エピローグ
はい、どうもわたあめです。
今回も遅くなってしまって申し訳ないですが、これで三章は終わりです。
前回までのあらすじがほしいと感想があったので書きます。
前回までのあらすじ、佐々木龍聖は誕生日当日にクラスメイトによって殺害されてしまう。死んだ龍聖は神によって異世界に転生しリュートとして生きる事になる。奴隷商人の館で過ごすことになったリュートはスライムのライム、呪われたハーフエルフのニーナと出合い旅を共にすることになる。リュートを売ろうとした奴隷商人を逆に殺害したリュート達はファートス村に着く。そこでギルド長のバルタにランクアップの機会をもらったリュートはビースト山にいきそこでフェンリス、ウルフから娘を助けてほしいと頼まれたリュートは無事娘を救出する。……しかし、それと引き換えに母狼が命を落としてしまう。リュートは母狼に娘を任せろと誓い、娘のフェリスもリュートの優しさに気づき仲間に加わることになる。そんな時、ファートス村にオークの大群が襲撃してきた。襲撃を指揮したのが魔族だと見抜いたリュートは黒幕の魔族を討伐することに成功する。それにより過去最速でBランクにまで上り詰め、周りからは謎の銀仮面と恐れられるようになる。
それから直ぐにファートス村を出たリュート達はバルタに紹介されたエルフの女アレゼルにニーナの呪いについての情報を得ようとレイドタウンまで会いに行く。だが、そこでニーナが何者かにさらわれるという事件が起きる。リュートは魔族と取引をし、ニーナの居場所に検討をつける。そんな時に奴隷市場で出会った狐の獣人エメリアと出会う。弟の敵を討とうとニーナをさらった犯人の館で囮でいかされたエメリアが暴れている内にリュートはニーナを救出して実行犯である獣人をも倒す。それからアレゼルの所に向かったリュートはかつてアレゼルの主であった勇者、影山光の事と神器という武器の事を聞く。そのすぐ後にレイドタウンに戻ってきたSランク蒼炎のクレアと闘うことになる。しかし、圧倒的の強さに技術、魔力がないという特殊のクレアにリュートはあっさりと負けてしまった。……とまぁ、こんな感じですね。
リュートがアレゼルの話を聞いてSランクのクレアに瞬殺されてから3日がたっていた。
リュート達がが泊まる人が少ない宿ではこの3日間何かが壁に当たるよう音が響いている。
「す、すごいですね……」
リュートの部屋の前でライムが驚愕の表情を浮かべている。
「さ、流石主殿です! まさか3日も鍛練をしてるとは!」
ライムと同じものを見たフェリスは感激の表情を浮かべる。
「……すごい」
ニーナもまた手に持つサンドイッチを食うのをやめて固まっている。
三人の視線の先では狭い部屋を跳ね返るいくつもの小さなボールをリュートが目を閉じながら全て避けているところだった。
「ん、出たか」
跳ね返ったボールの1つがライムたちが立っている扉から出ていってしまった。
「も、申し訳ございません! 主殿の鍛練を邪魔してしまうなど」
「ああ、いい、気にするな」
狼狽えるフェリスをリュートは気にするなとなだめる。
「……たべる?」
「うう~、ニーナ殿」
目に涙を浮かべて狼狽えているフェリスにニーナがサンドイッチを差し出す。
「それでリュートさんはこの3日間何をしていたのですか?」
三日前宿に帰ったと思ったら部屋に閉じ籠ったリュートが鍛練をしていたのは分かるが何の鍛練かは知らないライムが聞く。
「……悪い、そういえば言ってなかったな」
ライム達を見ると僅かに目の下に隈がある。突然部屋に閉じ籠ったリュートを心配し続けていたようだ。
「三日前あっさりと負けてしまってな、このままじゃ駄目だと思って鍛練をしようと思ってな。……それで今やってたのは幾つものボールを反射させて、目を閉じた状態でも音や空気の流れで相手の居場所と大体の動きを察知するための訓練だ」
Sランクのクレアに負けたリュートは自分の察知能力を鍛えようとドワーフのレギンからこの鍛練に使うボールを貰っていた。
「リュートさんをあっさりと倒す人なんているんですか!」
ライムは鍛練の内容よりもリュートが簡単に負けてしまったことに驚いてるようだった。
それはライムだけではなくニーナとフェリスも同じだったようで二人とも顔を強ばらせている。
「ああ、楽しむなんて偉そうに言っといて瞬殺されたよ。……気づかないうちに慢心していたのかもな」
クラスメイト達に慢心して研鑽を怠るのはしてはいけないと思っておいて自分も無意識に慢心して最初の事よりも力を求めていなかったことにリュートは気づかされていた。
「だからもう慢心も油断もしない。俺は更なる力を得る」
リュートは力強く宣言する。
「でも、リュートさん。少し嬉しそうですね」
「えっ」
ライムから見たリュートは慢心していたと言いつつどこか楽しそうに見えた。
「確かにライム殿の言うとおりやもしれません。主殿の雰囲気がどことなく柔らかいような気がします」
ライムの意見にフェリスも同感だと頷く。
「……リュート、戦い、たのしかった?」
ニーナもまた二人と同じ感覚を得ていた。
「俺が楽しそう……」
3人に言われたリュートは自分が負けたのに楽しそうにしていたと気づかされる。
「そうか、俺は楽しいと感じていたのか」
確かにクレアとの戦いは今までとは異なっていた。クレアはリュートに対して悪意を向けることなく純粋に闘おうとしていた。これは死合いばっかり行ってきたリュートには初の事だった。
だから圧倒的な敗北を喫しながらもリュートは無自覚の内にクレアの力を引きだせなせなかった自分に“悔しい”と感じ、同時に
クレアの力を凄いと思っていた。
ライム達からはそんなリュートが嬉しそうにしていると見えた。
「……リュート、すぐつよくなる」
ライムとフェリスとは違いニーナは悔しいという感情が時に成長に繋がると云うことを知っている。ニーナは今回の敗北でリュートが成長できると嬉しそうにする。
「……っ! ……?」
チクリと、リュートが自分達以外の人によって成長できると思ったとたん、僅かな痛みをニーナは感じる。
胸から感じたと胸を押さえるニーナだが、結局理由は分からず不思議そうにする。
「どうかしたのか?」
そんな胸を押さえながら首を傾げるニーナにリュートは何かあったのかと声をかける。
「……ん、わか…らない」
「わからない?」
「……ん、そんな事よりもリュートに勝った人ってどんなひと」
「本当に大丈夫か?」
突然話を変えて、しかもそれを真剣な顔をして話すニーナにリュートは困惑する。
「……だいじょうぶ。答えて」
「う~ん、まぁいいけど、俺に分かることなんて少ないぞ。Sランクのクレアという女剣士ということと、とてつもない技量を持つってことだけだ」
……俺は先ずはあの高みに行かないといけないんだ―――そう話すリュートをニーナはクレアという人物にリュートが憧れを抱いているように感じた。
おもしろくない……これがニーナの率直な思いだった。
理由はわからない。だけどおもしろくないものはおもしろくないとニーナは膨れっ面を作ってリュートに初めてのワガママを言う。
「……リュート、今から観光にいこ」
「ずいぶんと急だな。観光に……そういえばまともに観光すらした事すらなかったな」
ニーナに言われたリュートはファートス村でもレイドタウンでも軽くブラブラとはしたが、まともな観光をしていなかった事を思い出す。
「……そうだな。鍛練も一段落したし観光するか」
ニーナが自分に気をつかってくれたと感じたリュートは観光に行くことに決める。
(まぁ、一度街を見て回るのもいいだろう。ニーナ達との観光は楽しくなるだろうしな)
リュートは自分がこの世界に来た理由である楽しむために立ち上がる。
「あ、主殿! こうして周りを見ると面白そうな物が沢山ありますね」
観光の為に宿を出たリュート達は街を歩いている中、フェリスが興奮しながら商店に売っている品物をしきりに物色していく。
「前から思ってましたけど何でフェリスさんはあんなに楽しそうにするんですか」
馬車に乗った時もはしゃいでいたフェリスを思い出してライムは首を傾げる。
「フェリスは母親以外とは交流を持っていなかったようだし、色々な物が新鮮なんだろ。むしろライムが冷静すぎると思うぞ。もっと楽しんだらどうだ」
前で顔を喜びの色に染めて楽しそうにしているフェリスを見ながらリュートはライムと話す。
「私も楽しんでますよ。ただ私はリュートさんにニーナさんにフェリスさん。この三人といられればそれだけで満足なんです」
「……そうか」
ライムはスライムの中で唯一人高い知能を持ち、仲間から迫害されていた。一人ぼっちだったライムにとっては今の仲間がいる状態が一番の幸せだ。
「だ、だから本当にリュートさんには感謝してるんです」
「ライム?」
突然声を震わせて手をぎゅっと握ってきたライムをリュートは不思議そうに見上げる。
「私が今こうして幸せでいられるのはリュートさんのおかげです。……だから私は」
ライムの頬は赤く染まり目が潤んでいく。
「だ、だから私はリュートさんが……」
「………………」
「す、ってに、ニーナさん!!」
頬を赤らめて何かを言おうとしているライムを無言でニーナがじっと見ていた。
それによってライムは慌ててリュートの手を離して体を遠ざけていった。
「…………リュート、あれ食いたい」
「ん? ああ、いいぞ」
数十メートル先の屋台を指差して食べ物を所望するニーナの喋り方が何時もよりも間が長くかたいような気がしたがリュートは気にせず屋台に向かっていく。
「す、すいませんニーナさん。助かりました。先走ってしまうところでした。もう少し強くなるまでは堪えるつもりだったのに」
「……ん?、平気」
リュートの後ろでふたりの話しているが他の人の声に交わってリュートには聞こえなかった。
「ありがとうございました」
頼まれた食品を手に持ったリュートはニーナに渡そうと話し合っているライム等の所に向かう。
「……」
二人の所に向かう途中リュートは何かに引き付けられたようにとある店の前で足を止める。
「も、申し訳ございません」
ひと休みしようとリュートが提案して定食屋に入り、リュートとニーナとライムがテーブルについたと同時にフェリスが土下座の体勢をとっていた。
「何だいきなり」
唐突の土下座に流石のリュートも僅かに驚いた表情を浮かべる。
「主殿をほっといて一人はしゃいでしまって申し訳ございませんでした。主殿を守らなければならないのにお見苦しい姿をさらしてしまいました」
フェリスはリュートを絶対の主と定めている。その主に危険が及ぶかもしれないのに離れてはしゃいでいた自分を見苦しく感じていた。
「まぁ、別々の行動はよくしてるだろ」
「それは主殿のお願いですから……でも今回はお願いはされていないのにお側を離れてしまいました」
フェリスの種族にとっては主の願いは最優先で叶えなければならない。今まではリュートに別々の行動をとるように言われたからフェリスはいうことを聞いたが、一緒に行動している今は本来なら側で守らなければいけなかった。
「変な所で真面目だよな」
子供のように商店を見て回る無邪気な顔にに主に絶対の忠誠を誓う真面目顔、一番の二面性を持つのはフェリスかもしれないとリュートは思った。
「フェリスが意識をこっちに向けていたことはわかっている。俺はそれだけでも安心だ。だから気にせず遊べばいい」
「このダメな私に対して、な、なんというお優しさ」
フェリスは感激で涙を流す。
「そんなに泣くことはないだろ?」
リュートはショルダーバックから小さな袋を取り出す。
「……それに俺は本当に感謝してるんだ」
「主殿?」
取り出した袋を差し出してくるリュートにフェリスはキョトンとする。
「俺からのプレゼントだ」
リュートが先程足を止めた店で買ったのはフェリス達に贈るためのプレゼントだった。
「あ、主殿が…ぷれ……ぜんと……だと」
「……リュートが」
「プレゼントですか!!」
フェリス達はそれぞれ驚愕の表情を浮かべる。リュートからのプレゼント。それは三人とってはそれだけのショックを与える事だった。
「……迷惑だったか?」
リュートはこれまで贈り物というものをしたことがなかったので三人の反応が迷惑そうに見えていた。
「めめめめめめ滅相もありません!! とっ、とっても光栄でございます!! で、ですからどうかしまわないでください!」
ショルダーバックに袋をしまおうとしたリュートにフェリスは慌てて床を這いずって近づいていく。
土下座からの早業にライムとニーナはもちろん、リュートまでもが目を見開いていた。
「そうか、ならよかった」
近づいてくるフェリスにリュートは僅かな安堵を感じて小さく微笑む。
(ん、安堵? 何で俺は安堵したんだ……)
リュートが一瞬の考えをしている内にフェリスが足元まで来ていた。
「そ、それで主殿、プレゼントとはどのような物なのでしょうか」
フェリスに言われたリュートは袋を差し出す。
「こ、これは確かネックレスというものででございますよね」
袋に入っていたのは銀色のチェーンに銀色の石がついたネックレスだった。
「ああ、これを首につけるんだ」
「はぁ~~っっ、主殿からの頂き物、一生大事にさせていただきます」
フェリスは頬を赤らめうっとりとしている。喜んでいるのは間違いないだろう。
「……あ、あの、リュートさん!」
リュートが喜んでいるフェリスを見ているとライムが大きな声でどこか緊張しながらもリュートの名を呼ぶ。
「その、プレゼントは、その、わ、私にもいただけるのでしょうか!」
リュートが声の方を向くとそこには顔を真っ赤にしたライムがいた。そして、その隣のニーナは無表情なのは変わらないがいつもあるのんびりとした空気を真剣な雰囲気を纏っていた。
表情は違えど二人からは自分の分のプレゼントはという想いが放たれていた。
「もちろん二人の分もあるに決まっているだろ? 何言ってるんだ?」
何故二人がそんな心配をしたのかリュートには理解できなかった。
「……そうですか。当たり前の事ですか」
リュートのお前らも仲間なんだから当たり前だろとでも言いたげな顔にライムはほっとするのと同時に嬉しくなった。
「……ん」
ニーナも満足気な雰囲気を発している。
「こっちがライムでこっちがニーナだ」
リュートがライムとニーナに渡したのはフェリスと同じネックレスだ。ただ、ライムのは石が水色でニーナのは金色のチェーンに赤い石がついている。
「一応三人のイメージで選んだんだ。……もしかしたらニーナは自分の赤を嫌っているかもしれないが俺にはやっぱりニーナだから」
リュートはプレゼントを選ぶときニーナの事が先ず思い浮かんだ。ニーナの瞳の赤は魔族特有のものだ。ニーナはこれを嫌がるかもしれないと……しかしリュートは自分が知っているニーナそのままのイメージで、ニーナはニーナだとそう思い選んでいた。
「……ん、わたし気にしない……それに」
ニーナは頬をうっすらとピンクにして小さく微笑む。
「……リュートのプレゼント……すごくうれしい…………ありがと」
ニーナは本当に心から喜んでいた。三人の中でも一番に喜んでいる。過去に贈り物というものをニーナもまた母以外から嫌われていたため貰ったことがなく、仲間からプレゼントを貰ったのは初めての経験だった。それにあのリュートが気をつかってくれたのだ、ニーナはそれもまた嬉しかった。
「私もとても嬉しいです。リュートさんありがとうございます」
ライムは元スライムのためプレゼントのネックレス自体に興味はない。しかし、自分の愛するリュートからの贈り物は嬉しく、ネックレスも大切にしようと思っていた。
「……でもどうしてまた?」
ライムは喜んだ後、リュートは何故急にプレゼントをあげようと思ったのか疑問に感じて聞いた。
先程の三人の反応からもリュートが贈り物をするなんて事はライムには信じられないことだった。
「まあ、確かに急だったしな……理由か俺にもよく分からないな」
リュートにも理由は分からなかった。ただ色々なアクセサリーが売っているお店の前で三人に何かをしたいと唐突に思って買ってしまっただけだった。だから答えに迷ってしまう。
「……ただ、三人が喜んでくれて俺も嬉しいよ」
リュートはふんわりと微笑んだ。
「「「!」」」
その時ニーナ、ライム、フェリスは先程の驚愕をも上回る衝撃を受けた。
これまでリュートが時折優しい笑みを見せることはあったが今リュートが見せたのは慈しみがこもった笑顔だった。
「……どうかしたか?」
自分が見せた笑みに気づいていないリュートは呆然と立ち尽くす三人を不思議そうに見る。
「い、いえ何でもありません。ね! ニーナさんフェリスさん」
「……ん、何でもない」
「そそ、そうです! 主殿は何もしておりません、気にしなくても平気です」
明らかに何かを隠してるがリュートはそれには言及せずに先程から言おうと思っていたことを話す。
「わかった。……それよりも移動しないか見られている」
忘れてはいけないがここは定食屋の中だ。幸い人はあまりいないが店内の人全てがリュート達に注目していた。特に床に這いつくばったままのフェリスに視線が集まっている。
「もももも申し訳ございませんん~~!」
リュート達は何も頼むことなく定食屋を後にした。
「あら、リュートくん、こんなところにいたのね」
定食屋を出たリュート達は今度こそ休もうと人通りの少ない場所を歩く。
その途中の道でレイドタウンのギルド長である女エルフのアレゼルが声をかけてきた。
「あの方はニーナさんに酷いことを言った方じゃ」
「なにようだ!」
ライムとフェリスはニーナを傷付けたアレゼルにいい感情をもっていない。
「ずいぶんと嫌われちゃったわね」
対するアレゼルは特に気にした様子もなく微笑んでいる。
(……何を考えている)
剣呑な雰囲気を放つ二人とは違いリュートはアレゼルの横に視線を向けていた。
「……フィア?」
「うん! そうだよニーナちゃん」
アレゼルの横にいたのはニーナが領主に囚われた時、同じ牢屋にいたエルフの少女だった。ニーナを助けに行った時に会っているリュートはフィアに気づいていた。
(だけど何故今ここに連れてくる)
館に囚われていたものをアレゼルが保護したのはしっていた。しかし何故ここに連れてきたのかリュートはアレゼルの考えが分からなかった。だが直ぐにそれは本人の口から話された。
「実はニーナちゃんが行くところがないならフィアちゃんが一緒に自分と住めないかと思っているらしのよ」
「……えっ」
ニーナは珍しく戸惑いの声をあげる。
「アレゼルさんからニーナちゃんの話を聞いたの帰るところが分からないんだよね。それなら私が住む村に一緒に来てそこで帰る場所を探せばいいと思って……どうかな?」
「なっ――」
「邪魔しちゃ駄目よ」
何を言っている。リュートがそう言う前にアレゼルが制止の声をだす。
「これから先の事を決めるのはニーナちゃんよ。私にも都合がいいしね」
ニーナが旅を止めればリュート達は神器探しに集中できるから確かにアレゼルにとってはその方がいいだろう。
「…………そうだな。確かにこれはニーナが決めることだ」
だがアレゼルが言っている事は間違っていない。これから先旅に出るかはニーナ自身が決めることだ。
元々どこに行くあてもないリュートが旅の目的に定めたのがニーナの呪いについてだ。しかし、今は神器探しという目的がある。
(なのに何故俺は動揺している)
それでもリュートの心は焦燥にかられていた。理由が分からないリュートは咄嗟にライムとフェリスを見るが二人は真剣な表情のまま何も言わない。
(ニーナさんが幸せなら私はそれを応援しなければいけない)
(道は己で決めなくてはいけない。ニーナ殿が行く道を私が阻むことなどしてはならない)
二人もまた突然の出来事に驚きながらもニーナの邪魔はできぬと心の中で自分に言いきかせて動かないでいた。
「……ん、わたしは…………」
リュート達がそれぞれ色々な想いがありつつもそれを面にだすことはなく、答えを出すニーナをじっと見つめる。
「……リュートたちといく」
ニーナは特に迷う素振りを見せずに答えた。
「あははは……まぁ急だしそうだよね。……でも、一応理由を聞いてもいいかな」
「……ん、わたし、ライム、フェリス……リュートがすき? だから」
無意識の内にリュートの所で間をあけつつもハッキリと3人が好きだとニーナはフィアに伝える。
「ふ~ん、そうですか……」
フィアはニーナの態度から本人が気づいていない感情を察した。
「わかりました! 今回は諦めます。でも、気が変わったらいつでも言ってくださいね」
「……ん、ありがと」
気を悪くするでもなくいつでも来いと言うフィアにニーナは感謝する。
「あら~、残念だわ」
そういうアレゼルだが少しも残念がっているようには見えない。
(いや、それどころか喜んでいるのか)
神器探しが遅れるかもしれないのに嬉しそうな雰囲気のアレゼルをリュートは訝しむ。
しかし、いくら考えてもリュートにはアレゼルの考えが読めなかった。
「……リュート」
「ん? なんだ」
アレゼルをじっと見ていたリュートに振り返ったニーナが声をかけてくる。
「……わたし、ここにいて…いい?」
ニーナは不安そうにリュートを見つめる。
これまで一緒にいたのは成り行きからだ。他の行き場所ができた今、弱くて今回迷惑をかけた自分は邪魔なんじゃないかという想いが揺れる瞳に如実に現れている。
「いいに決まっているだろう?」
そんなニーナに対してリュートは何を言ってるんだと不思議そうにする。
それは、なに今さら当たり前の事を言っているのかという表情で、
「そうですよ! ニーナさんが嫌ならともかく私達がダメって言うわけないじゃないですか」
「ニーナ殿、それは何の冗談だ?」
ライムとフェリスもニーナがここにいてもいいのだと当たり前のように言う。
「…………」
ニーナは固まったまま動けない。瞼に涙が盛り上がり雫となって頬を滑り落ちていく。
「ニーナ……」
「どうかしたんですか!」
「もしや、何処か怪我をしているのですか!」
突然泣き出したニーナにリュート達は困惑して慌てだす。
「………え?」
リュート達の反応を見るまで自分が泣いていることに気づいていなかったニーナは目をそっと押さえると涙で手が濡れていく。
そのまま手を上げていき目を拭っても拭っても涙はどんどん溢れて止まらない。
だけど、それでもニーナは涙を少しでもなくそうとする。今は目の前の人達に伝えなければならない事があるからしっかり見ろと、必死に拭ぐいつづけると真っ赤になったが涙は勢いを減らした。
「…………ありがとぅ」
ありがとう。ファートス村では命がけで助けてくれてレイドタウンでは捕まっているところを助けてくれた。村ではいつも一人ぼっちの弱い自分を楽しい旅に連れ出してくれた。こんな自分を当たり前のように常に一緒にいる仲間だと言ってくれる――その全てに万感の思いをありがとうの一言に込めて伝える。
「ニーナさ~ん!」
「ニーナ殿!!」
「……くるし」
感激したライムとフェリスはニーナが苦しそうにしているのをかまわず思いっきり抱き締める。
「あらら、どうやら私達は邪魔のようね。行きましょうフィアちゃん」
「アハハ、ですね」
アレゼルはフィアを連れてリュートの横を通りすぎていく。すれ違うときアレゼルがリュートを見て小さく笑みを浮かべるがリュートは気づかない。
「…………」
今のリュートは目の前の3人をただ呆然と眺めることしかできなかった。
リュートはニーナが自分達から離れてフィアと共に行くと思っていた。しかし、ニーナはリュート達と一緒に居ることを選び、それどころか感謝までしてくれた。それはリュートには予想外の事で咄嗟に動けずにいた。
(ありがとうか……何なんだろうな)
動けないリュートは色々な考えが頭を巡るがどれも曖昧で思考に集中できていないことに気づいた。何かが胸の内に湧いて考えることを妨げているように感じていた。
それはニーナが自分達を選んでくれた事に対する感激のせいであったがリュートは自覚することができなかった。
だけど、ふと何気なくだけど今のこの状態が幸せなんだとは感じていた。
「ニ――」
リュートはニーナに声をかけようと名前を呼ぼうとする。
しかし、そこでリュートは無意識の内に『神眼』を発動して僅かな通行人の一人を視てしまう。
(あれは……まさか)
それは唐突に現れた。漫画等のように伏線があるわけではなく自分はいつでも登場できるのだと当たり前のようにそこにいた。
――――ユグドラシル
人間に崇め奉られている神龍の名前を持つ男が何くわぬ顔で道を歩いている。
そんなのはただ名前が一緒のだけだ。普通のものならそう言うだろう。
しかし、リュートは目の前を歩いている男が本物だと確信していた。
神眼で視てもステータスが見えないからというのもある。……だが、本能が告げていた―――あれは次元の違う存在だと。
「……リュート?」
真っ先に先程の感激とは違う理由で立ち尽くすリュートの異変に気づいたのはライム達に抱きつかれていたニーナだった。
「……なにかある?」
リュートの視線は自分達の後ろに向いている。何だと顔を振り向かすと後ろから驚愕の声が聞こえてくる。
「リュートさん!!」
「リュート殿!!」
それはライムとフェリスの声だった。慌ててリュートの方を向いたニーナは口をあんぐりとあける。
「……ぴか…ぴか」
ニーナの見つめる先では金色に発光しているリュートの姿があった。
そんな摩訶不思議な出来事にニーナ達は抱きしめあったまま僅かに動きを止めてしまう。
「……って、主殿を助けなければ」
一瞬停止したもののリュートを守らなければならないフェリスは衝撃から立ち直り己の主のもとに駆けようとする。
「『動くな!』」
リュートが一声を放ったときライムとフェリスは言葉どおりに動けなくなった。
「体が動きませんね。フェリスさんはどうですか」
「なっ! なんなのだこれは!」
フェリスが全身に力をいれて身をよじっても指一本ピクリとも動かせない。
「……?」
突然固まりだした二人にニーナはわけがわからず首を左右移動させる。
「どうやらニーナさんは大丈夫のようです。……まさか主従契約!」
ライムは自分とフェリスだけがリュートの言葉どおりに動けなくなったことから主従契約の効果だと見抜いた。
「だけど何で……くっ、これではニーナさんも動けない」
リュートが何故自分達を止めたのかは分からないが、ライムは今の状態から助けなければと思い唯一動けるニーナを見るが、抱きついたままの体勢で固まったためニーナも動くことができなかった。
「ライム!」
ニーナ達が動けないなかリュートが発光したままライムの名を呼ぶ。
「頼んだぞ」
「リュートさん……」
リュートが何を言いたいのかライムには伝わった。自分に何かあったときはニーナとフェリスを引っ張ってくれと――そう頼まれたのをハッキリと覚えている。
何が起きたのかはライムには分からない、
「任せてください!」
だが、リュートが動くなと言ったからには何か理由があるはずだと考え、仲間の事は自分に任せろと大声で誓う。
「頼んだぞ……あともう一つペンダントは―――」
リュートが言葉の先を紡ごうとした時、影が突進してきた。
「光を見て咄嗟に来たけどコの状況なに!」
それは狐耳と三本の尾を持つ可憐な少女だった。
「な、何故お前がここに」
リュートは気配を感じなかった事に戸惑いながら自分にぶつかってきた獣人に問いかける。
「え、何でってアダムの所に向かう途中だから」
「ちっ、ならさっさと俺から離れろ! じゃないと――」
そう言って突き飛ばそうとした時リュートは少女と共にレイドタウンから消えた。
「「「……」」」
リュートの様子から何かあるとは想像できた3人だがまさかの消失には絶句することしかできない。
リュートが消えて驚くライム達と同じように遠くからスキルで様子を見ていた一人の男も驚愕していた。
「ば、ばかな転移だと!」
リュートと取引をした魔族……名をゼイルは取引相手の身に起こったのが転移魔法だと理解していた。
だが、それは本来おかしい魔法とは知覚できる空間に干渉するものだ。その範囲外に飛ばす転移魔法などダンジョン等にも仕掛けられている古代魔法でなければできない。そのためゼイルは動転している。
「く、落ち着け。今は誰が魔法を使ったかを考えるよりも、あの少年が何処に行ったかだ」
(銀仮面は中々に鋭い。もしかしたら自分の上司であるルシファー達とは違う、俺の目的を察して逃げたのか? いや、あの反応から予想外の出来事だったと思うべきか……なら、俺は魔界に戻るべきか)
ゼイルは直ぐに行動方針を決めて移動を開始する。
(契約は守ってもらうからな。銀仮面)
ゼイルはリュートと契約をした時の事を思い浮かべながら疾駆していく。
「……取引だと?」
ゼイルは目の前の少年が取引を持ち出してきたことを訝しむ。
「ああ、そうだ」
「ふん、バカバカしい。そんなものするメリットがない。殺るならさっさと殺れ!」
死ぬ覚悟はとっくにできている。ゼイルはリュートに刺し殺さんばかりの視線でそう伝える。
「俺の仲間の事を教える代わりに、勇者を襲うことを黙っているといえばどうだ」
(な、何故それを! かまかけてるのか)
「流石だな。表情にはださなかったな。だけどこれは確信していることだ」
ゼイルはリュートを見ているがその言葉は本当のように感じた。
「……話を聞こう」
「あぁ」
リュートはファートス村で起きたことでゼイルが尾行につき、迅速な指示をだす切れ者のわりには尾行の人数の少なさに違和感を持ったことを話す。
「そんな事で……」
ゼイルは僅かな事でこちらの事を見抜く十歳ほどの少年に畏怖を抱く。
「俺はこの情報をそれとなく流すことができる……だけど、それじゃあ、そっちは困るし俺にも大したメリットがない」
「そこで取引というわけか」
ゼイルは人々の希望である勇者を見捨てる発言をしたリュートに驚きつつも話を進めていく。
(なるほど、仲間がそれだけ大事というわけか)
ゼイルはリュートの弱味を少しでも発見しようと観察している。
「いいだろう。その取引ならばこちらにも損はない……だが、言葉だけでは信用できぬ。これにサインしてもらうぞ」
「なんだそれは?」
ゼイルが差し出した一枚の紙を見てリュートは仮面の下で眉をひそめる。
「これはダンジョンでとれる契約の書だ。効果は紙に書いた契約を破ると罰を受けるというものだ」
この紙は強制的に書かせても効果はないので対等に契約ができると魔界では皆がもつ必需品だ。
「内容は」
「こちらは襲撃を他者に漏らすことを禁止することを要求し、貴様は仲間が見つかるまでは私の協力を得る……でどうだ」
「ああ、それでいい」
今回の契約はどっちにも損が起きない事は分かっているのでリュートはさらさらと紙にサインしていく。
「よし、終わったな。では、私はこれで行くぞ」
契約の書を受け取ったゼイルはさっさとこの場を去ろうとする。
「まて」
「なんだ?」
呼び止められたゼイルは怪訝な顔で振りかえる。
「もう1つ取引をしたい」
「なんだと!!」
ゼイルはこれ以上取引する内容などないはずだとリュートに叫ぶ。
「取引内容はそっちは一度俺の手伝いをしてほしい」
「手伝いだと?」
「まぁ、今はそれよりこちらが提供するものを話すのが先だ。俺は勇者を魔王の前に連れていこう」
「なっ!!」
リュートが発した言葉に今度こそゼイルは表情を取り繕う事ができなかった。
(この少年はどこまでさっしているのだ)
もしかしたら、自分を除き、ルシファー等七つの大罪しか知らない魔王の秘密をこの少年も掴んだのかとゼイルは考える。
(言葉を考えろ。ここからは一言のミスもできない)
ゼイルは冷や汗が流れ落ちるのを感じつつリュートに言葉の真意を問う。
「それはどういう意味だ。そんな事をしなくても貴様が黙っていれば我々は勇者に勝てる」
「そうか? 俺はそれでは魔王に会う前に勇者が死ぬ可能性もあると思うが」
(やっっっっ、やはり、この少年は勘づいている!!)
何故この少年は上の上の人物しか知らない情報を得ているのかと自分を棚に上げながらゼイルは動揺する。
「き、貴様の言うとおりだとしたら、勇者を売ることになるのだがいいのか」
「勇者、勇者…ね。正直どうでもいいし、俺は少しでも手札を増やしたいからな」
(なんて冷徹な)
希望の象徴を売り、更なる力を得ようとする。
「で、この条件ならどうする?」
リュートは小さく首を傾げる。
「ふん、貴様は我々よりも残忍だな」
可愛らしい仕草をしても恐ろしく感じてしまうくらいだ。
「――だが、その取引を受けよう」
前書き通り三章はこれで終わりです。
リュートが消えた後ライム達がどうするかについては間章で書きます。
ここでちょっと二つほどお知らせですね。
一つ目はお恥ずかしながらTwitterを初めてみました。
フォロワーものすごく少ないのでフォローしてくれたらありがたいです。
http://twitter.com/aaatobbb452
二つ目は今日のお昼に久しぶりの異世界に渡った俺の職業はヒモでした!を投稿します。
http://book1.adouzi.eu.org/n5215cu/




