5 追いつきたい相手
「美周。……悪かったな」
前を歩いていた美周に、僕はそう声をかけた。すると、美周が振り返って僕の顔を見た。
「なにがだ」
「いや、見張りのことを口止めされてたのに話してしまったことについてだけど」
美周はそんなことかと言わんばかりの表情で、苦笑をもらした。
「そんなことは気にするな。もともと口止めしなきゃいけないようなやり方をした僕も悪いんだ。どうせすぐにばれることなのに」
「ばれるってわかっていたのか?」
「それはそうだろう。お前の場合、すべての嘘が顔を通して丸見えだからな。ちょっと揺さぶれば、嘘をつけない体質のお前が、ぺらぺらと本当のことを話してしまうだろうことはわかっていたのだ。そんなのに口止めを頼んだ僕が間違っていた」
「なんなんだ。そのあからさまに馬鹿にしたような物言いは」
「これでも褒めているつもりなんだがな」
褒めている? 美周が僕を褒めるなど、それこそまかり間違ってもありえないだろう。
僕が疑惑の視線を送ると、また美周は苦笑した。
「まあ、さすがにさっきのアレには困ったがな。沙耶くんがあんなに食いさがるとは」
さっきの美周と沙耶ちゃんのやり取りは、見ているこちらもはらはらとした。しかし、それとともに嫉妬に似た感情が沸き起こってくるのも感じていた。
結局二人とも、哀しいまでに相手を思い遣ることで生まれた衝突なのだ。相手に傷ついて欲しくない。そこにあったのは、結局その思いだけ。見ていてなんだか、とても切なくなってしまった。
「言っておくが、僕が見張りをし続けるのは、それしかあの夢の対処法が見つからないからだ。損な役回りをすることで、沙耶くんの僕に対する評価をあげようとか、そういうつもりはない」
「あ、ああ……」
なんだか僕の考えを見透かされているようで、言葉に困った。
「それに、依然としてお前のほうが有利なことには変わりない」
有利? 確かに幼なじみ同士で同じ剣道部員でもある。接する機会が多いというのは有利と言えなくはないが、恋愛に関しては、そういうことだけではない部分が大きく左右するように思う。
「有利か不利かといったら、どちらかというと美周のが有利だろ」
美形で優秀。おまけにファンまでいるくらいだ。例にもれなく身長だって高い。身長百六十センチの僕には、普通に考えたら勝てる要素が見つからない。
「いいや。間違いなく、今のところは僕よりお前のが分がある」
断言するように、美周はそう言った。
「しかしまあ、今のところは、だ。必ず僕はお前を追い抜いてみせる」
美周はそう言うと、僕に背中を見せて先に歩いていってしまった。
美周の言葉の根拠がなんなのか、まったく想像がつかなかった。それは勘違いというものではないのだろうか。追いつかねばならないのは、僕のほうなのだ。美周とのこの確たる差を、なんとかして縮めていかなければならない。しかし、そうは思うのだが、どうすれば縮めることができるのだろう。縮めよう縮めようと努力しても、すぐにぐんと引き離されていっているような気がする。思いの大きさだけは負けてはいないつもりだが、それだけではどうしようもない。神様は不公平だ。なんともやり切れない思いだけが、心に積もっていく。
僕が大きくため息をつきながら天を仰ぐと、木漏れ日と共に揺れていた木々が、ざわめくように波打った。




