13話:神器とSランク
本日2話目です。
始めに言います。主人公は別に弱くはありません!
13話始まります。
「わ、私が影山光の奴隷そんなわけ」
アレゼルはリュートの仮面に隠された顔を見る。その顔からは確信していることが伝わってくる。
「……そう、仕方ないわね」
アレゼルの膨大な殺気がリュートに向けられる。
「そうか、これは知られたくないことだったのか」
ピタリとアレゼルの殺気の放出が止まる。リュートから余裕を感じたため様子をうかがう。
「ずいぶんと余裕ね。リュート君じゃあ私には勝てないと思うけど」
「ええ、だから僕が死んだらこの事を王国に伝えてくださいと言ってあります」
アレゼルから歯軋りの音が聞こえてくる。
「ざ、残念だけどニーナちゃん達にはかん――」
「もちろん貴方が知らない者に頼んでいますよ」
リュートはアレゼルの言葉を遮る。
「く~~、やられたわ」
アレゼルは殺気を消して悔しそうに唸る。
「しかもあんなに動揺しちゃうなんて、自分からこれは秘密だと言ってるようなものだし」
動揺から立ち直り自分のミスに瞬時に気づくのは流石ギルド長なだけはある。
「それにどうやら影山光はただ魔王を倒して還ったというわけではないようですね」
「それもあんなに反応しちゃあバレバレよね」
はぁ。アレゼルは重い溜め息を吐く。
「それで、リュートはこの事で私に脅すつもりなのかな?」
アレゼルは首を傾げて可愛く言っているつもりだがその眼は暗くとても可愛いものではない。
「まさか、どうするつもりもありませんよ。ただ貴方が何をしようとしてるのか気にはなっていますが……」
リュートの言葉は遠回しにアレゼルを脅迫しているのだがアレゼルにその事を指摘することはできない。
「……リュート君の言うとおりよ。私には目的がある
アレゼルは一拍間を空けて言葉を発する。
「私の目的……それは魔王への復讐よ」
そしてアレゼルは200年前から胸に抱いていた目的を語り始める。
「200年前、勇者は魔王を倒して神により元の世界に還った……と言われてるわ」
「言われてるってことは実際は違うと」
「ええ、これを見て」
アレゼルはそう言って小さなケースをポケットから取り出す。
「これは?」
リュートは何が出てきても平気なように警戒の体勢をとる。
「クス、大丈夫よ。危ないものじゃないわ」
小さく苦笑してからアレゼルはケースを開ける。
「……これは石ですか」
ケースから出てきたのは茶色にくすんでいる石だった。
「ええ、これは生命石。昔ダンジョンで見つけた最初に触れた者が死ぬと色がくすむという石よ」
「なるほど。ダンジョンで」
ダンジョンという所では珍しい物が取れるとリュートは本で読んだことがあった。
「この石も最初は赤く輝いていたのよ」
つまりこの石の持ち主は既に亡くなっているということだ。
リュートはこの言い様からこの石の持ち主を直ぐに察した。
「これが影山光の持ち物だったと」
「ええ、そうよ。そしてこの石の色が変わったのは光姉様が魔王の所に向かった日」
「つまり影山光は還らずに死んだということですか」
それが本当なら確かに歴史とは違うことになる。だけどそれがさして重要な問題かというとそうでもない。国も人々を落胆させないために隠したという可能性もあるからだ。
「その感じは大した問題ではないという顔ね……だけど駄目なのよ魔王が復活する今私は姉様の敵を討たなければ気が済まないの!」
アレゼルの眼は暗くギラギラと輝いている。慕っていた者を殺されたのが許せない。その気持ちは最近になってリュートも理解した事だ。
「魔王を倒したいなら王国とかに協力をしてもらった方がいいんじゃないですか」
先程王国にアレゼルの事を話すと言った時の反応から人間とも何らかしらの因縁があると思ったリュートが問いかける。
「駄目よ人間の王族達は信じられないもの」
アレゼルは200年前の事を思い浮かべながらリュートに話していく。
「なっ、何でですか!」
龍神王国ユグドラシルの王都にある宿で一人の少女が憤りの声を上げる。
「何でお姉様一人が魔王の所に向かうのです!」
少女は翡翠色の髪にくりくりとした同じく翡翠色の瞳をしている十歳くらいの背丈だ。
少女は幼いながらも可憐な容姿をしている。白く透き通るような肌に、小さくふっくらとした唇。そして、人よりも長い耳、少女はエルフであった。
「そんなに怒んないでよ。しょうがないでしょ、何か魔王直々に私と戦いたいって言うんだから」
そんな少女と話す少女はざっくらばんにゴムでポニーテールにした黒髪につり上がった黒目に快活な笑顔から覗く八重歯が可愛い少女だ。エルフの少女よりも5、6歳は上だと思われる。
「ですが、そんな危険な所に光お姉様が向かう必要はないではありませんか!」
「ん~、でもまぁ、私は勇者だししょうがないんじゃない」
少女はただ一人この地を襲う魔族のボス魔王のところに赴かなければならない。
それがこの世界に来た自分の役目だと笑いながら言う。
「ですが! せめて他の勇者の方と供に行けば、何なら私でも」
少女は目の前の勇者個人に助けられて付き従っているので他の勇者との交流は薄い。
そのため他の勇者が自分の主が一人で戦場に向かうことに対してどう考えているのかはわからない。だから自分なら貴方と行けるという想いをぶつける。
「ダ・メ。アレゼルは私が帰るまでお家でお留守番」
勇者光はアレゼルの鼻をちょんとつつく。
「うぅ~~、でもお姉様お一人じゃ、し、しんじゃぅ……」
幼いアレゼルは大好きな光が死ぬかもと思うと涙が溢れてくる。
「ああっ、だ、大丈夫。私は死なないから泣かないの」
幼いアレゼルが顔を上げて光の顔を見ると、強がりでも何でもなく本当にアレゼルの元に帰るという笑顔を浮かべている。
「お姉様。本当に本当に私の所に帰ってきますか?」
「ええ、約束。だからアレゼルも泣いていないで笑顔でいて、アレゼルが泣くと私まで悲しくなってきちゃう」
そういう光の顔は本当に悲しそうだ。幼いアレゼルはいつも笑顔の光にそんな顔はさせたくないと無理矢理笑顔を浮かべる。
「だ、大丈夫です。私はお姉様を信じてますから。だ、だから、お姉様が帰ってくるまでおとなしく、おと、おとなしく待ちますから」
だけど幼いアレゼルの目の端からは涙がこぼれていく。
「お、お姉様?」
ギュッとそんなアレゼルを光は力強く抱きしめる。
「大丈夫。アレゼルを一人にしないよ」
アレゼルは光から地球という違う世界の事について教えられていた。アレゼルは光がもしその世界に帰ることになったら自分も連れていって欲しいと言い。光もまた、もしアレゼルを連れて行けないなら自分はこの世界に残りアレゼルと供に居ると約束していた。
「はい、そうでした」
暖かく力強い光にアレゼルは安堵の笑みを浮かべた。
「あっ、そうだ!」
何かを思い付いた光はアレゼルから腕を離す。アレゼルは不満げな顔をするがそれに気づかず棚に向かって何かを取り出していた。
「ほら、アレゼルにこれを渡しておくよ」
光が取り出したのはネックレスだった。
銀色のチェーンの先には深紅の石がつけられている。
「お姉様これはもしかして!」
「そう、生命石。これは私の命を映すものだから、大切な人のアレゼルに持っていてほしいんだ」
「お姉様……」
アレゼルは大切な人と言われてうれしい気持ちともし生命石がくすんだらという恐怖で顔を固くさせる。
「アハハハ、アレゼル。そんな変な顔しないの。これは何も私が死ぬかもしれないからとかで渡すんじゃなくて、アレゼルに持っていてほしいから渡しただけだよ」
光はアレゼルの顔を見て笑って宿を出ていった。王城に向かうためだ。
アレゼルは笑顔で見送ることが出来なかった。
そして、光はアレゼルの元に帰ってくる事はなかった。
「勇者一人で戦いにですか」
本では勇者が戦いに行ったとしか記されていない。
「ええ、無茶よね。でも人間はいくら魔王に言われたとはいえ増援も送っていなかった。せめて仲間の勇者くらい送ればいいのに……そうすればきっと光お姉様は」
アレゼルは悔しそうに手を強く握る。
「すごいですね」
増援も無しに一人で戦ったこともそうだが本によると影山光は魔王を倒すことには成功しているのだ。
「姉様はとても強かったからね。それに聖剣があったから」
「聖剣、王城にあるという聖剣ですか?」
確かに聖剣は強力な武器だというのは本にも書いてあった。しかし、今の言い様。まさか剣一本で戦況を左右するほどの力を持つのだろうか。
「聖剣はとても強力よ。何てたって神から人間に渡されたという神器だもの」
「神器ですか」
「ええ、とても強力な武器で世界に数本しかないと云われているわ。そして魔王はその神器でしか倒せない」
アレゼルは重大な事をあっさりと言い放つ。
「光姉様が言っていたわ。魔王は神器でしか倒せないと、そして神器である聖剣を使えるのは勇者だけだと」
「……なるほど勇者が特別なのはその点だと」
リュートは目の前のアレゼルもそうだが、この世界には実力者がたくさん居ると思っている。それでも魔王を倒せないってどんだけ魔王は強いのかと考えていたが神器でないと倒せないというなら、何故勇者が過去2回魔王を倒したのか納得できた。
何故異世界人にしか聖剣を使えないのかという謎は残るが今は後回してアレゼルの話に耳を傾けていく。
「光姉様を見るかぎり成長率もすごかったわよ。この人には限界がないのかというほど、どんどん強くなっていたもの」
「……成長率」
リュートは自分の成長率が異常なのに気づいている。最初は一般人よりも低いんじゃないかというステータスから今ではかなり強くなっている。これが自分が異世界から転生したからだとすれば合点はいく。
納得を終えたリュートは気になることをアレゼルに聞いた。
「魔王を倒すには神器が必要ならやっぱり勇者の手助けが必要なんでは」
王族達を信用してないと云うが勇者がいるのは王都のはずだ。
「その点は大丈夫よ。聖剣とは違う神器をこちらは持っているから。それに勇者じゃあ魔王は倒せないしね」
「勇者が魔王を倒せない?」
これは先程の話と矛盾しているとリュートは首を傾げる。
「ねぇ、リュート君は今回の勇者達には過去と違う点があるんだけどわかる?」
首を傾げていたリュートに急にアレゼルが問いかけてる。
「違う点……僕が分かるのは間隔が短いと勇者が現れるタイミングと人数ですかね」
過去2回は魔王が現れるのには数百年の間隔があったが今回は200年と僅かな誤差かもしれないが短いとリュートは感じている。また、勇者が魔王が復活する前に現れて、過去2回は数人なのに対して今回は10倍くらいの人数だ。
「そうね。リュート君の言うとおりよ。そして、私は何よりも今回の勇者は弱いと思うの」
「勇者が弱い……」
「ええ、今の勇者はきっと潜在能力では光姉様と同等だと思うわ。だけど今の勇者は光姉様みたいな器を持つものがいないと私は考えているの。それでは魔王は倒せないもの」
アレゼルは確信しているように話す。リュートが知らない情報を持っているのだろう。
「リュート君は知っている。勇者が現れてから二週間でミノタウロスを倒したことを」
「いえ、知りませんでした」
勇者が現れたのは知っていたがミノタウロスを倒したとは知らなかった。
「ここまでは順調に強くなっていると思うわ」
「そうですね」
リュートは戦ったことはないがミノタウロスは中々のタフさで有名なモンスターでCランク以上の冒険者が討伐に向かうというのは聞いたことがある。もし二週間で倒したのなら上出来だといえる。
「ええ、でもここからが最悪だわ。勇者達は慢心して研鑽を怠り最初に比べて成長率が落ちているもの」
アレゼルは嘆かわしそうに話すがリュートは別段驚きもしなかった。
(慢心して研鑽を怠る。この世界ではしてはいけないことだ。それすら気づかないのか)
むしろどこかガッカリしているようにさえみえる。
「そうですか。それでは仕方ないですね。それよりさっき神器を持っているといっていましたが」
「ええ、見てみる? そろそろ帰ってくる時間だし」
「帰ってきる?……」
アレゼルの言葉に神妙な顔をしたリュートを見て笑みを浮かべたアレゼルが言う。
「そろそろ私の仲間にして、数少ないSランクの一人が帰ってくる時間なのよ。見せてあげるわ神器と私が頼っている者の力を」
「あれがSランクですか」
「ええ、そうよ」
ギルドの外に出たリュートはギルドに近づいてくる4つの人影を見つけた。
「おねぇさま~ん。ギルドに報告したあとご飯でもいかがですぅ」
「……」
ピンクの髪をツインテールにして黒いヒラヒラのドレスを着た少女が甘い声で隣で歩く亜麻色の髪の女性に話しかけている。
「あんな格好で戦うなんてすごいですね」
「あれはAランクのミクよ。可愛い顔してるけどとても危険だから気を付けてね」
「おお、ご飯いいじゃん! 皆で行こうぜ」
「ハァ~、なにいってんのよおねぇさまと二人で行くに決まってんでしょ」
ミクという少女にアゴヒゲの生えた山賊のような服装の青年がご飯に行くというがあっさりと断られていた。
「あれはドワーフですか?」
身長が140cmくらいしかなく、大きい斧を背中に担いでいる髭の生えた者というと真っ先に浮かんだのがドワーフだった。
「そうよ。彼はレギン。実力はもちろん武器の手入れや料理など器用に何でもこなすわ。ミクと同じAランクよ」
「ミク、クレアは二人よりも皆で行った方が喜ぶと思うぞ」
「ぐっ、そ、そうかもしんないけど」
白いコートを着た黄緑色の髪に鋭い目付きで怜利な雰囲気を持つエルフがにミクという少女に話している。
エルフだけあってその美貌に僅かに歩いている人全員が足を止め顔を凝視している。
「彼女はエフィル。魔法で戦うというエルフの典型スタイルだけど実力はエルフの中でも群を抜いて高いわ。ランクは同じくAランクよ」
歩いて来てるのは四人三人の紹介は終わった。
「あの人がSランクですか」
胸、肘、膝から足元に深紅のアーマーをつけているエルフにも負けない美貌を持つ無表情の女性がSランクということだ。
「そう、あれがSランクにして神器を持つ光姉様を除けば私が知るかぎり最強の人間『蒼炎』のクレアよ」
「……あれが神器」
リュートの視線はクレアが腰に下げている深紅の剣に向かう。
腰まで届く亜麻色の髪の間から見える深紅の剣は一目でただの剣ではないと分かる。
そうしてリュートが名前を聞いた後直ぐに目の前についた四人は先ずアレゼルにそして直ぐにリュートの方に視線を向けた。
「あれ、アレゼルじゃん。つか誰そいつ」
ミクというツインテールの少女がリュートの事について聞いてきた。
「彼はリュート君よ」
「リュートです。Bランクの冒険者をやっています」
アレゼルに紹介されたリュートはランクをいうが驚く者はいない。
「ふん、んなの見ればわかるわよ」
ミクはつまらなそうに答える。リュートの実力を大体見極めているのだろう。
「流石ですね。一応十歳でBランクは凄い方だと思っていたのですが、ミクさんもいますし驚きはしませんか」
ミクの身長はリュートより僅かに大きい事からそう言ったのだがミクは額に青筋を浮かべる。
「あぁん、今なんて言った」
ミクは何故か殺気を迸らせる。
「やめないかミク、リュート君はミクを初めて見たんだ誤解してもしょうがないだろう」
殺気を迸らせるミクをエフィルがなだめる。
「リュート君、ミクはこれでも16才なのよ。まぁ、小さくて胸もないからよく間違われるんだけど」
アレゼルがリュートの誤解を解く。だけどその言葉を聞いたミクはさらに青筋を増やしていく。
「て、てんめ、アレゼル! 胸は関係ねーだろうが!」
クレアにかけていた甘い声色は消えてドスのきいた声をミクはあげる。
「おいおい落ち着けよ。何でリュート君を紹介したか聞くのが先だろ」
「そうだ落ち着けミク、レギンの言うとおり今は少年の事について聞くのが先だろ」
「チッ、わかったわよ。んで何で」
レギンとエフィルに言われたミクは面倒くさそうにアレゼルに聞く。
「リュート君を紹介したのはクレアと戦わせようと思ってね」
「……はっ?」
アレゼルの放った言葉にこの場にいる者が静かになりミクは呆然となった。
「リュート君に神器を見せてみたくてね。ついでに一戦やらせるのもいいかなって思ったの、てへっ」
アレゼルは小さく舌をだす。
「てへっ、じゃねぇー。こんなガキとおねぇさまとでは戦いになるわけねーだろがー」
ミクは自分の見た目を誤解された時よりも怒りの声をあげる。慕っている者がくだらない雑魚を相手にするのが気に入らないようだ。
「私もそんな事はわかっているけどリュート君はどう思う?」
「僕はいいですよ。最強の力とやらをみてみたいですし」
対するリュートは珍しいことに少し興奮しているのか声が弾んでいる。
「あら、ずいぶんと嬉しそうね」
「ええ、だって何か面白そうですし」
最初のリュートの目的は世界を自由に全力で楽しむ事だった。面白そうと思ったものを断る理由はない。
「仮面野郎お前も何調子に乗って」
「――いいよ」
楽しそうなリュートにミクが怒鳴ろうとするとこれまで一言も喋らなかったクレアがポツリと喋った。
「お、お姉様?」
「――戦う、いいよ」
クレアはリュートの方をじっと見て戦ってもいいという。
「双方がやるっていうし決まりね」
アレゼルはにやりと笑みを浮かべた。
戦う事になったリュートは思う存分戦える所に移動することなく人の邪魔にならないよう僅かに広いスペースに移動するだけだった。
「本当にこんな所でやるんですか?」
ギルドの周りは問題が起きたときの為に建物等がないが、リュートが思いきり戦うと周りに被害が出ると思いアレゼルに聞くがアレゼルは笑みを浮かべて平気だと返してきた。
「ここは私とエフィルの魔法で結界を作ったから平気よ」
アレゼルとエフィルの結界はリュートの全力を余裕で耐えられるという。
「少年、クレアから少しでも学ぶといい、彼女の剣は最高峰のものだ。頑張って」
「そうだぞリュート君、クレアは強いけど頑張れよ」
エフィルとレギンはリュートに激励を送る。
「おねいさま~~ん! 余裕だと思いますけどがんばってぇ~ください~。勝ったらご褒美にミクは何でも言うこと聞きますよ~。エッチなお願いもばっちこいですよ~……ぐひゅ、ぐひゅひゅひゅ」
ただミク一人は甘い猫なで声でクレアを応援する。
「そんな褒美はいらないと思うけどな」
エフィルが突っ込んだが妄想に耽り始めたミクの耳には届かなかった。
「さて、どのくらいの実力か」
戦いが始まる直前にリュートはクレアを神眼で見る。
「……なるほど、神器の影響か?」
アレゼルのスキルも見ることは出来なかったがクレアはステータス自体が?マークになっており見る事ができない。
ならばと思いエフィル、レギン、ミクも神眼で見てみるが同じ様に見る事が出来なかった。
「仲間にも影響があるのか、ならなんでアレゼルには効果がないんだ?」
神器にステータスを隠蔽する効果があり、仲間にも影響を及ぼす事ができるとしたらアレゼルに効果がないのが不思議だ。
「まぁ、いい。ステータスが見えない時、相手の実力も見極めないといけないしな」
リュートは剣が壊れてないためにアレゼルから貰った剣を持って構えをとる。
「前の剣よりも使いやすそうだな」
リュートは剣を見て直ぐに壊れる事はないだろうと判断する。
「――いくよ」
クレアはポツリとリュートに喋る。どうやらニーナみたく、あまり話さないタイプのようだ。
「ええ、いつでもどうぞ」
リュートは強化魔法を全身にかける。
「ほう、中々の強化に魔力量だ。あれで十歳とは末恐ろしいな」
リュートの強化魔法はエルフのエフィルから見ても中々のものだった。
「構えに隙も見つからない。あれは中々の戦闘数があるな。エフィルの言うとおり十歳とは思えないほどすごいぞ」
肉弾戦が得意なレギンはリュートの隙のない構えに驚く。
「ふん、あんなものお姉様と比べたら全然だっての」
ミクはそういうがリュートの実力が十歳のそれどころか冒険者の大半を上回っているのはわかっている。
だけどミクの言うとおり相手はSランクにして神器使いのクレアだ。
「――終わり」
「……っ」
戦闘が始まった直後リュートの剣は切り裂かれ、喉元には剣が突きつけられていた。
「アハハ、思った以上に早く終わったわね」
アレゼルもあまりの呆気なさに苦笑しか浮かべられない。
「――君は強い。でも、察知が甘い」
リュートに負けた原因を教えてクレアは深紅の剣を鞘に納める。
「察知が甘い……」
リュートは先程のクレアの動きを思い出す。
クレアがしたのはこちらに近づいて剣を振っただけ、その動きは捉えられていた。にも関わらずリュートは防御の姿勢をとれなかった。
「俺の察知をすり抜けたように近づいてきて反応が出来なかった。何でだ……魔力、魔力を感じなかったのか」
この世の生物にはどんなものであれ僅かな魔力が宿っている。リュートの察知能力は優れているが、その優れた察知能力は魔力と視界に映るものを捉える。万が一視界を塞がれても魔力によって相手がどの位置にいるかをリュートは探知できる。
だけどクレアの動きはあまりに自然で反応が遅れて、たよりの魔力探知もクレアからは魔力を感じられずただ立ち尽くすことしかできなかった。
立ち尽くしたリュートはクレアにあっという間に接近されてしまった。
「そしてあの剣だ」
近づいてきたクレアはそこで剣を一振りした。クレアの剣はリュートの剣を豆腐のようにすっぱりと切っていった。
「実力を見るどころか引き出す事さえ出来なかった」
クレアは全然本気をだしていなかった。もしかしたらクレアならば本当に魔王を倒せるかもしれない。いや、クレアでも倒せなければこの世界で魔王を倒せる者がいないだろう。
「ねぇ、リュート君」
「……何です」
呆然と立ち尽くしたリュートにアレゼルが声をかけてきた。
「この世界には神器という物がまだ存在するの。ニーナちゃんの事のついでにこれを探すのを手伝ってくれないかしら」
「それは脅迫ですか」
「いやだわ脅迫なんて、そんな事私がするはずないじゃない」
アレゼルはニコニコと白々しい笑みを浮かべる。
「……ええ、いいですよ。ニーナとの旅の途中でついでに探すくらいなら」
「本当! よかったわ」
アレゼルは嬉しそうにする。
(……やられた)
あれだけの力を見せつけられた今、下手な事は出来なくなった。リュートがアレゼルの弱味を握ったようにアレゼルもまた圧倒的な強さと云うものをリュートに見せて動きを封じた。リュートは秘密をアレゼルはリュートの仲間の命を握っている。
たちが悪い事に魔王が神器でしか倒せないなら神器という手札をリュートは欲しいから協力するのに異存はないし、ステータスが?マークで標示されるのをリュートはニーナのステータスで見たことがあった。
神に関係ある神器に、ステータスが?マークで映るに世界を破滅させる者に関係がある。この街に来てからニーナの事についての情報を得られると同時に事態はリュートの想像を超えていくように感じていた。
前書きにも書きましたが主人公は弱くはありません。
この話では神器の力が見せられませんでしたがそれは後々明かしていきます。
次で三章は終わりです。




