239 友人の応援
「あはは、いっくんもそりゃ拗ねるよ」
昼食後、朝に樹が微妙に不貞腐れていたのを不思議がった千歳に呼び出されて事情を聞かれた。
素直に話せばあっけらかんとした笑いでべちべちと背中を叩かれるので眉を寄せるが、千歳の攻撃はやみそうにない。やむどころか「これだから周は」と呆れすら滲ませて激しくなっている。
「いっくんも色んなところに交友があってコネがあるのに、真っ先に頼ったのが別の子って、そりゃあ拗ねたくもなるよ。一番仲良しなのはまひるん除けばいっくんなんだからさあ」
「うっ、そ、それは申し訳ないと思ったんだけどさあ」
丁度バイトのお誘いがあったので木戸を頼ったのだが、樹にはそれが面白くなかったのだろう。周としても、一番同性で仲が良いのは樹であるし、今まで樹を頼ってきたので、今回のけ者のようにしてしまった事を申し訳なく思っていた。
「いっくんは頼ってほしかったと思うんだよねえ。親友っていう自負があるし」
「……本当に悪いと思ってる」
「まあ、反省してるならまた他の事を相談したら? もちろん、私にも」
にっこりと笑って周を見上げる千歳に、周は頬を引きつらせた。
「……もしかして、千歳も怒ってるか?」
「うふふ」
妙ににこやかで裏表のなさそうな笑顔であるが、目が笑っていない。いつも屈託のない笑顔を浮かべる千歳であるが、今は純粋な笑顔とは言い難かった。
「まあ、そりゃあね? 一年半くらい仲良くしてるのになぁんにも相談してくれないんだーって悲しくなるよねえ」
「うぐっ。ほ、本当に悪かった。次からは気をつけます」
「まったくぅ。水臭いんだから。というか、私達に言わないって事はまひるんに内緒にするって事も出来ないんだからね? サプライズしたいんでしょ?」
「……ごもっともです」
「なら、ちゃんと言ってくれなきゃ困るよ」
ぽすぽすと脇腹を殴られたが、こればかりは周の自業自得なので止められはしなかった。
千歳はしばらくうりうりと周を拳でいじめた後、仕切り直しと言わんばかりに大きく息を吐き出す。
「まあ、周がまひるんと将来を考えてるのは分かりきってたし、改めてまひるんが大好きなんだなって理解した。周って昔からは考えられないくらいにデレッデレだよね」
「やかましい」
自分でも昔よりずっと真昼に甘い事は分かっているし、前より他人との距離が近くなったのも感じている。それは真昼だけではなくて、樹や千歳達のお陰だろう。
デレデレ、という表現がほんのり不服ではあるが、真昼に惚れ込んでいる事には変わりなく、否定出来るものでもない。
それはそれとして指摘されて面白いものではないので、どうしても眉は寄ってしまう。
「とにかく、俺はもう決めたから。だからその、協力してくれると、嬉しい、です」
女性の視点での手助けもほしいし、純粋に友として力を貸してほしいので、きっちりと腰を折って頭を下げると、呆れたようなため息がつむじに降ってくる。
「頼まれなくてもしてあげますーなんたって親友殿の幸せのためですからー」
「千歳……」
「もちろんまひるんの事だけどね? 周は水臭いのでランクダウンですー」
「ぐ……それは仕方ない」
「ふふ、冗談だってば。二人とも私の大切な友人だもん。うまくいってほしいし、出来る事なら協力するよ」
顔を上げれば、いつもの明るく朗らかな笑顔を浮かべた千歳が胸を張っていたので、安堵したように周も笑って軽く千歳の肩をこつんと叩いた。





