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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第12章 高校生活 こぼれ話篇
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第547話 暮石へのリークはお好きですか? 1



「簡単に騙されちゃって。馬鹿な女」


 事件が起きたあの日。

 あの日、あの時、あの朝。


「は?」


 鳥飼あかねは、振り返った。

 そこには、飄々とした表情で壁に背を預けている霧島が、いた。


「お前……」


 鳥飼は霧島に走り寄り、胸倉を掴む。


「ちょっとちょっと! 暴力反対! 平和大好き! ラブアンドピース!」


 鳥飼に折檻されないよう、霧島が両手を上げ、降参する。


「何?」


 鳥飼は霧島の胸倉から手を放した。


「別に、何も?」

「は?」


 鳥飼は霧島を睨みつける。


「馬鹿な女?」

「いやぁ、まさかまさか。僕があかねちゃんにそんなこと言うわけないじゃないか!」

「……ちっ」


 鳥飼は舌打ちをする。


「そう聞いただけで」

「あぁ!?」


 鳥飼は再び霧島に掴みかかる。


「なんで聞いただけなのにこんな目に遭ってるのさ、僕はぁ!」

「いちいち言わなくても良いんだよ、そんなこと」


 鳥飼は額に青筋を立てながら、霧島の眼前で睨みを利かす。


「それに、あかねちゃんのことじゃないのに!」

「……はぁ?」


 何が言いたい、とでも言いたげな顔で鳥飼は片眉を吊り上げる。


「あかねちゃんのお友達は随分と軽んじられてるみたいで、かわいそうだなぁ」

「……」


 誰のことを言っているのか。

 一体何が言いたいのか。

 霧島の言うことは、いつも雲を掴むように形がなく、分かり辛い。


「誰かあかねちゃんの近くにいる人が、最近騙されたりはしていないかい?」

「……」


 暮石、志藤、上麦の顔が脳裏をよぎる。


「誰かに騙されてるのかなぁ? 僕は全然知らないんだけど、なんだかそう聞いただけで」

「……」


 暮石のことなのか。

 一番騙されやすい友人といえば、まず間違いなく暮石のことである。


「誰の話? はっきり言え」

「いや、だからあかねちゃんの友達が最近騙されてるとか何とか、そんな噂を聞いたってだけで。全然誰のことかは知らないけど」

「……」

「お友達は、大切にした方が良いからね」


 霧島は軽く咳払いをし、歩き出した。


「間違いが起こったら、あかねちゃんも嫌でしょ?」


 霧島は笑顔で、そう言う。


「昔みたいに、ね」


 霧島は鳥飼の肩に手を置き、耳元でそう囁いた。


「お前っ……」


 何故知っているのか。何を知っているのか。

 鳥飼はわなわなと震える。


「なんで知ってる!? 何をするつもりだ」


 鳥飼は剣呑な目で霧島を見据える。


「まさか! 何もしないよ。僕は知ってるだけ。知ってるだけで、何もしない。それが僕のポリシーさ」

「……」


 霧島はおどけた態度で肩をすくめる。


「今度こそ、早く動いた方が良いよ。後悔してからじゃ、遅いからね。それとも、友達が大切なものを失ってから、のこのことヒーロー顔で登場するつもりかな?」

「……」


 鳥飼は歯ぎしりをする。


「ん~、じゃ」


 ばはは~い、と手を振りながら鳥飼に背を向け、霧島はその場を去った。


「……」


 赤石悠人。

 自分の大切な友人を騙しているであろう張本人。

 鳥飼は拳を握りしめ、ゆっくりと歩き始めた。







「急にどうしたの?」


 卒業式を目前にしたある日の夕方、暮石たちは近くの公園に集まっていた。

 暮石、鳥飼、志藤の三人は輪になって話す。


「白波は……」

「来ない、って」

「そっか……」


 暮石と鳥飼との縁を切った上麦は、もう来ない。

 夕暮れが暮石たちの顔を橙色に照らす。


「あかねは、友達だよね?」


 暮石が鳥飼に向かって、不意にそう言い放った。


「え……え?」


 急な告白に、鳥飼は上手く言葉が出てこない。


「うん、そりゃ……そうだよ」


 鳥飼は頭をかく。


「赤石君のことなんだけどさ」

「もういいよ……」


 赤石の話に言及する。

 鳥飼はうんざりとした表情で、ため息を吐いた。


 また罪人が裁かれるのか。

 志藤は熱のこもった目で暮石を見る。


「あかねは赤石君に襲われたんだよね?」

「もう思い出したくない」

「赤石君のせいで身の危険を感じたんだよね?」

「止めて」


 鳥飼は暮石の言及を阻む。


「答えて」

「……」


 珍しく語気の強い暮石に押され、鳥飼は少し面食らった。


「うん……」


 小さく、頷く。


「じゃあさ」


 暮石はスマホを取り出した。


「これ、なに?」


 暮石のスマホには、赤石と鳥飼が映っていた。


「え……」


 赤石と鳥飼に起こった、たった一つの真実。

 

『何故ならお前にとっての友達は、所詮お前の妄想したまがい物だからだ』


 あの日あの時、起きた出来事の全て。


 赤石が馬鹿にしたような表情で、鳥飼を蔑む。


 直後、鳥飼が赤石の腹に勢いよく蹴りを入れる。

 赤石は腹を抱え、体育倉庫の奥の方へと退いた。

 その後、鳥飼はうずくまる赤石の右頬を殴り、腹に蹴りを入れ、赤石は壁に激突する。

 鳥飼は赤石の頬を殴り、蹴り、何度も何度も暴行を加え、そのまま自分の手で、体育倉庫の扉を閉めた。


 体育倉庫の中から聞こえてくるうめき声、そして悲鳴。

 その後、体育倉庫は静寂を取り戻す。


『そ、そういう感じ!?』


 しばらくして、暮石が映される。

 暮石は体育倉庫を開け、赤石と鳥飼を視認した。


『たっ、助けて!』


 鳥飼が体育倉庫から出て来る。

 そこで暮石のスマホに流れていた動画は、終了した。


「これ」


 暮石が光のない目で鳥飼を睨みつける。


「これ、何?」


 鳥飼に、詰め寄る。


「これ、どういうこと?」


 今にも人を殺しそうな剣呑な目で、暮石は鳥飼に詰め寄る。


「……っ」


 鳥飼は暮石から目を逸らし、ただただその場で硬直した。


 ああ。


「あ……」


 神は、死んだ。


「あぁ……」


 志藤は暮石と鳥飼の様子を見て、その場にくずおれた。

 悪が。

 倒すべき悪が。

 殺すべき罪人が。

 裁かれるべき犯罪者が。


 今。

 この場で。

 立場がひっくり返った。


 鳥飼は無言を貫いている。


「三葉……」


 志藤は暮石を見る。

 暮石はゴミでも見るかのような表情で、志藤を見下げる。


「ちゃん……」


 もはや罪人を殺す天使は、友達を殺す殺戮マシーンに、成り果てた。




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― 新着の感想 ―
暮石は赤石への想いと行動を一年潰されたからキレるわな。 このあと、上麦の卒業旅行企画がどの辺りへの配慮だったのが気になる。
上麦は鳥飼が嘘をついていることを見破って縁を切ったんだよね。 贅沢言えば上麦が3人と縁を切る所のそれぞれの心理描写も欲しかった所
霧島が隠し撮りしてたやつを卒業"直前"に 暮石に匿名で流したんだろうな 霧島は性格クズだからしっちゃかめっちゃかが 目的だからな〜 むしろこの後の暮石の行動が怖いよ →高校卒業前にトリの所業を赤石た…
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