11話:ライムと目的
11話始まります。
領主の館での戦闘を終えたのが昨日、一日たった今、リュートはライムと共に街を歩いていた。
「わ~、やっぱり、色々な物が売ってますね」
「何か買うか?」
リュートは周りのお店をキョロキョロ見ているライムに聞く。
「いえ、この体になってから空腹というものが分かりましたが、今は大丈夫です」
主従契約により、人間形態になれるようになったライムは、人間と同じように空腹等を感じる事ができるようになっていた。
「そうか。じゃあ、俺は少し食べたいから買ってくる」
リュートは直ぐ近くにあるお店で、濃鳥のヤミツキ炒飯という物を一つ買った。
「……うん、濃厚な味わいで、確かにヤミツキになるな」
やっぱりこの世界の食べ物は地球よりも段違いに美味しい。もしかしたら、魔力等も影響しているのかもしれない。
「そ、そんなに美味しいんですか」
ライムがリュートが食べている炒飯を凝視する。
「ほら、ライムも食べてみろよ」
リュートはそっと炒飯を差し出す。
「えっ、でも私お腹空いてないですし」
「俺もつい美味しいそうだから買ったけど、そこまでお腹空いないんだ。少しだけでいいから食べてくれないか」
まぁ、実際この体は、少し食べれば平気だ。
「ま、まあ、残すのも、もったいないですしね」
ライムは頬を赤く染めながらも、濃鳥のヤミツキ炒飯に手を伸ばす。
「あっ、本当に美味しい」
ライムは目を輝かせて一口、二口と、どんどん食べていく。
どうやらお気に召したようだ。
「あっ、すいません。半分も食べてしまいましたね。後はリュートさんがどうぞ」
「ライムが食べたいなら、そのまま食べてもいいぞ」
リュートはライムが差し出してきた炒飯をそっと押し返す。
「いえ、平気です。お腹いっぱいですし、リュートさんと、感想等言い合いたいですから」
ライムは微笑みながら炒飯を差し出してくる。
「わかった」
リュートは炒飯を受け取り、残りぜんぶを平らげた。
「それで、そろそろ本題を聞いてもいいですか」
ライムの要望通りに感想を言い合ったリュートは、ライムを連れて人があまりいないお店の中に入った。
静かに話したいと察したライムが席に着くと、さっそく話は何かと聞いてきた。
「わかっていると思うが、俺はニーナの故郷に一人で行ってくる。その時、残ったニーナとフェリスをライムに任したい」
「なっ、私がですか!」
「ああ、ライムが一番適任だ」
ライムは驚いているが、リュートは三人の中ではライムに任せるべきだと考えている。
「な、何でですか、私なんて一番弱いのに」
「強さ何て関係ないぞ。それにライムが弱いという事はないだろ」
実際今ステータスが一番低いのはニーナだ。
「いえ、私は弱いです。今はニーナさんには、リュートさんのおかげでステータス的には上回っていますけど、分かるんです。私には戦闘の才能がないと、今も力を扱いきれていないですし」
ライムはテーブルの上で両手をぎゅっと握る。
確かに、フェリスは強力な種族のモンスターだけあり、戦闘ではリュートに次いで強い。主従契約で強さを上げなくても、フェリスは今のレベルまで強くなれただろう。
ニーナは呪いでステータスが制限されてるのに戦闘ではステータス以上の強さを見せてくれる。
だけどライムの力は全て主従契約で得た力だ。主従契約がない、ライム自身は貧弱のスライムのままだ。
そして、ライムには他の者に比べて、才能がないのも確かだ。ライム本人が言ったように、力を十全に扱いきれていない。
「だからこそだ」
「えっ」
だが、リュートはむしろ、そこに目をつけていた。
「俺は前から思っていたんだ。ライムは一番人間らしいと、人間は力が弱くても、知恵をしぼり、仲間を上手く動かせる奴等は強い。そして、ライムにはそれができるだろ」
ライムはスライムという所をぬけば、リュート達の中でもっとも普通の人間の様に見える。リュートは自分も考える事はできるが、仲間の事以外は基本的にどうでもいいので、リーダーには向いていないと思っている。
「仲間を上手く使う……ですか」
「ああ、ライムが指揮することで、さらなる力を引き出せるなら、それはライムの力でもあるだろ」
「……そうですね。魔法を使う私には確かにあっているような気がします」
ライムは自分の新たな可能性に気づいた。
この様子だと大丈夫だろう。
「リュートさん。私、リュートさんの頼みを引き受けます」
「ありがとう」
もしかしたら、リュートが帰ってくる時にはライムは大きく成長しているかもしれない。ふと、そんな事をリュートは思った。
********
よかった。リュートに新たな可能性を示されたライムは安堵していた。
ライムはモンスターだ。強いに越したことはないと思ってはいるが、そこまで強さを求めているわけではなかった。
なら何故強さを求めるか……リュートの役にたちたいからだ。
最初は信じられなかった。仲間にも他の種族にも受け入れてもらえない私を助けてくれたのだ。たとえ偶然だったとしても嬉しかった。
最初は断られたけど、私を仲間にしてくれた。
それから直ぐに、ニーナさんという仲間もできた。
馬車の中一緒に綺麗な月も見た。
普段は素っ気ないけど、フェリスさんのお母さんが亡くなった時も、フェリスさんを一人にしないように仲間にした優しさも見せてくれた。
ニーナさんの事も私の事も平気な顔で受け入れてくれた。
死にそうな命も救ってくれた。
仲間の私達には優しくしてくれた。
諦めていた。私はモンスターだと、相手は人間だと、でも、私を人間にしてくれた。
これで私の想いを伝えてもいいんだと喜んだ。
……でも、今のままじゃあ駄目だった。
昨夜のリュートさんの実力は私とは圧倒的にかけ離れていた。
リュートさんが強いのは、分かっているつもりだった。だけど私の想像よりもリュートさんは強くて、思ってしまった。
このままでは、私は足手まといで見捨てられるのではないかと。
わかっている。リュートさんはこちらが裏切らない限りは、見捨てる事はしないだろう。でも、もしかしたらという恐怖が襲ってくるのだ。
だから、リュートさんが示した可能性は、私だけの強みを持てるので嬉しかった。
だからもっと私は強くなる。
「リュートさん。私からも一つお願いかがあります」
「お願い? 言ってみろ」
リュートさんは不思議そうにしながらも、答えを促してくる。
「はい、私達にダンジョンに潜る許可をください」
階層を下る事にモンスターが強くなるダンジョンなら危険だけど、いい訓練場所になる。
リュートさんが、命の危険がある場所に行かしてくれるかは、私にも分からない。
「……わかった。許可する」
「いいんですか」
「ああ、正直俺がいない所で危険な所には行ってほしくはないが……強さを求めてるなら俺が何言ってみろ止められないだろ」
昨日とは違い、リュートがニーナの故郷に行く期間はずっと長い。
だから、駄目だと言われる確率の方が高いと思っていたけど、思った以上にあっさりと許可がでて驚いた。
「ああ、実は同じような事をニーナにも言われたんだ」
「ニーナさんにですか!」
「ああ、自分が弱いから迷惑かけたって少し落ち込んでたよ」
獣人に拐われた事を言っているのは分かる。
「迷惑なんて、ニーナさんは何も悪くないのに、それにあのおかげで」
「それでも、ニーナは自分が弱いからだと責任を感じた。俺に強くなりたいって言ってきたよ。俺も最初は悩んだけどライムも強くなりたいと思ってた。なら、俺は仲間を信じてみようと思ったんだ」
「り、リュートさん」
リュートさんの口から私達を信じるなんて言葉がでるなんて、嬉しくて目が潤んでくる。
「わ、私、強くなります。リュートさんのお役にたってみせますから」
戦闘面でも、フェリスさんとニーナさんを指揮する面でも、絶対に強くなりますから。
ライムは確固たる決意を胸に抱いた。
************
リュートはライムが目を潤ませながら、真剣な顔をしているのを見て、やっぱりライムになら二人を任せられると思った。
用を終えたリュートは席を立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「えっ、リュートさんこれから何処か行くんですか」
「ああ、少しよる所があってな」
昨夜急いで探した宿までライムを送ったリュートは一人街にでる。
しばらく歩いていると、木材の一軒家が見えてくる。家の前には看板が置いてあり、
『ガン爺診療所』と書いてある。
リュートは診療所に近づいていき扉を開ける。
中には6個程のベットが置いてあり、奥には違う部屋に行くための扉がある。
ベットに寝ているのは一人しかいなくあまり人気はなさそうだ。
「ん、何だあんたか」
診療所に入ってきたリュートに一度振り向いたエメリアだが、直ぐに顔をベットに戻す。
「駄目だよ姉さん。命の恩人に対する態度じゃないでしょ」
ベットの上では弟のアダムが苦笑して、姉のエメリアに注意していた。
「もう目が覚めたのか」
「おかげさまでね。ついさっき起きたんだ。さすがに死ぬかと思ったけど、ここの医者はよほど腕がいいようだね」
「当たり前じゃ、儂を誰だと思っておる」
奥の扉を開けて人がこちらに近づいてくる。
腰が曲がり、リュートと同じ位の身長の白い顎髭を蓄えた普通のお爺ちゃんだ。
そして、この診療所の名前にもなっている、ガン爺だ。
「先生、どうしたのですか」
いきなり来たガン爺に、アダムに何か問題があったのではないかと、エメリアが椅子から立ち上がる。
「おう、そこの兄ちゃんは大丈夫じゃ、儂が来たのは銀仮面の坊主が来てると聞いてな」
ガン爺はリュートの所まで来て背中をバシバシ叩く。
「悪いな銀仮面。あんなに治療費をもらっちまって」
「いえ、あの傷だったんです。金貨百枚くらいなら安いですよ」
「ひゃく!」
エメリアとアダムがお金を持ってなかったので治療費を払ったのはリュートだ。
だけど、金額が思った以上に高くてエメリアは驚愕した。
「とてもいい治療だったようですし」
「たりめーよ、あんな傷だったんじゃ、儂も医者の端くれじゃ、無料でやってもよかったくらいじゃぞ」
「先生!」
ガン爺の啖呵にエメリアが感動する。
「じゃあお金はいりませんか」
「いや、それはほら、な~。お金は欲しいものじゃ、ゲヘへ」
「先生……」
先程のかっこよさは何処に行ったのかと、エメリアは、下卑た笑みを浮かべるガン爺に思った。
「まあ、実を言うとあまり苦労はしなかったのじゃ。そこの兄ちゃん、傷は酷かったけど、何故か血があまり失ってなかったからな。あれは銀仮面お前の仕業か」
「僕の仲間が頑張ってくれましたから」
リュートが獣人と戦っている間にライムに回復魔法を掛けさせていた。
ライムでは全快とはいかなかったが、何とか命を診療所まで繋げる事はできた。
「そうか、そうか、ではその仲間に中々の腕じゃったぞと伝えておいてくれ」
「ええ、必ず伝えます」
「おう、では儂は戻るぞ」
ガン爺は扉に向かっていった。
「ねえ、リュートくんて呼ばせてもらってもいいかな」
「ああ、かまわない」
「それじゃあ、リュートくん、ここに来た理由はなんだい。ただのお見舞いというわけでもないだろ」
ガン爺が部屋を出ていくと、エメリアはリュートと話したがらないので、アダムが話しかけてきた。
「大した事ではないぞ。あのガルフという獣人の事とか、そこの女が元姫がどうとか、それだけだ」
「なっ!」
「あ~、君はそんな事まで知っているのか」
エメリアが驚いて、アダムが呆れている。
リュートはエメリアのステータスを見た時の事を覚えている。
「詳しくは知らない。だから話せ」
リュートが知っているのは元姫という単語だけだ。
「あ~、まぁ君には言わないとね」
「いいのアダム」
「だって言わないと後が怖いでしょ。それにリュートは、余程の事がない限り話さないと思うよ」
「まぁ、アダムがそれでいいなら」
エメリアは本当に渋々だが納得した。
エメリアの許可を得たアダムは、一度咳払いをしてから話始める。
「リュートは姉さんが使う力を知っているかな」
「ああ、仲間から聞いて知っている」
リュートが領主の館の玄関に着いたときにはエメリアは普通の状態だった。
しかし、ライム達の話によるとリュートが来る前にエメリアの髪の色と瞳の色が変わり、力も強くなっていたらしい。
「なら話は早い、あれは獣化というスキルなんだ。そして、獣人は獣化スキルを持つものが一族の長になるんだ。姉さんは、当主だった僕たちの父さんの娘でスキルを持っていたから姫だったんだ。でも今は一族が無くなったから、元姫、というわけさ」
「なるほど」
まだ長になる前に一族が無くなったから、ステータスには元姫と映っているのか。
「それであの獣人は何者なんだ。フェリスと同じ位の強さはあったぞ」
ステータスが一万に達していたのだ。
万越えのステータスをリュートは数える程しか見たことがない。
「ガルフは獣人の中ではそれなりに名の知れた奴なんだけどね。それでも君の仲間と同程度なのか」
「そんなに有名だったのか」
強い方だとは思ってたがそれほどだったとは思ってなかった。
「まあね、数多の戦場を勝ち抜いてきた男なんだよ。獣人の中ではその容姿と相まって恐れられてたんだ。姉さんも知らなかったようだけどね」
なるほど、そんなに有名だったのか、だからこの街の領主も知っていたのかもしれないな。
「わかった。それじゃあ俺は行くよ」
「アハハ、本当に話を聞きに来ただけなんだね。いつでも来ていいからね」
「……ちょっと待って」
アダムが苦笑しながらリュートに別れの言葉をかけ、リュートも帰ろうと扉に向かおうとした時、エメリアが制止の声を上げる。
「何だ」
返事を返すリュートの声は友好的なものではない。
こちらを呼び止めたエメリアの声がリュートにそうさせた。
「一つ気になっていたことがあるんだけど、あのガルフがアダムに攻撃するとき、あんたなら止められたよね」
リュートの強さなら出来たはずだ。
エメリアはそう確信しながらリュートに問う。
「ああ、出来たな」
対するリュートもあっさりと出来たと言う。
「じ、じゃあ何で、下手したらアダムが死んでたのに!」
「でも生きてるだろ。それにお前の弟を助ける義務はないだろ」
リュートがアダムを助けたのは、ただ何となくという、気まぐれのためだ。
「やっぱりあんたは嫌いだ」
復讐の気持ちで何人も手にかけたエメリアは物凄く罪悪感を感じていた。それなのに平気な顔で人を見殺しに出来てしまうリュートにエメリアは忌避感をおぼえる。
「俺は自分の気まぐれ以外には仲間と敵とで区別するだけだ」
リュートはそう言って診療所を出ていく。
「ハァ、姉さん、言い過ぎだったよ」
「だって、あいつ変じゃない」
エメリアは狐耳をピンと立てて怒りを露にする。
「でも彼は面白いと思うよ。とても子供とは思えない程冷平然とガルフも殺した。そこから残虐なのかと思いきや、優しい所もあるしね」
「優しい、あいつのどこがよ」
「何だかんだ僕を助けてくれたし、何より願いを叶えてくれた」
「願い?」
アダムはリュートが言っていた願いを叶えてやるが本当に叶えられるとは思っていなかった。
「そう、僕の頼みは姉さんを助ける事、だけどリュートはそれを断ったんだ。僕の願い、姉さんとまだ一緒に居たいという願いを」
「アダム……」
エメリアはアダムの願いを嬉しいと思うと同時に、リュートがそれを察して願いを叶えた事に驚いていた。
「……本当に変な奴」
もしそれが本当なら、リュートは一度アダムを見殺しにしようとして、わざわざ願いを叶えたということだ。
意味が分からない。本人も言ってたが、本当に気まぐれで動いていたのかもしれない。
だとしたらあいつはやっぱり変だ。
エメリアはリュートを変な奴と完全に定めた。
診療所からでて数十分、リュートは目的の場所に着いていた。
そこの中に入り、用がある者の部屋の前まで来た。
リュートは目の前にある扉をノックする。
「どーぞ」
ノックをすると直ぐに部屋の主から入る許可をもらった。
「あら、リュートくん。どうしたのかしら」
部屋を開けたリュートに部屋の主から声がかかる。
「いえ、少し話があんですよ、アレゼルさん」
リュートはアレゼルに会いに来ていた。
「話? 何のかしら」
アレゼルは心当たりがないと微笑みを浮かべる。
「きっと直ぐに分かりますよ」
そしてアレゼルの部屋の扉は閉じられた。
少し変かもしれません。
修正するときにこの話もするかもしれません。




