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第203話 反撃開始

 氷を使うスキルを持つ女が攻勢に拍車を掛ける。


 俺には防御をする技術が少ない。環境利用法で、先程のように岩を持ち上げるくらいしかこの場面においてはまともな防御ができなかった。


「ほら。行くわよ」


「チッ」


 女の蹴りに淡い光が纏う。


 エリクシル粒子のエフェクト───ではない。もっと物理的なものだ。


 冷気だ。蹴りの軌道に白い氷の細かな粒子が流れている。しかもその粒子はすぐには溶けず、俺と女の間に落ちると肥大化。氷柱が獣の牙がごとく襲い掛かる。


「面倒くせぇなあっ」


 伸びる氷柱を横から叩いて折り畳む。


「迂闊ね。なにも考え無しで触るなんて」


「………本当に面倒くせぇ」


 確かに今のは俺が迂闊だった。防御ではなく回避に徹するべきだった。


 氷柱に触れた左手が凍り始めている。握って砕くも。新たに再生していた。


「京一先輩! これ使って!」


「前に出るんじゃ………あぢぢぢぢぢっ!?」


 用意がいい奴だ。まさかスクリーンから熱湯を取り出すなんて。


 利達は背後から抱き付くように密着すると、スクリーンから取り出した薬缶を俺の左手に傾けた。


 確かにスクリーンのなかは、時間が停止していると思えるくらい保存が利く。温度がそれだ。熱くならないし冷たくもならない。保存したままを取り出せる。


「お前、いつからこんなの用意してたんだ?」


「ずっと前だよ。チーム流星にいた頃から。ほら、お湯沸かそうにも色々大変じゃん。だからみんな、こうしてお湯を大量にストックしておくの。今はもう必要ないからずっと忘れてたんだけど、まさかこんなところで役に立つとは思わなかったや」


 彼女の経緯を考えれば納得できる。


 利達はチーム流星という冒険者のなかでも上位にランクインするパーティの一員だった。しかしチーム流星は埼玉ダンジョンで敗退し、群馬ダンジョンまで逃げ帰った。貯金を切り崩すその日暮らしのなかで培った節約術の一環なのだろう。だがこうして助けられたんだ。利達と迅の兄である名都には、今度会えたら礼を言わなければならない。


「ふふっ………どこまでお湯が保つかしらね」


 危うく火傷するところだったが、それくらいの熱でやっと敵のスキルから逃れられた。ところが女の言うように、利達の湯も消耗品。限度がある。手を治すのに何リットルを消費したことか。こうしたリカバリーも何度も続かない。


「それで、利達。来るか?」


「まだ来ないみたい」


「難航してるってことか」


「多分ね」


 小声の密談に、女が怪訝な目を向ける。


「援軍が頼りってこと?」


 どうやら聞かれていたらしい。もう小声でやる意味がない。


「そうなるかな。ビビんなよ? テメェらなんざ小指一本ありゃ足りる超強い奴が来るからな」


 無論、そうではない。どちらかといえば、女たちに俺たちが援軍を頼りにしていると印象を与えた方が都合がいいから、その設定を貫こうとする。


「情けない。自分たちで退けようとは考えないの?」


「こちとら病み上がりを抱えてるんでな。てか、三人で襲っておいて、なにが情けないだ。批判してぇならフェアな条件で来いよ」


「それは関係ないわね。それともあなたは、まさか勝てないから手加減してほしいって言われたからって、言われるがままに温情をかけるタイプなの?」


「まさか。そう見えるか?」


「見えないわね。なんていったって、あの勇明な()()()()()()()()()様だものね」


「テメェ………ッ!」


「あら意外。こんな簡単に怒るだなんて思いもしなかった。正直失望してるけど、楽な仕事になりそうで助かるわ」


「余裕ぶっこいでんじゃねぇぞ」


「事実じゃない。ただでさえも防戦一方なのに、そんなお荷物まで抱えて私だけでなく他のふたりも見なくちゃならない。少しの油断もミスも許されない状況で、怒っていられる余裕なんてあるのかしら?」


「うっせぇよ!」


 利達を後方に突き飛ばして、両サイドから迫る男どもの攻撃を避けると、俺は横に移動。壁に手を突くとスキルを発動。岩の壁を剥離させ俺たちと敵を隔てる防壁にする。


「甘いってば」


 女のスキルが猛威を振るう。なんと厚さ二十センチの岩を割った。中心から生える氷だ。女が触れると氷が解除され、水になって地面に広がる。


 水溜りを渡って三人がまた迫り───



「京一先輩! ()()!」



「よし!」



「なにっ!?」



 利達が大声で告げる。


 敵たちは自分の背後や俺たちの背後に鋭い視線を飛ばした。


 やはり、俺がそうなるよう誘導した成果はあったようだ。女なんて特に効果があったようで、驚愕しながらキョロキョロとしている。


「………ハッタリか。やってくれるじゃない。お嬢ちゃん」


「ベーだ」


 青筋を額に浮かべる女に、利達がペロッと舌を出す。


「いや、案外そうでもなかったりする」


「は?」


 女たちの視線が俺に集中した。そしてまた意外そうな顔をする。


 そりゃそうだ。俺にとっては禁句に等しいあのワードを聞いていながら、利達の虚勢を耳にした途端、荒波が立っていたような表情が冷めていたのだから。


「まさか透明になれるスキル持ちが仲間にいるってこと?」


「そんなセコいスキル持ちなんざ必要ねぇよ。俺の仲間はもっとヤベェ奴しかいねぇしな」


「じゃあなに? 本当に援軍が来たって?」


「あー、悪い。それも違う。てかそれ嘘だし」


「………訂正するわ。失望したのは取り消させてもらう。案外、心理戦が強いじゃない」


「評価するにゃ、まだ早い」


 そうだろ。みんな。───と心のなかでほくそ笑む。






「アルマさん!」


「来たか!」


「はい!」


 アルマと奏がいる場所でも変化の兆しが顕著となる。


 ここでも各所で始まっていた戦闘同様、強襲を阻止すべく迎撃が行われていた。スキルを使用した弾幕を張り、敵を寄せ付けずにいる。


 敵も善戦しているが、マリアのパーティのなかでもオールレンジ攻撃に特化したアルマと奏が常に張っている弾幕を回避する術を持っていない。


「飛び道具に頼る卑怯者めが! 武人ならば、あの刀を下げる男のような真似をせず、正々堂々と勝負しろ!」


「大勢で攻めて来た分際で、なにが正々堂々だよ」


「まったくです。あのひとが言っているのは多分、龍弐のことでしょう。お気の毒に。私でもブチ切れるほどの翻弄をされたのでしょうね」


 アルマと奏は、昨日は見なかった新顔の刺客が、弾幕のなかを武器を携えて防御しながら進もうとしている姿に辟易し、同時に同情した。奏の言うとおり龍弐に散々可愛がられたのだろう。最初から怒鳴り散らしていた。


 だが同情はするが手は抜かない。矢と炎で遠慮なく敵たちの動きを封じ続けた。


「あの鬱陶しいのは無視しよう。もうみんな動き出した頃だ」


「はい。反撃開始ですね」


「貴様らなにをほざいている! 反撃だと? 分断されたお前たちが、仲間が動き出したなどなぜわかる!?」


 甲冑を着込んだ男が怒鳴る。


「知りたい? 奏、どうしようか?」


「見せて差し上げればいいではないですか。ほら、こんな感じで………って、どこに入っているんですか!? や、やめなさいニャンちゃん!


 ニヤッとするアルマに促された奏が、弓矢を下ろして足元を見る。だがそこにはなにもおらず、しかし刺客たちの目にはつい先程までいるはずのなかったものがそこにいることを捉えていた。


 奏は身を捩り、ジャケットのジッパーを下げる。インナーを着ているため下着こそ見えないが、大きい谷間からやっと顔を覗かせたそれに仰天した。


「悪戯好きな奴だなぁ。………ああ、勘違いしないで欲しいんだけどさ。根拠はこれじゃないからな?」


 アルマはセクハラに問われないよう、奏の前に出て弁明した。


ブクマありがとうございます。

やっと週一のペースで更新できそうなくらいは、回復できました。

色々書いているので、やっぱり週一にはなってしまうのですが。


それにしても気分で書いた短編が、毎日週間ランキングに載っているので驚いています。

なんだかとても調子がいいので、やっぱり衝動的に書き殴ってしまったイカれた短編をサクッと投稿してしまいましたので、そちらもよろしくお願いします!

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