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異世界転生(運命から逸脱した者)  作者: わたあめ
間章~それぞれの道~編
46/52

2話:魔族と雷

本っっ当にお久しぶりです!

王都から二日かけてたどり着く、ダンジョン。そこに今日も優奈達は修行のために来ていた。


場所は勇者達の教官であるマークが行けるであろうと言っていた地下20層から更に降りた25層で優奈達は1体のモンスターに苦戦していた。


「優奈、魔法の準備を、桃花は支援魔法をお願い」

鈴は剣を手にモンスターに向かって疾駆していく。


「わ、わかりましたぁ」

桃花は速度アップの支援魔法を鈴にかける。

「ありがとう」

鈴の速さが魔法を受けて一段と上がる。

元々スピードタイプの鈴に更なる速さを上乗せしたこのコンボでここまでの相手の大体は倒せてきた。

しかし、それは普通のモンスターの場合はだ。

「くっ、やっぱ固い」

モンスターに接近した鈴は剣を大上段に構えて振り落とすがモンスターの体には傷ひとつ付かなかった。


既に切りつけたこと数回、力を上げ、速さを増した攻撃でもモンスターに傷ひとつつけることさえ叶わない。


「流石にこの階層のボスだけはある」

階層主、それは20層から降りる毎に現れるその階層で一番強いモンスターの事を指す。では、数いるモンスターの中でどうやって階層主を判別するか。それは、とても簡単だ。かつて、ミノタウルスと戦った場所と同じように階層主がいる場所は幾つもの柱が建っており地面はタイルのようなものが敷き詰められている。まるで闘技場のような場所に必ず階層主が存在する。


そして、25層にいたのは一本の角を生やした青い肌で筋骨隆々の巨体を持つモンスター、その名はオーガ、かつてリュートが戦ったモンスターだ。


しかし、その強さはリュートが戦った個体とは別物だ。ランクでいうならBランク、Cランク程度強さの優奈達では楽に倒せる相手ではない。


『グウォォォ』

ダメージがないとはいえ、何度も切りかかれたオーガは怒り、鈴に向かって必殺の拳を放つ。


「遅い」

しかし、巨体のオーガの攻撃もまた鈴に当たることはなかった。

鈴は余裕を持ってオーガの拳を避ける。


「鈴ちゃん。下がって」

「優奈……おそい」

鈴は優奈の方を一度向いてからモンスターとの距離をあける。


「ごめん、手間どっちゃって」

優奈は魔力を練り込んで魔法を放とうとしていた。


「お願い。イッちゃん」

優奈は自身の契約精霊の名を呟きながら魔力を流し込んでいく。


「ゆ、優奈ちゃん!」

桃花が悲痛の叫びを上げる。鈴と戦っていたオーガが優奈の魔法を脅威と判断したのか優奈に狙いを定めたからだ。


「……間に合った」

オーガがもうあと数歩の距離まで迫った時、優奈が魔法を完成させる。

「〈フレイムランス〉」

優奈がそう呟いたと同時に槍のように細長い炎が真っ直ぐ進みオーガに当たる。

『グォギャァァ』

炎の槍はオーガの強靭な肉体をドロドロに溶かして貫いた。

胸を貫かれ、大きな穴をあけたオーガは真後ろに倒れて息絶える。


「やったね優奈」

魔法を行使して息を乱す優奈に鈴が声をかける。


「う、うん。……でも、もう魔力が……」

オーガとの実力差を覆すには大量の魔力が必要だった。今の優奈の余力は僅かなものしかなかった。


「なら、今日はここまでにして帰ろう。階層主も倒したしレベルも上がってると思うし」

これ以上の戦闘は無理だと判断した鈴が帰還することを決める。



ダンジョンから帰る道すがら優奈達は警戒しつつも言葉を交わしあっていた。


「ねえ、桃花ちゃん。やっぱり支援魔法を自分にかけるのは無理そう?」

話題は唯一戦闘能力皆無の桃花の事についてだった。桃花はこれまで後ろから魔法をかけるのみで戦闘を行ったことがない。


「う…ううん。最近魔法が上手くなってきて自分にもかけられるようになったけど……」

そういう桃花の表情は暗い。


「桃花ちゃん……」

「桃花……」

優奈と鈴は桃花が暗い顔になった理由を直ぐに理解する。

戦闘に対する恐怖。元々鍛えていた鈴や幼なじみを助けられず同じ過ちを繰り返さないために強くなると覚悟した優奈とは違い、元来の臆病な性格も合わさり桃花はモンスターを殺すことができないでいた。

それは、転移者の中で唯一桃花だけだった。


「……役ただずでごめんね」

二人の反応から自分が怖がっていると知られたと桃花は罪悪感で声を震わせる。


「何言ってるの桃花ちゃん、謝る事なんて一つもないよ。桃花ちゃんのサポートのお陰で私も鈴ちゃんもすっっごく助かってるんだから!」

ニコッと満面の笑顔で優奈は言う。

「優奈ちゃん……ありがとう」

優奈の言葉が本心だと伝わった桃花は眼鏡の奥で涙を流す。

「優奈の言うとおりとても助かってる……それに、きっと桃花の反応が正しい」

鈴は力を得たことで慢心し恐怖を忘れているクラスメイトよりも桃花のように怯える事こそが普通だと話す。

鈴の話により話題がクラスメイト達の事に移っていく。


「うん。鈴ちゃんの言うとおりだよね。みんな最近更にわがままになっちゃった。風虎先輩が大変そうだったよ」

三年生の風虎は一番頼りになり慕われているということもあって皆を纏める役割をおっている。しかし、力に溺れ自由気ままに行動しようとする生徒達に流石の風虎も苦労している所を優奈は何度か見かけていた。


「今のままで魔王に勝てるんでしょうか」

纏まりがない現状で本当に復活した魔王を倒せるのかと桃花は心配の声をあげる。


「無理」

「……えっ」

あっさりと断言した鈴の言葉に桃花は顔をサー、っと血の気が抜けたように真っ青にする。

「ど、どういうこと鈴ちゃん」

優奈もまた鈴の言葉に驚きながら断じた理由を問いかける。


「理由はいくつかある。単純にまだ私達が弱い。にも関わらず皆が纏まっていない。……それに、私達は戦争を経験してない」

戦争――その言葉に優奈と桃花は沈黙してしまう。


「…………そう、だね」

ポツリと少しの沈黙を破り優奈が呟く。

「鈴ちゃんの言うとおり、私達はまだ弱く誰も救えないのかもしれない。だったらもっとダンジョンに来て頑張らなくちゃいけないね」

優奈は小さくガッツポーズをして頑張らなくちゃと奮起する。


「優奈……」

鈴は気落ちするどころか前向きに次どうするかを考えている優奈に驚く。


「うん。そうだね」

成長した優奈に鈴は嬉しそうに小さく微笑む。


「よーし! じゃあ少し休んだらまたダンジョンに来よう」

優奈は疲れた様子を見せずに元気に叫んだ。





「一階層の階段がみえた。もう少しだね」

優奈達は地下一階に上るための階段の直ぐ近くまで来ていた。


「後は真っ直ぐ進むだけで出口です!」

戦わないとはいえ魔法を幾度となく使用して疲労している桃花が喜色の声をだす。


「優奈、桃花。強いモンスターがいないからといって完全に気を抜いてはだめ」

鈴の言うとおり十五階層からは鈴一人でも倒せるモンスターばかりになっている。しかし、少し気を休めるならともかく完璧にだらけきっている二人に鈴は少し呆れながら注意する。


「う、うん。ごめんね鈴ちゃん」

「す、すみませんです」

鈴の注意を受けた優奈と桃花は直ぐに気を張り巡らせていく。


「ふぅ、だからってそんなに張りつめなくても……」

「何」

突然緊迫した声をだした優奈に鈴は足を止める。


「優奈どうしたの……桃花?」

優奈に何があったのかと聞こうとした鈴は桃花の顔が青ざめてることに気付く。


「な、何なんですか。この黒い魔力は」

「魔力……まさか!」

鈴は何が起きてるのかを直ぐに察した。優奈と桃花は魔法を使うのが上手い。それは魔力を察知する面でも鈴よりも上だった。

つまり、優奈と桃花が見つめる階段の上――そこに二人が怯えるような存在がいるということだ。


そして、コツンコツンと階段を下りてくるような足音が聞こえてくる。


「優奈、桃花逃げるよ」

「でも、逃げ場なんてどこにも」

ダンジョンは壁や床が発光しており相手から優奈達の姿はまる見えだ。運悪く地下七階までは真っ直ぐの道なので隠れることもできない。


「くっ、でも」

鈴は焦りの声をあげる。優奈と桃花よりは遅れたが、鈴もまた今姿を見せようとしている生き物が強力な力を持っていると感じていた。目の前の敵と戦うか階層を降りていくかを決めなくてはならなかった。


「くそ、奴め次会ったら……何だ貴様らは」

しかし、優奈たちが決断する前にそれは現れた。


「そうか、貴様らも先程の奴の……」

階上から現れた男が優奈達に殺気を向ける。


「っ! 優奈、桃花、魔法を!」

相手からの尋常ではない殺気を向けられた鈴は即座に剣を抜き、戦闘体勢をとる。


「ん? 何だ。お前ら弱すぎないか」

男は優奈達の実力を見抜きどういうことかと眉をひそめる。


「……そうか、お前らは違うのか……それに、お前ら、勇者じゃないか」

「「「!!!」」」

優奈達は何故それを知っているのかと驚く。勇者の存在は知られていてもその姿をしる者は王族と貴族しかいない。


「……ま、魔族」

優奈は今更ながら男の瞳が赤い事に気付く。優奈達は赤い瞳を持つのが魔族だと教えられていた。


「けっ、こんなに早くバレるとは。どうする、サタン様に怒られるよな……」

魔族の男は小さく呟いてからギロリと優奈達を睨む。


「くそ、勇者はまだ殺るなと命令されてるのに、全部奴のせいだ。くそ、サタン様に何されるか……っと何だテメー」

「っち!」

ぶつぶつ呟いて油断している魔族に鈴が切りかかるがあっさりと腕に弾かれてしまう。人間に姿はそっくりでも鈴には一切の躊躇がなかった。


「くそっ、少し切れちまったじゃねーか」

「固さはオーガよりはしたかな」

一度下がった鈴は魔族に自分の攻撃が通じるようだと安心した。通じなければ、他のモンスターよりも強いであろう目の前の化け物には勝てない。


「くそっ、くそ、くそ、戦わなきゃいけねーよな。でも、殺すなと言われてる。でも、逃げ帰ってもサタン様に怒られる……なら、ばれないように殺るしかねーか」

更に殺意を膨らませた魔族は拳を前に構える。


「死ね」

「来る。優奈と桃花は下がって」

鈴は迫り来る魔族を相手するために二人を下がらせる。

「疲労が溜まってる、長くはできない」

ここまでの連戦で体力を消費している鈴はならばと自分から前にでる。


「くそ、弱いくせに自分から来るとはなめられたまんだなー」

魔族の男はイラつきながら拳を突きだす。

その瞬間男の拳に黒い魔力が集まり線となって射出される。


「なっ!」

まさかのビームに鈴は咄嗟に横に跳ぶ。

「ほぉ! よく避けれたじゃないか」

魔族の男は感心そうに言う。


「冗談じゃない」

しかし、鈴の方は冷や汗を流していた。実をいうと鈴が避けれたのは咄嗟の事で、鈴には魔族の男の腕が光ったとしか見えていなかった。


「次は避けられるか……っ、優奈! 桃花!」

攻撃は鈴の後ろにいった。そして、後ろには優奈と桃花がいる。鈴は目を見開き声に焦りを交えながら叫ぶ。


「だ、大丈夫です~」

「桃花……なにそれ」

鈴が見つめる先では優奈と桃花を薄い膜のようなものが覆っており二人を守っていた。

「これは、今私ができる最大級のバリアです……で、でも、練習中のものなのであんまり長くはもちません」

元々残り少ない魔力にまだ練習中の魔法を行使した桃花は汗を流し息を乱す。


「何だあれ、俺の技を防ぐなんて中々の防御じゃねーか。流石勇者ってところか」

魔族の男は桃花を誉めながらも余裕に満ちている。


「よそ見は厳禁」

関心を桃花の魔法に移した魔族に鈴は疾走する。


(桃花だって未完の技を使ったんだ、なら、私も)

鈴は剣を鞘に戻し強化魔法を使い駆ける。


(集中しろ。失敗はできない)

鈴は全神経を目の前の魔族に集中させる。


「うん? 何しようっていうんだ」

目の前に迫ってきている鈴に魔族の男は拳から黒い魔力を射出する。


(見えた!)

鈴は顔を狙っているビームを首を傾ける事で避ける。


「あ? 何だ今の」

明らかに見て避けた鈴に魔族の男は目を細める。


「なるほど、魔法か」

魔族は今度は連続で射出する。

しかし、その全てを鈴は見て躱わす。


「くそ、やっぱ魔法かよ」

魔族の男は更なる連射を行う。


(おかしい)

鈴は魔族に違和感を感じていた。

そう考えている間もビームは何度ととんでくる。

そこで鈴は違和感の正体に気づいた。


(やっぱりおかしい――何故自ら攻めてこない)

魔族の男は先程から同じ攻撃を繰り返してくるのみだ。鈴に通じないとわかった今、違う攻撃手段を用いるのが普通だ。

もしかしたら……鈴はある考えが脳裏によぎる。


(なら、都合がいい)

ビームを躱わしながらも魔族に近づいていった鈴は身を屈めて更にスピードをあげる。自身の考えが正しいなら勝負どころはここだと判断したためだ。


魔族に肉薄した鈴は鞘に収まった剣に手を添える。

鈴が行おうとしているのは無駄な動作を無くし、素早く鞘から剣を抜き斬りかかる居合い抜きだった。だが、ただの居合い抜きでは魔族には勝てない。


(だから魔法と組み合わせる)

鈴の全身にパチッと電気が走る。

雷魔法――王女によると貴重な雷精霊と契約した鈴は雷魔法を使うことができる。

鈴が今使うことが出来るのは超肉体強化、先程からビームを避けることが出来るのもこのためだ。


魔法を使った鈴の居合い抜きは最速最強の技だ。


「っ!」

一閃――魔族の目をもってしても捉えられない速度で斬りかかる。

「くそ!」

魔族の男は避けようとするが咄嗟に動くことができなかった。鈴の剣は魔族に近づいていく―――


「はぁ、はぁ……」

鈴の剣は魔族の腕を断ちきった。


(はずした)

しかし、鈴は愕然としていた。鈴の狙いは魔族の心臓。だが、外してしまった。魔族が避けたのではない。鈴が自ら外してしまったのだ。全身に雷電を纏っての強化は集中力に精密な魔力操作が求められる。まだ精霊と契約してから日が浅い鈴は完全にコントロールすることができなかった。


「くそっ、いってーな!」

魔族の男はギロリと鈴を睨む。


「はぁ、はぁ、くっ」

鈴は剣を振りかぶった体勢のまま動かない。無理に肉体を強化して筋肉が硬直していた。


魔族の男はもう一つの腕に魔力を集めていく。鈴の頭を撃ち抜くつもりだ。


「鈴ちゃん!」

それを見た優奈は悲痛の声をあげる。

「そ、そうだ。桃花ちゃん……」

さっきの魔法を鈴にも、そう言おうと桃花がいる横を優奈が向くと桃花は地面に倒れていた。

「桃花ちゃん!」

「ご、ごめんなさ……い……もう、魔力……が」

魔力切れによって桃花は気絶しそうになっている。


「鈴ちゃん、桃花ちゃん……こうなったら私がやるしかない」

優奈は準備していた魔法を放とうとする。


「なっ! これじゃあ撃てない」

優奈から見ると魔族への射線上に鈴の体が重なっている。

狙うとしたら僅かな隙間を通って当てるしかない。それには卓越した魔力操作が必要だ。


「やるしか……ない!」

優奈は魔法の射撃場所を鈴の体越しに僅かに見える魔族の体躯に絞っていく。


ドクンドクン、極限まで集中した優奈に自身の胸の鼓動のみ聞こえてくる。そこまで集中したからだろうか優奈は理解してしまった。


(駄目、今の私では失敗する)

優奈は勇者の中でも魔力操作が上手な方だ。しかし、疲労の溜まった体にのし掛かるプレッシャー、そんな中で精密な魔力操作なんて出来るわけがなかった。


「これで終わりだ!」

魔族の男は拳から黒い魔力を射出しようとする。


「鈴ちゃん!!」

優奈は悲痛の表情で親友の名前を呼ぶ。


(嫌だよ。鈴ちゃんまで失うなんて、もう嫌だ!)

やるしかないと優奈は魔法を放とうと両手を突きだす。


「カハハハ、死ね!」

魔族の男は目の前の鈴を殺すために腕を曲げる。その瞬間、優奈に魔族の腕が鈴の体からはみ出て見える。


「今だ!」

優奈は残った魔力全てを込めた炎の槍を魔族に放つ。


優奈の想いゆえなのかその槍はオーガに放ったものよりも小さいが倍以上の速度で魔族に迫っていく。


「なっ! ぐがぁぁ」

魔族の男はもう片方の腕を根元から断たれる。


「やった」

両手を無くしたことでビームは放てないと優奈は安心する。


「……でも、もう魔力が」

だが、余力を使い果たした優奈は尻餅をついてしまう。


「優……奈」

鈴は今だに体を動かすことができない。


「くっっっそがーーー」

つまり、怒り狂った魔族を倒せるものはこの場にはいない。


「腕なんてなくてもなーー」

魔族の男は目の前の鈴に足を振り上げる。


「かっっ」

魔族に蹴られた鈴は剣を落として地面に倒れる。


「お前らなんか簡単に殺れんだよ!!」

魔族は流れ出る大量の血液を気にすることなく鈴を何度も蹴りあげる。


「かっっっはっっ」

鈴は地面を何度も転がり砂利で肌を傷だらけにしていく。


「くぁっ、あっくぅぅ」

口からは血がでてまともに喋る事さえできない。


「り、鈴ちゃん 」

「や、やめてください」

魔力切れで地面に座する優奈と桃花はその光景を見ることしか出来ない。


絶望が空間を支配した時、突如魔族が動きを止める。


「あ? 今度はなんだぁーー!!」

魔族の男は急に動けない事に一瞬戸惑ったものの直ぐに怒りに変換する。


「フゥー、どうやら危ない所だったみたいだね」

「ふ、フウコ先輩、何で」

魔族が現れた時同様、風虎が階段から下りて姿を見せる。


「何、入り口から何者かの血が階段まで続いていてね、三枝くん達がダンジョンにいることは知ってたからもしやと思ってね」


「あ、テメーも勇者か」

魔族の男は風虎を一瞥する。


「ふむ、そういう貴様は魔族か、ふむふむ、なるほど。魔族がこんなところに居るってことはもしかしてわれらの情報を誰かからもらっているのかな?」

風虎は魔族に臆することなく堂々と話す。


「かはっ、お前は勇者の中でも強そうだな……でも、もうお前も逃がさないぞ」

魔族の男は自身を押さえつける何かを破ろうと全身に力を込める。


魔族の言葉を受けた風虎はしかし、不敵に笑う。


「逃がさない……バカ言うな――貴様を捕まえてるのは私だ」

風虎は掌を開いて握る仕草をとる。


「なっ! ぐぎぎぎ」

それと連動したかのように魔族の男は苦悶の声をあげる。


「このまま連れて帰らせてもらうぞ」

風虎は手をくいっとやり引っ張る仕草をとる。すると、またもそれに連動するように魔族の足がずるずると前に進んでいく。


「くそ、止まれ」

魔族の男は足を止めようと力を入れるが風虎によって前に引っ張られていく。


「止まれって――いってんじゃねーーーか!」

魔族の男は全身から魔力を吹き出す。

すると何かがほどけるように魔族の足がピタッと止まる。


「ほう、まさか力ずくで破るとは私もまだまだだな」

自身の技が破られてもやはり風虎の顔には笑みが浮かんだままだ。


「くはっ、これで動けるぞ……早速死ね――ぁれ」

魔族の男は自分の首の根元を見下ろしてから命つきる。

「悪いな。拘束できないなら死んでもらうぞ」

風虎は腕に風を纏わせたまま呟く。

ドサッ、と音をたてながら魔族は地面に倒れる。


すると安心したように風虎は息をつく。

「人間に似た者を殺すのは後味が悪いな……禍々しい魔力のおかげでそんな事を忘れてしまうのが幸いか」

魔族の前では冷静でいた風虎は今更ながらに冷や汗を流す。


「それに、何なんだ、あの魔力量に腕を斬られ、血を流してるのに動き回る頑丈な体は、あれが何人もいるとなるとはっきり言って私達の手に負えないぞ」

「かは、それ……だけじゃない」

地面に倒れていた鈴が途切れ途切れに話す。


「東雲くん、あまり話さない方がいい。今直ぐに他の者がくる、休みたまえ」

「大、丈……夫、それよりもさっきの魔族、多分、元々…大した余力が残っていなかった」

「ふむ、というと」

風虎は鈴の話に興味をもったのか他の者がくるまでの間と話を促す。


「私は、違和感を……感じた。魔族が余りに動かなかったこと」

「ふむ、しかし、普通に動いていたではないか」

鈴を蹴りあげたときだって魔族は元気そうだったと風虎は言う。


「それだって、私達が止まっていたからで、あまり動いてなかった、それに、相手を見れば分かる……あの、魔族は私よりも速い」

鈴は魔力を感知するのは苦手だ。しかし、相手の力量を見抜くことにかんしては勇者一だった。


「なるほど、確かに東雲くんの言うとおりなら地面の血液も魔族のものだと納得できる。しかし、だとしたら尚更厄介だな。それに、そもそも何故こんな場所にいたのか、私達の事を国の誰かに教えてもらっていたとしてもここにいるのは不自然だ。実力があるなら尚更おかしい……もしかしたら、魔族以外にも敵がいるのか」

風虎の考えは五人の勇者がくるまでの途切れることはなかった。






「ふぅ、何とか間に合いましたね」

勇者によって救出された優奈達を見ながらその者は安堵の息をもらす。


「まさか転移して一階層に行くのは誤算でしたが、まぁ、誤差の範囲ですかね」

この者の予定では魔族を勇者の前に現すのはもっと後の予定のはずだった。

勇者に魔族を倒させて少しでも自身をつけさせるために――そのために魔族をろくに戦闘できないように痛めつけたのだから、しかし、ダンジョンの罠によってその予定は崩された。だから、この者はわざわざ地面に血を残して風虎を階下まで誘導したのだから。


「しかし、勇者もまだまだですね、あの程度の下級魔族に負けるのですから……はぁ、これであの方を楽しませることができるのでしょうか」

その者は小さく溜め息を吐く。


「まぁ、それは神のみぞ知るってやつですかね……まぁ、でも頼みますよ」

その者は可笑しそうにしながらダンジョンの奥へと進んでいく。


「つまんないようら消去しなければならないのでね」

その者は何の表情もない真っ白なだけの仮面の下で酷薄な笑みを浮かべる。


























































次回は伏線多めの話になります。その次が魔族側でその次がまた勇者ですかね。

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