第239話 頭悪そうな
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「ほら、ボーッとしない!」
「うおっ!?」
バシッと京一さんの背中を叩く鏡花さん。
ことあるごとに体罰を与えようとした鏡花さんですが、今回のそれは叱責ではなく激励のような念を覚えます。
「サポートしてあげるから、あの牛を張っ倒してきなさい」
「お、俺が………?」
「あ? なによ。いつもは私がなにか言うまでもなく………って、今のあんたは違うんだった。ま、そうね。今のあんたは初心者だもの。しかも初心者が挑めるはずもない鬼畜難易度なゲームに、裸装備かつレベル1で挑んでるも同然だものね。悪いことをしたわ。気を遣ってあげられなくて」
「………馬鹿にすんじゃねぇよ」
「ふーん? じゃあなに? 伝説的なレジェンド様は、できるってわけ?」
「は? 伝説的な………なんだそれ。頭悪そうなネーミングセンスだな。俺は絶対、そんなの名乗りたくねぇぞ」
鏡花さんは京一さんを鼓舞するために発破をかけているようでした。さすが、扱い方をよくご存知です。
しかし、すでに京一さんの代名詞になりつつあるそのコードを「頭悪そうな」ですか。
確か、もう日本では知らないひとの方が少なく思える、トレンド入りし、ネットミームにもなり、ネット民のおもちゃになってしまった京一さんの「伝説的なレジェンド」というコードは、発端は京一さん自身ではないと龍弐さんが笑いながら語っていました。
養父である鉄条さんの実の娘であり、京一さんの妹のような子が、龍弐さんにそそのかされて、毎晩京一さんの部屋に侵入し、枕元で「伝説的なレジェンドに俺はなる。伝説的なレジェンドに俺はなる」と囁いて、睡眠学習させたようです。もはや一種の洗脳です。
しかし反応がないことから、まだ洗脳は施されていない様子。配信のコメントを横目で確認すると『あちゃー』と呆れる声が多々ありました。皆さん、そんなに京一さんのコードが好きなのでしょうか?
「じゃ、やっちゃいなさいな。マリア。壁を解除して。いざとなったら私が対処するから」
「あ、はい」
不可視な壁に何度も角を叩きつけるあまり、硬度と耐久性があるとはいえ、樹木でできた角をどちらも折ってしまったウッドホーンブルは、激昂して頭突きを繰り返します。あの角を失って、いくらか脅威は薄れたといえど、レベルは高いことに違いありません。私もあと数秒で防壁が破られることを告げなければならないほどでした。
フッと防壁が消えると、頭突きのタイミングを失った巨体は傾ぎ、数歩のたたらを踏みますが持ち堪え、再び疾走を開始します。
「う………ぉぉおおおおおおお!」
いきなりの実戦が、レベル差のあるモンスターだなんて気の毒な話です。私とてレベルが近く、体格差で優位なモンスターと追いかけっこをさせられたから逃げられたのに。
回避できない戦いであると悟った京一さんは、いつもと違って初手から咆哮を上げて、ウッドホーンブルを迎撃します。途端「やっぱり、まだ無駄が多いですねぇ」と奏さんが呆れる声が聞こえました。確かに私が知っている京一さんは、いつもいきなり叫ぶわけではありません。真剣な表情か、薄ら笑いなりして、時には指示を出して突撃します。
しかし、いくらまだ初心者の時代とはいえ、スキル持ち。心得は私よりあるはず。
数歩歩いてから両手を突き出し、すぐウッドホーンブルに触れて───
「ブッ!?」
「あ」
「え?」
京一さんは、スキルを使う暇も与えられず、突き飛ばされました。
私と鏡花さんの間から、砲弾のように発射された京一さん。元来た道を逆戻り。
「ハァ。マジか」
「ブモォォオオオオオオ!」
「っさいわねぇっ。黙ってなさいよォッ!」
「べギャ!?」
京一さんを轢いたウッドホーンブルが、次の標的を私に定めた瞬間、鏡花さんが呆れつつも、至近距離で咆哮を聞いてしまってブチギレて、セカンドスキル「圧縮」を使って圧殺しました。あの巨体が信じられないことに、一メートルほどのキューブ状になるまで収縮してしまったのです。
「さて………さすが、奏さんに鍛えられただけあって、十四歳の時から頑丈ね。それで? 敗因はなにか、わかる?」
「………わかんねぇ」
「でしょうね。そこんとこ、どうなんですか? 奏さん」
ファーストスキル「置換」でダーツと位置を入れ替えられた京一さんは、条件どおり私の足元に戻ってきて、無造作に地面に両足を放り投げて従面していました。鏡花さんの言うように、あれで擦り傷しかありません。この防御力………すでに体の方は完成しているのでしょう。いったい、どんな修行を受けさせられたのでしょうか。
「技術的なものは、翌年からでしたので。攻め方も、防ぎ方も初心者丸出しですよ」
「だからって、定石ガン無視で突撃なんて、一般人でもやりませんよ」
「ああ、それはお母さんの教えです。彼我の戦力差がわからなければ、とりあえず一発殴っておけと」
「え………マジですか?」
「鏡花ちゃんも知っているでしょう? 京一くんは、私が与えた課題を放り投げたことは一度もなくとも、クリアした回数こそ少ないと。つまり、難しいことを考えるのが苦手な性格だったんですねぇ。だからシンプルな解決策を与えてきました」
「………だから、殴れと?」
「はい。あ、これはダンジョンモンスターのみに限られた条件ですからね? 対人でこれをやれとは教えてません」
ちょっと、信じられませんでした。
いくらなんでも大雑把な教育指針だと。
これで強くなれるはずが───あ、強くなれるんでした。そうでなければ、京一さんは十七歳で完成はしません。今だってフルスロットルで突っ込んできた大型トラックに撥ねられたようなダメージを負ったはずなのに、ケロッとしています。
至ってシンプルで簡単な教育は、とんでもない化け物を養育してしまったのでした。
「………じゃ、今教えても問題ないですね。京一。ああいう図体がデカいモンスターは、まずは足を狙いなさい。動きを止めないと、どうにもならないわ。それから足を攻撃したあとも注意して。仮に転ばせたとして、その進行上に仲間がいたら巻き込まれるからね」
「わ、わかった」
さすがは鏡花さんです。頭の回転が早い。
奏さんから得た情報で、京一さんの特徴を加味した上で、一瞬で教育指針を構築しました。
京一さんに必要とされるのはシンプルでいて、簡単な攻略方法。
動きを止める。止める時も留意しなければならないポイントを的確に教えていました。
「じゃ、早速やってみなさい」
「早速?」
「そ。見ててあげるから。………龍弐さん! こっちに一匹、通してください!」
「え、マジ? ………まぁ、いいけどさぁ」
龍弐さんは一瞬だけこちらを見てから、奏さんが違を唱えないことで、渋々承諾し、適当にダメージを与えたウッドホーンブルを一匹だけあえて抜けさせ、私たちに寄越します。
京一さんは誰の助けも受けず、タイミングを見計らって、スキルを発動。
しかし「違うわ」と鏡花さんに叱られます。スキルで前足を折ったのはいいのですが、転んだ先に私がいたのです。鏡花さんはスキルでウッドホーンブルを後方に飛ばします。
三回ほど繰り返し、やっと京一さんは正解を得られます。その時、鏡花さんは満足そうに「合格よ」とお墨付きを与えます。
京一さんはとても嬉しそうに笑っていました。
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