第240話 親心
「ま、マジかよ………これが十七歳の時の、俺かよ………」
ネットタトゥーとまではいきませんが、情報社会のおもちゃになってしまっている「伝説的なレジェンド」の発端となったイベントを、私の過去の配信を利達ちゃんと迅くんのスクリーンで見せてもらっていた京一さんは、憤り、焦り、そして最後には呆れて無言になっていました。
流行語大賞にもノミネートされそうにもなったほどの衝撃です。その熱は今でも冷めません。
まだ私たちが龍弐さんと奏さんが合流した五人だけのパーティだった頃、就寝前にエゴサーチというか、いったいどんなバズり方をしているのか調べてみたところ、そりゃあ………とてもではないですが京一さんに教えられる内容ではありませんでした。
特に若者世代───小学生から高校生までが真似をする動画が多々あったのです。特に興味があったのは「伝説的なレジェンドダンス」なるもので、ヒップホップ調アレンジされた京一さんの音声を改造した曲調に合わせて激しく踊り、最後に「伝説的なレジェンド!」と叫んで決めポーズ。こんな酷いバズり方は見たことがなかったのです。果てには数多の大会で優勝している有名なアマチュアダンスチームまでも独自アレンジを施して動画サイトの上位に君臨するという快挙を成し遂げます。もうすでに私ひとりでは止められませんでした。
で、多分いま、私が見せられなかったものすべてを見ているのだと思います。
利達ちゃんは爆笑し、迅くんは瞳を輝かせて憧憬を抱き、京一さんは白目を剥いて失神寸前というところでした。
さて、そんな十五歳ほどのチームとは別の、私たちパーティの上位たちは、彼らを横目にミーティングを開いていました。
「いやはや参ったねぇ。まさか、三回目で成功させちゃうなんてさぁ」
「でも、京一ちゃんだってスキル持ちなんだし、あれくらいできて当然の結果じゃないかなぁ?」
脱帽する龍弐さんに、六衣さんの評価基準は厳しく、見直している素振りはありませんでした。
「いえ、そうでもないですよ。………やはり、京一くんのスペックは予想以上に高かった。三回目でウッドホーンブルを討伐できるとは思ってもいませんでしたからね」
「そうなんですか?」
「ええ。成功するとも考えていませんでしたよ。何度やっても無駄だろうと諦めてすらいました」
奏さんも龍弐さんと同じ評価でした。基準値が未だ曖昧な私は、全員の評価から平均としたものを結果とするしかありません。
「なんだか、奏さんの役目を奪ってしまって、申し訳ないです」
「いいんですよ、鏡花ちゃん。やっぱりね、身内というのは可愛がってしまうものなんですよ。さっきまでの私は、やはり………京一くんのレベルとコンディションを優先して、過保護になってしまうと思います」
「………例えば?」
「そうですね。具体的に言えば、まだ京一くんもレベリングシステムも高くないでしょうし、彼の動体視力や反射を上回る速度の狙撃をして弱らせる………ああ、でもダメですね。そんな速度で矢を射れば、例えばウッドホーンブルであっても肉片も残らない」
奏さんなら、やりかねない。
どんな時でも有言実行。それだけの速度が要求されるならストレングスも上げに上げて射る一矢は、ウッドホーンブルの頭から尻を貫通するどころか、ミンチにもならず消し飛ぶでしょう。そうなれば陰ながらのフォローも台無しですし、京一さんだって贔屓に気付きます。
「ところが、京一は奏の予想を裏切ってあの牛を討ち取った、か。千載一遇のチャンスをものにできる奴って、稀にいるけど、本当に強くなるんだよなぁ」
「アルマさんも、そういう奴知ってるの?」
「ああ。俺が龍弐くらいの歳にさ。同じ店でバイトして、けど俺より要領良くてすぐ卒業。自分の店を構えて、今は西京都で何店舗も経営してるってさ。きっかけは………そうだなぁ。店長から任された仕事をパーフェクトにやり遂げた時だな。嫌な奴だったけど、有能ではあったんだよなぁ」
「へぇ。嫌な奴だったんだ?」
「ああ。モラハラとかすごくてさぁ。俺も毎日見下されたなぁ」
「へぇ。滅べばいいのにね。なんでそういう奴に限って、大成するんだか。理不尽な世界だよねえ」
「ところがどっこい。先週のネットニュースの一覧見たらさ、バイトやパートのほとんどに今度はパワハラやらかして、集団訴訟されたんだって。社員たちも被害に遭っててさ。いやぁ、人生ってどうなるか、わからないよな」
「あっひゃひゃ! ざまぁみろだねぇ!」
「だな。パワハラ、ダメ、絶対」
「アルマさんがトップなら良かったのにねぇ」
「俺がトップでも、店が潰れたよ。前例もある」
「あー、そうでした。ごめん。失言だった………いや待ってよ。閉店したのって、脱走したダンジョンモンスターの襲撃のせいじゃなかったっけ?」
「それもある。でも黒字だったとしても、将来的に考えて長続きするとは思えなかったんだなぁ」
「せち辛いねぇ」
出る杭は打たれる───とは少し違うのでしょうが、そのひとの人格なども加味されて、成功したあとの人生を華やかせるのでしょうか。
とすると、京一さんの今、私たちの知っている十七歳の彼は、このダンジョンライフを謳歌できているのでしょうか。戦闘時は破壊神がごとく暴れ回り、正義を謳うことはなくとも悪を挫いてきた京一さんは、どんな将来図を描き、どんな大人になっていくのか。少しだけ気になります。
「とにかく、明日を過ぎればキョーちゃんも元通りだ。それまで注意深く見守ってやろーよ」
「元通りになったら、今度こそ京一ちゃんとお友達になるのっ!」
「自爆はさせねぇからな?」
「キモ。なんだったら、今からお友達になりに行ってもいいんだよ? あなたが寝たあとにでも」
「やめてくれよ。寝不足で包丁握りたくねぇんだよ」
どうやら、どう転んでも京一さんには試練が迫っているようです。
そして、また半日が経ち、京一さんは十五歳になりました。
慣れ親しんだ自己紹介のあと、私はまた感心を覚えます。
私が知る十七歳の京一さんに、ほぼ近い形になっていたのです。
少し前までは私が軽々と抱っこできるほどの身長と体重の赤ちゃんだったのが、成長期によって健やかに体格を増し、もう私より身長が高くなっていました。
「奏さん」
「なんですか?」
変声期を迎えて、少しだけ声が低くなっているようです。
十四歳の頃より落ち着いた雰囲気の京一さんは、慌てることもなく、私たちを俯瞰します。
「なんでこのひとたち、泣いているんですか?」
「ひとの成長というのを、間近で見たからですよ。………うっ。キョウちゃ………京一くん。こんな大きくなってしまって。成長しましたねぇ」
「それは言いっこ無しだぜ奏さんやぃ。ほれ、鼻かみな。まったく。これじゃお姉さんってよりも、お母さんじゃないかぃ」
「そういう龍弐だって泣いてるじゃないですか」
日々大人びていく京一さんを観察するうちに、半日というサイクルで一歳ずつ成長していく過程で、どうやら私たちは親心に近いものを得てしまったようです。
これじゃまるで、手塩にかけて育てた我が子の成人式を見た親そのものじゃないですか。
みんなで泣いていると、京一さんは「はぁ」とわけがわからなそうな面持ちで、首を傾げるのでした。
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