4話:絶望と光
どうもわたあめです。
お知らせにて書いた通り、異世界転生は小説を書いてみたいと突発的に思って書いた作品のためしっかりとしたプロットというものを作成していないため、ストーリーをどの様に完結させるつもりだったのか忘れて更新を止めた作品です。
間を空けすぎたため作品を完結することを諦めて、新作を書いたわたあめでしたが、作品を投げ出すのが如何に信用を無くすのか等のコメントを頂きました。正直、自分がどれだけ作品を軽視していたか、コメントを頂くまで自覚しておりませんでした。
そこで、前言撤回するようで情けないのですが、異世界転生を完結させるべく不定期ながらも続きを書くことにしました。
相変わらずの亀更新かつ、拙い作品ですが完結まで誠心誠意頑張る所存でございます。
馬の蹄の鳴らす音が荒野を駆ける。
馬の尻に繋がれた台車に乗る少女は恐怖に震えている。
父は首を切り落とされ、母は醜い男共に欲望のままに汚された。このままでは、自分も母と同じ末路を辿るというのは少女にも分かりきっていたことだった。
「嫌だ。死にたくない」
震えながら言う少女の首には奴隷として売る為の首輪がつけられている。
少女が逃げ出すのは不可能だった。
「大丈夫よ。下手な抵抗をしなければ殺されないわ、今は堪えるのよ」
馬車には少女以外にも人が乗っている。
何れも成熟しきった女であり、少女と同郷の者達だった。
各々が顔を不安で滲ませながらも同郷の者の存在は心強く、正常に振る舞う事が出来ていた。
「ぎゃはははは、これで俺達も大金持ちだぜ」
「そうだな!」
並走する馬車からは少女の故郷を襲い、少女等を奴隷とするべく捕らえた男達は、この先手にするお金を想像して喜色の声を上げている。
「これも、魔王様々ってか」
魔王____人間界に魔王が復活してから一年。既に魔族によって侵略された町や村では無秩序な行動をする者達が後をたたなかった。
また、侵略を受けていなくとも大きな悪に触発されるように悪行を犯す者が続出し、民は魔族以外にも恐怖し、苦しんでいた。
世は正に混沌に包まれていた。
「ほら、着いたぞ」
目的地に到着した男達は馬車を停止させ、奴隷の女達を下ろし始める。
ぞろぞろと十名の女達が馬車から降り、少女は最後に降りる。
「え......どこ、ここ」
少女は困惑の声をあげる。
周りの女も同様だ。
奴隷として売られるからには何処かの町に連れて行かれると思っていた少女達だが、連れてこられたのは先の見通せない洞窟の入り口だった。
何故この様な場所へと連れてこられたのか、理由は分からないが、少女は達は全員が嫌な予感をその瞬間抱いた。
その予感は正しかったと証明された。
「おお、やっときたか」
「女、女だぁ~」
洞窟から十数名の男達が姿を見せる。
男達は薄汚れた布を身に纏い皆一様に女達に欲望にまみれた邪な視線を寄越している。
体を洗っていないのであろう、噎せ返る男の臭いに女達は顔をしかめるが、逃げ出す事は叶わない。
「さぁて、商品にする前にいっちょ、試させてくれや」
「えっ」
男の一人が女に手を伸ばす。
力強く引かれた男の腕に女は為す術もなく引き寄せられていく。
「楽しみしな、何せご無沙汰なんだ。今夜は寝かさねーぞ」
「いや、いや!」
女は洞窟の奥へと引き摺られていく。
女の拒否する声は姿と共に闇に紛れていく。
「いゃぁぁぁぁぁぁ!」
暫くしてから聞こえてきたのは耳をつんざくような女の悲鳴だった。
皆が恐怖し、怖じ気つくなか少女は理解した。
自分は闇に呑み込まれたのだと______。
「いゃぁぁぁ、やめてぇ!」
「助けてぇ!」
「あはははは」
「もっとぉ、もっとちょうだい」
少女が洞窟に連れてこられてから幾日が経っているのか、暗い部屋に閉じ込められ、体内時計が既に狂っているている少女にはどれ程の日数が経過しているのかは分からない。
しかし、録に視界を確保できない上に女の悲鳴や嬌声が聞こえてくる環境は少女の精神を着実に磨り減らしてした。
暗闇に閉じ込めて外界との接触を遮断させられると人は鬱になってしまう。
男達の狙い通り、少女の精神を蝕んでいた。
だが、少女はましだったと言えた、欲望にまみれた男達も少女が幼いということもあり、決して手を出すことは無かった。
それは、気遣いとかではなく、幼い少女だと壊れてしまうからという下衆な理由からだったが、そのお陰で少女は外見上は無事でいた。
「さぁ、お嬢ちゃん、俺達はお嬢ちゃんを大事にしようとしているんだよ。今日もちゃんと言えるね?」
「はい、私はご主人様の言うことをちゃんと聞きます、ご主人様の命令は絶対です」
「うんうん。嬢ちゃんはお利口だな」
少女の頭を撫でながら男は笑う。
男達は毎日少女に同じ事を言わせていた。外から壊せないなら内から壊すためだ。
絶望に囚われた少女の心の隙間に男達は侵入するように徐々に精神を侵食していった。
このままでは、少女の心が壊れるのは時間の問題だった。
「さぁ、お嬢ちゃん、次は____」
「______何をやっているのよ、あんた」
男が言葉の続きを紡ぐ前に、新たな人物の声が洞窟に響く。
「だっ、誰だ!」
突然現れた声に、男は慌てたように振り返る。
振り返った男はそこにいた人物に驚いた。
無造作に後ろで一束に纏められた髪に、細長い手足。
そして、男だらけの場所に似つかわしくない可憐な女がそこにはいた。
「何だ、お前は......ごく」
突如現れた女に警戒の素振りを示した男は、直ぐに女の美しさに生唾を飲み込む。
抱いた警戒心はあっという間に霧散し、女のすらりとした手足や肉感的な肢体に、男の証を膨張させ、女の美貌に劣情を催していた。
女は男が示した反応に不愉快そうに眉をひそめるが女を汚す事に意識を向けている男は気づけなかった。
それは、今まで自由にやってきた故の傲慢さからの無防備だったが、女はその隙を見逃すはずもなく剣を男の眉間に突き刺す。
「呆れる程のばかだね。私がここにいる意味を考えたらどうすればいいかわかるでしょうに」
少女が閉じ込められていたのは洞窟の奥深くだった。
辿り着くには入り口から他の野盗がいる所を通過してくるしか方法はない。
にもかかわらず女がいるということは野盗等が捕らえられたか、既に事切れているからのどちらかだった。
そして、正解は後者だった。
「あ、ひゃっ____」
眉間を貫かれた男は他の者と同じく叫ぶことすら出来ずに絶命した。
「ごめんね。できれば貴方には見せたくなかったんだけど____っ」
男が目の前で殺害されても無反応の少女の顔を覗きこんだ女は息を呑む。
少女からは何も感じる事がなかった。
男が死んだことを喜びも悲しみも怒りも何もかもの感情を少女からは窺い見ることができなかった。
「貴方様がご主人さまですか?」
自分の顔を見つめている女を見て少女は尋ねる。
無機質な声で放たれるのは幾度と男に言うように躾られた言葉だ。
「私はご主人様の奴隷です。ご命令は如何様なものでもお聞き致します」
言葉に感情は宿っていない。
しかし、少女の言葉に女は涙を流し、少女の華奢な肢体を力のいっぱい抱き締めた。
「ごめんね。助けるのが遅くなって、本当にごめんね······そうよ。私が貴方のご主人様よ。だから、私の側にいなさい」
女は理解した。少女は壊れかかっていると、他の者もそれぞれ壊されてしまったが、少女もまた同様だと。
だから、抱き締めた。無機質な少女に少しでも熱が伝わってくれと力の限り抱き締めた。
「はい、お側にいます······」
少女の声は依然として無機質なものだった。
しかし、その頬には一筋の線が伝っていた。
「名前。そうだ、私は影山光というの、貴方は?」
「私は······私は、アレゼルです」
少女は____アレゼルはこうして光と出会った。
この出会いが彼女に希望の光をもたらせたのはいうまでもないことであった。
「ふふ」
「どうしたんですか? アレゼルさま?」
「いえ、少し昔の事を思いだしただけよ」
レイドタウンギルド支部のギルド長室で、ギルド長のアレゼルは小さく頭を振る。
「昔の事ってなんですか!」
ギルド長室でアレゼル以外でフィアの人物が声を上げる。
先日領主の館、襲撃事件の際に救出されたエルフのフィアは故郷にアレゼル自身が送り届けるという理由からギルド長室で寝泊まりしていた。
「あら、興味あるの?」
「ハイ、アレゼルさまのこと知りたいです!」
「フフフ、駄目よ。女の過去は詮索するものじゃないわよ」
「むぅ、じゃあ、勇者について聞かせてください!」
勇者____フィアの発言に僅かにアレゼルが反応する。
「あら、何で勇者?」
「だって、好きなんですよね? 本棚にあったです」
「······ああ、そうね。勇者は英雄だもの、勿論好きよ」
「勇者で、どれが好きです? 初代勇者、それとも、二代目? 最近話題の三代____」
「二代目よ!」
フィアが言い切る前にアレゼルは吠えるように言う。
余りの剣幕に目をぱちくりさせるフィアにアレゼルは誤魔化すように咳き込む。
「ほら、やっぱり、同じ女性として尊敬するじゃない」
「そうですね。勇者様はカッコいいです」
「そうなのよ! しかも、可愛い所もあるのよ。普段は凛々しいのにぬいぐるみを抱きながらじゃないと寝れないとか、意外とゴーストが怖いとか、それにハチャメチャでもあるのよ。大好きなアポルの果実を黒龍が持っていった時なんて、黒龍を追って取り返したりと本当にハチャメチャで······と、そんな逸話があるところもまた好きなのよ」
「へぇー、本当に好きなんですね、すごいです!」
「ええ、そうよ」
純粋なフィアはアレゼルの言葉を疑う事なく受け入れる。
そんなフィアの純真な反応に余計にいたたまれない思いだった。
何よりアレゼルには負い目がある。
「フィアちゃん、ごめんね」
「なにがです?」
領主に他種族の情報をアレゼルが流していたことを知らないフィアはちょこんと首を傾げる。
「ごめんね······」
理由を知らないフィアに謝罪するのは卑怯な事だがアレゼルには謝る事しかできない。
「ええ、本当にどうしたですか! よく分からないけど、私は気にしてないです。きっと、アレゼル様は仕方なくしたことなのです」
「仕方なくね······」
それは、そうだろう。アレゼルとて好き好んで領主に協力してきたわけではない。
自分の地位を高めればより強力な権力を手にする事ができる。
そのために、百年以上各権力者と繋がり人脈を広げていった。
決して綺麗な行いではなかった。体こそ使いはしなかったものの色々と汚い事は行ってきた。
後悔はしていない。領主に他種族を受け渡したものの何れは助ける腹積もりであったし、結果として助けてみせた。それでも、純真なフィアに良心がちくりと僅かに痛む。
「アレゼル······様?」
押し黙ったアレゼルの顔をフィアは恐る恐る見上げる。
「大丈夫よ」
微笑んだアレゼルさフィアの頭を撫でる。
心地よい感触を感じながらアレゼルは心に抱いた罪悪感を打ち消す。
____迷いを抱いている暇はないわ。
迷いは隙となり、隙を見せれば自分の願いは叶わなくなる。
外道に堕ちる覚悟も百年程も前にアレゼルは決めていた。
全ては希望の光を奪った魔王への復讐の為に。
ギルド長アレゼルの胸には今もまだ、復讐の炎が燃え盛っていた。
お知らせは消さずに残しておきます。
ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした。




