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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第22話 須田統貴はお好きですか? 2



「なぁ統、小学校の頃ドッジボールとかやらなかったか?」

「ドッジボールかぁ、懐かしいなぁ。やったやった。それがどうしたんだ?」

「あのドッジボールって地域によって差はあるのかもしれないけどさぁ、俺らの所、ドッジボールの強い二人がじゃんけんして、勝った方が自分のチームに入れたい奴を選んで、負けた方はその次に選んでそれを続けるんだよ。それで最後の方とかもうじゃんけんとか適当になってさ、選ぶのも適当で、俺ドッジボール別に強い訳じゃないから大体最後の方に残ったんだよな。あれさ、今思うと、この社会の縮図だよな。力がない人間は最後まで残っちゃうんだよ」

「まぁた、お前は卑屈な事を。赤石節が効いてんなぁ、赤石節が」

「なんだよ赤石節って」

「そういや俺もそんな感じの面白い話あるぜ」

「別に面白い話ではなかったんだけどな」

「俺とお前って腐れ縁じゃん? 腐れ縁ってさ、単語だと離れたくても離れれない、みたいな意味だろ。でも口語にすると『腐れ、縁!』って感じで意味が変わって来るよな」

「いや、腐れ縁は好ましくない関係の時に使う言葉だから『腐れ、縁!』でも意味は同じなんじゃないか。縁が腐って欲しいのに腐ってくれないんだろ」

「マジかよ、全然面白くなかったな」

「まぁ、お前は大体毒にも薬にもならない話が多いからなぁ」


 赤石と須田は二人で益体もない話をしながら、昼食を取っていた。


 生徒たちは花を愛でながら昼食を食べ、スマホで桜をバックに写真を撮り、それからは一切喋ることなくスマホを見ながらご飯を食べている。


 赤石はそんな生徒たちを白眼視する。


「あいつら桜をバックに写真撮って、それを投稿することに躍起になって友達と話したりしないよな。桜だけ友達と撮って後はご飯食べながらスマホにかかりきりになるって、もう何が友達か分かんねぇな」

「出た、赤石節! お前また赤石節の悪い所出てるぞ? まぁ、人それぞれだからなぁ。俺はああいうの、良いと思うぜ」

「まぁお前ああいうの好きだもんなぁ。祭りとか花見とか何回お前に連れていかれたか分からねぇよ」

「んなこと言ってお前も祭り来たら馬鹿みたいにはしゃいでたじゃねぇか」

「あっ、あれは来たからには精いっぱい楽しんだ方が良いと思ってだな!」

「またまた~、詭弁だろ~」

「まぁ、確かに詭弁だな」


 赤石は須田の前では、素直に自分の発言を訂正する。


 須田は赤石とは、真逆の人間だった。

 人との交流を好み、赤石の好まない多くのことを、須田は好んでやっていた。

 先程赤石が白眼視していたSNSツールへの投稿も、須田は好んでやっている。

 だが、不思議と赤石と須田は妙に馬が合った。

 

 須田は桜を撮っている女子学生から視線を外し、別の学生のいる場所を指さした。


「ま、あんな風にバカやってる奴らもいるしな。人それぞれだな」


 赤石は、須田が指さす方向に目を向ける。

 三人の男子が学ランの上着を脱いで、遊んでいた。二人は学ランを脱ぎ捨て、一人は学ランを両手に持ち、闘牛をいなすかのように二人の男子を弄んでいた。


「あれはあれで馬鹿っぽいな」

「あははは、面白れぇよな。俺らも同じような感じだろ?」

「俺らもかよ!」

「あはははは」


 二人して、笑い合う。

 赤石と須田とは、蜜月というのに相応しい関係だった。赤石は須田の前では、その本性を隠すことなく、言葉遣いも砕けたものになる。


「あ、そういえば俺、最近お前の噂耳に入ったぜ」

「俺の……噂……? 俺が改造人間だ、とかか?」

「お前改造人間だったの?」

「いや違うけど」


 益体もないやりとり。


「いや、全然そんなじゃなくてさ、お前とあれ……誰だっけ、あの野生児っぽいあの子……えっと」

「八谷?」

「そう、その人! お前と八谷さんが付き合ってるって噂、小耳に挟んだぜ?」

「また変な噂が流れてるもんだな……」


 誰がどこでその噂を流したのか、皆目見当もつかない。


「え、悠本当に付き合ってんの⁉」

「その悠は俺の名前なのかYOUなのかどっちなんだ」

「別にどっちでもいいわ」

「まぁそうだな。話がずれたな。付き合ってるわけないだろ。全然見当違いだ」

「まぁそうだよなー」


 お前が八谷さんと付き合ってるとか想像出来ねぇもんなぁー、と付け加え、須田は明るく笑う。


 一体誰がどんな目的でそんな噂を流したんだろうか。

 きっと誰かのいたずらかなにかだろう。


「まぁどうでもいい話だな。関係ないし」

「違いねぇな」


 須田と赤石とは、互いに得心した。 


「あ、そういや悠、『ツウィーク』に今日の桜投稿したから見てみろよ」

「はぁ、いつ?」


 赤石は手持ちのスマホから『ツウィーク』を起動し、須田のアカウントの投稿を見る。



須田


 学校の桜は、知らない間に散っている。

(画像を表示するにはここをタップ)



 赤石は迷いなく画像を表示すると、眼前の桜の写真が出て来た。


「いや、まだ散ってないだろ!」

「ははははは」

「お前いつ撮ったんだよこんな写真」

「さっきお前が見てない隙に一瞬でな」

「もしかしてプロの方ですか?」

「バレましたか……。これは一本取られましたな」

「もしかしてプロの方ですか?」

「二回言っても二本目は取られねぇぞ!」

「ははは」


 赤石は『ツウィーク』を閉じ、電源を切った。


「じゃあそろそろ戻るか」

「そうだな、もう時間がないな」


 昼の休憩時間が残り一〇分になったことで、二人はそれぞれ教室へと戻った。

 









 キーンコーンカーンコーン。


「起立、礼」

「「「ありがとうございましたー」」」


 一日も終わり、生徒たちの楽し気な挨拶が教室内にこだました。


「ねぇ~、何する今日~」

「私カラオケ行きた~い」

「あ~、超分かる~。分かりすぎ~。でもプリクラとかもマジ良くない?」

「「「それ~~~~~~~」」」


 生徒たちは思い思いにその日一日の遊びの計画を立てる。

 

 教室内に大した友達のいない赤石は足早に鞄に荷物を詰め、教室を出た。


「あっ、待っ……」

「恭子、どうしたんだ?」


 赤石を呼び止めようとした八谷の頭を、櫻井がポンポン、と二回撫でた。


「あ…………」


 八谷は出し抜きに櫻井に二度頭を触られたことで、顔を熱くする。


「今から部活だろ? 行こうぜ恭子」

「あ…………うん、行くけど、ちょっと先生に用事あるから後で行くわ。聡助は先に行ってなさいよ」

「こう言ってるんだし、早く行きましょう。正妻の私が待ってるのよ」

「いや、正妻じゃねぇだろ!」


 八谷とのやり取りを見ていた高梨が割って入り、他の取り巻きを連れて櫻井は放送部の部室へと向かった。


「早くしなきゃ……」


 八谷は荷物を鞄に押し込み、赤石の後を追った。








 赤石の属する高校は自由を校風とはしているが、教育の面にも熱心だった。


 赤石は職員室の前においてある自習机で、勉学に勤しんでいた。

 本腰を入れて数学の勉強をしている中、赤石は肩を二回ポンポンと叩かれた。


 赤石は耳栓を外し、肩を叩かれた方向を見やった。


「赤石、ちょっと時間ある、あんた?」


 そこには鞄を顔の横にやり、何かから隠れているような格好をした八谷がいた。

 

 赤石は黙殺し、再度数学の問題に取り掛かった。


「ちょっと赤石! 私が訊いてるじゃない!」

「うるせぇよ! 職員室の前なんだよここは! お前らの展開に持ち込もうとするな! 静かにしろ!」

「なっ…………何よ……」


 業を煮やし大声を出した八谷を小声で叱咤した。

 八谷たちのようなラブコメ的な展開にならないよう、他者の邪魔にならないよう、諫める。

 

 赤石は続けて言葉を重ねた。


「お前が俺に関わって欲しくなさそうにしてたから関わらないでいてやってるんだろ。早くどこかに行ってくれ」


 冷たく、赤石はそう言い放った。

 だが、赤石の矜持から、そう言うしかなかった。赤石も、無為に八谷との仲を悪くする必要性はなかった。


 今日になって学校に居残って勉学に励んでいるのも、八谷が自分を見つけ出して自分との融和を図ろうとしてくれるのではないか、という浅ましい心算があってのことだった。


「悪かったわよそのことは…………その……ムキになってああ言っちゃったのよ。許しなさいよ! あんただって私の気持ち、ちょっとは分かるでしょ!」

「…………そうだな。俺もムキになった。悪い」


 八谷が融和を図ろうとしたことに、赤石は満足する。

 赤石の矜持は、何があっても赤石に自分から謝らせようとはしなかった。

 事実、ここで八谷が赤石を手放してしまえば、未来永劫赤石は八谷との融和を図ろうとはしなかった。

 

「ま…………まぁ……それだけだから。今後もちゃんと私の恋を見守りなさいよ、あんた!」

「……分かった」


 赤石は二つ返事で返答する。


「じゃ…………じゃあ、私本当に帰るから……」


 八谷がそう言い残しその場を立ち去ろうとした時、


「あっ恭子ちゃんに赤石君!」


 水城が廊下の先から現れた。



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