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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第11章 卒業式 後編
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閑話 北秀院大学の事前説明会はお好きですか? 4



「お菓子買わない?」


 あらかたカレーの材料を買った船頭たちは、お菓子売り場へやって来た。


「いけません、そんな健康に悪い物」


 赤石が船頭の後を追いながら、ゆっくりと歩いてやって来る。


「健康志向お母さんだ」

「有機栽培の野菜以外認めない」

「厳しいよ~」


 船頭が適当なお菓子をカゴに入れていく。


「悠人のお母さんは健康に厳しい人だった?」

「いや、普通だな」

「うちも普通」


 遅れて、須田と黒野がやって来る。


「でもこういう所で規制すると、一人暮らしになった時にその反動で健康に悪い物ばかり食べたくなる、って言うよな」

「子供のためを思ってやってくれてるのは分かるんだけど、どうも意思疎通がうまくいかないところはあるよね~」


 船頭はにゃはは、と引きつった笑みを見せた。


「健康志向とか、ロクな親じゃない」


 ボソ、と黒野が呟く。


「お母さんはお母さんで、子供に健康でいて欲しいんだろ」

「普通の物食べてる人が長生きしてるんだから、何食べても一緒」

「何食べても一緒なことはないだろ」


 赤石は船頭の隣に立った。


「でも一人暮らししてから反動で健康に良くない物を食べるようになって体壊しました、とかなったら悲しいよな。誰も幸せにならない」

「うちらも大学生なったから、って変なものばっかり食べてちゃ駄目だよね~」

「俺もちゃんと筋肉になる物食べなきゃな~」


 須田はプロテインを探していた。


「おい、お前変な物入れようとするなバカ」

「皆好きじゃない? プロテイン粉末」

「皆好きじゃない」

「リッチチョコミルク味」

「味の問題じゃないんだよ」


 須田はプロテインを商品棚に戻した。


「良い。買いな、須田ち」


 船頭が白い歯を見せながら、親指をくい、とカゴに向けた。


「マジ?」

「お姉さんに全部任せときな、って」

「おい、余計なことを言うな」


 プロテインを取ろうとする船頭を、赤石が制止させる。


「大人を甘やかすんじゃない」

「お姉さんの財力を見せつけてやろうと……」

「これ結構するからな」


 赤石は値札を見せた。


「……」


 船頭は軽く目をしばたたかせる。

 プロテインの値札には、三六二〇円と書いてあった。


「須田ち、また大人になったら買うんだよ……」

「もう立派な大人だろ」


 船頭はよしよし、と須田をなだめた。

 赤石たちがプロテインの論争をしているうちに、黒野は次々とカゴの中にお菓子を放り込んでいた。


「おい暗躍するな、黒野」

「……!!」


 見つかった、と黒野は須田の後ろに隠れた。


「統、そのクズを牢屋にぶち込んでおけ」

「罪重っ!」

「二度と冗談が言えない体にしてやる」

「ひっ!」


 黒野はぷるぷると震えた。


「こらこら、脅かさない脅かさない」


 船頭がよしよし、と黒野の頭を撫でた。


「よし、材料も買ったし、そろそろ会計しよっか?」


 ある程度材料を買い終え、船頭は赤石のカゴを持った。


「とりあえず俺が出すよ」


 赤石は船頭からカゴの主導権を奪い返し、レジへと向かった。


「あ、じゃあ二人は先に出てて良いよ! うちらで一旦会計するから」

「分かった」

「ん」


 黒野と須田はその場を離れた。

 船頭は黒野と須田がその場を離れたことを確認し、


「全然良いよ! 私全部出すから!」


 赤石の隣で、こっそりそう言った。


「なんでお前が全部出すんだよ」

「いや、だって私が誘ったし……」

「そんなことしてたら誘いづらくなるだろ、今後。良いよ、俺が出すから」

「え、さすがに悪いよ」

「こういうのって男が出さないといけないんだろ? 結構調味料とかも買ったし、俺が家で使うのがほとんどだから良いよ」

「えぇ~……」


 船頭が複雑な表情で赤石を見る。


「でも今の時代、男とか女とか、どっちが出すとか出さないとかないと思う……」

「なんか同調圧力みたいなのあるだろ。世間の空気と周りからの目に耐えられないんだよな」


 赤石にレジの番が回って来る。


「じゃ、じゃあせめて材料費だけでも割り勘で!」

「まぁそれくらいならいいか。じゃあ後で頼むよ」

「ら~じゃ!」


 船頭はビシ、と敬礼をした。


「いくらなるかな?」


 船頭が値段を予想する。


「四二八六円」


 赤石が即座に回答する。


「もしかしてカゴに入れた商品の値段、全部数えてたの!? すっご! 私五〇〇〇円くらいかと思った……」


 会計は、五一九〇円だった。


「全然数えてないじゃん!」

「自信がなくてもすぐに返答する。これがポーカーの基本だぞド素人」

「いや、全然知らないけど。しかも私の方が近いし」


 赤石はカゴを持って、サッカー台へと向かった。

 須田と黒野が、待っていた。


「遅かった」


 黒野がカゴの中身を見ながら呟いた。


「何もしてないのに文句ばっかり言うな」


 袋詰めくらい手伝え、と赤石は黒野にレジ袋を渡した。


「いくらだった?」


 須田が赤石の背後から袋詰めを手伝う。


「一万二千七百円」

「嘘吐き!」


 つらつらと出て来る嘘に、船頭が言葉を挟む。

 赤石は須田に、レシートを手渡した。


「やっす! 二十四時間営業なのに安いとか最強じゃん」

「これから四年間お世話になりそうだ」


 赤石は店内を見渡した。船頭もつられて見渡す。


「また作戦会議する時はいつもここ来ようね~」

「くぅ~、俺大学生活すげぇ楽しみなってきたわ!」

「……」

「黒野ちゃんも!」


 船頭が黒野の背中をバシバシと叩く。


「まぁ……呼ばれたら来ないでも、ない……」

「にゃはははは! 恥ずかしがり屋なんだから~!」


 赤石たちは袋詰めをし、家へと向かった。







「ただいま~」


 赤石の家のドアが開けられる。


「わ~、ここが悠人のお家か~」


 いの一番に家に入ったのは、船頭だった。


「なんか男の子の匂いがする」

「臭いって言いたいのか」

「いや、なんだろう。なんか、男の子の匂い」

「臭い」


 黒野が鼻をつまみ、部屋に入って来た。


「お前はバルコニーで一人カレーでも食ってろ」

「男って本当、どいつもこいつも臭い」


 黒野が鼻をつまみながら、リビングにカレーの材料を置いた。


「日本の法では、こいつを罰することは出来ないのか?」

「大丈夫だよ! く、臭くないよ!」

「ちょっと臭い時のリアクションだろ、それ」


 船頭が必死に赤石をフォローする。


「俺は全然何も思わないけど」

「お前は男だからだろ」


 須田がよっこらせ、と赤石のベッドに座った。


「ベッド乗るなら服脱げよ、統」

「キャーーーー―! 悠人のえっち!」


 誤解した船頭が手で顔を隠す。


「エッチじゃないんだよ」


 赤石は須田を立たせた。


「ごめんごめん、いつも座ってたから」


 悪い悪い、と須田は頭をかく。


「早くカレー」


 黒野は机の近くに座った。


「お前も作るんだよ」

「料理は下賎の人間がやる仕事」

「お前にうってつけじゃねぇか」

「ほらほら、皆でやるよ、お料理」


 船頭がパンパン、と手を叩き、袋から材料を取り出した。


「冷蔵庫開けて良い?」


 冷蔵庫に手をかけ、船頭が赤石に聞く。


「ああ」

「ありがと」


 船頭は冷蔵庫を開けた。


「なんか冷蔵庫の中見られるくらいなら裸見られた方が良い、って人もいるしさ」

「理解できない感情だな」


 船頭は買ってきたジュースを冷蔵庫の中に入れる。


「逆に、冷蔵庫の中を見ないから裸を見せてくれ、ということも出来るということか」


 赤石はハッとする。


「日本の法律で罰せない男……」


 黒野が不審な目で赤石を見る。


「ほら、黒野ちゃんも一緒にカレー作ろ?」


 船頭はカレーの材料を机の上に出していた。


「料理は男の仕事」

「バカなこと言ってないで、ちょっとはお前も働け」

「嫌だ~!」


 黒野は立ち上がる意思を見せない。


「仕方ない。働かざる者食うべからずだ。お前は生米でもボリボリ食ってろ」


 赤石は黒野の前に、計量カップに入ったままの生米を置いた。


「……」


 黒野は渋々ながら、立ち上がった。


「ふん、バカ石」

「語感の良い悪口を生み出すな」


 黒野は赤石に小言を言いながらも、キッチンへとやって来た。


「よし、じゃあ早速皆でカレー作り始めよ~!」


 お~、と船頭は腕を持ち上げた。




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