第244話 失せろ骨ども
この世の終わりを連想するような轟音が、私たちの鼓膜どころか脳を破壊せんと押し寄せました。
これでもし、エリクシル粒子適合者ではない一般人───いえ、例えエリクシル粒子適合者であったとしても、レベリングシステムのスキルツリーのように分布する成長する能力値のなかで、音波系の耐久値を向上させていなければ、おそらく即死していたかもしれません。心臓が弱ければ停止は免れなかったでしょう。
私たちの視界を覆い尽くす真紅の炎。そこから先は真っ白になり、暗転。
つまり意識を手放すのですが、今回だけは結果が異なります。
「おおおおおおおおぁぁぁあああああああああ!」
ここには「炎は友達」を謳う、元料理人がいるのです。
アルマさんのファーストスキルは「熱操作」であり、熱源がそこにあれば自在に強弱を操り、方向性さえも変えることができます。これにより六衣さんの凶悪な「自爆」を封じていたのです。京一さんには神だと崇められていました。
そのアルマさんのファーストスキルが、六衣さんの過去最大級の自爆をも操らんと、すぐに効力を発揮します。
戦後に広がる洞窟であるダンジョンで爆発あれば、そこに沿うように、空気を燃焼し押し広げる爆炎が展開されるはずなのですが、アルマさんのスキルによって私たちの頭上に爆炎が展開します。頭上を飛び交う千六百本の鋭利な骨の燃焼に取り掛かったのです。
しかし、過去最大級を謳う六衣さんの自爆の熱量は半端ではありませんでした。
外界の夕暮れよりも赤く煌々と洞窟内を照らす炎は、天井からすぐに下へと、私たちに覆いかぶさろうとしたのです。
「アルマさん!」
「わかってる! この炎と、爆発の衝撃のベクトルを、別方向に逃す!」
挙げていた両腕の、右腕の方をより高く伸ばすアルマさん。
すると、荒れ狂う炎が生き物のように収束し、伸ばした腕の方へと吸い込まれていくのです。私たちに波のように降り掛かろうとするそれも停止し、元の場所に戻り始めます。
無数の骨を燃焼しながら収縮したわけではありません。言動にあるとおり、天井を焼きながら推進しているのです。
直径にして三メートルほどでしょうか。穴を掘り進めながら自爆スキルによって発生した爆炎が、龍さながら地層を焼き破り、昇っていきます。
「………かぁっ。すっげぇ炎だった。過去最大の自爆なんて言わなけりゃよかったよ」
無数の骨を抱えたまま、ダンジョンのより高い場所に昇った炎を見送ったアルマさんは、手をプラプラとさせながら冷却を試みます。ですが、あれほどの炎熱に触れるほどの場所に差し伸ばしていたためでしょう、彼の手は重度の火傷を負っていました。エリクシル粒子適合者でなければ治らないほどの傷でした。
「アルマの兄貴。けど、あの骨は」
「ああ、そうだな迅。気配が消えてない。まだ終わってないってことだ」
六衣さんのスキルで絶え間なく焼かれ続けた骨は、少し遠ざけられた程度で、まだ無事なのでしょう。会敵する前から感じた、あの殺意はまだ消えたわけではないのです。
「龍弐、迅、六衣と俺の前衛は、あれが戻ってきた時のためにここで固まっておこう。後衛たちは少し離れていてくれ。いいな? 奏」
「はい。それが最善でしょう。異論はありません」
炎で掘削した穴の下で迎撃を整えるアルマさん。奏さんたちはフォローに回ります。
奏さんと利達ちゃんの後ろに、私と鏡花さんと京一さんが待機します。
「くっ………」
「無理しないでください、京一さん。あなたが一番ダメージを負っています」
「あの六衣ってヤベェ奴ほどじゃないよ」
「あれは………別格です。比較対象にしてはいけません」
青白い顔色をする京一さんは、負傷しているにも関わらず構えようとします。
十六歳の彼は不運の連続で、ダンジョンレベルで言えば最難関一歩手前で呪物精霊を相手にしてしまいました。これまでのダンジョンモンスターとは別格です。緊張もするでしょう。
けれど、その負傷には目を見張ります。確かにレベルはまだ低いのですが、異様に防御力が高いのです。
敵対するモンスターはディーノフレスターと同格。群馬ダンジョンで猛威を振るい、冒険者パーティのなかでも高レベルだったチーム流星を崩壊の危機に陥れ、何人も屠った。そんなモンスターのブローを受けても怪我をしただけで済んだ。死んでいない。驚愕の連続でした。むしろ即死する可能性の方が高かったのですから。
「………しぶてぇ骨どもだ。今度こそ細切れにしてやる」
双眸を細め、殺気を迸らせる龍弐さん。
もう、そこまで来ていたのです。あの無数の骨たちが。
「命名、どうしようか。インフィニティボーン、とかどうだ?」
「インフィニティフレンズがいいなぁ」
「なんでふたりとも、そんな余裕なんすか? 俺なんていっぱいいっぱいだってのに」
迎撃まであと数秒なのに、あの骨の名前を考える姿勢を、迅くんは絶句しながら見ていました。
前衛の四人は、深く腰を落とします。刹那、ガガガガッとなにかが擦れる音が聞こえました。インフィニティボーンが焼き貫かれた穴を擦りながらこちらに来ているのでしょう。
そして、龍弐さんが物凄い跳躍力で、天井の穴に飛び込みます。
前衛で戦闘が開始され、こちらもフォローするべく構えた時───
「ヤバい!」
京一さんが声を上げました。
「クソッ!」
叫んだ京一さんは、私を突き飛ばして奏さんへと託し、鏡花さんの腕を掴んで覆い被さります。
「京一くん!」
奏さんが急ぎ矢を製造し、クイックドローを発揮します。
突き飛ばされた私は利達ちゃんに受け止められ、矢が射られた先───京一さんと鏡花さんのいる方を見ました。
無数の骨がダンジョンの地中を掘削し、穴から離れた地点を襲ったのです。
大穴ではあえて骨と大地を擦り合わせて掘削音を隠す周到性と、それを成す知恵。呪物精霊は別格でした。アルマさんや奏さんの、このパーティのブレインさえ考えもしなかった奇襲をしたのです。
しかし奏さんも、ただ受け身でいるはずがない。
矢が飛翔する先はなにもなく、そこで接触している京一さんごと、鏡花さんの「置換」スキルでポジションを入れ替えてしまえば、頭上からの奇襲を回避できる………はずでした。
「あっ!」
私は思わず声を上げてしまいました。
頭上を掘削して現れた骨は一本や二本どころではなかったのです。二百本ほどが雨のように降り注ぎ、京一さんを襲い、肝心となる矢を弾くと京一さんの頭上に叩き落としてしまったのです。これでは置換の仕様がありません。
「京一くん! そのまま聞いてください! 今から炸裂弾で穴を穿ちます。多少の衝撃はあなたが受けてください! 鏡花ちゃんは穴が開いたら六衣さんと入れ替わって!」
しかし返答はありません。
二百本の骨はドームを作り、ふたりを閉じ込めてからカタカタと音を鳴らして、こちらの声を遮断しているようでした。しかもドームは徐々に狭まりつつ回転しています。まるでミキサーのように。
「退いてみんな! あのドーム吹っ飛ばす!」
前衛から抜け出した六衣さんは、自爆スキルで劣勢を覆そうとして、
「ま、待ってください! 声が………声が聞こえます!」
私はカタカタと鳴りながら回転する骨の隙間から、獣の雄叫びのような声を聞いて、六衣さんを止めました。
「ほ、本当だ………聞こえる! 聞こえるよ!」
「これは………京一くんの声!?」
利達ちゃんと奏さんの耳にも届きます。
そしてそれは、龍弐さんたちにも届くほどの大声となったのです。
「邪魔だ! 失せろ骨どもッ!」
骨のドームが内部から破裂するように爆散します。
その中心に立っていたのは、紛れもなく………十七歳の、元に戻った京一さんでした。
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