第245話 復活の京一
京一さんの足元に転がっていたのは「折畳み」スキルで真っ二つにされた骨でした。
十六歳の頃は一本をへし折るので精一杯のようでしたが、元に戻った京一さんの破壊力は段違いで、十本以上の残骸がありました。
「京一………?」
「よう、鏡花。なんか面白そうなことしてるじゃねぇか。俺も混ぜろよ」
京一さんは、いつもの剛毅な笑みを浮かべたのです。
この安心感は、形容の仕様がありませんでした。
なにがあったのかは、うっすらとだが覚えてる。
けど今は、その全容を思い出すべきではない。
肌で感じ取れる限り、敵対しているのは確実に人間を殺すためにいるモンスター、呪物精霊なのだから。
油断の一切を排し、思考を戦闘モードへと切り替える。
「奏さん。指示を」
「ええ………ええ! 京一くん、すべて破壊しなさい!」
「了解」
この土壇場で俺が元に戻ったからか、奏さんの声に力がこもる。
さて、すべてと言われたが、やはり数が多い。
前衛はすでに迎撃を開始している。約一名、また頭のおかしい攻撃をしている女がいるが、それは参考にしないことにしよう。
で、あれば。
「ふんっ」
手を伸ばし、旋回していた骨を無造作に掴んでみた。スキルは使わなかったため、まだ無傷。
「さーて。この骨………どうしてやろうかな。あ、ごめんな。折れちまった」
もし対人戦なら真っ先に反感を買う挑発行為。
ダンジョンモンスターとはいえ呪物精霊。その知能は高く、ディーノフレスターも喜怒哀楽があった。そのなかの怒りを試してみる。
掴んだ骨を、まずは真っ二つに折る。また重ねては折る。また重ねては折る。
八つまで割いて捨てると、黒い霧となって消えた。
すると、見事に賭けは成功した。ヘイトが蓄積し、巨大な骸骨になる。合計二百本を使った二メートルほどの骸骨となった。
「ガァアア!」
「うるせぇなぁ。いっぱいあるんだから気にすんなよ。それに今から、お前も今の………えっと、親戚? それとも親とか、兄弟とか? そいつと同じ末路を辿るんだから」
「ガアッ! ガァアア!」
軽く煽ってみると、これ以上とないくらい激昂する。
奏さんと打ち合った大剣を拾い、俺に叩き付ける。
「お粗末な野郎だ」
本当、そのとおり。
大剣は自前のではなく、どこかで拾ったものだろう。他の冒険者の装備だったりとかな。
そんな、ただの冒険者の装備を、奏さんのリビングメタル製の強弓とぶつけ合い、そのあとに六衣の自爆を受ければ、ただではすまない。
「ふんっ!」
「ガッ!?」
刃毀れした大剣が俺の脳天に触れる直前、ブローを刀身に打ち込むと、ボロボロと崩壊した。外見からして、あと一撃叩き込めば壊れることはわかっていた。
「じゃ、次お前な?」
大剣をあっさりと失って呆然とする骸骨は、すぐに反応して、ついさっきまでの俺に通用したパンチを繰り出すのだが、右手で受ける。
「学習しろよ。俺との相性最悪だって。これじゃ、どこぞのクソ馬野郎の方がお利口だったぜ?」
メキメキメキッと複数の骨が折れていく。もし肉があればグチャグチャになって垂れ下がるが、骨しかないモンスターの腕は、破壊されればバラバラになって落ちていく。
どうやら破壊された骨は、すぐには治らないようだ。
俺が挑発のために八つ裂きにした骨も、欠片になってその辺に散らばると、最初こそなんの変化も起きなかったが、今では少しの間をおいて、カタカタと音を立てて動き出している。治癒能力があってもおかしくはない。
だが、再生されようと関係はない。数センチ単位の欠片になってしまえば癒着するのにも時間がかかる。その遅さが致命的だ。
左腕を失い重心がずれた、ええと………インフィニティボーンだったか。右腕を突き出すも、それも破壊する。
最後に顔面を掴むと、一気に押し潰すように下へと加圧した。
俺の手に触れているものは、スキルさえ使えれば大抵折り畳める。
「ンギャヒ!?」
ボンッと弾けるように骨の欠片が散らばった。
頭蓋骨がひしゃげ、三本ほど束ねた背骨が潰れ、肋骨が外れ、尾骶骨が真っ二つになる。
正中線にある骨がすべて折れ、周囲の骨は損傷しながらも緊急離脱していく。
なかなかに頑丈だ。鏡花のセカンドスキルさえも受け付けない堅牢な造りをしていたが、俺のスキルなら関係ない。
残った骨は宙を舞い、再び結合していく。
「あ、いいこと思いついた」
合体していく骨どもが下半身を作ったその時。俺はおもむろに手を突き出してみた。
背骨を掴むと、ビクンと震える。しかし途中で中断できないのか、俺の腕の上に骨を合わせていくと───笑ってしまうくらい歪な、右に重心を傾けたような骸骨が完成した。
「ガァアア!」
「離せってか? いいよ。ほら」
「ンバッ!?」
骸骨が両腕を突き出すよりも先に、左足で胸を踏んで、右腕を引き抜いた。スキルで背骨を真っ二つにしてやるのも忘れずに。すると骸骨がまた崩れた。しかしここで分離をそのまま観察するほど呑気ではない。両手で掴めるだけの骨を手にして、ブチ折っていく。
さながらバイオレンスな流れ作業。視界を骨とその欠片が多い尽くすも問題ない。こういうのは慣れている。
例えば、ブチギレた奏さんが発射した分散した末に炸裂する矢の狙撃に、龍弐さん共々巻き込まれたり。あれを生き延びた俺としては、空を飛ぶ骨など、ほぼ止まって見える。
「そこ!」
「ギャッ」
どうやら分散する骨のなかで、最優先に逃亡して安全を確保しようとする狡猾なやつがいたので、腕を突っ込んでキャッチ。やったことはないが、バスケットボールのダンクシュートさながら、スキルを併用して地面に突き付けた。
この骨だけ悲鳴をあげるんだな。と思ったら、頭部だった。人間のそれに酷似している造形をしている。
すると、頭部を失った骨にの、欠片になった方が一瞬で消えた。無事な方はまだ飛んでいる。
「ああ、そうか。頭部の骨がコアみたいな働きをしているか、本体に近いか、頭脳なのか」
「あるいは、その全部という可能性もあるでしょう」
「奏さん」
「お見事ですよ、京一くん。やはり、京一くんはこうでなくてはいけませんね」
無事な方の骨をワイヤーで編んだ網を使って、漁をするように投げた奏さんが俺の近くに立つ。網のなかに閉じ込められ身動きを封じられた骨どもは鏡花がセカンドスキルで圧砕した。
「お帰りなさい。ですが、再会を喜んでばかりではいられません。インフィニティの名を一方的に与えられたにしては八百本ですし、失った途端に再生する気配もありませんが、呪物精霊であることには違いありません。私はいつもどおり、後衛を守ります。前衛の戦闘は継続したままなので………行けますね?」
「もちろん」
悠然と歩き出す京一さん。
もう彼を止められる者はいません。
インフィニティボーンとの相性の良さは、彼の他に右に出る者はいないでしょう。
歩幅が広くなります。力強い疾走。向かう先にあるのは、嵐を思わせる骨の乱舞。そのなかに堂々と乱入しました。
ブクマありがとうございます。
メリークリスマ………あ、もう遅いですね。最近、書き溜めていた新作に再び熱を入れたので、そろそろそっちに浮気しようと思っております。でも投稿するのは来年になると思います。
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