155 すれ違いと確認
マンションまで戻ると、行きがけにすれ違った男性がマンションを見上げているのが見えた。
まさか周が住まうマンションが目的だとは思わなかったのでつい立ち止まって男性を見てしまう。
やはり、見慣れた髪色だった。
後ろ姿しか見ていないので分からないが、大柄という訳ではない。周と同じか周よりやや低いくらいだろう。
彼は頭を上向かせてマンションを見上げている。
表情はこちらからでは窺えないものの、ひたすらにマンションを見上げているのだけは分かった。
彼が気になるとはいえ、他人に声をかける訳にもいかず、通り過ぎるしかない。通りすぎて急に振り返っても怪しまれるだろうし、男の顔を確認する事はならないだろう。
ただ、やはり少し気になったので、周は手に提げたスーパーの袋を確認して、歩みを再開する。
彼の隣を通る際、申し訳ないと思いながらも手に持っていたスーパーの戦利品を彼にかすらせてわざと取り落とす。
ちなみに中身は別に分けておいた周のお菓子だったり非常食だったりするので、落としても真昼に迷惑はかからないので安心である。
ぶつかって落とした事で、注意がこちらに向く。
周は落としたスーパーの袋を拾って土を払いつつ、彼を見た。
ある意味で予想はしていたが、やはりといった感情が滲む。
非常に整った、人目を引きそうな端整な面立ちの男性は、こちらの様子に申し訳なさそうに眉を下げた。澄んだ茶系統の瞳からも、罪悪感が伝わってくる。
狙ってぶつかったのはこちらなので、むしろこちらに罪悪感があるのだが。
「すみません、こちらの不注意で」
「いや、こちらこそこんな所で立ち止まっていてすまないね。邪魔になっただろう」
落ち着きと穏やかさを兼ね備えたような柔らかな低音で謝罪され、周は改めて「いえ、こちらが悪いので」と頭を下げておく。
確認したい事は確認出来た。確証はないが、恐らく周の予想通りの人だ。
そのまま周は彼の横を何事もなかったかのように通りすぎていく。
彼にとって、こちらに心当たりはないだろうし、疑われる事はほぼない。
たった数十秒の出来事だったというのに妙に緊張してしまったのは、自分の愛しい女性にかかわる事だからだろう。
ふぅ、と息を吐いてマンションの入り口までやってきた所で――丁度、その愛しい女性が姿を現した。
「お帰りなさい周くん」
まさかエントランスまで降りてくるなんて、というか迎えにくるなんて全く予想しておらず狼狽してしまう周に、真昼がきょとんと不思議そうな瞳を向けてくる。
「なんですかその顔」
「い、いや……わざわざここまで出てきてどうしたんだ、と」
「いえ、さっきメッセージでもうすぐ帰るって送ってきたでしょう? 頼んだ荷物多かったですし、私も手伝おうと思って」
「そ、そうか」
純粋に周の荷物を分けて運んでくれようとしたらしい。先程の男性の正体を確認する時点で心臓に負担がかかっていたというのに、真昼が出てきてしまって余計に鼓動が早くなっていた。
これで真昼が彼の存在に気づいてしまったら、と思わず後ろを振り返ると、先程まで十数メートル先に居た筈の彼は、姿を消していた。
(……真昼に会いに来た訳でも、会った帰りでもない?)
真昼の様子から後者はまずあり得ないが、真昼に会いに来た場合真昼の姿を見て近寄ってくる筈だ。立ち去る道理がない。
では、彼は何のためにここまでやってきたのか。
わざわざ真昼の住むマンションの前までやってきて、真昼の住む階の辺りを視線で追ったのか。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ」
幸か不幸か気付いた様子のない真昼に小さく安堵しつつ、荷物を持ちたそうにしている真昼に先程のおやつの入った袋を手渡して、周は真昼と共にエレベーターに乗るのだった。
活動報告に口絵その3公開してますー!
まひるんがすごく可愛いので(語彙力)よろしければご覧にください(´∀`*)
あとさりげなく目次と小説ページにお隣の天使様の書影をぺたんと貼り付けておきましたー!





