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第219話 死ぬかもしれない

 静寂が続いた。


 これは多分───疑念?


 名都を筆頭に、この埼玉ダンジョンで暴れ散らかしたクソモンスのせいで大勢を犠牲にしてしまった過去。どうやっても勝てない。諦観に近い印象が、ガラリと変わった。撤退を成功させ、このリベンジマッチにはついに総力を結集させて勝利した。


 迅と利達の視線があちこちに飛び交う。まるで確認をするように。あるいは、誰かに言って欲しかったのだろう。その確信を。


 一方で俺たちはといえば、迅と利達の要求に簡単に答えるわけにはいかず、楓先生から教わったとおり「厄介な敵は百回殺さないと終わらないと思え」という残心の構えのまま、各方面を注視する。


 固唾を呑んで見守るマリア。鏡花にも俺たちの意思は伝わっているようで、もう余力もないのにマリアを死守する構えでいる。


「………奏」


 龍弐さんは珍しく、低くしたトーンで奏さんを呼び捨てにした。


「ええ。気配はありませんね」


「じゃ、じゃあ!」


「油断しないでください利達ちゃん。油断した途端にガブリ、なんてことも否定はできないんです。………迅くん。ワンちゃんたちの反応は?」


 この空気に耐えられず、涙目になりながら縋ろうとした利達を手で制した奏さんは、迅に意見を求める。


「ワン郎、ニャン太、ピー助も………同じっす。近くに、あいつの反応は………ないっす」


「………ふう。私と龍弐、迅くんのトリプルチェックも終了。………なら、もう間違いないでしょう。お待たせしました。さ、利達ちゃん。おいで」


 緊張を解いた奏さんは、優しい面持ちで利達を抱き寄せる。


「………勝った、ん、だよね?」


「ええ」


「やったんだよ、ね? みんなを殺した、ディーノフレスターを………倒せたんだよね?」


「もちろん。完勝ってやつです」


「ッ………ぁ………う、や、やった………やったよ………ぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


「よっしゃぁぁあああああああああああああああ!!」


 辛酸を舐め続けさせられた利達と迅が、積年の恨みからやっと解放されたことを噛み締め、胸の奥から込み上げるすべてを咆哮に乗せた。


 俺たちは叫ぶことはなかったが、構えを解いてホッと胸を撫で下ろす。


 予想外の連続だった。


 刺客たちの奇襲で分断されることは想定していたが、まさかディーノフレスターまで出てくるとは思いもしなかった。


 けど、なにより一番の誤算だったのが………


「マリア」


「は、はい」


「ちゃんと見てたぞ。やるじゃねぇか」


「っ………はい!」


 以前からマリアのことは認めていた。ボスとして。配信者として。戦力外だったとしても自分の仕事はしっかりとするタイプだ。逆に俺にはできないことを率先してやってくれる。献身的な面があったからこそ、このチームは成り立っていた。


 けど、もうこれからはその認識に、もうひとつの要素を加味しなければならない。


 戦力外だったマリアが、戦力になった。


 剣や銃を構え、攻撃することなど、やろうと思えば誰だってできる。きっとまだ幼い子供でも。


 しかしマリアは、日々増えていくエリクシル粒子適合者のなかでも、たった一握り───1パーセント以下の冒険者が覚醒するという、スキル持ちとなった。


 スキル持ちとなることを渇望する冒険者がどれだけいることか。


 覚醒する条件はまだ明かされていない。ある日、偶然覚醒するなんてこともある。俺がそうだった。


 しかし、こんな狙ったようなタイミングで覚醒するなど、奇跡の他に例えようがないだろう。


「本当、すごいよねぇ。マリアちゃん」


 龍弐さんが武装解除した途端に、「享楽的なボンクラ野郎」のコードよろしく、いつもの飄々とした顔になって絶賛した。


「すげぇっすよ。いや、マジですげぇっすよ!」


「迅兄ぃ、語彙力死んでるよ? でも、それくらいすごいよねぇ。あたしだってマリアパイセンまでスキル持ちになっちゃうだなんて考えもしなかったよ!」


「そうね。これでマリアも本当の意味で仲間よ」


「しかも編成的には大助かりだ。透明な防壁だっけ? 俺以外、超攻撃特化したスキルしかいなかったからさ。これでディフェンスも充実するな。いざとなったら頼むよ。その前に今日のことを祝わないとな。盛大にパァッとやろう。なんでも作るよ」


 迅、利達、鏡花、アルマも賞賛する。マリアは特に「本当の意味で仲間」という賞賛が嬉しかったようだ。これまで守られてばかりだったものな。これからはスキルを用いた、守る側になる。もちろん配信者業も手抜かりなくやるだろうが、フェアリーがそもそも自動でカメラを回すため、そこまで気を回さなくてもいい。


「覚醒おめでとうございます。マリアちゃん」


「ありがとうございます。奏さん」


「これでマリアちゃんも、かつて京一くんが受けたデスゲームみたいな特訓に参加できますね。透明防壁がどこまで耐久するのか実験しなくてはなりません。明日、まずは私の矢を受けてみましょうか」


「ぅえ゛っ!?」


「そこまで驚かなくてもいいでしょう? これからマリアちゃんも立派な戦力に数えるのですから。もうマリアちゃんも庇われる立場を卒業するべきです。配信では私でさえ脱帽するような立ち回りをしたではないですか。素晴らしかったですよ。マリアちゃんの良いところが余すところなく見えました。その長所を伸ばしてみましょう。防御特化するために、耐久値と防御力の向上なら、まずは私の矢をすべて受け切るのが近道です。安心してください。ほら、京一くんも生きてるじゃないですか。マリアちゃんも東京に着く頃には、レベル40に届いていますよ!」


「い、いやだぁぁあああああああ! デスゲームはいやぁぁあああああああ!」


 もう、マリアは俺たちが守らなくてもよくなる。これまで移動といえば迅か俺が背負っていたが、これからは自走してもらう。奏さんは爛々と瞳を輝かせながら、かつて俺が廃人寸前になるまで追い込んだ特訓のプランを組み始めた。マジキチだった。


 マリアは鏡花の背に隠れていたが、残念ながら逃げられない。俺だって逃げようとしたけど、その気配を読み取るのが超絶にうまい奏さんが、気付いたら背後にいたんだもんな。「ランニングですか? 自主練とは感心です。いいですよ。このまま西京都まで競争です!」なんてマジキチ理論をほざいて、本当に軽井沢と西京都を往復させるんだもんな。死ぬかと思った。死ねなかったけど。


 マリアは拒否しながら号泣し、奏さんは狂喜し、龍弐さんはそんな奏さんをいじり始めて鉄拳制裁を受けた。俺たちはそんなやり取りを笑いながら見ていた。






 それが間違いだと気付いたのは、五秒後のことだった。






「久しぶりだねぇ、京一ちゃん。お友達になる時間だよぉ?」






 ギュッ。と右腕を掴まれる。



 完全に失念していた。



 このお祝いムードのなかで、ともに笑っていた悪魔が、とうとう俺にチェックメイトをかけやがった。



 今日、死ぬかもしれない。


ブクマありがとうございます。


第四章もいよいよ終わりです。これから第五章になるのですが………それはちょいと短めにやろうと思います。それが終わったら第六章です。


作者からのお願いです。この流れやこれまでの経緯、埼玉のバスターコールがお気に召していただけましたら、ブクマなり⭐︎なり、ふと思った感想なり、存分にぶち込んでいただけると作者の養分となりますので、いただけると幸いです。何卒よろしくお願いします!

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