第246話 呪物精霊カウンター
「よう、迅。なにチマチマやってんだ。日が暮れるぞ」
「京一の兄貴!」
「せっかく良いスキル持ってんだ。それを活かせよ」
「………押忍!」
前衛に京一さんが加わったことで、趨勢が動き出しました。
たったひとりの支援です。強敵を前にして、たったひとり。しかし実力は主力級。
今までどうしても切り開けなかった戦況を覆すために要される一手の要。あるいはどうしても足りなかった一手の手数を補える者。
ドロップキックで乱入した京一さんは、迅くんの前に立つと、防戦一方だった彼へ最初に道を示したのでした。
「攻撃ってのはな、こうやるんだよ」
ドロップキックから着地もしていないのに腰を強引に回し、真上に向けて垂直に蹴りを放ちます。
蹴られたのは無数の骨のなかにある、希少な部位。頭蓋骨でした。
インターネットなどで見たことがあります。セパタクローなどの競技を連想させる蹴りは、頭蓋骨を蹴り破ることで多くの骨の指揮権を奪い、数秒ですが飛翔能力を停滞させます。
「せっかくの破壊力があるんだ。あとは精密な攻撃を身につければ、いいとこ行くよ。お前」
「あ、はは………やっぱ、京一の兄貴は遠いっす」
「そうかな。すぐそこだと思うぜ?」
京一さんは周囲を観察し、すぐに動き出します。迅くんは動きません。代わりに龍弐さんが後退し、京一さんのスペースを譲ります。
「キョーちゃん。ちょい後退。疲れたわぁ」
「まだ余裕なくせに。でも、今まで休んでた分は働きますよ。迅もクタクタだろうし、一緒に休んでてください」
「頼んだぜぃ」
京一さんはアルマさんと並びます。
迅くんの前に戻ってきた龍弐さんは、腕で額の汗を拭いながら笑いかけました。
「な? あれが今のお前に足りないもんだよ」
「………実際に失って、もう一回手にしてみるとよくわかるっす。京一の兄貴は、やっぱすげぇ」
「なにがすげぇか、わかる?」
「奏の姐さんでもすぐに見出せなかった、敵の弱点を見抜ける眼力。………いや、洞察力っすか?」
「だな。やっと正解に辿り着いたじゃん。おめでとぉ」
「けど京一の兄貴と同じことできるようになるまで、どんだけかかるやら。気が遠くなりそうっすよ」
「あっひゃひゃ。なら奏にデスゲームのハッピーセットみてぇな修行をお願いしてみりゃいい。最短で魔改造してくれるだろうよ」
「俺、死ぬんじゃないっすか?」
「否めないのが怖いとこだよなぁ」
確かに、そのとおりです。
京一さんが赤ちゃんになって、子供になって。戦線を離脱してからというものの、インフィニティボーンが登場するまで全勝できたものの、なにかと不足した戦闘が続いたのです。
前衛がひとり欠けただけ。とはいえ、迅くんが悪態をつくまでの戦闘レベルの低下は否めません。
しかし今はどうでしょう。京一さんが戻っただけで明確な勝ち筋が見えたのです。
「アルマ、代わる!」
「悪いな。接近戦はどうも苦手でな」
「得手不得手があるだろ。任せとけって」
アルマさんも下がります。
穴の下にいるのは、呪物精霊よりも呪物精霊らしい六衣さんと、京一さんだけとなりました。
私はいつでも京一さんを守れるよう防壁の展開準備を。アルマさんはスキルの制限を付与すべく、腕を掲げます。
「よう、六衣。今日もご機嫌じゃねぇか。俺まで吹っ飛ばそうとすんなよ?」
「いいよぉ。このお友達、すっごく面白いから、京一ちゃんとお友達になるのは後回しにしてあげるねぇ!」
「………確かに、比較対象外だな」
京一さんは、あの六衣さんと背中合わせで並び、宙を飛ぶインフィニティボーンを注視します。
スキルを連発したから、残りは六百本くらいだと思うのですが、呪物精霊の学習能力も凄まじかったのです。
骸骨の姿をすれば二の舞になると判断したのでしょう。より強固な造りをした四足歩行の獣を模ります。
「さっきより早そうだな。六衣、あのクソ馬と同じ方法でやるにしても、リモートで………」
「ポケットを叩けばお友達がふたり! も一回叩けばお友達は四人!」
「………相っ変わらずイカれてやがる」
私もそう思います。
もう制限しなくてもいい戦況だからか、六衣さんはリモート自爆なる遠隔爆発を連発し、インフィニティボーンが模る骸骨を確実に分裂させているのです。
京一さんがドン引きしているのも無理もありません。
とはいえ、確実に無数の骨に損傷を与えているのも事実。爆炎に巻かれた骨は、一度で数十本が破壊されていくのです。
この現象は、インフィニティボーンが防戦に回った証拠でもありました。
弱点である頭部を他の骨で覆って火炎を防いでいるのです。ですが、コアが無事でも防壁は着実に、ゴッソリと削れています。
また、
「あ、左が薄くなってきたよぉ」
「炎のなかに手を突っ込めってか? まぁ、やるけど」
コアが複数存在していると確信を得た時、六衣さんはリモート自爆を各方面に連発し、戦況を伝えると京一さんが動きます。
ふたりにもダメージが与えられる諸刃の剣ではありますが、それでも敵の損失の方が大きいのです。
火葬場まっただなかを直進する京一さんは、ついにコアに肉薄します。
「京一! 炎は俺がなんとかする! 遠慮なくやれ!」
「ありがてぇ!」
次いで、こちらにはアルマさんがいます。
アルマさんのファーストスキル「熱操作」がある限り、京一さんに炎が届くことはありません。
砲火の嵐が吹き荒れるなか、それらがひとりでに京一さんを避ける形が完成したのです。
突き進む京一さんが右手を振り翳し、最後の真っ黒になった骨の壁を突破。コアである頭蓋骨を掴むと、スキルで粉砕しました。
「えひひひひひ! 楽しいねぇっ!」
「………ああ。正直、六衣が味方でいるうちは、この爽快感はなにものにも変え難いよな」
破壊神と破壊神が、笑います。
ふたりのスキルは、呪物精霊カウンターとして効力を発揮し、本来なら上級冒険者であろうが数秒で抹殺できるであろう凶悪なモンスターを、逆に追い詰めていくのです。
「京一ちゃんと一緒だと、楽しいなぁ」
「っ………頼むから最後に抱きついて自爆なんて考えるんじゃねぇぞ?」
「あ、それいいねぇ。絶対やろうねぇ!」
「くそっ! 逃げてぇ!」
今のは京一さんがいけません。六衣さんは、あのどうしようもない性癖がなければ、とても美人です。その美人の笑顔を至近距離で見て、ときめいてしまったが最後。油断が絶望的な失態を招きます。
敵は、敵だけではなくなってきました。味方からも狙われる環境を自分で作ってしまった京一さんは、叫びながら次々と骨を破壊していきます。
そして最後のコアが骨の防壁を爆炎で失った時。京一さんの両手がサイドから迫り、頭蓋骨を折りたたんで粉砕しました。
で、
「お友達になろうねぇ京一ちゃぁぁあああああん!」
「や、やめろぉぉおおおおおお!」
茶番が始まりました。
残心もありません。ディーノフレスターを討伐した際は油断せずに沈黙と緊張のなかで警戒し、トリプルチェックをしたのちに勝利を噛み締めたというのに。
六衣さんは最後のコアが散った次の瞬間、弾丸のように京一に迫るとハグをしたのです。
「ははは。元気だなぁ」
「おふたりはあとでお説教です」
でもこちらにはアルマさんがいます。京一さんに抱きついた六衣さんが自爆しないよう、熱操作で自爆を封じたのです。最初からそれがわかっていた奏さんは悪魔のような笑みを浮かべていましたが、やがて落ち着いたのか、静かに微笑を湛えたのでした。
評価ありがとうございます。
まさか、更新が間に合わなくなってしまうとは。
日曜日に更新できず申し訳ありません。年内最後の更新を、なんの申告もせず本日行いましたことをお詫びします。
なぜかといえば、新作に浮気するためです。書いてしまいました。私にとって初めてとなる異世界転生を。
年末年始にぶち込む予定でありますので、もしよろしければお手に取っていただき、ブクマや評価や感想などをガソリンのごとく注いでいただけると、ここ最近の苦労も報われます。よろしくお願いします!




