木枯らし又三郎
街道を一匹歩くは紺の合羽に三度笠、超長い爪楊枝をくわえた猫であった。
「ひぃっ! 助けて!」
黄色い着物の若い娘が、助けを求めて駆けてきた。隠れるは、猫の背中。
「ヒヒヒ……。ねーちゃん、助けを求めたって無駄だぜ」
追いかけてきたのはガラの悪そうな着流し姿の男が三人。すけべな笑いを浮かべ、手をワキワキさせる。
「そいつぁ、猫だ。猫に何ができるってんでぇ?」
「大人しく痴漢行為をさせてくれりゃ、他には何もしねェよ」
「猫さん! 助けて!」
「ボクには関係ないことだニャー」
猫の態度は木枯らしのように冷たかった。
猫の名は『木枯らし又三郎』──その名の通り、心に寒風吹く、冷たい侍猫であった。
男一匹、旅ガラス──猫なのにカラスとはおかしい気もするが、縋る娘を振りほどき、旅の続きを急ごうと──
「注留あげるから!」
「──ニャッ!?」
「助けてくれたら、注留をあげるからっ!」
「ニャニャーーーッ!?」
「ははは! 猫に何ができるんでぇ?」
ガラの悪い男たちが、娘の手から巾着に包まれた注留を取り上げようとしたその刹那!
プッ──
爪楊枝を口から飛ばす又三郎!
飛ばしたあとの口にはまた次々と、生えてくるがごとく出現する、新たなる爪楊枝!
プッ、プッ、プー!
「ぎゃああああ!」
「い、痛ェ!」
「いやあああぁん!」
男どもの乳首にことごとく命中する爪楊枝!
男たちは傷ついた心を押さえて逃げていった。
あとに残った侍猫に、注留をあげる若い娘。
「猫さん、ありがとう」
「ぼ、ボクには関係ないことだニャー」
「うちの猫にならない?」
「ぼ、ボクは男一匹旅ガラスにゃー……。木枯らしのように冷たいオス猫にゃー」
「フフ……。かわいい」
「ニャ……、ニャー……」
「フフ……。なでなで」
「ニャ……ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……」
所詮猫であった。




