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第208話 やったれマリアちゃん

日間ランキング100位に入りました。ありがとうございます!

「彼女になるから命だけは助けてください───ですか。それってセクハラですよね。コンプライアンスに違反しているので処罰します。セクハラをしたひとは殺されても文句は言えません。伝説の冒険者、三内(みな)(かえで)さんの教えです!」


 引退してもなお名前が語り継がれる生ける伝説。その偉人が残した名言なら、間違ってはいません。娘である奏さんも言っていましたし。


 リトルトゥルーに所属する際、コンプライアンスのことは一通り学びました。ダンジョンは外界の常識が通用しない異世界同然の空間。日本に存在するものの、ある意味で治外法権のようなところがあり、調子に乗った愚か者が暴走することが多々あるそうです。実際に、他のパーティを洗脳して奴隷化した馬鹿もいたくらいですし。


 西坂さんも、残念ながら処罰対象になってしまいました。なら、もう容赦をする必要はないでしょう。


「いてて………あ、あれ? 死んでない?」


 そして誰かにコンプライアンスを重視するよう強要する私自身もまた、コンプライアンスを違反してはなりません。


 爆風が弱まって、間抜けな声を出す西坂さんに侮蔑の視線を投げかけました。


「当たり前です。殺人罪に問われたくありませんから」


「いや、だからって………え、なにこれ?」


 フェアリーがハラスメントキャノン───龍弐さんが名付けたバズーカ砲───で消し飛んだと思われた西坂をズームアップします。


 途端に絶賛するコメントが、爆笑で溢れ返りました。


「龍弐さんお手製のとりもち弾です。その強烈なネバネバの粘着力は凄まじく、また速乾性もあるので、直撃すれば最後。劣化を待つしか解放されることはないそうです」


 殺せば殺人罪。ダンジョンの外の常識です。だから私は遵守せねばなりません。


「俺、てっきりマリアちゃんがぶっ殺してくるもんだと思ってたよー………」


「だから、殺せば罪になるでしょう? それに冒険者、あるいはスキル持ちに対して銃火器の類は通用しません。私のパーティを見ればよくわかります」


「それってマリアちゃんとこの京一くんのことでしょ!? 冒険者でも撃たれりゃ死ぬよ!? マジで! ………てかもしかして、知らない? ダンジョンのなかで誰かに殺されてもさー、なんていうかな、冒険者同士だから仕方ないっていうか。証拠さえなければ黙認されるってー」


「知ってます。この広い空間のすべてを見張れるはずがありませんし。でも勘違いなさらないでくださいね。私はエリクシル粒子適合者ですが、冒険者ではありません。配信者です。そもそも、フェアリーっていう高性能カメラが私の周りを飛び回ってるのに、証拠もクソもないでしょう?」


「あ、あー………それもそうかー」


 仰臥したまま、とりもちに四肢の自由を制限されて、フェアリーの前でM字開脚しながら虫のように足掻く西坂さんに、視聴者からのディスが止まりません。一方で私に対しては「よく言った!」などの絶賛の声が山のように届きます。


「………ねぇ、マリアちゃん」


「なんですか?」


「今思ったんだけどさー。このネバネバ、女の子に撃ったらすっげぇエロくねー?」


「………」



 はい。セクハラ発言いただきましたー。



「ちょ、待って!? 無言で次弾装填しないでー!?」



「うるさい! 次は顔狙って、性的なことしか言えない口を塞いでやる!」



 またもや暴走した私は、龍弐さんに山ほどもらった弾頭をバズーカ砲にセットして、ハラスメントキャノンを放ちます。


「死ぬ! 口だけじゃなくて鼻も塞がれたら呼吸できなくて死ぬー!」


「なら死に物狂いで呼吸口だけは確保してください!」


 ハラスメントキャノンがまた西坂さんに着弾。コメントは絶賛。「やったれマリアちゃん」が山のように届きます。多分、数時間後にはSNSなどでトレンド入りしているんじゃないでしょうか。


 次弾の着弾により、やっと静かになりました。コヒューコヒューと聞こえるので、なんとか呼吸ができるだけのクリアランスだけは確保できたようです。


「………すごい。奏さんや、龍弐さんの言ったとおりです。スキル持ちって言ったって、無敵じゃないんですね。なんの戦闘力もない私でも、動きを封じただけで本当にスキル持ちを制圧しちゃいました」


 これはマリアチャンネルを開設し、鏡花さんと一緒に行動するようになって、今に至るまでに課せられた、私の課題でもありました。


 私は配信者の職に甘んじて、驚異的というか、ある意味で頭がおかしいとしか思えない超攻撃力重視のパーティにいつまでも守られているわけにはいきませんでした。私だってなにか役に立ちたいと訴えたこともあります。


 奏さんは真剣に私の話を聞いてくれました。龍弐さんもです。そこから課題の具体性と指針が決まりました。


 エリクシル粒子適合者である一般冒険者然り、ダンジョンモンスター然り、冒険者の頂点たる覚醒者───スキル持ちであっても、無差別的に倒せるようになるために。


 初めてやってみましたが、これ以上とないくらいの成功率でした。呆気なくて、逆に脱力してしまうくらい。


「でも………多分、終わりじゃない」


「そのとおりだよー」


「………やっぱり」


 煙幕の向こうから、京一さんたちを幾度となくブチ切れさせた飄々とした声が聴こます。


 私の次弾は、西坂さんの顔面を捉えたはずです。そうすればとりもち弾が顔面を覆い、呼吸を奪います。


 これは龍弐さんの教えです。スキル持ちが窮地に陥れば、いくら隠し持っていようが脱するためにスキルを使わざるを得なくなると。なら、窒息を免れるために西坂さんだってスキルを使う。この目論見は当たっていました。


 煙幕が晴れる頃、そこには抜け殻のようにペタリと広がるとりもちと、その傍らに西坂さんが平然と立っていました。


「くっ………!」


「あ、また撃っちゃうのー? 無駄だけどねー」


 いくらスキル持ちでも限界がある。私のとりもち弾でいくらか動きを阻害できればよかったのですが、まさか完全脱出を遂げているとは思わず、急いで三発目を装填し、構えて発射します。


 しかし、西坂さんの言動どおりとなりました。


 もう遠慮も様子見もいらず、いくらか破壊力のある弾に変更したのですが、着弾した数秒後に煙幕の向こうからあの声がするのです。


「ねーねー。無駄撃ちもいいけどさー。………こうやって密着されたら、暴発するよねー? どうするのー?」


「ならっ!」


「おおー。すごいねー。配信者とは思えない鋭い蹴りだー。判断力もあるしー」


 五発目も無駄となり、西坂が眼前に来た時点でバズーカ砲を投げ捨て、近接戦に以降しました。


 鏡花さん直伝のローキックです。この大冒険のなかで、自衛手段を持った方がいいと考えた私は、鏡花さんにも教えてもらっていました。が、西坂は易々と私のローションを無防備で受け、ヘラヘラしていました。どこかの御影とかいうクソ野郎を彷彿とさせる気持ち悪い笑い方です。


「うーん。このままマリアちゃんが諦めるまで待っててもいいんだけどさー。それじゃちょっと危ないよねー。あのおっかない女たちが勢揃いされちゃ面倒だしさー」


「ご自慢のスキルでどうにかすればいいじゃないですか!」


「でもこれ、便利なようで、そこまで便利ってわけじゃないんだよねー。ってわけだからさぁ、仕事だから悪く思わないでねー」


 ついに西坂さんも攻勢に出ます。ゆっくりと手が伸びます。それを振り払って、バックステップで距離を開くのですが、予想していたのかすぐに詰められました。


「女の子をいじめたくないからさー。絞め殺すってのも、ねー。最終手段としてー。だからサクッと終わらせてあげるよー」


 西坂がスクリーンから取り出す、黒い鉄の塊に息を呑みます。


 サブマシンガンというやつでしょうか。右手に構えた銃が、ピタリと私の胸に照準しました。


たくさんのブクマありがとうございます。モチベに直結しますね。お陰様で筆も加速します。


次回の更新も日曜日を予定しております。たくさんの応援をお待ちしております。


次回は、マリアが大変なことになります。

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