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第243話 過去最大の自爆

「アルマさん! 火を使うのはまずいです!」


 奏さんが警鐘を発します。


「ああ、知ってるよ。こっちはもう四体に増えちまった。猫の手も借りたいくらいだ!」


 少しだけ、一瞬だけ振り返ります。前衛は恐ろしいことになっていました。


 ひとり一匹を相手にしています。こちらより身長は低いとはいえ、私だったら絶望したくなるでしょう。


 前衛がこちら以上に劣勢に陥ったのは、すべて六衣さんの独断が原因でした。それなのに彼女は悪びれることなく、むしろ「わぁ、お友達が増えたねぇ」と脳内お花畑状態。いったい、どんな思考をすれば、この劣勢のなかでファンタジー要素を見出せるのでしょうか。


「クソォォオオオオオ! 攻撃が通らねえ!」


 レベルで言えば、龍弐さんに匹敵する迅くんなのですが、苦戦を強いられました。


 ストレングスにものを言わせる戦い方を選ぶ迅くんの拳は、確実に骸骨に着弾するのですが、骨折には至らず脱臼するだけに終わります。そもそも痛覚がないのでしょう。間接が外れようとすぐにはめ直して攻勢に転じてくるのです。


「あと一手が、足りない!」


 鏡花さんが叫びます。後衛たちは近接戦を選ばず、距離を開いて中距離から攻撃を仕掛けるのですが、決定打には至る気配がありません。


「こいつ、セカンドスキルが通用しない!」


 鏡花さんのセカンドスキルは「圧縮」です。スキル持ちのなかでもごく僅かな覚醒を遂げた者が得られる境地に、私たちは何度も助けてもらいました。それこそ必殺の一撃に通じるのですが、巨大な骸骨に圧縮をしかけても、その度に跳ね返されてしまうようでした。


「骸骨ってことは、ゴーストにも関係があるのかもしれねぇな。俺もセカンドスキルを使う! 龍弐、フォローを頼む!」


「あいよぉ!」


 アルマさんのセカンドスキルは「法術」です。


 過去、お寺にお世話になったアルマさんはお弟子さんらと寝食を共にし、精神を叩き直す修行を行うと同時に様々なイベントを楽しんだのだとか。それが影響してか、得たセカンドスキルにより物理攻撃が通らない集合思念体に唯一まともな効力のある除霊を行えます。


 巨大な骸骨は物理攻撃が通るのですが、肉を持たないのならその一種だと考えたのも頷けます。幽霊以外の、妖怪の類に効力が望めるのかは謎ですが。


 指が複雑に絡み合い、お経をノンブレスによる高速詠唱を開始。アルマさんの周囲には水色の陣が敷かれます。


 漫画やアニメで見た、あのシーンが再現されます。


 ところが───



「クソッ。俺のセカンドスキルも無駄か!」



 龍弐さんが二体の巨大な骸骨を相手にしているにも関わらず、法術による弱体化は望めませんでした。


「あはははははは! なにこれぇ、自爆にても消えなぁい! 最高のお友達になれそぅ!」


 六衣さんは相変わらずでした。彼女の周囲には、すでに()()に分裂しています。総じて彼女より低身長なのですが、俊敏性が向上しているのか、六衣さんのガードを通過して自らの肋骨を抜き取ると、ザクザクと肢体に突き立てていました。


 それでも六衣さんは嬉しそう。かなり痛いはずなのに。頭がおかしいのではないでしょうか? あ、もうおかしいのは知っているのですが。


「分裂する骨………そうか。自分の骨を解体して、組み立て直してるんだ」


「京一さん?」


「最初に見たあの骸骨、骨の数は八百を超えてたな。成人した人間の四倍の数が、複雑に絡まってたんだ」


「え、数えたんですか?」


「ざっとだけどな」


 参戦すべきかタイミングを待っていた私とは違い、京一さんは優れた───というよりも、異常なほどの観察眼を駆使して、呪物精霊の特徴を冷静に見抜きます。


 驚きました。京一さんは十六歳にして、すでに完成の域にまで達していたのです。


「増えるごとに骨を分けてるんだ。こっちは二体に分裂したから、一体四百。人間や動物ではありえない場所にまで間接を増やしてやがる。前衛組は二百………六位は別としてな。こっちは四百もあるから攻撃が通らないんだ。骨と骨を重ねて分厚くしてる。ってことは………奏さん!」


「素晴らしい推測ですよ京一くん。さすがは私たちの教え子!」


 京一さんの意見は、かなりの有力説だったらしく、奏さんは鏡花さんの「置換」スキルで後退し、得たインターバルで矢を製造しにかかります。


 そうなると奏さんが相手をしていた骸骨が猛追するのですが、


「京一くん! 見終えましたね?」


「はい!」


「ならば許可します! 出なさい!」


「了解!」


 奏さんと京一がスイッチするようにポジション交換しました。


 なぜか、懐かしく思えました。数日前までは普通のことなのに。


「このっ………骸骨野郎が!」


 追撃しにかかる骸骨は大剣を引き続き装備していて、粗方俊敏力が衰えているのか、大剣を両手で構えていました。その大振りの一撃を、あえて懐に飛び込んでから紙一重で躱し、ガラ空きのボディにブローを放ちます。


 私たちは知っています。京一さんが密着した相手は、その手に触れられれば無傷では済まされないと。


「おりゃあっ!」


「ンガッ………ゴァアア!」


「この野郎っ………!」


 ですが、少し見誤っていたのかもしれません。


 京一さんの掌底は確かに肋骨を捉えたのですが、破壊できたのは一本だけだったのです。いつもの京一さんなら、怒涛の勢いで十本くらいへし折っているのに。


「離れてください京一くん! くっ………やはり、そこまでレベルが高くなかったですか!」


 骸骨の左腕が振るわれます。京一さんは腕で防御するのですが、ディフェンスが要求される分だけ足りておらず、ダメージの軽減が間に合わなかったのか、ゴム毬のように突き飛ばされます。


 その間に奏さんが炸裂弾を製造し、直撃させて次撃を封じます。


「京一!」


 鏡花さんは慌てて駆け寄り、回復薬を取り出して京一さんに施します。これでいくらかは体力が回復し、傷の治療の促進を促すのですが、瞬時に戦線に復帰できるわけではありません。


「………上!」


「なにっ!?」


 瓶を咥えた京一さんでしたが、途中で吐き捨てて鏡花さんに注意を発しました。


 咄嗟に上を見た鏡花さんが、放ったダートと自分の位置を置換します。次の瞬間、ふたりがいた場所に突き立つ───鋭利な肋骨。


「こんなの有りなの!?」


 利達ちゃんが悲鳴を上げました。


 炸裂弾によりさらなる分裂が発生した骸骨が、さらなる分身を作ることなく、宙を自在に飛翔したのです。


 これが呪物精霊。ディーノフレスターもそうですが、ゴキブリを超越する生命力。なんてしぶとさ。


 奏さんは二体を狙撃しています。八百本以上の骨が、私たちの頭上を飛び交いました。


「どこぞの宇宙世紀アニメの兵器みたいだなァッ! 鬱陶しいったらありゃしねぇ!」


 前衛でもこの変化が起きたらしく、次々と骨が分解して飛び交います。


「こうなったら一気に消し飛ばす! 六衣、思いっきりやっていいぞ!」


「え、いいの!?」


 このタイミングで思考が暴走したのか、脳内お花畑状態が伝染したとしか思えない判断をするアルマさんにギョッとした私たち。一方でいつもスキルを制限されていて、アルマさんを毛嫌いしていた六衣さんはパァと笑顔を咲かせて瞳を輝かせます。


「こっちで操作する! 脱出も視野に入れなきゃならない。その経路を作るのも兼ねるから、過去最大のものをあの骨どもにくれてやれッ!」


「うん! 任せて! そういうの大好きィッ!」


 過去最大の自爆を許可されたとあれば、六衣さんが喜ばずにいられるはずがありません。


 本当に可能なのかと確認しようとしたのですが、その前に六衣さんは全身にオレンジ色の閃光を纏ました。



 ジーザス。オゥ、ハレルヤ。オーマイガッ。



 私たちは呪物精霊に殺される前に、六衣さんに焼き殺されるのではないでしょうか?


ブクマありがとうございます。

気付けば第五章が二十話を超えていました。本来なら十五話で済ませる短編みたいな感じにしようと思っていたのですが、うまくいかないものですね。


作者からのお願いです。

皆様の温かい応援が頼りです。ブクマ、評価、感想、いいねなど思いつく限りの応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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