうがこの間見た景色と大差はなく、帝国側とさほど変わらない山の風景が目の前に広がっていた。


「あれ? ここはもう魔王の領土なんですかい?」

「そうですよ。洞穴を抜けた時に魔王の領土に足を踏み入れました」

「いきなり襲われて、次々と魔物が現れる――そんな想像をしていたんですが、先ほどまで至って風景は変わりませんね」

「まぁ魔王が治めている領土といっても、結局は王国や帝国、皇国と一緒の世界ですからね。圧倒的な差はないんだと思います」

「あっしは死ぬ覚悟を持って足を踏み入れたんですぜ? 流石に期待外れでさぁ」


 残念そうに呟いたスマッシュさんだが、今襲われないからといって安全という訳では決してない。

 この先に友好的な生物はいないため、常に警戒していなければいつ死んでもおかしくない場所に俺達はいる。

 

「土地に関して違いはないと言いましても、この先に人間はいませんからね。出会う生物全てが敵です。人間と同程度の知能……例えば魔人なんかに出くわせば、討伐隊が組まれて地の果てまで追われる可能性だって高いんですから」

「ですね。ここからは過酷な生活となります。足を踏み入れたばかりですし、気を緩めるのは早いですよ」

「…………そう考えると一気に怖くなってきやした! あんま脅さないでくだせぇ!」


 魔王の領土について各々感想を言い合いながら、俺達は天爛山を下山する。

 天爛山に出現する魔物は皇国側とほとんど変わらず、警戒が無駄と思えるほど特に何か起こることなく下山することができた。


 山を下りると広がっているのはたくさんの木々。

 皇国側のように道が整備されていることはなく、岩肌が剥き出しだがその分視界が良好な山より、進みづらそうな森のようになっている。


 この森が『生命の葉』が生息する『トレブフォレスト』であれば、危険な目にあることもなく採取することができるのだけど……そこまで甘くはないだろう。

 まずは『トレブフォレスト』を探すため、ひたすら足を使って移動しまくりどんな些細な情報でも集めていく。


 もちろんのこと聞き込みでの情報収集は不可。

 持ち合わせている情報は本に記載されていた曖昧な情報だけ。


 あとは……アーサーさんが話していた真っ暗な森という情報。

 とにかく昼でも暗い森を探しつつ、慎重に魔王の領土を進んで行こうか。



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― 新着の感想 ―
[一言] 質問サイトに届くくらいの質問ではあるけど、『回答 ありでいいんじゃない』だし『ファンタジー植物は動物っぽい場合もある』から気にしなくていい。
[気になる点] 生息する?自生する?どちらやろか
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