第61話 ラフな格好と色気
「まぁ武器にできるかできないかは置いておいて。依頼のために高崎に行くっていうんだから。ある程度の目星は欲しいところよね」
群馬県の高崎といえば、二百年前は交通の要衝として新幹線含め九路線を構えた県内最大のターミナル駅があった場所だ。
かつての栄華は、地表の下にどのような影響を与えたのか。それは依頼内容にあるとおり、高崎は今やリビングメタル発掘で名が知られている場所だ。
リビングメタルは希少価値が高く、発見も困難。その上十ほどのランクが存在する。ランクは純度を意味する。そんなものがグラム単位でも発見されれば、百万円はすると言われているはずだ。
高崎は最初にリビングメタルが採掘された場所で、今や栃木や茨城でも少数ではあるが発見されていて、年間採掘量はどちらも変わらず。億万長者を夢見た冒険者がこぞって穴を掘る、男のロマン溢れる地域とされている。
「最初に発見されたのは、高崎駅の真下にある大きな空間とされています。でも………」
「でも?」
「今は、そんな鉱床だったところが水が溜まってしまって、湖になってしまっていると」
「………マジか」
「ダンジョンって不思議ですよね。そんな水源、どこから来るんでしょうか」
少ないヒントから最短ルートを割り出せるかと思いきや、やはりそう簡単にはいかなかった。
そしてマリアの言う不思議も共感できる。
高崎の真下───実際にどれだけの深度かは不明だが、今いる場所よりかは高いと予想できる。
今、俺たちがいる場所は洞窟で、地下を思わせるが、実際には地上よりもはるか高い場所にあると言っても過言ではない。
群馬、栃木、茨木ダンジョンは共に最標高が四千メートルを超えている。富士山の標高よりも高い。
予想ではあるが、今俺たちがいるのが藤岡で、そこは三千メートルを優に超える標高だろう。
一方で水源は山から運ばれるものが多いものの、ダンジョンでそれが通用するかは不明である。
標高三千メートル近い場所にも水場があるのだ。高崎はもっと高いことが予想できるので、そんな場所に湖規模の水源から水が運ばれる仕組みが理解不能なのだ。
おそらくもっと高い場所。例えば隣接する埼玉ダンジョンなどから。
それは鏡花も予想していたようで、早速口にした。
「予想される可能性のひとつに、雪解け水があるわね。ほら、富岡跡地で見たでしょ? 埼玉ダンジョンから雪崩が降り注ぐところ。いくつもの市に積もった雪が、一気に群馬ダンジョンの地表に瀑布した。あれが溶けたって可能性………うーん、あるものかしらね」
「雪崩が起きる切っ掛けが、あの轟音だ。爆弾が爆発したようなな。けどあれは最近だ。俺が知る限り、数ヶ月前。雪が蓄積したところで、溶けるまでの気温になったとは考えにくいな」
「そうね。今回はあんたが正しいわ。やっと冬が終わったんだもの。冬の間に、高崎の真下にある空間に湖ができたとは考えにくい。つまり雪解け水じゃなくて、なにか別の水源から水が注がれたって考えるべきなのね」
「いったいどこからきた水なんだかな。迷惑な話だぜ」
二百年前のマップをスクリーンに出して、県境から高崎市跡地までの距離を見る。鏡花は隣に並んで、俺の指の間から投射されるスクリーンを見た。すると、フワッと甘い香りがして、心臓が跳ねあがる。
「根本的に、埼玉ダンジョンの地表じゃなくて、地中から湧出したものが群馬ダンジョンに注がれたって考えるべき………なによ。変な顔しちゃって」
歯噛みして顔を反らしたところを鏡花に見られた。
鏡花の接近に気付いて彼女を見下ろすと、熱い湯で体を拭い、洗髪セットで髪を洗った直後ゆえ、体温が上がったらしく、冷ますためにラフな格好でテントの外を出歩く鏡花の首筋が見えてしまった。
彼女のスタイルは抜群に良い。加えて、ラフな格好をする時は決まってダボついたシャツを好んで着用するため、見下ろすとどうしても胸元まで見えてしまう。例えば谷間とか。谷間に生じる影とか。あとは双丘の先………まぁ、形容できぬ色気が、俺のなにかを限界までこみ上げさせる。
「マリア。インモラルブロック機能、付いてるか?」
「配信は一旦お休みにしてます。鏡花さんのこんな姿、見せられませんもん」
「なによ。この格好のなにが悪いっての?」
「悪くはありませんけど、せめて下着くらいつけてくださいね?」
「………ァッ」
隣から変な声が聞こえた。息を呑む音とでも言うべきか。
慌てて胸元を手で隠した鏡花は、テントに戻るついでに俺の尻にローキックをプレゼントにして逃げ去った。
「………助かった」
「いえいえ。鏡花さん、私たちに遠慮しなくなったので、嬉しいですよね」
「俺の場合、心臓がもたねぇよ」
「それは諦めてくださいな」
「勘弁してくれ。いつか尻が四つに割れそう」
鏡花は基本的にしっかりとした性格をしているが、どことなく抜けている面が多くなった。仲間の前では気を許してくれていると思っていいのかもしれないが、だからと言って、毎度ローキックを尻にもらうわけにもいかない。
当初はスパーンと音が鳴るくらいで、特に痛くもなかったのだが、最近にはズドンという衝撃が走るようになった。照れ隠しにしてはキックのレベルが上がっている。先程口にしたように、いつか俺の尻が横にも割れる日というのが、案外近いのかもしれない。洒落にならねぇ。
先が思いやられることもあるが、こうして形になりつつあるパーティだ。今日も俺の正常心や煩悩が揺さぶられたが、問題無く旅路を進む。テントから出てきた鏡花にまた尻を蹴られ、割れるのではと心配はしたが。
翌日のこと。
藤岡を出て高崎に向かう。何回か敵襲があったが、オフェンスに採用された俺が蹴散らして終了。猫に似たモンスターでなければ鏡花は暴走せず、その日はなにもなく終了。
さらに翌日も、二百年前の地図データを頼りに、上越新幹線の路線跡を頼りにダンジョンの分岐を進む。
予想どおり勾配があり、より地表へ近い場所へと移動しているとわかった。
マリアのマネージャーを務める雨宮という女曰く、すでに地上三千メートル以上に達しているとのこと。おそらく、富士山の山頂に近しい高度だろう。エリクシル粒子適合者でなければ、とっくに高山病にかかり足止めを食らっていたところだ。
これまで目立つほどうねるルートではなかったが、高崎跡地に近付くに連れて、左右上下に揺さぶられるような通路となってきた。もし慣れていなければ、一気に体力を消耗していたところだ。
その翌日。依頼を受けた四日目に、俺たちはやっと高崎市跡地に入ることができた。
そして目的地であるリビングメタル鉱床のある、高崎駅跡地へと進むのだが、道中で愕然とするものを見た。
穴である。
修復されつつある古いものから、つい最近掘られたであろう新しいものまで。
まだ高崎駅跡地ではないし、洞窟の道を掘っただけの穴であるが、それだけで冒険者の関心の強さを物語るには十分な情報だった。
「………いくつ発見されたと思う?」
「無いだろうな」
「理由は?」
「どれも中途半端なまま放置されてる。一発勝負で通路にないか掘って調べたんだろうが、結果としては散々だったんだろうさ」
俺の分析に、鏡花は特に異を唱えるでもなく「そうよねぇ」と同意して、洞窟の先を見た。
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書き続けます。穴掘りは男のロマンと信じて。実際に掘るのかどうかは別として!
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