第242話 巨大な骸骨
私にとってはこれで四回目になるでしょうか。会敵を含めなければ五回目でしょうか。
絶え間ない波のように押し寄せる殺気に晒されて、悪寒が走りっぱなしです。
呪物精霊。噂でしかなかったモンスター。ディーノフレスターという人喰い馬のモンスターによって、私も殺されかけました。
ディーノフレスターは私たちが倒しました。六衣さんと再会した日に。散り散りになっていたパーティが再集結し、総力を挙げて攻撃し続けたのです。長きに渡る因縁のひとつに決着がつき───そして今、新たな因縁が生まれるかもしれませんでした。
すでに迅くんはワン郎ちゃんたちテイムしたモンスターの幼獣すべてを吸収し、レベルを向上させています。龍弐さんは音速の抜刀術の構え。
下がった京一さんは鏡花さんとともに全方位を警戒。私は反応がある方に防壁を展開するべく、感覚を研ぎ澄ませます。
後衛を務めるのは奏さんと利達ちゃんですが、今はアルマさんと六衣さんがいます。平時なら決して六衣さんの好きにはさせませんが、呪物精霊が相手とあっては話が別です。すでに六衣さんはアルマさんの拘束を解かれ、ニタァと不釣り合いな笑みを浮かべていました。まるで彼女の方が呪物精霊のよう───とは決して口が裂けても言えませんが。
「………増えた!?」
鏡花さんがハッとして呟きます。
私にもわかりました。呪物精霊の気配がふたつに増えたのです。
前方だけではありません。唐突に後方にも現れました。
ディーノフレスター級に挟撃されれば、私たちも戦力を二分するしかありません。こちらも九人、しかも全員がスキル持ちとはいえ、どのような戦いになり、どれほどの被害が出るかもわかりません。
「………奏」
「わかっています。アルマさんは前衛をどうぞ」
「じゃ、後ろは任せた」
「はい」
パーティのブレインがふたりいることが幸いして、二分割されたとしても指揮官の不足になりません。
アルマさんが前に出るとなれば、当然六衣さんを連れていきます。
「京一と鏡花とマリアは後衛だ。後ろは頼んだぞ」
「わかりました」
敵を刺激しないよう、ゆっくりと移動を開始。
小幅かつ低速の歩みでフォーメーションを変更します。
これで前衛は攻撃特化したメンバーが揃います。後衛はといえば、変幻自在のテクニカルタイプが集中しました。
超攻撃特化したパーティとはいえ、臨機応変に動けなければ、ここまで来ることはできません。常に進化し、適応することがダンジョンには必須とされるからです。ここにいる誰もがその水準を満たし、動くことを可能にしていました。
「奏さん」
「京一くん。あなたはいつも前に出てもらうのですが………今回は私が前に出ます。あなたはここにいる全員を守ってもらいますので、そのつもりで………っ!」
奏さんが弾かれたように、通路を振り返りました。
いた。ギリギリ目視可能な距離。暗がりのなかに潜む、黒いもの。
それは前衛も同じようで───
「お友達になりたいなぁああああああああああ!!」
「ば、馬鹿っ! 勝手に動くな!」
埼玉のバスターコールこと、六衣さんが、アルマさんが非常時ゆえ手綱を手放していたことに気付き、独断行動に走ってしまいました。
彼女は優秀な冒険者なのですが、なにを仕出かすかわかりません。私たちは常に核弾頭を持ち歩いているようなものでした。
突撃する六衣さんをアルマさんが追います。フォーメーションは形無し。総崩れ。これで間に入られたりすれば、戦況が劣勢に傾きかねません。
そんなことを一切意に解さない六衣さんは、黒いなにかに飛びつくと、全力の自爆を遂行するのでした。
「クソッ!」
アルマさんが追従した理由は、自爆の衝撃波を炎熱とともに逸らすのが目的でした。炎で包んだ波を上へと逃がします。この辺りまで到着している冒険者など私たち以外にいないゆえ、好き放題に破壊ができるのです。
さもなくば、今頃私たちが丸焼きになっていました。
「来ますよ!」
前衛が勝手に戦闘を開始してしまったことで、こちらは後手に回ってしまいます。六衣さんのスキルは凶悪すぎて、注意しなければ私たちですら危険に晒されます。よって私たちが担当する呪物精霊を常時観察することはできないのです。
大股で動き出すなにか。奏さんはスキルで矢を製造しようとするのですが、相手が接近する速度が思いの外早く、製造する時間を得られません。初撃は狙撃ではなく、強弓で受け止めました。
「こいつは………!」
息を呑む京一さん。
この呪物精霊の全貌が明らかとなりました。
巨大な骸骨だったのです。
そしてその骸骨は、頭部こそ人間のそれに酷似しているのですが、全体図を比較すると、やはりモンスターに類似していました。
様々な骨と骨が複雑に絡まり合った構造。ある意味でキメラに似ています。
張り詰めるような緊張感が弾けて、臨戦態勢へと移行します。その爆発的なエネルギーを放出するパーティたち。
「なんっ………なんですかねぇ、このモンスターは!」
三メートルほどもある体格の骸骨のモンスターは、大剣を装備し、片手で振り回します。私以上の大きさと重量であるそれを、軽々と扱えるほどの膂力が、筋肉無き骨だけの体躯で発揮されるのは謎ですが、今さらそんなことを述べてはいられません。
奏さんは剣戟を強弓で捌くのですが、一合ごとに形状が歪み始めます。矢を射るにも形状を戻さなければなりません。その二手が、どうしても足りなくなります。
「鏡花パイセン!」
「わかってる! 合わせるから、やりなさい!」
「オーケー!」
利達ちゃんが鏡花さんの合図で丸鋸を投擲します。スキルが加算され、指の力だけでは得られるはずのない回転が加わると、劇的なカーブを描きます。一投で二枚発射すると、それぞれが左右で異なる回転を成し、巨大な骸骨のモンスターを挟撃するのでした。
「ガアッ!」
骸骨が吠えます。奏さんがバックステップを踏んだ瞬間、刀身がブレて見えるほどの素早い剣戟を放ったのです。その速度たるや、龍弐さんと同格でした。なんと同時にふたつの丸鋸を叩き落とし───
「ンガッ!?」
───いいえ、大剣は確かになにかを打ち落としたのですが、それは丸鋸ではありませんでした。次の瞬間、鎖骨を思わせる部位にふたつの丸鋸が突き立ちます。
鏡花さんのスキル「置換」によって、迫る丸鋸がダートに置き換えられたのです。骸骨が叩き落としたのは置換されたばかりのダートで、丸鋸は鏡花さんの手元から再び放たれ、骸骨を襲いました。
「………ダメだ。硬いよ、あれ!」
突き立ってもなお回転する金属製の丸鋸ですが、いつまでも骨の切断には至りません。火花を散らしつつも、半分も進みませんでした。骸骨がそれらを強引に掴むとグシャリと握り潰し、やっと回転が止まります。
「ならば!」
リビングメタル製の強弓ゆえ、形状記憶合金のような特性を持つそれを叩くと瞬時に元通りになった装備を目視することなく、足元に転がる石ころや、ポケットから取り出したなにかを併用してスキルを使う奏さん。
一矢を「製造」すると、瞬時に射ます。丸鋸の処理に気を取られていた骸骨の胸に触れると炸裂しました。
六衣さんの自爆、奏さんの炸裂弾。火力で攻める方針は、これまで敵対したどんなモンスターだろうが無事では済まされませんでした。
ですが………やはり呪物精霊。それだけで倒れてくれるほど、弱くはなかったのです。
「分裂した!?」
三メートルほどだった体格が、二メートルにまで低くなったとはいえ、骸骨は私たちの目の前で二体に増えたのでした。
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皆様に悲しいお知らせです。なんと今年の日曜日は、あと2回しかありません………あ、ご存じ? そうでしたか。私は落胆するばかりです。
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